上 下
148 / 459

【第148話】グリフォンの過去

しおりを挟む

「クゥェッ! クゥェッ!」

 俺達を奥に案内してくれたグリフォンは、足を止めてグラッジに何かを語り掛けた。グリフォンの言葉を聞いたグラッジは手に光の短剣を取り出して天井に投げ刺し、暗くてよく見えない道の奥を照らしてくれた。

「皆さん、アレを見てください。グリフォンが守っていたものがありますよ」

 グラッジに促されて奥を見ると、そこには見るからに強そうな槍、杖、短剣などの様々な武具が置かれていた。神獣とはいえ野生の生物が巣や食料ではなく物品を守っていることがとても不思議ではあるが、グラッジがその訳を説明してくれた。

「どうやら彼女は昔、人間に親を殺されて自身も殺される寸前だったらしいです。悪い人間から必死に逃げていた彼女を救ってくれた戦士がいて、その人物がグラド……つまり僕のお爺ちゃんだったらしいです。お爺ちゃんはその時に武具をグリフォンの傍に置いていったそうです」

 流石はグラッジの祖父と言うべきか、困っているグリフォンの為に体を張るなんて立派なもんだ。魔獣寄せの影響で、人々の前に姿を現わしたら襲われる可能性だってあるだろうに。

 しかし、一つ分からない事がある。何故グラドは神獣には使えない人用の武具を置いていったのだろうか? 気になった俺はグラッジに尋ねてみた。

「グラドが人間の武具をグリフォンに渡した理由は分かりそうか?」

「それは僕も気になっていました、ちょっと色々話してみますね」

 それからグラッジはグリフォンと五分以上楽しそうな会話を繰り広げた、とはいっても尻尾をフリフリしているグリフォンの様子から楽しそうだと推測しているだけなのだが。

 一人と一匹の会話を横で眺めているうちに一つ気付いた事がある。どうやらグラッジの新しい能力は人間の言葉を喋ったとしても神獣に伝わるという点だ。

一体どういう仕組みなのか分からないが、常に魔獣から命を狙われてきたグラッジが、ここ数日で仲良く話せる相手が一気に増えた事は喜ばしい限りだ。

ここを守っているグリフォンはともかく、他に神獣を見つけられたならグラッジに新しい家族を増やしてやれる可能性もあるかもしれない、神獣の情報を今後は一生懸命集めてみようと思う。

 そんな先のことを考えていると、会話を終えたグラッジが情報を纏めて教えてくれた。

「どうやら、お爺ちゃんに助けられたグリフォンはお礼として額についていた紅玉を爪でちぎり取って、お爺ちゃんに無理やりプレゼントしたみたいです。神獣が宿す紅玉は相当高価なものだから申し訳ない、と思ったお爺ちゃんは手持ちの高価な武具を渡したみたいです、そうすることで万が一人間に狙われても武具を餌にして逃げられるだろう、と言っていたらしいです」

 なんと律儀な神獣と英雄がいたものだ。高価なものに高価なものを返したら結局プラスマイナス0になりそうな気がするが、それもまた一種の友情の形のようで個人的にはいいと思う。

 俺は言葉の通じないグリフォンを見つめながら、褒めて謝った。

「人間同士でも盗みや殺しが起きるというのにグリフォンはしっかりお礼をして偉いな。そんな大事なものを守っているとは知らず、近づいてしまって悪かったな」

「クエッ! クエッ!」

 なんと言っているのかは分からないが、何故か『気にするな』と言われているような気がする。グラッジの通訳を聞く限り、グリフォンはグラドが武具を渡した理由を正確に理解しているようだから、グラドも神獣と話すことが出来ると判明した。

 ゼロが言っていた『魔獣寄せには先の段階がある』という言葉の意味はもしかしたら神獣と話せることなのかもしれない。そんな仮説を答え合わせするようにゼロが口を開いた。

「グラドさんは『魔獣寄せ』の真の能力について、自分の口から伝えたいと言っていたから、僕もなるべく尊重するつもりだったけどね。まさか土壇場でグラッジ君が覚醒するとは思わなかったよ。だからもうグラドさんの能力を伝える事にするよ、グラドさんの能力もグラッジ君とほぼ同じだよ」

「ほぼ? 微妙に違うということですか?」

 グラッジが首を傾げながら尋ねると、ゼロは少し考えたあと、微笑を浮かべて答える。

「う~ん、グラドさんの能力は神獣に命令ができて従わせられるタイプのものだとスキル鑑定の石版には書かれていたらしいから、グラッジ君より強制力の高いものだと思うよ。だけど、僕個人としては神獣と仲よく話しているグラッジ君の方が優秀な能力を持っていると思うけどね」

「僕としては『仲良くなる』よりも『従わせる』方が優秀だと思えるんですけど、何か理由があるんですか?」

「命令だとか強制だとかは、される側の心身にも良くないし、いつか限界がくるものだからね。だから優しいグラドさんは極力この能力を使わなかったらしいよ。あの人は人間だけじゃなくて動物や神獣、そして魔獣にすら同情するような人だからね、フフフッ」

 ゼロは何かを思い出したのか、楽しそうに笑っている、きっとグラドとゼロは仲が良かったのだろう。本だけではなく色々なところで話を聞くグラドには是非生きていて欲しいし、早く会ってみたいものだ。



 グリフォンとのやり取りも一段落し、パラディア・ブルーもある程度集まった俺達は一旦ウィッチズケトルへ帰る事にした。すっかり可愛く見えてきたグリフォンに手を振って別れ、帰りはリリスと並んで歩く事にした。

 リリスはため息を吐くと、今回の探索を楽しそうに振り返り始めた。

「それにしても今回は驚きの連続でしたね。環境に適応して強化された魔獣がいたかと思えば、神獣までいましたし、グラッジさんに至っては会話能力まで身に付けました。神獣からはグラドさんの思い出話まで聞けちゃったりと収穫だらけでしたね。個人的にはグラドさんの印象が一層義理堅く優しいものになりました、ちょっとガラルドさんに似ているなぁとも思いましたよ」

「五英雄と似ているなんて言われたら嬉しくなるな。なら俺もリリスを褒めるとするか。今日のリリスは凄かったな。ゼロしか出来ない色堅シキケンをぶっつけ本番でマスターして実戦で役立てたもんな。才能は五英雄越えかもしれないぜ?」

 俺の言葉を受けてリリスは頭を掻きながら照れていた。俺にしては珍しく直球で褒め合っている状況を横で見ていたゼロはリリスの顔を見つめながら感情を込めて褒めだした。

「僕もガラルドさんに同意だよ! 色堅シキケンは本来すぐに体得できるものではないからね。一定期間集中して修行していた僕ですら、最低限ものにするのに百日はかかったからね」

 ゼロで百日かかったのなら物覚えがあまりいい方ではない俺はもっとかかるかもしれない……。リリスに若干の嫉妬を感じつつ、俺はリリスが何故一瞬で色堅シキケンを会得できたのかを考えていた。

 センスが良いと一言で片づけてしまえばそれまでだが、もしかすると女神族には色堅シキケンを上手に使う才能があったり、人間だった頃の戦闘勘みたいなものも残っているのかもしれない。

 俺自身はたまたま緋色の目を持っていて常人より強い存在になっただけに過ぎない。リリスやグラッジのように積み重ねが多い者に負けないようにしなければと自分に気合を入れ直さなければ。ウィッチズケトルへ帰りながらそんなことを考えていた。




=======あとがき=======

読んでいただきありがとうございました。

少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。

甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです

==================

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...