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【第193話】満身創痍の果てに
しおりを挟む血を流して気を失っているレックを、すぐに街の中へ運んでやりたいところだが、まだ戦いは終わっていない。ザキールが戦闘不能になっているのを確認できていないからだ。
クレーターの中から360度周囲を見渡すと、ザキールが右腕からボタボタと血を流しながら姿を現わした。
元のサイズに縮小したザキールの右腕はグラッジに刻まれた小さめの傷が大量に残っているのに加え、双蒸撃をガードしたのも相まってかなり痛々しい状態になっている。
もはや、ザキールに怒号をあげる余裕もなく、ただただ息を切らしてこちらを睨んでいる。一方のグラッジも色堅による連撃と双蒸撃の使用で、立ち上がるのもやっとの状態だ。
気を失っているレックも含めて、この状況では俺が一番動けるはずだ。レックの献身に報いなければ……俺は未だにフラつく頭を自分の手で叩き、無理やり意識を覚醒させた。
……絶対にザキールを倒す。牽制だとかコンビネーションだとか、今はもう考える状態ではなくなった、俺のやることは一直線にザキールへ向かう事だけだ。
俺は右手に火の魔力を溜めて左胸に当てた。未だにちゃんと出来ているか分からないが、きっと俺にとって進化型の色堅がレッド・モードなのだろう。
疲れと痛みでおかしくなりそうな俺の体を熱が更に蝕んでいこうとも関係ない。俺は歯を食いしばって全力で地面を蹴った。
「レッド・ステップ!」
俺の体が風を切り、拳がザキールの胸に衝突する。今まで以上に消耗しているザキールは俺の拳を受けると胸を抑えてよろめいた。
三人で一斉に攻撃していた時も何発かクリーンヒットはさせていたが、それでもここまでのダメージは受けていなかった、確実にザキールは弱っているはずだ。
俺は次の連撃で勝負を決めるべく、サンド・ラッシュを火属性で進化させた猛攻で片をつけることにした。
「温存してる場合じゃねぇよな! いくぜ、レッド・ラッシュ!」
俺の体から出ていた蒸気はいつしか炎へと変わっていた。ただただ速く、強く、と心に念じながら呼吸も忘れて赤き拳撃の連打をザキールにお見舞いした。
「オラオラオラァァッ!」
俺の拳を受けて、ザキールの上半身が強風に揺れる草のように前後左右へ激しく動いた。あまりの激しさに互いが踏ん張る地面の土がどんどんと捲れていくほどだ。
拳を受けるザキールも拳を振るう俺もお互いに血を吐きながら、攻撃と防御をぶつけ合った。
「うぐぁっ! うぐぁっ!」
何十回とうめき声をあげ続けるザキールは目が虚ろになっていて、もう限界の筈だ。今こそリリスとサーシャからのプレゼント『旋回の剣』で勝負を決める時だ。
俺は背中から旋回の剣を取り出して魔力を込めて、渾身の一撃を振り下ろした。
しかし、レッド・ラッシュを止めて剣を握った僅かな時間、ザキールの目に闘志が再燃した。
ザキールは瞬時に姿勢を低くして懐に入り込み、剣を握っている俺の両手を巨大化した悪魔の右手で掴んだ。
「うっとおしい虫けらが図に乗んなよォォ! 両手を握りつぶしてやるわ!」
鉄の歯車で締め付けられたような痛みが俺の両手を襲った。メキメキと音を立てて壊れていく両手に俺は堪らず悲鳴をあげた。
「ぐあああぁぁぁっっ!」
「いい声で鳴くじゃねぇかガラルド! そのまま死ねやァァ!」
既に両手の指は何本か折れているのが感覚で分かる。一生拳を使えなくなってもいいから、せめて旋回の剣を一撃でもザキールに当ててやりたかった……。
悔しさでおかしくなりそうな俺を狂気的な笑みで見つめながら悪魔の右手を握り続けるザキールだったが、突然態度を豹変させて俺の後ろに目線をやって呟いた。
「まだ起きやがるのか、クソガキィィッ!」
ザキールがクソガキと呼ぶのはあいつしかいない……グラッジだ! 背後から近寄ってくる足音はさっきまでと比べて明らかに遅くなっているが、それでも再起して襲ってくるのはザキールにとって最悪の事態だろう。
俺の両手を握っていたザキールは慌てて手放し、大きく後ろへ飛んで距離を取ってグラッジに向かって拳を構えた。
「何度起き上がっても貴様らは勝てないんだよ……さっさと死にやがれ!」
苛立ちと恐怖がブレンドされた罵倒を繰り出すザキールに対し、グラッジは一切反応せずに俺の横に立つと、俺にだけ聞こえる声量で呟いた。
「まだ悪魔の右手は機能しています、攻守において優秀なあのスキルをどうにかしないと僕達に勝ち目はありません。だから、僕が悪魔の右手を破壊してみせます、その後のトドメはガラルドさんにお任せします」
「え? お任せしますってどういう……」
「行ってきます!」
俺の問いかけには答えず、グラッジはザキールに向かって走り出した。一体どうするつもりなんだと困惑していると、グラッジは両手に氷の剣を持って、ザキールに斬りかかった。
「何度も起き上がってしつこいのはお前だよ、ザキール! 早く降参するんだ!」
「俺様の右手が半壊してようが、貴様らを倒すにはお釣りが出るくらいだ、まずはクソガキから殺してやるぜ!」
ザキールは血まみれになった右腕で再び戦い始めた。お互いに動きが鈍くなっているが、やはりザキールの方が少し上をいっている。
このままではじわじわとグラッジがやられてしまう……そう思った直後、グラッジがバックステップで距離を取って、六本の短剣を周囲に浮遊させて呟いた。
「やっぱり、ザキールを倒すにはこれしかない……今こそお爺ちゃんを見習って六心献華をお見舞いしてやる!」
俺は自分の耳を疑った。グラッジは六心献華を使わないと約束したはずだし、使い方を書いた紙だって俺が預かっているはずだ。
それなのにグラッジは六属性の魔力を宿した短剣を展開して、真っすぐにザキールを見つめている。
俺とザキールはほぼ同時に「やめろ!」と大声で叫んだ。しかし、俺達の制止を聞かずにグラッジはザキールに向かって走り出してしまった。
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