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【第202話】手紙と境界の地

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「お婆さんが木彫り細工の持ち主について推察していたけれど、いきなり女神の話をして信じてもらう自信も無いから私は何も言えなくっていたんだ。お婆さんは色々と考えこんだ後、突然ペンを握って手紙を書き始めて私に渡してくれたんだ『この手紙を木彫り細工の持ち主に渡して欲しい』って言ってね」

 レナはそう言うと懐から取り出した手紙をリリスに渡した。リリスは俺の方を見つめてきたから『大丈夫だぞ』と安心させるために頷いてみせると、リリスも頷きを返し、皆が読めるように手紙を机の上に開いた。

 そして、手紙にはこう書かれていた。



――――この手紙を受け取っているのはリー姉さんの娘か孫でしょうか? この手紙を書いているのはリー姉さんの双子の妹ライラです。もしこの手紙を受け取っているのがリー姉さんの家族だとしたら、リー姉さんと一緒に読んでもらってください――――

――――亡くなったと思っていたリー姉さんがもし生きていてくれるなら涙が出るほど嬉しいです。ですが、あれだけ危険な目にあっていたリー姉さんの事だから、もしかしたら長い月日が流れた今も危険に身を置いているかもしれませんね――――

――――なので、この手紙が『敵』に拾われる可能性も考慮して、私の苗字と姉さんの本名も書かないようにしておきます。そして伝えたい情報も私達だけが分かるように明記させてください。リー姉さんなら分かるよね?――――

――――私達がいつか行こうと言っていた『境界の地』 そこの湖にある洞窟で私達が溺愛していた『あの子』が待っています。そしてあの子にこの手紙を渡してください。そうする事で『皇帝・帝国の狙い』『エンドとは何か』『そしてもう一つの強大すぎる力の正体』それら全てが分かるはずです。もしかしたらそれ以上の事も……もし、リー姉さんが昔と変わらず世界の為に動いているのだとしたら、きっと『あの子』が力になってくれるはずです――――

――――もし今のリー姉さんに心から信頼できる仲間がいるならば、この手紙で得た情報を共有し合って仲間と共に頑張ってください。私は帝国から出られない身になってしまいましたが、ずっとリー姉さんに会いに行きたいと思っていたし、リー姉さんの事を考えない日はありませんでした。全てが片付いたその時はあの頃と同じように姉妹でお話しましょう――――



 ここで手紙は終わっていた。どうやらお婆さん改め前世のリリスの妹はライラという名前のようだ。『リー姉さん』というあだ名からもリリスとの関連はより確実性を増したようだ。

 ライラは情報を伝えようとすると同時に何か別の存在へ情報が洩れることを恐れているようだし、リリス本人ではなく家族が記憶を失っていると思い込んでいるようだ、まぁリリスが不老の存在となっているなんて想像できるわけないし、子か孫と推測するのは当然だが。

 双子の二人にしか分からない暗号めいたもので情報を伝達されても、記憶の無いリリスでは解読できないじゃないか……と肩を落としかけたその時、リリスが突然頭を激しく抑えて、頭痛で苦しみ始めた。

「うっ……頭が割れ……そうです……」

 今まで何度も起きてきた『失われた記憶』が刺激された時の反応だ。この状態になった時に俺達にしてやれることは残念ながらほとんどない。

俺は少しでも楽になるようにリリスをソファーに寝かせてやろうと手を伸ばすと、突然リリスの銀髪が光り出し、髪の毛の一部分が柔らかい色味の金髪になってしまった。

 金髪と言ってもほんの一部分だけだし、元々の銀髪と親和性が高いからほとんど目立たないが、流石に見た目の変化が起きてしまうのは驚かずにはいられない。

 リリスはソファーに寝転ぶと、頭痛へ必死に抗いながら言葉を発した。

「まだ……ライラって人の事も溺愛した『あの子』という存在も思い出せませんが……何故か境界の地が何処か分かりました。それは……ディアトイルです」

 ここにきてまさかの地名が飛び出してきた。俺の故郷ディアトイルに前世のリリスと関連深い人間がいるなんて信じられない、と言いたいところだが、ディアトイルの事を魔屍棄ましきの地と言わず『境界の地』と言っているところが、差別を嫌うリリスらしい呼び方とも思える。

 それに実際ディアトイルは大陸を南北に分ける死の山の隣にある村だから『境界』と名付けるのも納得はできる。

 ただ、故郷ディアトイルにある湖は俺自身一回しか行ったことがないから、その点に関しては何とも言えないのが正直なところだ。

あの辺りは手強い割に全然素材にならない魔獣がいるから誰も好んで近づかないからだ。逆に言えば人避けになっているとも言えるのかもしれない。

 色々と濃い話を二人分聞く事になったが、これで俺達がこれから取るべき行動が定まってきた。

まずは大陸北に帰る方法を見つける事。持ち帰った情報を各国に伝えて、帝国に詰め寄り素性を探る事。ディアトイルに行き『あの子』と呼ばれる人物に会って全てを知る事。各国と協力体制を組み、死の山の魔獣に対抗する事、やらなければいけない事は山積みだ。

 リリスの頭痛が収まったのを確認してから今後の事を話し合った俺達は、しばらくの間は治療に専念して、回復してから行動することに決めた。話し合いを終えて今日は解散する流れになったところでレナが「あっ! 伝え忘れてたことが二つある!」と言って、全員を呼び止めた。

「そういえば私とヒノミさんがどういう流れで帝国の牢に入れられたか言ってなかったね。実は子供の頃の私を知っている貴族が帝国中央街にいたらしくて、レナ・コルベールの名を語る女性の見た目が全然違うと通報しちゃったんだよね、それでバレちゃったわけさ」

「ああ、なるほどな。じゃあヒノミさんに落ち度は無くて、作戦そのものに欠陥があった訳だな」

「うぅ、面目ない……まぁ終わり良ければ総て良しでいいじゃないか」

「今度からはもうちょっと安全策を取ってくれよ? で、もう一つの伝え忘れた事ってなんだ?」

「これはリリスさんにとって凄く凄く大事な事だよ。心の準備はいいかなリリスさん?」

「えっ? 私ですか……はい、どんなことでもばっちこいです!」

「この手鏡で自分の髪を見てごらん」

「えっ? キャァァァ! 一部分金髪になってますぅぅぅ!」

 あれだけ溜めて伝えた事がまさか髪色の事だったとは……。まぁ確かに自分で自分の髪色は見えないから、いきなり鏡を見て驚くよりかはいいかもしれないが。

 この後、リリスが部分的に金髪の女は恋愛対象になるでしょうか? と鬼気迫る表情で聞いてきたから「はいはい、大丈夫大丈夫」と適当にあしらって俺は自分のベッドに戻った。


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