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【第200話】入れ知恵
しおりを挟む「次はエンドについて分かったことをお話します」
ヒノミさんの言葉を受けて、今は全ての話を聞いてから仮説を立てる事にしようと決心して、聞く事だけに集中することにした。
「そもそも、魔力砲などの兵器はどういった経緯で製造が始まったのか……それは、ある日突然帝国に現れたエンドという組織の学者が皇帝に近づいてきて、魔力砲などの兵器の存在を教え、色々と入れ知恵したそうです。恐らくさっきガラルドさんが話していた『ワン』という男が、その学者だと思います」
「なるほど、ワンは狂気的な人間だからそういった接触の仕方はしそうではあるが、奴はどうやって大陸の北側に来て、他にどんな入れ知恵をしたんだろうな?」
「死の海をどうやって越えて来たのかは分かりませんが、入れ知恵の内容に関しては少しだけ教えてもらいました。一つは帝国の地下にマナストーン・コアというものがあると皇帝に伝えて効率的なコアエネルギーの運用方法を教えた事、そして二つ目は奴隷確保のやり方と外部への体裁の保ち方ですね」
「奴隷の確保というのは旧ドライアドの民を吸収した時みたいに、魔獣から守るという恩を着せてから大陸則を盾にして自国へ連れてくる方法だよな? 外部への体裁の保ち方っていうのはどういうことだ?」
「他国から見て吸収した民が帝国内のどこにも見当たらなかったらリングウォルドという国は吸収した人間を死なせるような酷い国だと悪評が広まってしまいますよね? なので、帝国は地下の巨大空間で寝泊まりする人間と地上の家で暮らす人間を定期的に切り替えることで、吸収した人間が外部から見たら普通に働いているように見せかけたんです。上手くローテーション出来るように奴隷一人一人に番号を付ける事によって管理しているそうです……」
「それでも顔色の悪い民を外部の人間に見られて『帝国は厳しい労働を課している』と噂されちまっているから誤魔化し切れていないようだがな」
「皇帝はそれも分かったうえで心配する事はないと断言していました。外部から調べようにも帝国には秘匿性の高い中央街があるので、厄介になる外部の人間はそうそう多くは入れませんし、仮に入られても地下に巨大空間が広がっているなんて誰にも分からないから恐れる事はないと言っていました」
「現に息子たちにはバレていない訳だしな。まぁ女性好きが裏目に出てヒノミさんという名のスパイにバレてしまっている訳だが」
「皇帝は爪の甘いところはあると思いますが、それでも私に深い部分の情報は教えてくれなかったので慎重な方だと思います。自身の真の狙いや、もっと下の地下空間のことはお願いしても教えてくれませんでしたし、モードレッドさんの事も信用していないようでした」
「第一子であり、優秀で合理的なモードレッドなら皇帝的に信用しそうな気がするんだが、何故だ?」
「皇帝曰く、モードレッドさんは自身より遥かに頭が切れるうえ、氷のように冷たく底が知れない男だから――――だそうです。なので、次期皇帝をどうにかして第二皇子か第三皇子にしたいと考えている様ですよ。レックさんについては最近逞しくなってきたけれど、まだ若過ぎるし仲間や身内に甘いところがあるから今の時点では候補ではないと言っていました」
この話を聞いたレックがどんな顔をしているか確かめてみたが至って冷静だった。むしろ衝撃的な事実の数々よりも、皇帝から『最近逞しくなってきた』と自身が評価されている事の方が驚いている様だった。
モードレッドと初めて会った時はレックを出来損ない扱いしていたし、きっとコンプレックスが膨れ上がって家族の傍で居辛かっただろう、過去のレックが気の毒になってくる。
そして、最後にヒノミさんはもう一つ重要な情報を教えてくれた。
「皇帝はモードレッドさん以上に弟であるシリウス・リングウォルドが厄介な存在だと嘆いていました。細かい所まで聞けなかったのですが、シリウスさんは皇族としての地位を捨てる前も後も皇帝の企みを色々と邪魔してきたらしいですよ。兵器製造や他国侵略などを何度も阻害されたとのことです」
ヒノミさんは全てを語り終えると自分の席へと戻っていった。どうやら俺の想像していた何倍も働いてくれていたようで、感謝してもしきれない。
これで報告は終わって解散する流れになるかと思ったが、レナはまだ報告が残っているようで再度話を始めてくれた。
「ヒノミさんが時間をかけて皇帝の信頼を得ている時に私も個人的に色々調べまわってたんだよね。そして、リリスさんの木彫り細工と人相書きを持って、片っ端から尋ねていったんだ。すると、ある小さなアトリエで年老いたお爺さんが『これはワシの作った木彫り細工じゃ、小さく目印を刻んでおるからな』と言っていたんだ」
この木彫り細工は動物をモチーフにしたアクセサリーで製造自体は大陸のいたるところで何百年も前から行われていた人気のアイテムだと聞いている。大量生産されているが故に誰が作って誰に修理を頼めばいいのか分かるように目印を付けているようだ。
レナが出会ったお爺さんが残したという目印は動物の足裏に刻まれているらしく、その目印はお爺さんのアトリエにあるシンボルと同じだったらしい。それによりお爺さんが作ったものだと証明されたということだ。
レナは机の上に広がったままの地図を指差しながら話を続けた。
「私はアトリエのお爺さんに『木彫り細工の持ち主に心当たりはあるか』と聞いたら、リングウォルド南街区の民家を尋ねてみるといいって言われて行ってみたんだ。そこには70歳ぐらいの綺麗なお婆さんが住んでいてね。初めて会った私にお茶やお菓子を出してくれて優しくしてくれたよ。いや、優しくしてくれたと勘違いしていた……っていうのが正解かな」
「ん? どういうことだ、お婆さんに何かされたのか?」
「お茶に眠り薬を盛られていたんだよ。私が起きた時には民家の地下で拘束されていて、お婆さんから『お待ちしていました。貴方に質問があります』と言われたんだ」
=======あとがき=======
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