見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第148話】グリフォンの過去

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「クゥェッ! クゥェッ!」

 俺達を奥に案内してくれたグリフォンは、足を止めてグラッジに何かを語り掛けた。グリフォンの言葉を聞いたグラッジは手に光の短剣を取り出して天井に投げ刺し、暗くてよく見えない道の奥を照らしてくれた。

「皆さん、アレを見てください。グリフォンが守っていたものがありますよ」

 グラッジに促されて奥を見ると、そこには見るからに強そうな槍、杖、短剣などの様々な武具が置かれていた。神獣とはいえ野生の生物が巣や食料ではなく物品を守っていることがとても不思議ではあるが、グラッジがその訳を説明してくれた。

「どうやら彼女は昔、人間に親を殺されて自身も殺される寸前だったらしいです。悪い人間から必死に逃げていた彼女を救ってくれた戦士がいて、その人物がグラド……つまり僕のお爺ちゃんだったらしいです。お爺ちゃんはその時に武具をグリフォンの傍に置いていったそうです」

 流石はグラッジの祖父と言うべきか、困っているグリフォンの為に体を張るなんて立派なもんだ。魔獣寄せの影響で、人々の前に姿を現わしたら襲われる可能性だってあるだろうに。

 しかし、一つ分からない事がある。何故グラドは神獣には使えない人用の武具を置いていったのだろうか? 気になった俺はグラッジに尋ねてみた。

「グラドが人間の武具をグリフォンに渡した理由は分かりそうか?」

「それは僕も気になっていました、ちょっと色々話してみますね」

 それからグラッジはグリフォンと五分以上楽しそうな会話を繰り広げた、とはいっても尻尾をフリフリしているグリフォンの様子から楽しそうだと推測しているだけなのだが。

 一人と一匹の会話を横で眺めているうちに一つ気付いた事がある。どうやらグラッジの新しい能力は人間の言葉を喋ったとしても神獣に伝わるという点だ。

一体どういう仕組みなのか分からないが、常に魔獣から命を狙われてきたグラッジが、ここ数日で仲良く話せる相手が一気に増えた事は喜ばしい限りだ。

ここを守っているグリフォンはともかく、他に神獣を見つけられたならグラッジに新しい家族を増やしてやれる可能性もあるかもしれない、神獣の情報を今後は一生懸命集めてみようと思う。

 そんな先のことを考えていると、会話を終えたグラッジが情報を纏めて教えてくれた。

「どうやら、お爺ちゃんに助けられたグリフォンはお礼として額についていた紅玉を爪でちぎり取って、お爺ちゃんに無理やりプレゼントしたみたいです。神獣が宿す紅玉は相当高価なものだから申し訳ない、と思ったお爺ちゃんは手持ちの高価な武具を渡したみたいです、そうすることで万が一人間に狙われても武具を餌にして逃げられるだろう、と言っていたらしいです」

 なんと律儀な神獣と英雄がいたものだ。高価なものに高価なものを返したら結局プラスマイナス0になりそうな気がするが、それもまた一種の友情の形のようで個人的にはいいと思う。

 俺は言葉の通じないグリフォンを見つめながら、褒めて謝った。

「人間同士でも盗みや殺しが起きるというのにグリフォンはしっかりお礼をして偉いな。そんな大事なものを守っているとは知らず、近づいてしまって悪かったな」

「クエッ! クエッ!」

 なんと言っているのかは分からないが、何故か『気にするな』と言われているような気がする。グラッジの通訳を聞く限り、グリフォンはグラドが武具を渡した理由を正確に理解しているようだから、グラドも神獣と話すことが出来ると判明した。

 ゼロが言っていた『魔獣寄せには先の段階がある』という言葉の意味はもしかしたら神獣と話せることなのかもしれない。そんな仮説を答え合わせするようにゼロが口を開いた。

「グラドさんは『魔獣寄せ』の真の能力について、自分の口から伝えたいと言っていたから、僕もなるべく尊重するつもりだったけどね。まさか土壇場でグラッジ君が覚醒するとは思わなかったよ。だからもうグラドさんの能力を伝える事にするよ、グラドさんの能力もグラッジ君とほぼ同じだよ」

「ほぼ? 微妙に違うということですか?」

 グラッジが首を傾げながら尋ねると、ゼロは少し考えたあと、微笑を浮かべて答える。

「う~ん、グラドさんの能力は神獣に命令ができて従わせられるタイプのものだとスキル鑑定の石版には書かれていたらしいから、グラッジ君より強制力の高いものだと思うよ。だけど、僕個人としては神獣と仲よく話しているグラッジ君の方が優秀な能力を持っていると思うけどね」

「僕としては『仲良くなる』よりも『従わせる』方が優秀だと思えるんですけど、何か理由があるんですか?」

「命令だとか強制だとかは、される側の心身にも良くないし、いつか限界がくるものだからね。だから優しいグラドさんは極力この能力を使わなかったらしいよ。あの人は人間だけじゃなくて動物や神獣、そして魔獣にすら同情するような人だからね、フフフッ」

 ゼロは何かを思い出したのか、楽しそうに笑っている、きっとグラドとゼロは仲が良かったのだろう。本だけではなく色々なところで話を聞くグラドには是非生きていて欲しいし、早く会ってみたいものだ。



 グリフォンとのやり取りも一段落し、パラディア・ブルーもある程度集まった俺達は一旦ウィッチズケトルへ帰る事にした。すっかり可愛く見えてきたグリフォンに手を振って別れ、帰りはリリスと並んで歩く事にした。

 リリスはため息を吐くと、今回の探索を楽しそうに振り返り始めた。

「それにしても今回は驚きの連続でしたね。環境に適応して強化された魔獣がいたかと思えば、神獣までいましたし、グラッジさんに至っては会話能力まで身に付けました。神獣からはグラドさんの思い出話まで聞けちゃったりと収穫だらけでしたね。個人的にはグラドさんの印象が一層義理堅く優しいものになりました、ちょっとガラルドさんに似ているなぁとも思いましたよ」

「五英雄と似ているなんて言われたら嬉しくなるな。なら俺もリリスを褒めるとするか。今日のリリスは凄かったな。ゼロしか出来ない色堅シキケンをぶっつけ本番でマスターして実戦で役立てたもんな。才能は五英雄越えかもしれないぜ?」

 俺の言葉を受けてリリスは頭を掻きながら照れていた。俺にしては珍しく直球で褒め合っている状況を横で見ていたゼロはリリスの顔を見つめながら感情を込めて褒めだした。

「僕もガラルドさんに同意だよ! 色堅シキケンは本来すぐに体得できるものではないからね。一定期間集中して修行していた僕ですら、最低限ものにするのに百日はかかったからね」

 ゼロで百日かかったのなら物覚えがあまりいい方ではない俺はもっとかかるかもしれない……。リリスに若干の嫉妬を感じつつ、俺はリリスが何故一瞬で色堅シキケンを会得できたのかを考えていた。

 センスが良いと一言で片づけてしまえばそれまでだが、もしかすると女神族には色堅シキケンを上手に使う才能があったり、人間だった頃の戦闘勘みたいなものも残っているのかもしれない。

 俺自身はたまたま緋色の目を持っていて常人より強い存在になっただけに過ぎない。リリスやグラッジのように積み重ねが多い者に負けないようにしなければと自分に気合を入れ直さなければ。ウィッチズケトルへ帰りながらそんなことを考えていた。




=======あとがき=======

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