見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第150話】頑張れる理由

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 カリギュラ近くの海岸から船に乗り込み、死の山へ向かった俺達十一人は船を魔石炉で最大限加速させ、出発してから三日後の昼、死の山近くの海岸に着いた。

まだ死の山の入口にすら着いていないがディアトイルにいた頃以来、久々に肉眼で見る死の山は相変わらず禍々しく見えた。

 こころなしか近辺にいる動物や魔獣も緊張している様に見える。俺達も気を引き締めて海岸から死の山の入口へと向かった。

「ここが死の山……草木がほとんど無いし、黒っぽい岩肌と毒沼ばかりで地獄みたいな場所だね……」

 海岸から一時間ほど歩いて死の山の入口に辿り着き、サーシャが死の山を見つめながらぼやいた。サーシャの言う通り、まさに地獄という言葉が相応しく、とても生き物が暮らしている場所とは思えない。

 所々に落ちている魔獣の骨は、雄々しく逞しいものばかりで、この場所の魔獣の強さと弱肉強食の環境を示している。

 視覚的にも緩やかな傾斜の中に、隕石でも落ちたのかと思えるようなクレーター、高く捲れ上がった岩壁があちらこちらにあり、岩壁の向こうでは魔獣の叫び声が轟いている。

 足を踏み入れるのが恐くてたまらないが、勇気を出して進んでみると、場の空気が一気に重くなった。今のところ周りに魔獣は見当たらないが、それでも大量の猛獣に殺気を飛ばされているような感覚があり、背筋に冷たいものが走る。

 俺自身気分があまり優れないが今は顔色の悪い仲間達を鼓舞しなければいけない時だ。俺は少しでも気休めになればと皆に声を掛けた。

「大丈夫だぞ皆、パラディア・ブルーがあれば魔獣は寄ってこないんだ。仮に襲ってきても俺達は猛特訓を積んで強くなった、四方を囲まれても屈強な十一人でカバーし合えば必ずどうにかできる。だからリラックスして調査しようぜ」

 俺の言葉を受けて緊張が軽くなったのか、皆の顔色が少し良くなった……ただし、リリスを除いてだが。結構肝が据わっているリリスが他の人間以上に青ざめているのは珍しい、気になった俺は声をかけた。

「おい、大丈夫かリリス? 気分が悪いのか、それとも恐いのか? 辛いなら船に戻ってもいいぞ?」

「……ちょっと頭が痛いだけなので大丈夫です、一緒に行かせてください」

「頭痛か、もしかして死の山を見て記憶が刺激されたのか?」

「恐らくそうですね、記憶が刺激された時と感覚が似ていますので。いつも通りしばらく時間が経てば収まると思いますので先を急ぎましょう」

 リリスの記憶を強く刺激したのは今回で三度目だ。そのうち二つは『五英雄の歴史書』と『死の山』だからモンストル大陸南に関わるものだ。

 モンストル大陸には大昔から死の山と死の海があったせいで南北の交流や行き来は皆無だったにもかかわらず、リリスは両方に居た可能性が高い……一体どういう事だろうか。

 リリスの記憶を紐解く事が出来れば、もしかしたら南北を自由に行き来できる手段を手に入れられるかもしれない。

だが、記憶を刺激される度に辛い思いをしているリリスが完全に記憶を取り戻す事態になった時、今とは比べ物にならない苦痛が待っているかもしれないと思うと不安になる。俺はもう一度リリスに調査を続行するかを問いかけた。

「聞いてくれリリス。記憶を刺激される度に頭痛に苛まれていることを顧みるに、完全に記憶が戻った時はもっと大変な事になるかもしれない。俺はリリスが取り返しのつかない事になってしまったら心が耐えられる自信が無い……だから、死の山の調査だけでも辞めておかないか? 残りの十人だけでもやり遂げてみせるからさ」

 リリスは青白い顔に大量の汗をかいているが、それでも顔は僅かに笑っていた。その笑顔は無理をしている感じではなく、穏やかでどこか達観した笑顔にも見えた。そして、リリスは俺の胸元に顔をうずめて囁くように言った。

