見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第196話】ケジメ

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 俺達は城のバルコニーの端に布を敷いて寝転がり、ボロボロの状態のままグラハム王が演説を始めるまで待ち続けた。

 ザキールを倒してから二時間ほど経つが、未だに民衆たちの歓声が収まる事はなく、バルコニーから眼下に広がる広場には大勢の民衆が待機していた。

 そして扉からグラハム王が姿を現わし、俺達に笑顔を向けて礼をした後、民衆と話すべく宣誓台の前に立った。民衆は騒がしい状態から一変して視線を上に向け、王の言葉を聞くべく静まり返った。

 グラハム王は広場をぐるりと見渡すと、大きく息を吸って民衆が待ちわびた言葉を告げた。

「我が愛しきイグノーラの民よ。今、この時を以て戦争の終結を宣言する。誇り高きイグノーラの戦士達よ、大儀であった!」



――――ワアアアアァァァァァ――――



 傷口に響きそうな程に大きな歓声が沸き起こった。この歓声の激しさは今まで聞いてきた歓声の中で間違いなく一番だ。

 次にグラハム王が喋るのはいつだと言わんばかりに歓声が収まることなく、喋れなくなっていたグラハム王も暖かい笑顔で広場の民衆を見つめていた。

 ソル兵士長が武器を鳴らして静まるように注意したことでようやく民衆たちの興奮が収まり、グラハム王は話を続けた。

「イグノーラを苦しめた魔人族に二度目の勝利を得た今日という日は、イグノーラの歴史へ永久に刻まれる事になるだろう。それと同時に私の名も大罪人として記録に残ってしまうかもしれないがな」

 グラハム王の自嘲に民衆は何も言えなくなってしまった。望んで得た魔獣寄せではないのだから『罪人』だなんて言わないで欲しいが、スキルを持つ当人としてはそんな言い方をしてしまいたくもなるのかもしれない。

 それからグラハム王は今後のイグノーラをどうしていくべきかを語った。基本的には王の次に偉い貴族達の中で次の王を決めてほしいという事、復興の大まかな手順、そして王妃を含むローラン家を責めないでやってほしいという話をしていた。

 そして、王家や政治の話を終えた後、グラハム王は戦争に協力したガーランド団、帝国第四部隊、グラッジへの礼に銅像と伝記を作ろうではないかと提案した。

 正直照れくさいから勘弁してほしいが民衆から憎まれていたグラッジ、そして帝国からの処罰を回避する為に実績をあげなければいけないレックにとって、銅像を作るのはとても素晴らしいと思う。

 グラハム王と民衆の厚意に感謝していると、俺の横に座ってグラハム王の話を聞いていたグラッジとレックが突然立ち上がり、ふらふらとした足取りで王に向かって歩き出した。

「おい! 何をするつもりだレック、グラッジ!」

「…………」

「…………」

 俺の呼びかけに答えないまま二人は歩いていってしまった。宣誓台に現れた二人の英雄に驚いた民衆は大歓声をあげているが、彼らは一体何をいうつもりなんだ? とドキドキしていると最初にグラッジが話し始めた。

「皆さん、ザキール率いる強大な魔獣群相手に剣と弓と勇気を持って戦ってくださり、本当にありがとうございました。魔獣寄せで迷惑をかけつづけてきた僕がようやく少しだけ恩返しが出来た気がして嬉しく思います。ですが、ザキールを倒そうとも僕とお父さんから魔獣寄せが消える訳ではありません」

 グラッジがしんみりとした口調で話すと民衆は何も言えなくなっていた。だが、グラッジは自分に言い聞かせるように頑張って笑顔を浮かべると、これからの事について話し始めた。

「魔獣寄せの細かい性質は未だに分かっていない以上、ここに居続けたらまた皆さんに迷惑をかけつづけてしまいますから、僕は体の治療が済んだら、またイグノーラから離れて暮らそうと思います。共に戦った仲間達と離れるのは寂しいですけど、耐えられない寂しさではありません。これからは魔獣寄せを持つ者同士、お父さんと一緒に暮らせますので、それでいいよね? お父さん」

 俺は戦争を終えて問題は全て解消した気になっていたが、魔獣寄せを持つ二人がこれからどう暮らすかを考えていなかった。グラッジからの誘いに驚いたグラハム王は一瞬言葉を失っていたがフッと微笑み、言葉を返す。

「私はこれから離れた地に行き一人で暮らし、孤独という名の罰を自分に科するつもりだったが……グラッジが許してくれるのなら二人で暮らしていきたいな。お前と一緒に暮らせなかった八年間の空白を埋める時がきたのかもしれないな」

