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【第180話】ザキールの性格

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 ウッド・ローパーを撃破した俺達は、その後もひたすら東側で魔獣を狩り続けた。どうやら大型魔獣はグラッジが倒してくれた二体のゴーレムと俺がトドメを刺したウッド・ローパー一体の計三体しかいなかったようで、ひとまず城壁に穴を開けられる心配はなさそうだ。

 とはいえ小型・中型魔獣の数は相変わらず多く、俺とグラッジだけでも八千匹近い魔獣を倒したのに、夕暮れ時になった今でも戦況は相変わらず苦しい。

 ザキール曰く魔獣の数は七万とのことだが、戦いはじめの頃よりもゴールがずっと遠く感じてしまう。

 リリス、サーシャ、シルバーはそれぞれ北、西、南に散らばり戦っているようだが、連絡兵曰く、そちらも戦況はよくないようだ。

 俺は近くにいるグラッジへこれからどうするべきかを相談することにした。

「なぁ、グラッジ。このままじゃ厳しそうだな。どうしたらいいと思う?」

「正直僕には何も思い浮かばないです……地形を利用して戦おうにも、ここはただの平原と四角い街ですから、戦略も何もない正面衝突の戦いにしかならないんですよね。そもそも、魔獣自体が作戦を立てて動けるような生き物ではないですからね。シンプルな突撃が死の扇動クーレオンと最も相性がいいんだと思います」

「やっぱりそうなるよな……一番手っ取り早いのはザキールを直接狙う事なんだろうが、あいつが降りてくることはないだろうしな」


――――呼んだか? 雑魚ども――――


「なっ! この声はザキール!」

 突如聞こえたザキールの声に驚いた俺は、ザキールの名を叫び、周囲を見渡した。すると、東の空に浮かぶザキールの姿があった。グラッジはザキールの姿を見て、大声で問いかけた。

「おい! ザキール! お前が攫った父さんを何処にやった?」

「クククッ、大好きなパパが見当たらなくて焦ってるようだな。安心しろ、別の所に縛ってある。グラハムは死の扇動クーレオンにとって大事なターゲットだからな、殺すのは貴様らとイグノーラの民全てを殺してからだ。あの世に行ったらパパを迎える準備をしておくんだな、クソガキ!」

「僕はそれを聞いて安心したよ。魔獣とザキールを倒せば全部解決だからな」

「チッ、相変わらず生意気なガキだ。だが、そう簡単にいくかな? もう二時間もしない内に夜になるぞ? 魔獣たちは夜目が利くからな、夜からは一層地獄の時間になるぜ? もっと気合を入れて一気にぶつかってきた方がいいんじゃないか?」

「くっ……」

 ザキールの言葉を受けて、グラッジは言葉を詰まらせた。俺自身ザキールの煽りに焦っていたけれど、同時に一つ違和感を覚えた。

 それはザキールが『わざわざ出向いて声を掛けにきた』ことだ。嗜虐性しぎゃくせいのあるザキールのことだから俺達の苦しむ顔を見たいだけの可能性もあるが、時間や戦況に言及しているのが引っ掛かる。

 奴は『魔獣は夜目が利くから、一気にぶつかってきた方がいいんじゃないか?』と言ってはいるけれど、果たして本当にそうだろうか?

夜目が利くのは本当だとしても、それでも夜の広い平原を駆けてイグノーラへ侵入するのは既に近い位置にいる魔獣以外は難しい気がする。

 一方人間側はあくまで防衛が優先だから守りの硬い城壁に背を向けて、離れず戦えばいいだけだから戦闘方法にも変わりはなく、街と城壁には灯りがあるから明るさも問題はない。

 以上の点からザキールの本当の狙いは『夜になる前に勝負をかけておきたい』なのではないかと推測した。俺はザキールの表情から真意を読み解くべく、凝視しながら考えを伝えた。

「なぁザキール。お前、本当は夜に戦いたくないんだろ? 魔獣は夜目が利くとはいえ、それでも夜の平原は見え辛く、死の扇動クーレオンでターゲットに指定したイグノーラに辿り着き辛くなるんじゃないか?」

「な、勝手にでたらめを言うな!」

 ザキールはあからさまに動揺している。リリス以上に表情から考えが読みやすくて敵ながら正直笑えてくる。

 その後も早口で反論を続けたザキールだったが、冷笑を浮かべたグラッジが言葉でトドメを刺した。

「もういいよザキール、見ているこっちが恥ずかしくなる。ガラルドさんの分析とザキールの単純さでよ~く分かったよ。僕達は暗くなるまで、防御主体で戦えばいいって事がね」

「…………」

 もはやザキールは何も言えなくなっていた。空中で放心状態になっている奴に構っている暇はない。俺達は早速全体に防御主体に戦うよう指令を送ろうとしたその時、沈黙していたザキールが突然高笑いを始めた。

「ハッハッハ! 貴様らの忌まわしさにもはや笑いがこみ上げてくるぜ。こうなったら仕方がない、死の扇動クーレオンを重ね掛けして貴様らの死期を早めてやるわ! ハアアァァァァッッ!」

 ザキールは全身に力と魔力を込めて、唸り始めた。顔にも体にも血管が浮かび上がり、目をこれでもかと開く姿には、これまでで一番の本気と狂気を覚えた。

 ザキールの溜めたエネルギーはやがて、人のサイズ程に大きな球体となり、ザキールの真上へ上昇したあと、弾けて飛沫となり、平原全体へと広がっていった。

 死の扇動クーレオンの重ね掛けと言っていたことからも魔獣に影響を与えているはずだ。近くにいる魔獣へ視線を向けると、全ての魔獣が過度に興奮しており、一斉に城壁へと突進し始めた。

 どうやら短期決戦にする為、急がせる指令を全体に送ったようだ。何て恐ろしい奥の手を持っていやがるんだとザキールの方を見てみると、奴の体の至る所から血が噴き出していて、ズタボロになっていた。

 死の扇動クーレオンの第二段階は相当な負荷がかかるらしい。ザキールは血まみれのまま狂気の笑顔を浮かべると、擦れた声で勝ち誇った。

「ハァハァ……これで、貴様らはお終いだ。俺様をなめたこと、ハァハァ……後悔するんだな、ケケケ」

 ザキールはそう呟くと、フラフラしながら上へと飛んでいき、俺達から離れていった。



=======あとがき=======

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