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【第204話】魔人のプライド
しおりを挟む書庫より更に下の階にある牢屋に辿り着くと、奥の方から擦れたうめき声が聞こえてきた。
「あ、足音? だ……誰だ? 俺様は……何も……言うつもりは……ねぇぞ……」
擦れてほとんど別人の声になっているが、この声はザキールだ。ザキールの閉じ込められた牢の前に走ると中には羽を切り落とされて、全身血だらけになり、ボロ雑巾のようになったザキールの姿があった。
拘束していることは知っていたが、まさかここまでするなんて思っていなかった俺はゼロに詳細を尋ねる。
「どういうことだゼロ? いくら魔人とはいえここまでする必要はあったか?」
「落ち着いて聞いてくれガラルドさん。確かに僕達は情報を得る為に多少の拷問はしようとしたさ、だけどそれは情報を言うまで食事を与えないような外傷を伴わない類のものにするつもりだった。だけど、ザキールは短い時間で体を回復して、すぐに拘束を破壊しようとしたんだ」
「だから、脱走する体力をつけさせない為に痛ぶり続けていた訳か」
「そういうことさ。更にザキールは拘束されている間にも基礎的な膂力や魔力が強くなっている兆候も見えていてね。だから、死なないギリギリのラインでダメージを与えて動きを止めるしかなかったんだ。今も常に五人体制で兵士をつけて管理を続けているよ」
これがさっきゼロの言っていた魔人細胞の凄さなのだろう。ゼロは平原で戦っている時に『俺様に魔人の仲間いない』と言っていたけれど、逆に言えば他にも魔人は存在するような言い方だった。
ザキールと表立って仲間になっている奴はいないとしても似たような考え方を持っている魔人が複数いたらと想像するだけでゾッとする。俺はザキールから得られた情報はどんなものがあるのかゼロへ尋ねた。
「結局ザキールから情報は引き出せたのか?」
「いいや、ザキールは中々骨のある奴でね、目的やアスタロトの事を尋ねたけど一切吐かなかったよ。最終的に得られたのは肉体的な情報だけさ」
ザキールは残虐で短気で単純な奴だが、アスタロトに従順だったり、俺の父親からの指令をしっかりこなそうとしたりと所々に真面目さや仲間意識のようなものが垣間見える。
人間を見下し、魔獣を道具のように扱う点は我々から見れば異質だが、敵勢力からすれば普通の事なのだろうか。ザキールが口さえ割ってくれれば色々と聞きたいのだが……。
俺はザキールから情報を引き出す作戦が思いつかず、ゼロに相談してみる事にした。
「ゼロ、どうにかしてザキールから他に情報を引き出す方法はないか?」
「一応三つほど情報を引き出す案はあるよ。だけど、その内二つはガラルドさんが絶対に反対するから実行していないんだ。一つは本当に死の直前まで拷問を続ける……だね。限界まできた時には流石にザキールも心を保てないかもしれないからね」
「それは絶対反対だ。ザキールは価値観の違う敵ではあるが、それでも極限まで心を削る拷問は駄目だ。それをやった瞬間、俺達はザキール以下の存在になってしまう。仮に実行するとして我々の命が天秤にかけられていて拷問しなければ助からない状況にならない限り駄目だな」
「うんうん、ガラルドさんらしい言葉だね。だけど、やれることを早めにやっておかないと後で取り返しのつかない事になるかもしれないとだけ忠告しておくよ。それでも僕は戦争の英雄であり団長でもある君の言葉に従うけどね」
ゼロの言葉からは重みを感じる。ゼロの祖父サウザンドが早めに父ワンを止めていれば違った未来があったのかもしれないと思って、ゼロは俺に念を押したのかもしれない。
それでも俺は一線を越えるべきではないと考えている。非道な存在に非道の刃を返せば、いつか巡り巡って自分達に返ってくるような気がするからだ。それは俺達の生まれる遥か昔から、恨み・復讐による戦争が無くならないことが証明している。
「ご忠告ありがたく受け取っておくよ、だけど俺の考えは変わらない。二つ目の方法も教えてくれ」
「二つ目はザキールがどんなことをしても情報を吐かなかった場合にせめて魔人の肉体情報だけでもいいから引き出せないかと考えて出した方法さ。それは極めてシンプルな方法、死体解剖さ」
「拷問の次は解剖か……当然却下だ。戦いの中で死んでしまわない限りはな」
「はいはい、聞くまでもなかったね。それじゃあ最後の方法だ。それはアーティファクト『ジャッジメント』で質問を繰り返して情報を探る方法だ。これならガラルドさんも文句ないだろ?」
その手があったか! とまるで脳に雷が落ちてきたような感覚に襲われた。ゼロの言う通り、ジャッジメントさえあればYES・NOでひたすら真偽を問いかけ続けて、その度にジャッジメントを突き刺せば情報の絞り込みが出来るようになる。
ザキールから一気に情報を絞り出せば、もしかしたら死の山、魔人、俺の家族、魔日の仕組み、魔獣の総量などなど全て分かるかもしれない。
それに加えてディアトイルの洞窟で得られるであろう情報も合わせれば、真の意味で大陸を救う事が出来るかもしれない。
「その案は採用だな。俺自身存在を忘れかけていたジャッジメントを引き出してくるなんてやっぱりゼロは頭がいいな」
「褒められて恐縮だけど、学者って生き物はね常に好奇心とモラルと非人道的手段との間で揺れ動く存在なんだ。人の道を外れた手を使えば色々ともっと得られるものがあるのかもしれないけれど、それをやっちゃうとワンと同じになってしまうからね。だからガラルドさんみたいな真面目で優しい人間と定期的に接して『善の感覚』がブレないようにしておく必要があるんだ」
拷問、死体解剖みたいな話をわざわざ持ち出したのもゼロ自身が思いついてはいるものの否定してもらう為に敢えて言ったのかもしれない。そう思うとワンが道を踏み外していったのは止めてくれる人間がいなかったからなのか? と悲しい想像が膨らんでしまう。
何にせよこれで俺達が次に取るべき行動は固まってきた。とにかく大陸北へ帰る方法を見つけ出す事だ。死の海は往路と復路で海流が全然違うから往路で立ててきた簡易灯台は残念ながら南から北へ行くのには役に立たない。
シルバーや技術者たちとしっかり話し合って航海の計画を立てていこう。
牢屋の中でずっと俺とゼロの話を聞いていたザキールはボロボロながらも鋭い目つきでこちらを睨んでいる。俺は今抱えている思いをザキールに伝えた。
「聞いての通り、俺達は何が何でもザキール達を止めて、魔獣活性化も乗り越えて、真の平和を築いてみせる。アーティファクトを使って遅かれ早かれザキールから情報を抜き取ることにはなるから、惨めな思いをする前に今ここで質問に答えるのをお勧めするぜ?」
「黙れ。何と言おうと俺様は自ら口を開くつもりはねぇ……魔人には魔人のプライドがあるんだよ。さっさと俺様の前から失せろ」
分かってはいたがやはりザキールの意思は強固だ。俺はゼロに別れの挨拶を交わし地下牢から出ていった。
明日からは本格的にシンバード領へ帰る為の話し合いをしなければ。俺は全員に連絡を送った後、自室に戻り明日の計画を立てながらゆっくりと休んだ。
※※※※※
明日(2022/5/1)の更新ですが、リアル都合により20時前後になる可能性があります。
いつもより遅い時間に更新となりますので最新話を追いかけてくれている方は注意してください
※※※※※
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