「私の事が大好きなガラルドさんの言う事は極力聞いてあげたいところですが、それだけは聞けません。ガーランド団やシンバード領の皆さんの存在が私にとって頑張れる理由であり、生きがいです。その為の歩みを止めてしまったら、その瞬間私という存在は空っぽになり死んでしまいます。それに私達の戦いはいつもギリギリなものばかりでした。ここで私が参加できなくて誰かを死なせてしまったら、私にとって死よりも重い後悔になります。だから止めないでください」

 思えばリリスはそういう奴だった。関わって間もない頃から俺の為にレックのパーティーと喧嘩していたし、ビエードとの戦いやソルとの戦いでは我が身を顧みずアイ・テレポートでギリギリのところで俺を救ってくれた。

 俺と違って一撃で致命傷になりかねない耐久力の無い魔術師タイプの身でありながら、アイ・テレポートという誰よりも仲間思いで優しいスキルで幾つもの危機を救ってくれた。

そんな彼女の前進はたとえ神様でも止められはしないだろう。俺は腹をくくり、胸元にいるリリスの頭を撫でながら言った。

「リリスはそういう奴だったな、分かったよ、もう止めはしない。だけど、死なれたくない大事な存在だって事には変わりない、ここから先は何があっても俺から離れるなよ?」

「……ガラルドさん……えへへ、ありがとうございます!」

 リリスはいつものようにふざけた求愛行動はせず、顔を赤くして真っすぐにお礼を言った。そんな姿に内心ドキッとしていると、横でじっとりとした目を向けたサーシャがぼやいた。

「あのー、イチャイチャはそれくらいにして調査を続けていいかな、お二人さん。このままじゃ二人の空気に当てられておかしくなっちゃいそうだし」

 マズい……このままではまた冷やかされる。どうにか言い返してやりたいが上手い言葉が出てこない。リリスが何とか言ってくれればと横を見たが、こんな時に限ってリリスは顔を赤くして俯いたままだ。

 俺がリリスに抱えている感情が何なのかは分からないが、とにかく妙にこっぱずかしい。そんな俺がモジモジしているのを察したのかグラッジがやや強引に話を戻してくれた。

「そ、それにしても死の山は空気が悪いですね、リリスさんじゃなくても体調が悪くなっちゃいますよ。こんな状態で魔獣に襲われたらたまったもんじゃありません、早めにパラディア・ブルーを使っておきませんか?」

 ちょっと言葉を噛んでいたがナイスなアシストをしてくれたグラッジに便乗することにしよう。俺達はパラディア・ブルーを日光に当てて粉状にし、体へ振りかけた。俺からすれば相変わらず匂いがきついが他の皆は香りを楽しんでいるようだ。

 そのまま、死の山を進んでいくと、前方と左右100メードの位置に早速ゴーレム型の強そうな魔獣が現れ、全員で全方位を警戒して武器を構えた。魔獣は俺達を見つけると猛ダッシュでこちらへ近づいてきた。

 しかし、俺達の手前30メード程にきた辺りで突然足を止めて、目と鼻を押さえ始めた、どうやらパラディア・ブルーが効いているようだ! 魔獣たちは離れた位置から俺達を睨み続けると、顔を歪めたままゆっくりと俺達から離れていった。

 その後も、一時間毎にパラディア・ブルーを重ね掛けしていくことで継続的に魔獣を避けながら進むことができた。結果俺達は殆ど戦闘することなく、かなりの距離を移動出来た。

 時々パラディア・ブルーの効き目が薄い魔獣もいて襲われる事があり、そいつらには手を焼かされることもあったが、順調すぎるぐらい順調な進行だ。

強いて言えばこちらを見て鼻を押さえながら去っていく魔獣を見ていると、自分達が臭くて汚い存在に思われてそうな点だけは辛いのだが……。

 だが、進んでも進んでも見えるのは魔獣と岩肌ばかりで、これといって有力な情報は得られていない、このまま進み続けても大丈夫なのだろうか。


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