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【第172話】死の扇動の特性

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ザキールは突如イグノーラ城の上空に姿を現わし、困惑する僕らを前にお決まりの不敵な笑みを浮かべ、ここにいる理由を語った。

「俺様がここにいる理由? そんなもの貴様らが死ぬのを見届ける為に決まってるだろうが。死の扇動クーレオンによって、貴様らを殺すのに充分な数の魔獣を用意できたからな。あとは断続的に俺様の魔獣がイグノーラに駆け付けて、じわじわと滅ぼすのを空から眺めるだけだ。最高に楽で気持ちのいい仕事だぜ、ギャハハハ」

 ザキールが一体どれ程の魔獣を差し向けたのかは分からないが、死の山から離れた以上、無尽蔵に魔獣の数が増える事はなさそうだ。

それに加えて、父さんをイグノーラから離れさせることが出来れば、イグノーラへ行くように指令されている魔獣は辿り着いた瞬間に目的を失わせることができる。

 如何にザキールにバレない様に父さんを避難させようかと考えていると、ザキールはいきなり体を急降下させ、まるで水面の魚を掴み取る鳥のように、一瞬で父さんを上空へと攫ってしまった。

 ザキールは空中で父さんの手足を固め、僕達を嘲笑いながら狙いを語った。

「ご立派な王様の事だ、俺様を見た瞬間、状況が悪化する前に自害するつもりだったんだろうな、懐からナイフを取り出そうとしていたようだぜ? だが、魔獣寄せという最低で最高のスキルを持っている貴様を殺させはしないぞ? 貴様には生きて地獄の演出家になってもらわねぇとな」

 ザキールはそう言うと、父さんの懐に手を突っ込み、ナイフを取り出して捨てた。そして、手刀を父さんの後頭部へ打ち込むと、いとも簡単に気絶させてしまった。

これで父さんの自害がなくなり、魔獣寄せを機能させ続けられると考えた訳だ。敵ながら合理的で抜け目のない奴だ。

「さあ、楽しい戦争を始めようぜェェ!」

 ザキールが狂ったような声を発すると同時に、イグノーラの外にいる魔獣達が一斉に咆哮をあげた。遂に魔獣群とイグノーラの戦争が火ぶたを切ってしまった。

 父さんを抱えたまま、上へ上へと離れていくザキールを止める為に僕は大声で呼びかけた。

「降りてこいザキール! 僕と勝負しろ!」

「あ? 馬鹿かてめぇ? 魔獣だけで全滅させられるのにわざわざ下に降りるはずがないだろ。降りてきて欲しかったらまずは魔獣を全滅させることだな。とは言っても、魔獣が全滅したらまた、死の山から魔獣を連れてきてやるけどな、ギャハハハ」

 ザキールの言葉を受けて、せっかく上がっていた兵士と民衆の士気が下がり始めた。まずい……このままでは終わりのない襲撃となり、戦いに身が入らなくなり兼ねない。

 ザキールを倒して魔獣の追加を止めさせることが出来れば一番だが、いくらでも上空へ逃げられるザキール相手では不可能だと思う。最悪ザキールを倒せなくとも、兵士と民衆の士気を取り戻させる方法を考えなければ。

 何か活路を開くきっかけがほしいと周りを見渡していると、僕の視界に全知のモノクルを持っているシルバーさんの姿がうつった。

その瞬間、ザキールに全知のモノクルの光を照射すれば、死の扇動クーレオンの弱点か何かを見つけられるのではないかと閃き、シルバーさんに指示を出した。

「シルバーさん! 今すぐ全知のモノクルをザキールに当ててください!」

「え? わ、分かったぜ!」

 シルバーさんはすぐさま全知のモノクルをザキールに向けた。全知のモノクルから発せられた光は一瞬でザキールの肩へと当たり情報を映し出す。

上空にいるザキールは「今、何をしやがった?」と苛立った声で聞いてきたが僕達は無視して、シルバーさんが情報を読み上げた。

「読み上げるぞ、まずはザキールの魔力と魔量だが……え? 魔力も魔量も1000しかないぞ、そんなわけないだろ!」

 魔獣を大量に操り、とんでもない火力の魔術を使っていたザキールがそんなに低い訳がない、きっとガラルドさんのように変動できるタイプなのだろう。今はエネルギーを節約する為に弱体化しているのだとしたら、魔人全体がそういうコントロールが出来るのかもしれない。

 今は数値を気にしない方が良さそうだ、僕は「スキルの方を読み上げてください」とシルバーさんにお願いして、続きを読んでもらった。

「えーと、すまん、後天スキルが一つと先天スキルが二つもあるのに、後天スキルの死の扇動クーレオンの部分しか読めそうにない……ここにサーシャが居てくれたら読めたかもしれないのにな……」

「先天スキルが二つもあるんですか? 魔人の特異性でしょうか。今は死の扇動クーレオンの事だけでもいいので、読み上げてください」

「分かった。死の扇動クーレオン ※※ 自らの爪で魔獣の体に『魔人族の紋章』を刻み込み、微量の魔力を送り込むと簡単な命令をすることができる。ただし、一個体に対する命令が一つ増える度に倍々で消費魔力が増えていく 命令を込められる限界射程5キードである 一度命令を送り込みさえすれば、どれだけ離れていても発動者が気を失うまで魔獣は命令をこなし続ける――――だそうだ。その『魔人族の紋章』っていうのもここに記されているぞ」

 どうやら意外と手間と制約の多いスキルのようだ。刻み込まなければいけない『魔人族の紋章』というのも、複雑な柄をしていて、こんなものを魔獣一匹一匹に刻んでいたらかなりの時間を消費する事だろう。

 そう考えると、ザキールはイグノーラ壊滅に向けてかなり前の段階から刻印付きの魔獣をストックさせていたと推測できる。言い方を変えれば限界数があるという事だ。

 さっきザキールは『魔獣が全滅したらまた、死の山から魔獣を連れてきてやる』と言っていたが、あの言葉はハッタリだと証明された。

僕達は今回ザキールが差し向けた魔獣を全滅させれば勝ちなのだ、これで一気に勝利への希望が湧いてきた、僕達が団結すればきっと勝つことができるはずだ。

 僕達が全知のモノクルを見ている間、父さんを抱えているせいで上空から降りてこられないザキールのイライラは相当なものだった。

「貴様らァァ! 何をコソコソしてやがる! それにさっき俺様の肩に当てた光は何だァァ? 今更ジタバタしたって手遅れなんだよォォ! さっさと魔獣の餌になれカス共がぁぁ!」

 意図した訳ではないけれど、ザキールから見れば返事をそっちのけでコソコソと自身の事を話されている感じが奴の逆鱗に触れたようだ。

死の山の時点で分かっていたことだが、やっぱりザキールは相当短気で煽りにも乗りやすいタイプのようだ。

この時、僕はザキールの分かりやすい性格を利用しつつ、兵士と民衆に士気を取り戻させるとっておきの言葉を思いつき、皆に聞こえるように大きな声で呼びかけた。

「ザキール! お前のスキルがどんなものかが分かったぞ、それに襲撃させられる魔獣のおおよその限界数もな!」




=======あとがき=======

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