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【第187話】レックの義侠心
しおりを挟む「ようやく、座ることが出来た事だし、聞かせてくれレック。レック達はどういう流れでイグノーラに来て、俺達を助けてくれたんだ?」
俺が尋ねると、レックは何から話すべきかと悩んでいたようだったから、先に俺達の旅について順を追って話すことにした。
死の海渡航、グラッジとの出会い、五英雄の伝説、魔獣寄せのこと、ゼロの父ワンが作ったエンドと兵器の話、死の山の手紙、ザキールとアスタロト、話せることは全て話した。
レックは話を聞いている間、かなり驚く時もあれば全然驚かない時もあり、既知の情報とそうでないものが入り混じっていたようだ。レックは情報を咀嚼した後、一から何があったかを教えてくれた。
「俺達帝国第四部隊が死の海を渡る少し前にシンから死の海に灯台を設置していることを教えてもらった件は話したな? 実はそれよりも前に帝国リングウォルド中央区である事件が起きてな。それはドライアドから来た『レナとヒノミ』という人間が帝国兵に捕まったというものだった」
「えっ……レナとヒノミさんが……嘘だろ……二人はどうなったんだッッ!」
レナとヒノミさんには『モードレッドと帝国について調べる』任務と『リリスの記憶に繋がる情報を探す』という任務の二つを託していた。最初の頃は二人から定期的に手紙が届いていたが、モンストル号制作が本格化し始めた頃から手紙が途絶えてずっと皆で心配していた。
何をしでかすか分からない帝国なら、色々と嗅ぎまわっているレナとヒノミさんに難癖をつけて何かしてくる可能性も考えてはいたが、まさか捕まえられるとは……俺が立ち上がって声を荒げて二人の無事を尋ねると、レックは俺の両肩を掴んで座らせ、落ち着かせてから詳細を語った。
「慌てるな、二人とも無事で何もされていないし牢屋から既に出ている。どうやら二人はモードレッド兄さんと帝国の事、そしてリリスさんの記憶を取り戻す手がかりを探してたらしいな。二人の努力の甲斐もあって色々と情報を得たから早くガラルド達に伝えたいと言っていたぞ」
「そうだったのか、帝国の人間であるレックがそこまで教えてくれるとはな、随分と優しいじゃないか。それじゃあ優しいついでに二人が今、何処にいるのか教えてくれよ」
「帝国第四部隊が保護して、俺と共に死の海を渡ってイグノーラに来ているよ。今は別の診療所で治療の手伝いをしているはずだ、戦いが終わったら会いに行くといい」
「近くにいるのか! いや、そもそも何で第四部隊が帝国にとって邪魔であるレナとヒノミさんを保護して、ご丁寧にここまで連れてきてくれたんだよ、訳が分からないぞ」
「第四部隊……いや、第四皇子である俺が独断という名の裏切りを起こして二人を脱走させたんだ、お前に受けた恩も返したかったしな。だが、一番の理由は非人道的な兵器を使用したり、圧力的な侵略政策をするモードレッド兄さんや父アーサーの元に捕縛されていたら何をされるか分からないから放っておけなかったんだ。掴まえた二人を逃がした俺は帝国へ帰ったら重い罰を受けるだろうな」
まさか、レックがここまでしてくれていたとは……。昔はレックのことが大嫌いだったが、今は重い罰なんか絶対に受けてほしくないし、苦笑いを浮かべるレックを見るのも堪らなく辛い。
帝国の体制への反発があったとはいえ、俺達をここまで助けてくれたのだから、せめてその分のお返しはしたいところだ。俺はレックに何かできる事がないか聞いてみた。
「レナとヒノミさんの仲間として、そしてガーランド団の代表としてお礼を言わせてくれ、本当にありがとう。レックはさっきの戦いでも『お前に受けた恩を返しにきたぞ』と言っていたな。レナとヒノミさんの件でも凄く世話になった訳だし、もうレックから俺への恩とか謝罪とかそういうのは今、この時をもって清算にしよう。今度は俺がお前を助けさせてくれ、何かできる事はないか?」
俺が『清算にしよう』と言った瞬間、レックは憑きものがとれたような、解放感のある微笑を浮かべたが『何かできる事は』ないかと言った時に再び、暗く沈んだ顔になった。その理由をレックは絞り出すような声で語った。
「俺はずっと許されるために動いて、その言葉を待っていたのかもしれないな。今の俺ならガラルドと良いパーティーを組めていたのかもな。だが、俺はもう終わりさ。死の海を渡ったのもレナ達を送り届けたいという気持ちを除けば、帝国から逃走したいという気持ちが大半だからな。危険な死の海に逃げるなんて皮肉な話さ」
自嘲するレックを前に俺は何も言えなくなっていた。帝国が裏切り者に対してどんな仕打ちをするのかは分からないが、厳しい処分を下す事は確かだろう。
シンバード領に亡命すればいいと言おうかとも思ったが、故郷を捨てる事なんて易々と出来る事ではないし、有名過ぎるぐらい有名なレックが亡命すれば、それはそれで苦しい人生が待っているだろう。
元々は危険な死の海を越えて、成果をあげてくるのが第四部隊の目標だったはずだから、そこで大きな手土産を持って帰れば成果と罰を相殺できるのではないだろうか? 俺はレックに提案してみた。
「元々は死の海を越えて成果をあげることが第四部隊の目標だったわけだろ? だったら良い報告さえできればモードレッド達も許してくれるんじゃないか?」
「……それは俺も少し考えてたし、実際に帝国や大陸の為に何かを得たいと思ってたさ、だから俺達第四部隊はイグノーラ城や街で聞き込みをして、今日カリギュラに向けて進んでいたところだったんだ。まぁ結果としては死の山をはじめとした、あらゆる有益な情報は全てガーランド団が得てしまった訳だがな」
「なるほど。だから、位置関係的にイグノーラ南で戦っていた俺達にすぐさま加勢できたわけか。って事は道中でイグノーラが襲われている情報を得たって事か?」
「その通りだ、今日イグノーラ南の森を通って、カリギュラに向かっている途中に大急ぎで馬を走らせる行商人と遭遇してな。近隣の村や町に危険を知らせようとしてくれていたみたいでな、偶然遭遇できて本当に良かった」
偶然レック達がイグノーラ近くにいてくれた事、偶然行商人と遭遇出来た事、レックのスキルがヒュドラと相性が良かったこと、何から何まで運が良くて俺達は本当に恵まれているようだ。
カリギュラの情報を得て、向かっていた事からも『帝国や大陸の為に何かを得たい』というレックの言葉に嘘偽りはないだろう。
自身が身内から罰せられそうになったり、帝国に気に食わないところがあったとしても、それでも祖国と大陸の為に動こうとしているレックは今や立派な為政者としての心構えを持っているようだ。
今後モードレッドが率いる帝国とは上手くやっていけそうな気はしないが、レックが皇帝となった帝国となら上手くやっていけそうな気がする。だから俺はサーシャ達に怒られるのを覚悟でレックを助ける提案を投げかけた。
「レック、俺はレナ達を助けてくれただけでなく祖国や大陸の事を思って動いているお前が罰せられるのは嫌だ。だから、ここは一つ共同で嘘をつかないか? ガーランド団が得た有益な情報は『帝国第四部隊と協力して得る事ができた』という話にしてしまえばいいんだよ。その手柄を持ってモードレッド達に許してもらおうぜ」
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