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【第169話】イグノーラ城侵入

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 幼少期は城でのんびりと暮らし、その後は野生児のようにずっと流浪していた僕が、今イグノーラを救おうと頑張っているなんて不思議な話だ。ガラルドさん達と別れた後、僕とリリスさんは順調にイグノーラへ近づいていた。

 風の武具から上昇気流を作り出し、真上へと登ってからアイ・テレポートでイグノーラ方面へと近づく作戦はかなり移動が速く、平原も足場の悪い森林地帯も同じ速度で進み続けた。

 このまま進み続ければ昼過ぎにはイグノーラに到着できそうだけど、アイ・テレポートの連続で疲労の極致に達したリリスさんは全く喋れなくなっていた。このままでは倒れてしまいかねない……僕はリリスさんに休むよう提案した。

「リリスさん、ペースを落としましょう。このままじゃ倒れてしまいますよ」

「ハァハァ……いいえ、大丈夫です、自分がどのくらいまで持つかは特訓の中で理解していますから。今は……ハァハァ……とにかく急がせてください、私の頑張り次第でイグノーラの犠牲者が減ると思うと、いくらでも頑張れるんです……」

「リリスさん……分かりました。でも、本当に危なそうだったら止めますからね!」

 リリスさんは青白い顔に笑顔を浮かべて頷いた。

 そして、遂に僕達の視界にイグノーラの城壁が映り込んだ。一部の飛行型魔獣は既にイグノーラ内部へ侵入しているものの、地上型の魔獣はまだ到着していないようだ。

 お父さんはきっと城内か広場にいるはずだ。どっちにしても一気にお父さんの元へ瞬間移動しなければ兵士に囲まれて厄介な事になる。

それを避ける為にはひとまず背の高い城壁の最上部に瞬間移動して、そこから城か広場にいるであろうお父さんの目の前に瞬間移動するのがよさそうだ。

 僕はリリスさんと相談して、すぐさま城壁の最上部へと飛んだ。そこから街の外を眺めると、ザキールが差し向けたのとは違う地上型魔獣が城壁の前に群がっているようだ、覚醒したお父さんの魔獣寄せに引き付けられてきた周辺の魔獣なのだろう。

そして今度は街の中を一望すると、忙しそうに走り回る兵士達の姿と困惑する民の姿があった。やはり最近の襲撃活性化に相当参っているようだ。

 更に城の方を見てみると、城門の前で兵士と揉み合っているシルバーさん達の姿を発見した。もしかしたらシルバーさんは隠れて全知のモノクルを照射することで得たお父さんのスキル情報を直に会って伝えようとしているのかもしれない。

 だけど、僕を含むガーランド団の皆は言わば国賊のような扱いを受けているから、兵士達が中に入れてくれないのだろう。

そう考えれば城門の兵士がシルバーさん達を捕らえようとしていないだけマシなのだろうか?

それか、もしかしたらシルバーさん達に構う暇もないぐらいにイグノーラの状況がひっ迫しているのかもしれない。

 色々な考えが頭をよぎるけれど僕達がやるべきことは決まっている、父さんに全てを伝えて、ザキールを止める事だ。僕はリリスさんの息切れが止まるまで待ち、城のバルコニーに瞬間移動するべく準備をはじめた。

 リリスさんが「私はもう大丈夫です、行きましょうグラッジさん!」と力強く応えて僕の手を握ってくれた、アイ・テレポートの準備も整った。

「行きます、アイ・テレポート!」

 高い城壁から一気に下降して、城のバルコニーに降り立った僕達はすぐさま城内に目を向けた。すると中には僕達の着地に気が付いた兵士が目を点にして驚いていた。

 肩で息をするリリスさんの手を握って僕達が城内に入ると、剣を構えた兵士が僕達を囲んだ。そして、その中の一人が剣先を僕に向け、苦い表情を浮かべて言った。

「まさか国難の真っ只中にグラッジ様自ら乗り込んでくるとは思いませんでしたよ。魔獣寄せさえなければ貴方に剣を向けずに済んだのですが……イグノーラの為に倒させてもらいます!」

「待ってください、僕は情報を伝えにきたんです。今のイグノーラがどうしてこれほどまでに魔獣に襲われているのかを。それは僕の魔獣寄せだけが原因じゃないんです、父グラハムが魔獣寄せを発現したからなんです!」

