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【第210話】魔獣寄せの個人差

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 集落長であり女神でもあるウンディーネに来訪の理由を尋ねられ、俺は軽く身分を明かして理由を答えた。

「こんにちは女神様、俺達は大陸中を旅しているガーランド団というもので、俺が代表をしているガラルドだ。ここへの案内は海神龍リヴァイアサンにしてもらったんだ」

「ほぅ、そうでしたか。海の治安を守ることにしか興味がなく、他者と関わろうとしないリヴァイアサンにしては珍しい行動ですね。詳しくあなた達のことを教えてもらってもよろしいですか?」

「ああ、もちろんだ。俺達は――――」

 そして、俺は死の海でリヴァイアサンと出会ったこと、地上で魔獣群と戦ったこと、神笛カタストロフィを吹いてここまで来たことまで全て伝えた。

 女神ウンディーネは時々「なるほど、合点がいきました」と呟き、情報を照らし合わせるようにして話を聞き続けてくれた。十分ほど話し続けて一通り伝え終わると、ウンディーネは席から離れて移動し、グラッジの手を握った。

「幼き身でありながらこれまで大変な思いをしてきたようですね。貴方からはかつてのグラドさんと同じぐらい強い責任感と誠実さを感じます。グラドさんにはわたくしもリヴァイアサンも昔お世話になりました。色々とお礼をするつもりですが、まずはグラッジさんのスキルを細かく鑑定いたしましょう。全知のモノクルでは読めなかった古代文字も読める形で表記される可能性もありますし」

 『読める形で表記される可能性がある』という言い方から察するに、鑑定者や鑑定道具にはクセや方言みたいなものがあるのかもしれない。古代文字をいくら研究してもまだまだ読めない文献が多いのは古代文字に種類や単語数が多過ぎるなどの理由があるのだろうか?

そんな事を考えているうちにウンディーネさんは手を光らせてスキル鑑定を始めた。神託の森で俺がサキエルさんに鑑定してもらった時と同じようにあっという間にスキルの詳細が書かれた石版が出現し、ウンディーネさんが読み上げた。

「なるほど、グラドさんとほぼ同じスキルですが少しだけ違う点がありますね。グラドさんは神獣を従わせる能力でしたがグラッジさんは神獣に好かれる能力のようです。まぁグラドさんも優しい人なので神獣を無理やり従わせるような力の使い方はしてこなかったですが。恐らくグラッジさんの前でもこの能力を使う機会は少なかったのでは?」

「少ないどころか全く見た事がありませんね。そもそも神獣を見つけること自体難しいですし。僕もまだリヴァイアサンとグリフォンしか見た事がありません。他にお爺ちゃんとの違いはありますか?」

「魔獣を呼び寄せやすくなる周期がグラドさんとグラッジさんで真逆ですね。グラドさんは満月に近くなるほど魔獣を呼び寄せやすくなり、グラッジさんは逆です。それに加えてグラドさんは上限と下限の差が小さく、魔獣を大量に呼び寄せることはほとんどありませんが、逆に全く呼ばなくなるような状況にもなりにくいです、この点もグラッジさんと真逆ですね」

「えっ? ちょっと待ってください! って事は僕の魔獣寄せは満月に近い時期はほとんど効力を失うってことですか?」

「そういうことになりますね。満月の前後六日ぐらいならほとんど影響はないと思います。満月は一年に十回、つまり四百日のうち十日訪れますので

(一日+六日+六日)×十回=百三十日となり

一年のうち百三十日ぐらいは外で普通に生活しても問題ないかもしれませんね。それと魔獣の寄ってくる数ですが、ざっくり数字化しますと例えばグラッジさんが日によって0~100匹の魔獣を呼び寄せるとしたら、グラドさんは日によって30~70匹の魔獣を呼び寄せると考えてもらっていいと思います」

「まさか僕の魔獣寄せにそんな特性があるなんて」

 ここにきてとんでもない事実が発覚した。同じ魔獣寄せを持つ者でも多少の違いはあるだろうとは思っていたが、まさかそこまで違いがあるとは。

 以前ザキールが『グラハムはグラッジよりも強い魔獣寄せを発現したから死の扇動クーレオンとの相乗効果が強くなる』と言っていたのを考えると、グラッジと同じようにほとんど影響のない日が存在するかもしれない。

 そう考えると次にウンディーネにお願いする事は決まっている。

「すまんが、ウンディーネさんにもう一人スキル鑑定してもらいたい人がいるんだ。同じ魔獣寄せを持つグラハムの鑑定を頼みたい」

「お安い御用ですよ。それどころかお望みでしたら全員のスキル鑑定いたしますけど?」

「おお、それはありがたいな、よろしく頼む」

「分かりました、それでは纏めてやってしまいますね、ほいほいのほい!」

 比較的まともだと思っていたウンディーネが変な声をあげながら一斉にスキル鑑定をはじめた、女神は変な奴が務める決まりでもあるのだろうか。ボトボトと石版が落ちてきて目移りするけれど、まずはグラハムのものから読み上げてもらった。

「なるほどなるほど、グラハムさんの魔獣寄せもグラッジさんとほぼ同じですが、より魔獣を寄せ付けやすい代わりに魔獣が寄ってこない期間は長めですね、満月に近いほど安全なのも同様です」

 この言葉を受けてグラッジとグラハムは顔会わせて喜んでいた。この事実が示す事は二人が同じ期間に人里を出歩けることを意味しているからだ。ずっと人里から離れていなきゃいけないと思っていた二人にとってこんなに嬉しい知らせはないだろう。

 ただ、スキルを深く知ると同時に俺の中で一つの疑問が浮上した。俺はその疑問をグラッジへ投げかける。

「なぁ、グラッジは自分自身で魔獣寄せの周期的な波には気がつかなかったのか? 結構魔獣が寄ってこない日数も多い気がするが……」

「僕が魔獣寄せを発現してからはほとんどをお爺ちゃんと一緒に過ごしていました。周期が違い、波の上下が少ないお爺ちゃんと常に一緒に行動していたので分かり辛かったんだと思います、僕がもう少し分析力のある頭を持っていれば良かったんですけど」

「いや、責めている訳じゃないんだ。それに魔獣の襲撃を日ごとに集計して規則性を分析するなんて手間と人手をかけないと無理だろうしな」

 欲を言えばグラドがグラッジを海底集落まで連れてきてスキル鑑定をやってあげてほしかったところではあるが、同じ魔獣寄せを発現すれば自分と同じ性質だと先入観が働いてしまって鑑定するという発想にはならないと思うし仕方がないのだろう。

 そもそもグラドは神獣をコントロール出来る事実すらグラッジに黙っておいたし、発現する者が現れたらカタストロフィを渡してくれという保険をエリーゼさんに託していた点からも、慎重に動いていた形跡が見て取れる。

 改めてグラドという男がリスクや未来の事に関して深く考えていたんだなと感心させられる。

 その後、俺達は各々の石版を読み上げてもらった。全知のモノクルと同じように魔力と魔量も数値化されていて、全員が以前モンストル号の上で鑑定した時より一割から二割増えていた。

 やはりカリギュラでの修行と戦争を超えてきた経験が相当効いているようだ。いずれは俺のレッド・モード発動時や皆が色堅シキケンを発動している時にも全知のモノクルで数値化してみようと思う。

 そして、ウンディーネさんは最後に気になる一言を告げた。

「おや、リリスさんとガラルドさんは新しいスキルを発現しているかもしれませんね」


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