 そう呟くとグラハム王はグラッジに握手を求めた。グラッジが手を握り返すと広場にいる民衆から拍手が贈られた。その拍手は勝利を喜んでいた時の様な激しいものではなく、これからの二人の幸せを願って送り出す優しい音だった。

 二人がお辞儀をして話を終えると、今度はレックが話す番になった。民衆は再び歓声でレックを迎えたが、何故かレックは歓声を止めるように手振りし、話を始めた。

「イグノーラの民よ、この地に駆けつけた我々帝国第四部隊に盛大な拍手と歓声を贈ってくれたこと感謝する。しかし、ガーランド団や第四部隊の部下達は褒められるに値する人間だが、私レック・リングウォルドだけは称えられる資格はないのだ。故に歓声を止めさせてもらった、ご理解頂きたい」

 レックの言葉に民衆は声を失っていた。あれだけの活躍をしていた人間を何故称えてはいけないのか困惑する民衆を前にレックは自身の過去を包み隠さず話し始める。

「私は帝国リングウォルドに生まれ何不自由なく暮らしてきたが、他の兄弟と比べて出来が悪く家族から何も期待されていない人間だった。それだけならただの能力不足で済む話だが、無駄に反抗的でプライドの高かった私は城にいるのが嫌になって家出に近い旅を始め、帝国と繋がりのある町々でハンターの真似事を始めた。そこでガラルドと出会った訳だが、当時の俺はガラルドに対して酷く差別的な言動を取り続けてきた」

 そして、レックは過去に行ってきた仕打ち、神託の森で俺を見捨てた話、ディアトイル生まれを理由にして俺をクビにした話、ドライアドでの模擬試合に負けた挙句に俺達に危機を救ってもらった話など、全てを赤裸々に語った。

まるで自ら罰を科するかのような告白に民衆は絶句している。

 今の俺はレックを許しているし、俺の存在がレックにとって消えない罪悪感になってしまうのは辛い。俺は堪らずレックの横に立って叫んだ。

「もういい! やめろレック! 俺はもう過去を水に流したし、お前には充分借りも返してもらった。だからこれ以上自分を責めないでくれ……」

「別に俺は自分を傷つけて過去を清算しようなんて思ってないさ。だが、伝記や銅像を作って俺達を称えてくれようとしているイグノーラ民に俺の事を知ってもらいたかっただけなんだ。後から真実を知ったら民衆も辛いだろ?」

「…………」

 言いたいことは分かるし、レックなりのケジメなのかもしれないが、包み隠さないにもほどがある……真っすぐとこちらを見て語るレックに俺は何も言葉を返せなくなってしまった。

 俺と同じように民衆は静まり返ってしまい、長い沈黙が流れた。このまま話が終わってしまうのかと思ったその時、民衆の中から年老いた一人の女性が人々を掻き分けて前に出てきた。

 一体どうしたのだろうかと眺めていると、切らしていた呼吸を整えた女性は小柄で細い身体を震わせ、泣きながら精一杯自分の気持ちを叫んだ。

「私達も罪深き人間です! 過去に五英雄として尽力してくれたグラドさんを追放し、孫のグラッジ様も追放し、刃まで向けてしまいました。我々にレック様を責める権利なんてないのです、だから称えさせてください、そして後悔ではなく省みる人生を共に歩んでいきましょう!」

 女性の叫びに俺達は全員言葉を失っていた。大勢の視線が集まるこの場で前へと駆け出し思いをぶつけた女性のなんと勇敢な事か。女性を中心に拍手が拡大していき、気がつけばレックを応援する空気になっていた。

「これから頑張っていけばいいのですよ、レック様!」

「プレゼントを贈りたい俺達の気持ちはレック様でも止められないぜ!」

「何があったとしても僕達は今のレックさんのファンなんだ!」

 口々に飛んでくる温かい言葉にレックは目を点にして驚いていた。そして、隣にいる俺にだけ聞こえる声でボソッと呟いた。

「あの老婆を見ていると、以前ヘカトンケイルで大勢から差別されるガラルドを泣きながら守った幼い少年を思い出すな」

「ここぞって時に泣きながらでも勇気を振り絞れる者こそ、英雄なのかもしれない」

「ああ、違いない」

 民衆の大歓声とレックが流した一筋の涙でバルコニーからの演説は幕を閉じた。民衆は苦しい戦いを終えた盛大な喜びを宴にぶつけた。

 城から見る宴の光と人々の笑顔は、きっと歳を重ねても昨日のことのように鮮明に思い出す事が出来るだろう。




=======あとがき=======

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