「何をでたらめなことを……スキル鑑定もせずにそんなことが分かるはずないでしょう、滅茶苦茶なことを言って撹乱しようとしても無駄ですよグラッジ様、王の命令に従って、大人しく命を差し出してください」

「くっ……説得できる状況じゃないか。仕方ない、このまま玉座まで突っ切らせてもらいます、リリスさんは呼吸が整うまで僕の手を握って離れないようにしてくださいね」

 リリスさんは僕の言葉に頷き、手をぎゅっと握り返してくれた。そして、兵士達は一斉に僕へ向かって、剣を振り下ろしてきた。

「グラッジ様、覚悟ォォ!」

 僕は瞬時に氷の盾を作り出して、兵士の一撃を防いだ。その間にも他の兵士が突進から突きを放とうとしている。僕は風の短剣を地面に投げつけて、リリスさんごと天井まで跳ね上がった。

 僕達を見上げる兵士達はどうやら全員で七人いるようだ。僕は落下の直後、体の二倍はあるであろう岩で作った長尺の棍を作り出し、豪快に振り回した。

「グアアァ!」

「ガハッッ!」

 旋回させた棍によって、二人の兵士が気を失った、残りは五人だ。兵士は再び僕に剣を振り下ろしてきて、それをサイドステップで避けた。僕は床にめり込んだ兵士の剣を峰から思いきり踏みつけて剣を折り砕いた。

 出来るだけ兵士を傷つけずに戦力を奪うには武器を破壊するのが一番だ。僕はその後も、氷の盾や岩のハンマーで兵士の武器を叩き割り、七人の兵士すべての武器を破壊した。

後ずさる兵士は僕を見て怯えている。こんな目で見られるのは辛いけれど、いつか分かってもらえる時がくるはずだ、僕は兵士に言葉を掛けた。

「怖い思いをさせてしまってごめんなさい。だけど、僕達は必ずイグノーラの危機を救ってみます、だからどうか抵抗せずに父グラハムに会わせてください」

 僕達と兵士の間に数秒の沈黙が流れた。そして、七人の兵士の中で位が一番高そうな男が戦闘態勢を解くよう全員に指示を出し、僕達に道を開けた。

「我々にはグラッジ様の言葉が真実かどうかを見極める目はありません。ですが、信じたい願望と過去のグラッジ様がお優しい方だったという記憶を持っています。ここは私が処罰を覚悟で王の元へ案内させていただきます。だから他の六人は心配しないでくれ」

 男はそう言うと、背中を向けて僕達を手招きした。魔獣寄せを持つ僕と親族である父だけが悩んでいた訳ではない、周りにいる全ての人間が刃の振るい方に悩んでいたんだな……と改めて実感させられた。

 男の後をついていくと八年前に見た以来の玉座と父さんの姿が目に入った。父さんの周りにいる兵士全員が僕の顔を見て武器を向ける。そして、父さんは玉座に座ったまま僕の方へ視線を向けると、あの頃と変わらない声で僕に問いかけた。

「久しぶりだなグラッジ、私が憎くて殺しに来たか? 後ろにいる大勢の仲間は随分と疲弊しているようだが」

「え? 後ろにいる大勢の仲間? 父上は何を言って――――」

 お父さんが僕の後ろに視線を向けて喋っていたのが気になり後ろを見ると、そこにはシルバーさん達が大汗を掻きながら立っていた、どうやら兵士の制止を振り切ってここまで来たようだ。驚く僕に早速シルバーさんが話しかけてきた。

「グラッジじゃないか! 無事死の山から戻ってこられたんだな! 俺が送った伝言を聞いて急いでイグノーラに来てくれたのか? だとしても早すぎると思うが……それにガラルド達の姿が見当たらないな」

「実は本当に色々ありまして……ですが、今は玉座前ですし纏めてお話しますね。父上もそれでよろしいですか?」

「……分かった、玉座の間にいる兵士達に武器を下げさせよう、お前達、武器を降ろすのだ」

 玉座の間にいる全ての兵士は父さんの指示に従い武器を降ろした。何から話すべきか迷うところだが、まずは死の山の現状とお爺ちゃんが残した手紙について話す事にしよう。


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