上 下
191 / 459

【第191話】あの頃に望んだ形

しおりを挟む


 ザキールの三つ目のスキルを探るべく、俺は質問を投げかける事にした。

「スキル自慢をしたついでに最後のスキルもこの目で拝ませてくれよザキール」

「馬鹿いえ、最後のスキルは完全に一対一じゃないと不利になるし、使ってしまうとガラルドを連れて帰ることも出来なくなる可能性がある。何が何でも使わねぇよ。そこの起きあがろうとしている二人も含めて、貴様ら全員『悪魔の右手』さえあればお釣りがくるんだよ」

 どうやらこの言い方だと中々使いどころが難しいスキルのようだ。そしてザキールはレックとグラッジの方へ目線をやった。すると、ザキールの言う通りグラッジとレックが足を震わせながらも何とか立ち上がってみせた。

 レックは剣を杖代わりにして体を支えながら、ザキールについて言及した。

「ハァハァ……さっきイグノーラ軍に加勢したばかりの俺には分からないが、魔人にはスキルが三つ発現するのだな……お前の仲間の魔人も皆そうなのか?」

 レックが切り込んだ質問をすると、ザキールは舌打ちをした後に意味深な言葉を呟いた。

「魔人は全員三つスキルを発現する可能性はあるがあくまで可能性の話だ、人間と同じで全く発現しない奴だっている。それと一つ断っておくが俺様に魔人の仲間はいねぇ、二度とふざけた質問をするんじゃねぇぞ」

 ザキールはあからさまに不機嫌になっている。この言葉の意味するところは一体何なのだろうか? 同じ目的を持つ魔人の仲間はいないけれど、魔人自体はそれなりいるという事だろうか?

 もしそうだとしたら人類を滅ぼそうとするザキールと過去に現れた一番目の魔人ディアボロス、そしてグラド達が敵わなかった二番目の青色の魔人、その三人だけが異質な存在であって、他の魔人は好戦的ではないのかもしれない。

 この場にアーティファクト『ジャッジメント』があれば捕縛した後、質問攻めにしてやるのだが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 話をしている間にグラッジとレックは足の震えが止まったようで、ザキールを警戒しつつ俺のいる位置まで歩いてきた。そして、グラッジは開口一番俺達に謝り始めた。

「僕がカッとなって二人を危険な目に合わせてしまい本当にごめんなさい……」

 謝るグラッジの肩に手を置いたレックは、優しい声で呟く。

「グラッジ殿、俺はあなたを責められるような人間ではありません。むしろ義憤で動いたグラッジ殿は俺よりずっと立派な人です、俺なんて一緒のパーティーの人間に対してすら酷い言動をとってきた人間なので」

「レックさん……」

「レック……」

 分かってはいたが、やはりレックの抱える罪悪感は相当なものだ。身を張ってグラッジを守ってくれただけで、もう充分なのだが。そんなレックはまるで死に場所でも求めるかのように、危険を伴う役割をやらせてくれと提案してきた。

「二人とも聞いて欲しい。二人のように高火力技のない俺が先頭に立って盾役を務めようと思う。俺もガラルド程ではないがヘイト系の魔術が使えるからな。だから約束してほしい、俺に何があってもザキールを倒してくれ」

 覚悟決めて言い放つレックに対して、俺は『何を言ってるんだ!』と否定するつもりだったが、それよりも早くグラッジが「レックさんの覚悟を受け取りました」と返し、戦いの姿勢に入った。

 甘ったれの俺とは違い、二人は『覚悟を持つこと』と『覚悟を見届ける』ことがどういう事かを理解できているのだろう。俺もレックに応えるべく首を縦に振った。

「ヘイト・エンチャント付与 ソード&シールド!」

 レックは剣と盾にヘイト魔力を付与すると軽く苦笑いを浮かべ、昔と今の違いを皮肉った。

「奇妙なもんだなガラルド、一緒のパーティーだった頃とは盾役と火力役が逆になってしまうとはな」

「今だって同じパーティーだろうが、それに俺は後ろからでもお前を守ってやる、安心して先頭突っ走ってこい」

「フッ、そうだな。よし、行くぞ!」

 吹っ切れたような微笑を浮かべたレックが勢いよくザキールに向かって走り出した。その後ろを俺とグラッジがピッタリとついていくと、ザキールが目にも止まらぬスピードで踏み込んで、左手で正拳を放った。

「うぐっ!」

 ザキールの強化されていない左手であり、なおかつ盾でしっかりと防御したにも関わらず、レックは呻き声をあげた。それだけ、基礎的な腕力が凄まじいのだろう。

 だが、盾で防御できたのは好都合だ。レックは剣だけではなく盾にもヘイトオーラを纏っているからだ。

死の山での戦闘同様、案の定ザキールの敵意はレックに集中した。完全に俺とグラッジから気が逸れている今がチャンスだ、ザキールの背中へ俺は拳を、グラッジは氷の剣を叩きこんだ。

「うがあぁぁ!」

 手応えのある確かな二連撃がザキールの背中に炸裂すると、うめき声をあげたザキールは膝をついた。流石にこれだけのダメージを与えれば敵意はレックから俺とグラッジへ移ったようで、ザキールはレックへの攻撃を止めた。

 そこからは気の抜けない緊迫した打ち合いが続いた。俺とグラッジが数発攻撃を当てれば、レックがヘイト技を一撃加えてターゲットを自分に向ける流れを繰り返し、その間ザキールは重たい一撃をレックの盾に何度も撃ち込んでいた。

 レックと俺は役割を逆転させているうえに連携を取るのも久しぶりな訳だが、不思議と息の合った戦いが出来ていた。それなりに長い期間一緒の班だった事実が、まさかこんなところで活きてくるなんて人生とは分からないもんだ。

 思えば、あの頃はレックとこんな風に対等に肩を並べて戦える日を望んでいたような気がする。どっちが上とか下とか、役に立つとか立たないとか関係なく、真の意味での仲間になりたかったんだ、ようやくだが理想の形になる事が出来た。

 そんな事を考えながら俺は戦況の分析もすすめていた。攻撃をヒットさせている数で言えばこちらの方が五倍以上多いのだが、それでも状況的にはザキールが優勢だった。

ザキールはボロボロになっても尚、俺達より魔力も魔量も多く、悪魔の右手の破壊力は手数をもろともしない程に手強いものだった。



 そして、均衡は突如崩れる事となった。ザキールが右拳を振り抜いたその時、金属が割れる音が鳴り響いたのだ。

「なっ……俺の盾が!」

 ずっとザキールの攻撃を防ぎ続けていたレックの盾が度重なる衝撃で割れてしまった!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...