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【第214話】グラッジとサーシャの本音
しおりを挟む「サーシャさん、まだ起きていますか? お願いがあるのですが、ひとまず客室の入口付近まで来てくれませんか?」
「ん? 分かった、そっちにいくね」
僕達は大部屋で全員一緒に寝ているから、他の人が起きないようにかなり小さな声でサーシャさんに入口付近まで来るように頼んだけど、聞かれていないか心配だ。
「グラッジ君、話って何かな?」
客室の入口付近まで歩いたところでサーシャさんが僕に問いかけた。こんな時間に二人だけで外に行こうなんて誘ったら変な奴だと思われるだろうか? でも、これは僕にとって大事な話だ、勇気を持って伝えよう。
「ちょっとお話があるので、二人だけで外へ出かけませんか? まぁ正確には二人だけじゃなくてリヴァイアサンもいますけど」
「え? 二人だけで今から? う、うん、いいよ、行こうか!」
言葉を詰まらせて何だか慌てている様に見える。もしかして本当は嫌だったけど、気を遣ってオッケーを出してくれたのだろうか?
だけど、今日の僕は何が何でもサーシャさんと二人で出かけたい。あの日、死の山で泣きながら六心献華の修得を阻んでくれた命の恩人である彼女に形容しがたい気持ちが湧いてきているからだ。
背中に変な汗が流れるのを感じるけど、覚悟を決めたのだから行くしかない。僕達は二人だけで、リヴァイアサンの泡に乗り込み、海底集落の外へ進んでいった。
「グラッジ君、今からどこに行くの?」
「リヴァイアサンに教えてもらった海底火山です。と言っても海底火山には降り立たず付近で止まりますけど。以前二人で話している時にサーシャさんが『この古文書の挿絵を見て! 海底にはいっぱい火山があるんだって、海の中なのに噴火するのかな? 不思議だし見てみたいね』って言っていたのを思い出して誘わせてもらいました」
「あの時の事を思い出して連れてきてくれたんだ……嬉しい!」
サーシャさんは両方のこぶしをギュッと握って喜んでくれている、誘ってみてよかった……。
リヴァイアサンの泡に乗って移動を続け、僕達は海底火山に到着した。火山は幾つかあり、火口に該当する部分は見えるものの、恐らく火山全体の八割近くが海底の砂によって埋もれている。
海底火山と教えてもらわなければ、ただの大穴にしか見えなさそうだ。
それでも、サーシャさんは腕を上下させて「わぁ! 本物だぁ!」と喜んでくれている。それだけでも十分嬉しいけど、サーシャさんには他にも見てもらいたいものがある。
時間的にもそろそろのはずだ。僕は中心にある火口を指差して言った。
「もうすぐ面白いものが見れますよ。サーシャさん、あっちを見てください」
「ん? どれどれ……えっ?」
サーシャさんはよっぽど驚いてくれたのか言葉を失っていた。それは僕が指差した場所があまりにも美しい光をばら撒いていたからだろう。
リヴァイアサンから教えてもらった海底火山が今まさに小さく噴火したのだ。青一色の空間の中だと一際映える橙色に輝く粒が火口からゆっくりと噴出し、あたり一面を海底とは思えない暖かい色合いで染めた。
僕達を覆っている泡の位置まで噴出した光の粒が飛んできて、周囲の景色はほとんどが橙色に輝く光の粒で埋め尽くされた。その間も夢中になって光の粒を眺め続けるサーシャさんの横顔を僕は気づかれないように見つめていた。
いつも綺麗だと思っていたサーシャさんが橙色の光に照らされた今この瞬間はより一層綺麗に見えて鼓動の高鳴りを抑えられなくなっていた。
僕は物心ついてからのほとんどを野生児的な暮らしに費やしてきたから、愛だの恋だのを語る資格なんてないけれど、それでも今のドキドキに対してそろそろ自覚を持たなければならないのかもしれない。
だってサーシャさんに喜んで欲しいという気持ちに負けないぐらい、サーシャさんを眺めていたいという願望が僕の中で膨れ上がってしまっていたのだから。
