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【第203話】復興と散歩
しおりを挟むザキール率いる魔獣群との戦争から早20日。俺達ガーランド団の面々は体を回復させて傷ついたイグノーラの復興を手伝っていた。
俺だけはまだ両こぶしが治り切っておらず料理を食べるのにも一苦労な毎日だ。
飯の時間になるとリリスが颯爽と俺の前に現れてスプーンとフォークを手に持ち「あ~ん、の時間ですよ」と無理やり飯を食わせてイチャついてこようとするから困っていた。
その末にとうとう俺は魔砂で食器を扱うという繊細でどうでもいい技術を身に着け、リリスから逃げる手段を得てしまった。
両こぶし以外は元気だから復興の指示出しをしたり散歩したりして過ごしていると、街の広場でシルバーがイグノーラの作業員を連れて立っていた。俺は「何をしてるんだシルバー?」と尋ねると、彼は周りを指差しながらしたり顔で答えた。
「イグノーラの人達がガーランド団、レック、グラッジの像を立ててくれることになっただろ? だからよりグレートな像になるように設計の指示をしてたんだ」
「……そういうのって厚意で建てて貰ってるんだから、口出ししない方がいいんじゃないか?」
「まったく……ガラルドは欲が無いというかシャイというか営業力がないというか……いいか? よ~く聞きたまえ。今後死の海を往復する方法が確立されたら、イグノーラには沢山の人が訪れる事になる。そんな時に真っ先に目に入る像の出来が悪かったら俺達の評価が上がらないだろう? 今後のガーランド団の為にも必要な介入なんだよ、これは」
「う~ん、そう言われるとそんな気がしてくるな。とりあえず設計図を見せてもらうぞ」
俺は作業台に広がっているシルバー自作の設計図を覗き込んだ。すると立ち並ぶ像の中心にシルバー像があり、しかもシルバー像だけ他の像より一回り大きい……。俺はシルバーにどういうことか問いかけた。
「何でシルバーの像だけデカいんだよ?」
「あっ、やべぇ、見られちまった……ハハッ、いやぁ俺も目立ちたいというか、設計者権限というか、そもそも俺が主体となって作った船でここまで来られた訳で、だからここは一つグレートシルバー像の建築を前向きに検討……」
「却下だ。それと俺はイグノーラの作業員さんが書いてくれた『ちゃんとした設計図』を見た結果、お願いしたいことが一つ出来ちまったんだ」
「お願いしたいこと? イグノーラの作業員が書いた設計図は中々良く出来てるから改善点なんてないと思うぞ?」
「この設計図を見る限り、俺、リリス、グラッジ、レック、サーシャ、表立って派手に活躍した人物が見上げる程に巨大な像として作られるみたいだが、俺達はもっと大勢の人間の支えによって成り立っているし、偉さの上下はない。だから一つ一つの像を小さくしていいし、費用も手間も減らしていいからガーランド団や第四部隊のメンバーの分の像を作って欲しい、勿論俺やレック達と団員・隊員のサイズは同じでいい」
「グレートシルバー像の建築はお預けか……でもまぁ、それがガーランド団代表のガラルドらしい意見だよな。きっと皆もお前の意見に賛成するだろうし俺も従う事にするよ。グレートシルバー像はジークフリートにこっそり立てる事にするぜ」
結局建てるのかよ! と指摘しようかとも思ったが、一応シルバーの地元だし何も言わない事にした。そんな像を何の脈絡もなく建てられたら親族のサーシャやアイアンは堪らなく恥ずかしいとは思うが、そこは家族同士仲良く揉めてもらう事にしよう。
シルバーとの雑談を終えた俺は次にゼロがずっと籠って調べものをしているイグノーラ城の地下の書庫へ行く事にした。
書庫の扉を開けるとそこには左手に本を持ち、右手で頭を抱えているゼロの姿があった。俺はゼロが何を悩んでいるのか尋ねる事にした。
「おはようゼロ。何か悩んでいるようだが大丈夫か? 手伝えることがあったら手伝うぜ?」
「ああ、ガラルドさん、来てたんだね。心配してくれてありがたいけれど、残念ながらこの悩みは僕でもガラルドさんでも簡単には解決できそうにないよ。その悩みっていうのはね、魔人の細胞が強すぎるって話なんだ」
「確かゼロは拘束しているザキールから血液を採取して調べていると言っていたな。それで細胞ってものについて分かったんだな。でも俺は学が足りないから細胞が強すぎると言われてもよく分からないぞ、詳しく教えてくれ」
「細胞が強いって言い方より強さの天井が高い、もしくは成長性・素質が高すぎると言った方がいいかな。人間という種を基準に考えて欲しいのだけど、魔力や魔量は達人だと凄まじく成長するけれど、肉体に関してはそこまで図抜けて大きくなる人はいないよね? 大陸で一番大きい人でも精々体格の良いガラルドさんより頭二つ大きいぐらいだと思う」
「魔人は割合的にもっと大きくなったり強くなったりするって事か?」
「細胞の研究なんてまだまだフロンティアな部分が多いから断言は出来ないけれど、その可能性は高いね。それどころか別の種に進化を遂げる可能性すらあるぐらいに不思議な身体の構造をしているんだ、魔人という種はね」
別の種に進化なんて言葉を聞くと、ゼロの父ワンが望んでいた人類の変異を思い出してしまう。魔人という種はそれがナチュラルに可能なのだろうか?
魔人は『魔』と『人』という二つの要素で構成された呼び名なのだから、魔獣と人間を足したような生物だと思っていたが、実際はそんな単純なものではないのかもしれない。
そして、ゼロは底知れぬ魔人の強さについて更に言及する。
「ザキールが右腕を巨大化したのは本人のスキルであることは間違いないだろうけど、それも一種の進化や変化に属するものなのかもしれないね。人間は十人十色様々なスキルを発現するけれど、それでも身体の形そのものを変えるスキルなんて聞いたことがない。研究者としてはもっと色々と調べたいことはあるけれど、調査の手を伸ばすのはここが限界だね」
「ん? もっと色々調べたいと言っているのに調査の手はここまでしか伸ばせないって発言は矛盾していないか? どういうことだ?」
「……それについては、実際に見てもらった方がいいかもしれない。よし、今からザキールを拘束している地下牢へ行こう。そこで説明するよ」
ゼロは何か考え込んだあと、意を決したような表情でザキールとの接触を提案した。戦争を終えてからほとんどがベッドの上だった俺は顔を合わせるのは戦いのとき以来だ。
若干胸の鼓動が早くなるのを感じながら、俺とゼロはザキールのいる地下牢に到着した。
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