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【第201話】リリスの前世
しおりを挟む「お茶に眠り薬を盛られていたんだよ。私が起きた時には民家の地下で拘束されていて、周りを屈強な戦士達に囲まれていてね、お婆さんから『お待ちしていました。貴方にいくつか質問があります』と言われたんだよね」
レナの口からとんでもない事実が語られた。一瞬、大丈夫だったのか不安になったが、今ここにレナもヒノミさんもいるのだから大丈夫なはずだ、我ながら動揺しやすい性格だ……冷静にならなければ。
そしてレナは民家の地下であった出来事を話し始めた。
「お婆さんは私にこう質問してきたんだ『この木彫り細工は私にとって大事な人が肌身離さず持っていた物なの。それを貴女が何故持っているの?』ってね。だから私はリングウォルド別邸跡地で拾ったことも、この木彫り細工がとある記憶喪失の女性が過去を取り戻す鍵となっていることも、全てを話したのさ」
「そんなヤバそうなお婆さんに最初からそこまで話したのか? 拘束された時は基本的に嘘を言わないのがセオリーだとは思うが、それにしたって言い過ぎじゃないか?」
「あの女性の顔を見れば全てを話しても大丈夫だと思っちゃうよ……」
「顔? 一体どういうことだ?」
俺が問いかけるとレナは言葉を溜めて、詳細を語った。
「……リリスさんをそのまま老けさせたようなそっくりな顔だったんだ。それに声や背丈までほとんど同じだったのさ。例えリリスさんの肉親だとしても最初から善人だと信じ切るのは良くないのは分かっているんだけど、それでも不思議と信じられる雰囲気を放っていたんだよ」
まさか、こんなに早くリリスの肉親らしき女性と接触する事が出来るとは。普段から自分自身の事には熱くならず冷静なリリスでも流石にこの時は動揺していた。
この先、レナの話す真実が重たいものだったら、戦争を終えたばかりで疲れ切っているリリスには心身共に酷かもしれない。俺はリリスの身を心配して提案する。
「ここから先の話はもしかしたらリリスにとって辛い事実が判明するかもしれないし、悪い記憶が戻ってしまうかもしれない。何なら先に俺達だけが話を聞いて、大丈夫な情報だけをリリスに伝えるようにしてもいいぞ、どうするリリス?」
「私は大丈夫です……と言いたいところですが、記憶が戻ったとしたら今の私はどうなってしまうのかと不安があるのが本音です。私はどうすれば……」
俺はリリスの言葉に何も返せなかった。いや、正確に言えばリリスには一度席を外してもらいたいと言うのが本音だから、そう返すべきなのは分かっている。
リリスの過去に繋がる何かを見つけてきてくれとレナ達にお願いしておいてなんだが、今のリリスの顔を見ていると無難な選択を取った方がいいと思える。
リリスはレナ達が帝国へ旅立った後も『五英雄の本』を読んだ時や『死の山に入った時』など、度々記憶を刺激されて身体の調子が悪くなっている。
とにかくリリスの心が元気であり続ける事が重要なのだし、俺もリリスが辛そうにしている姿を見たくない。だから、部屋の外に出るよう伝えようとしたその時、サーシャが立ち上がってリリスの両肩を掴んだ。
「大丈夫だよリリスちゃん。極端な話リリスちゃんの前世が悪人だったとしても、今のリリスちゃんは最高に優しくて良い子なんだから、今更過去の記憶が入ってこようとも、それはあくまで情報の一つに過ぎないよ。リリスちゃんが女神として積み重ねてきた時間は年数にして7,8年しかないけど、それでも濃すぎるぐらい濃い旅をしてきたんだから、今のリリスちゃんの心が絶対に勝つよ」
「絶対……ですか、ふふふ、断定できる根拠はないのに不思議とサーシャちゃんが言うと説得力がありますね。これも積み重ねてきたが故に……でしょうか?」
「そういうことだよリリスちゃん。親友のお墨付きを信じない手はないよ。それに知れるのに知ろうとしない選択をしたら、きっとモヤモヤしてこの先ずっと戦いに身が入らないままになっちゃうと思うし。あ、一応フォローしておくとガラルド君はガラルド君でリリスちゃんに愛情がありすぎて過保護になってしまって、その結果石橋を叩いて渡らせようとしているんだと思うよ、その愛情も汲んであげてね」
サーシャの言葉と真っすぐとした目はかなりの説得力を誇っていた。それに俺の心を完璧に読み切っているのも凄い。
相当観察上手なのか、それとも単に俺が分かりやすい性格をしているのか……どっちにしても皆にバラされたのだからめちゃくちゃ恥ずかしい……。
おまけに何故かリリスはいつもみたいにクネクネしながら騒がしく照れるのではなく、一瞬俺と目が合ったあと、視線を逸らして頬を染めて俯いていた。急にそういうしおらしい事をするのは反則だと思う。
最近周りが俺とリリスをくっ付けようとしているのをひしひしと感じる。俺自身リリスは魅力的な女性だとは思うが、恋愛なんて今までしたことがないし片付けなければならない問題が目の前に山ほど転がっている。
だから、全て片付いたその時には……ハンターや代表としてではなく一個人の幸せについてゆっくりと考えてみようと思う。
俺の顔からまだ熱が抜けきらないまま、リリスはレナの方を向いて「話を続けてください」と力強く言い切った。リリスの覚悟を受けて微笑を浮かべたレナはお婆さんの話を続けた。
「そのお婆さんは私の話を聞いた後『レナさんの目的を正直に答えてちょうだい。その目的は帝国の為のものなの? それとも帝国の横暴を止める為のものなの? もしくはそれ以外の目的があったりする?』って聞いてきてね。だから私は正直に答えたよ、帝国の横暴を止める為でもあり、木彫り細工の持ち主である友達の為でもあるってね」
「……それでどうなったんだ?」
「お婆さんは私の目をジッと見つめた後『本当の事を言ってるみたいね。もし帝国の手先なら軟禁していたところだけど。木彫り細工の持ち主は元気にしているかしら』と聞いてきたから正直に『元気にしていますが、先程も言った通り記憶を失っており、直近七年分の記憶しかありません。貴方をそのまま二十歳ぐらいまで若くしたような見た目をしていて、背丈も声もそっくりですよ』と伝えたのさ」
「女神ということは伏せておいたんだな。まぁいきなりそんな話をしても信じて貰えないか」
「そこは私も迷ったけど黙っておいたよ。するとお婆さんはしばらく考え込んだ後『この木彫り細工は当時私が十歳ぐらいだった頃、つまり六十年ほど前に私の双子の姉に渡した物なの。姉さんは大昔に亡くなったと思っていたけど本当は生きていて、娘……いや、孫に木彫り細工を渡したという事かしら』と呟いていたんだ」
色々と情報が繋がってきた。リリスの前世は帝国のお婆さんと双子だったようだ。女神として転生した際に姿は転生前の状態をそのまま引き継いだと以前言っていたから、リリスの体が二十歳だとしたら、ざっくりとした計算だと50年前にリリスは亡くなったことになる。
そして、レナは懐から手紙を取り出すとお婆さんとのやり取りの続きを話し出した。
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