だけど、今の僕にはまだストレートに想いを伝える勇気が無い。だから、僕なりに友情とも愛情とも取れる言葉で伝えた。
「今晩、サーシャさんと来られてよかったです。サーシャさんと話しているのが一番楽しいので」
「うん、サーシャもだよ。ずっと一緒にいたいよ」
「えぇっ! ずっと一緒ですか?」
サーシャさんの返事に僕は声をうわずらせてしまった……。ずっと一緒にいたいという言葉の意味を頭の中で勝手に恋愛的な意味で解釈してしまったからだ。
言葉を発した瞬間に『仲間としてずっと一緒にいたい』という意味の解釈も出来るとすぐに理解したけれど、うわずった声をなかったことには出来ない……サーシャさんも慌てて言葉を返す。
「あ、いや、その、そういう意味でも取れるよね、変な言い方しちゃってごめんね!」
きっと高確率でサーシャさんは友情的な意味合いの返事をしたのだろうけど、それでも完全に恋愛的な意味を否定はしなかったから、少しは可能性があると信じたい。
この微妙な空気をなかったことにする為に僕は話題を変えることにした。
「サーシャさん、改めてお礼を言わせてください。死の山で六心献華を修得しようとした僕を止めてくれて、本当にありがとうございました。もし、あの時止めてもらえてなかったら、僕はザキールに六心献華を放って死んでいたと思います」
「あの時も言ったけど、サーシャは道理とか関係なく、あくまでグラッジ君の死がサーシャにとって辛いから止めただけであって、怒鳴ったり、グラッジ君の手を叩いて紙を落とさせたのも自分都合な言動だったと思うよ」
「でも、涙目になって怒ってくれる人がいるという事実が、僕にとって生きたまま勝つ為の燃料となりました。何と言われようと感謝の気持ちは変わりません」
「うん……グラッジ君の気持ちは受け取ったよ。でも、あんなことを言っておいてなんだけど、サーシャは自爆してでも敵を止めようとしたグラッジ君の気持ちが凄く分かるし、サーシャが同じ立場でも会得しようとしたかもしれない……だって、ガーランド団が、ドライアドが、シンバード領が、サーシャにとって自分の命よりも大切な家になっちゃったから……」
「あはは、僕も似たような事を言おうとしてましたよ。だから先にサーシャさんへお願いを伝えようと思ったんです。僕は戦争を終えて千年樹の洞窟に帰り、皆さんと離れてようやく気がつきました……皆さんと離れ離れになるのは耐えられないってことを……。だから、これからも皆さんについて行かせてください」
僕の魔獣寄せにほとんど効果を発揮しない周期があるとはいえ、それでも厄介なスキルであることには変わりない。
だから、これからも旅に同行させてくれと伝えるのは、好きだと伝えるのとはまた違う勇気が必要だった……それでも、僕は深く頭を下げ、覚悟を決めて伝える事ができた。
恐る恐る頭をあげて、サーシャさんの顔を覗き込むと彼女は目尻に少し涙を溜めて、元気よく答えた。
「うん! 喜んで! たとえ魔獣寄せに弱まる周期が無かったとしてもサーシャにとってグラッジ君は大切な人だから、どうにかする方法がないか一生かけてでも探し続けるよ。サーシャもグラッジ君と少しの間離れたことによって、耐えられないって気づくことができたから」
またドキッとする言い方をされたけど今度は動揺したりしない。それに『どうにかする方法を一生かけてでも探し続ける』という言葉だけでも、ありがたすぎるぐらいだ。
今晩ここに来て想いを伝えて本当によかった。明日になったら皆にも旅に連れて行って欲しいとお願いしてみよう。
僕は光に照らされる泡の中でサーシャさんにお礼を言いつつ最後のお願いをした。
「ありがとうサーシャさん。もう一つお願いなんですけど、もう少しだけここで光を眺めていきませんか?」
「うん、サーシャも同じ事を言おうと思ってたよ」
僕はサーシャさんと光の粒を眺め続けた――――このまま時間が止まって欲しいと願いながら。
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