上 下
217 / 459

【第217話】異常な責任感

しおりを挟む


 いきなり現れた元仲間のネイミーに驚いてしまい何も言えなくなっていた俺を察してか、ネイミーはすぐに自身がここにいる理由を語った。

「何でここに私がいるんだ? って戸惑っているみたいだから説明するね。私はヘカトンケイルでガラルドさんと別れた後もずっとレックと一緒に仕事をしていたんだ。とは言っても私にも家庭の事情とか色々あって帝国の実家に戻ってる時間も多くなってしまったから、ドライアドで貴方達に挨拶するタイミングは逃しちゃったけどね」

「そうだったのか。危ない死の海を越えてまで今のレックについてきているという事は考え方もレックと同じになったと思っていいのか?」

「うん、今はディアトイル出身のガラルドさんを差別するつもりはないし、謝りたいと思ってここで待っていたんだ。だから遅くなったけど言わせて欲しい、一緒のパーティーだった頃、ずっと辛く当たって本当にごめんなさい」

 ネイミーは瞼にキュッと力を込めて頭を下げた。レックと同じ考えになったと言っている以上、当然俺は許すし、今後掘り返すつもりもない。俺はネイミーの肩を押して、頭を上げさせた。

 昔の仲間が考えを改めて謝ってくれたのは嬉しい限りだが、ここで俺の中に一つの疑問が湧きあがってきた、それは同じく昔パーティーを組んでいたブルネのことだ。彼女は今どうしているのかネイミーに尋ねてみる事にしよう。

「……ブルネは一緒に仕事をしていないのか?」

「彼女は元々優秀な魔術師だったから最初は第四部隊で魔術指南役を務めていたし、私と同じように秘書に近い役割もこなしていたよ。だけど少しずつ考えを改めるレックが認められなくて出て行っちゃったの。彼女は最後に『私は絶対にディアトイル出身者となんか仲よくするつもりはない! だって、小さい頃から忌むべき存在だって口酸っぱく教えられてきたんだから!』って叫んで去っていったの」

 まぁそんなところだろうと思った。いくら俺が有名になり、差別の無いシンバードが領地を拡大しようとも、根強い教育から得た価値観は早々変えられるものではない。むしろレックの考えが変わっただけでもラッキーだと思う事にしよう。

 もしかしたらネイミーだってレックの事を慕っているから同調しているだけで心の奥底では未だに俺の事が嫌いなのかもしれない……俺はストレートにネイミーへ今の考えを吐露する事にした。

「もしネイミーが今でもディアトイル出身者や俺の事が嫌いなら無理に謝らなくてもいいぞ、レックは好きだけど、ディアトイルは嫌いって考えがあるなら、それは仕方ない事だしな。まぁ俺だけならともかく他のディアトイル出身者を傷つけるなら容赦はしないけどな」

「相変わらず達観しているねガラルドさんは。でもね、そうじゃないんだよ、私がディアトイルを嫌いと言うよりもレックが嫌いだったから私が合わせていたんだよ、だって私はレックにとって腹違いの姉だからね、何が何でも味方したかったんだ」

 まさか、遠い南の地でこんな情報を得ることになろうとは。しかし、言われてみると、その事実に納得のいく要素が幾つか思い当たる。俺はそれらの答え合わせするようにネイミーに尋ねた。

「もしかして俺とブルネの事は『さん付け』で呼んでいたのにレックだけ呼び捨てだったのも姉弟だったからなのか? それに当時の仲間達の中では俺に対してネイミーが一番優しかったし、俺を見捨てたレックがネイミーを命懸けで助けに行ったのも……」

「うん、全てガラルドさんの予想通りだよ。レックは第二皇子と第三皇子と同様に差別的な教育を鵜呑みにして育ったからディアトイル出身者以外にもスターランクやスターランク倍率の低い者には当たりはキツかったけど、身内にはとことん優しかったよ。本当は第四皇子という大層な身分の人間が姉とはいえ腹違いの私を命懸けで守ってはいけないんだけどね」

「まぁあいつが最初から身内には優しいのは何となく分かっていたよ。ドライアド近くの洞窟で樹白竜じゅはくりゅうと戦った時は部下を命懸けで守ってたからな。それに腹違いの姉がいたという事実に驚きはしたが、女好きの皇帝の性格を考えれば納得もできるよ。ただ、一個気に掛かるのが、ネイミーの言い方だとモードレッドは差別的には育たなかった風に聞こえるが、他三人とは何か違うのか?」

「その通り、モードレッドだけは違ったんだ。実は今回ガラルドさんの前に現れたのは謝る事だけが目的ではなくてね、モードレッドの異質さとこれからのレックについて話しておきたかったんだ」

 そう言うとネイミーは突然懐から一枚の紙を取り出して俺に見せてくれた。その紙には十五年ほどのカレンダー的な図が描かれており、一日毎にトレーニングメニューのようなものに加えて、当時のレックが生後何歳の何日かまで事細かく書かれている。

 とりあえずレックが十歳頃のトレーニングメニューを見てみると、とてもじゃないが十歳には耐えられないような厳し過ぎる特訓が記されていた。更に一部の日には赤色の文字で『鞭打ち』『冷水浸け』などの酷い体罰も記されている。

 この惨さの塊みたいな紙は一体なんなんだ! と俺が尋ねると、ネイミーは声を震わせながら答えた。

「これはモードレッドが出来の悪いレックに与えた特訓と罰さ。あの男は帝国を強くする為なら何だってするからね、他の第二、三皇子にもこれ程ではないけれど厳しい特訓をやらせていたみたいだよ」

「こんな事をされたら例え兄だろうと反撃しそうなものだが……いや、モードレッドには脅しに便利なスキル『ミストルティン』があるから、服従するしかなかったのかな。三人で束になって反撃したり、父であるアーサーに助けを求めたりは出来なかったのか?」

「皇帝アーサーは父親でありながらモードレッドを恐れていたからね、この事実を知ってはいたけど触れなかったみたいだよ。それにモードレッドはミストルティンを抜きにしても文句を言わせない手段を取っていたからね」

「文句を言わせない手段なんてあるのか? そいつを教えてくれ」

「……モードレッドは『愚弟に育ててしまったのも自分の責任である』と言って、弟達に課した特訓や罰を全て自分自身でも遂行しているんだ……だからモードレッドが服を脱げば夥しい数の傷が体に刻まれてるし、普通の人間なら間違いなく体と心を壊しているよ。彼には痛覚がないのかと疑いたくなる程に我慢強く、そして異常な責任感があるんだ……」

 モードレッドの異常さはビエードの遺言や過去に接触した時に感じてはいたが、ここまでだとは思わなかった。将来的にアーサーが亡くなり、モードレッドが皇帝となった時、帝国リングウォルドはどんな国になってしまうんだ……と寒気が込み上がってくる。

 そして、ネイミーはこれまでの話を踏まえて、俺にお願いをしてきた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが 別に気にも留めていなかった。 元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。 リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。 最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。 確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。 タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...