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【第176話】ウッド・ローパー
しおりを挟むヒヤヒヤする場面もあったけれど何とか双蒸撃を会得できた僕はソルさんと一緒に最後の大型魔獣を倒す為、東エリアに向かって走っていた。
道中には戦闘不能になって救護されている兵士とハンターが多数目に入り、戦況の厳しさが垣間見えた。伝令兵をつかまえて現在の状況を聞いてみると、どうやら死傷者の数よりも消耗具合の方が深刻らしい。
改めて魔獣七万匹という数の恐ろしさを実感する事となった。一刻も早く東の大型魔獣を討伐して、全体の士気を上げねば! 焦る気持ちを必死に抑えながら僕達は東エリアに到着した。
「グ、グラッジ様が到着したぞぉー!」
「みんなもうひと踏ん張りだ! ウッド・ローパーを街に入れさせるな! とにかく矢で押し返すのだ!」
東エリアに着いた途端、僕を見た兵士達が騒ぎ始めた。どうやら東側にはゴーレムではなくウッド・ローパーという大型魔獣がいるようだ。
兵士達が抑えているウッド・ローパーを見てみると、そいつは僕が今まで生きてきて見た事が無いタイプの魔獣だった。
ウッドと名の付く通り、全身が樹のようになっているけれど、何故かイカやタコのような滑りのある体をしており、西と北で戦ったゴーレムよりも二倍近く大きな体を有している。
体から生える沢山の枝をまるでイカやタコの触手のように柔らかく動かし、地面を鞭のように叩いている。更によく見てみると体の中心には直径4メード程の人間に似た大きな目玉があり、ギョロギョロと周りを見渡す様子は化け物と呼ぶに相応しいおぞましいものだった。
目玉の付いた大木という存在にどう対処したらいいのか迷っていると、ソルさんが僕の前で指差しながらウッド・ローパーについて教えてくれた。
「グラッジ様、ウッド・ローパーの眼球と枝の位置をよく見ていてください。どちらも微妙に動いているでしょう? 人間でも黒目を動かすことぐらいはありますが、ローパー族は目のある位置そのものを動かしたり、手足の根元を動かすデタラメな生き物です、まずはその情報を頭に入れて戦ってください」
「分かりました注意しておきます。一つ質問何ですが、ローパー族とは何なんですか? 目の前の個体は樹で出来ているから火が効きそうですが、同時にぬめりがあって火が通りにくそうにも見えます」
「う~ん、ローパー族は特定の生き物や植物に寄生して、強力な軟体魔獣……いや、触手魔獣に変えてしまう化け物なんです。ですので、今は寄生元である頑丈な樹の特性を加味した太くて長くて数の多い樹状の触手を扱う怪物に成り果てています。おまけにローパー族は急所である目玉を攻撃しても、すぐに引っ込めてしまい、損傷した部分も素早く回復してしまいます。正直かなり厄介ですね……」
「聞いてるだけで眩暈がしてきそうですけど、とにかく戦ってみるしかないですね、行ってきます!」
僕は早速ウッド・ローパーに向かって走り出した。動物の様に激しく動く植物なんて見た事がない以上、あれこれ考えたって仕方がないと判断した僕は、ウッド・ローパーの触手……つまり枝に当たる部分を切断する為に、上へ大きく飛び上がった。
ウッド・ローパーは神殿の石柱のように太い触手をピンっと伸ばして、空中にいる僕に向かって突きを放ってきた。その突きに対して空中で体を捻って回避し、触手の上をゴロゴロと転がった僕は、起き上がってすぐに触手の根元部分まで駆け上がった。
「ふぅ……危ない危ない。だけど、根元から切断してしまえば向こうの手数は減るはずだ。喰らえ、アイス・スライス!」
僕は恐竜種タナトスの尻尾を切断した時と同じ氷の斧を作り出した。薄くて切れ味が強く、サイズも大きいアイス・スライスならきっと太い触手も切断できる筈だ。
僕が氷の斧を振り下ろすと、触手はほとんど音を立てず、僕の狙い通りスパッと根元から切断する事が出来た。
「よし! この調子で十本、二十本と触手を切断していけば、ウッド・ローパーは何も出来なくなるはずだ!」
切断されて地面へと落ちていく触手を高い位置から眺めていると、地面に落ちた触手は自らブルブルと震えだし、少しずつ本体へと近づいていくと、そのまま粘土のように融合してしまった。
すると、僕が切り落とした触手の切断面が沸騰でもしているかのようにグツグツと泡を出し始め、そこからゆっくりと触手が再生し始めてしまった。
こんな敵をどうやって倒し切ればいいんだと困惑していると、地上にいるソルさんが大声で僕に指示を送ってくれた。
「グラッジ様! このローパー族は規模が大きすぎて切断系の攻撃では引っ付く速度を上回れません! 再生が出来なくなるまで肉体そのものの破壊を繰り返すしかないと思われます」
くっ付いてしまうという特性は厄介だけど、再生量に限界があるのは有難い。僕達の体力が勝つか、ウッド・ローパーの細胞が勝つかの我慢比べだ。僕は一気に広範囲を破壊すべく、再び双蒸撃の準備を始めた。
右手に火の槍、左手に氷の槍を構えた僕は、大きく深呼吸をしたあとウッド・ローパーの中心部分とも言うべき、大目玉に向かって二本の槍を投げた。
「一気に吹き飛べ、双蒸撃!」
二本の槍は斜め下にある大目玉の前で衝突すると、離れた位置にいる僕の体を大きく浮かすほどに大規模な爆発を起こした。
飛び散ったウッド・ローパーの破片が空中にいる僕の体に何度もぶつかるのを感じながら頑張って中心部分を見つめると、上半分がごっそりと無くなったウッド・ローパーの本体がそこにはあった。
「よし! 僕らの勝ちだ!」
僕は落下しながら風の短剣を生成して、自分の真下へと投げ、ふんわりと地面へ落下した。平原には上半分が無くなったウッド・ローパーがピクピクしていて何も出来なくなっていた。
二度の双蒸撃とアイス・スライスで随分と疲れてしまったが、あれだけの難敵をやっつけられたなら大満足だ。僕はソルさんに向かって拳を振り上げると、目を皿のようにして僕の後方を指差したソルさんが叫んだ。
「グラッジ様! 後ろです!」
慌てて後ろを振り向くと、下半分だけ残ったウッド・ローパーの体表から大目玉が現れ、目を光らせると、飛び散った破片全てを浮かせて自身の体へ集め始めた。
「そ、そんな……双蒸撃でもトドメにならないなんて……」
ウッド・ローパーの破片がまるで渦の中心に集まるようにとめどなく吸い込まれるのを見つめながら僕は絶望を呟いた。
=======あとがき=======
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