見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第142話】パラディア・ブルー

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「おーい、いつまで寝ているんだい? 朝ご飯を用意しておいたから早く食堂に来てね。食堂は入口の東隣にあるから」

 体を揺らされて目を覚ました俺の耳にゼロの声が飛び込んできた。どうやら爆睡してしまったようだ。ゼロの厚意に甘えて食堂で朝食を済ませた俺達は、食後直ぐにゼロのいる部屋へと向かった。

 部屋の奥で本を読んでいたゼロは扉を開けた俺達に気付き、こちらを見て微笑んだ。

「みんなの口に研究所の料理は合ったかな? みんなの準備が良ければ早速五英雄のグラドさんについて話しを始めるけど」

「大丈夫です、よろしくお願いします!」

 グラッジが前へ乗り出し、ゼロへ頭を下げた。するとゼロは棚から細長い箱を取り出し、机の上に置いて説明を始めた。

「グラドさんのことを話すにはまず、この箱をグラッジさんに渡しておかないとね、とりあえず開けてみてくれるかい?」

 ゼロに従いグラッジが箱を空けると、中には半透明で少し灰色っぽい剣の鞘が入っていた。

「これは何ですかゼロさん?」

「その鞘は『虹ノ一閃にじのいっせん』といってね、グラドさんが若い頃に愛用していた鞘の模造品だよ、とは言っても本物とほぼ同じ性能だからとても強いけどね。八年ぐらい前、僕がまだ子供だった頃、グラドさんが『自分に何かあったらゼロ君からグラッジに渡してやってくれ』と言われていたんだ」

「お爺ちゃんは昔ゼロさんと会ったことがあったんですね。あとでその頃のお爺ちゃんの話も聞かせてくださいね。ところで、『虹ノ一閃にじのいっせん』の話に戻しますが、性能が高いというのは剣ではなく鞘が凄いのですか?」

「その鞘は属性エネルギーを中に閉じ込める事ができる機能があるんだ。属性武器を具現化できるグラッジさんが火や風の剣を作り出して、鞘に入れてしばらく待てば最高の一撃を放てるってわけさ、一度使ったら十秒ほどクールタイムが必要だけどね。かつてグラドさんは抜刀術に優れた剣士だったんだ、それ故にグラドさんに憧れて今でも抜刀術を鍛えている者も多いらしいよ」

 そう言えば兵士長ソルも風属性の抜刀術を使っていたが、イグノーラには五英雄の戦い方を参考にした武術や流派みたいなものがあるのかもしれない。いつか時間があればそういうことも色々と調べたいものだ。

 『虹ノ一閃にじのいっせん』を貰ったグラッジは複雑な表情をしていた。大好きな祖父の道具を貰えること自体は嬉しくても、遺品の様に感じてしまったのだろう。そんなグラッジの様子を感じとってか、ゼロはグラドの生存について言及する。

「言い方が悪かったね、僕はグラドさんが生きている可能性も充分あると思っているよ。彼は死の山を探索する為の下準備もしっかりしていた筈だからね」

「下準備……死の山に入っても無事でいられる方法なんてあるんですか?」

 グラッジは目を開いて驚いた。俺も死の山に入れば確実に生きては帰れないと思っていたからにわかには信じがたい。だが、それを証明するべくゼロは大きな袋からある物を取り出した。

「死の山で魔獣に襲われにくくする唯一の手段がこの花『パラディア・ブルー』を使用する事だ」

 ゼロが取り出したパラディアの花はリングウォルド別邸跡地で見つけたパラディアよりも少し大きく、色もピンク色ではなく紺色に近い色だった。

 確かパラディアの花は束ねて持ったり、魔力を与えたりするとピンクから水色に変化し、香りも甘い香りから清涼感のある香りに変わる不思議な花だったはずだ。

 しかし、ゼロの持つ『パラディア・ブルー』という花は色が圧倒的に青みが強く、匂いも清涼感を通り越して少しきついぐらいだ。しかし、俺の感想とは裏腹にリリスは『パラディア・ブルー』の匂いをとても気に入っていた。

「ふわぁ~、普通のパラディアよりもいい匂いですね、サーシャちゃんもそう思いますよね?」

「うん! 今までのパラディアが少し物足りなくなるぐらいだよ。ガラルド君もパラディアの香りが好きだったから分かるよね?」

「う~ん、俺にはパラディア・ブルーはきつすぎるぜ、普通のパラディアぐらいがちょうどいいな」

 俺の鼻が強すぎるだけなのだろうか、シルバーもグラッジもとても気に入っているようだ。みんながパラディア・ブルーの香りで盛り上がる中、咳払いをしたゼロが話を再開する。

「話を続けていいかな? この花は高品質のパラディアに大量の魔力を注ぎ込んでできたパラディアの進化版ともいえる花だ。実はパラディアには特殊な力があってね、人間にはパラディアの香りはいい香りに感じるとは思うけど、魔獣には不快を超えて毒にすらなるんだ。普通のパラディアにもその効果はあるけど、パラディア・ブルーはもっと強い効果があるよ」

 ということは俺は人間じゃないのか? と一瞬嫌な考えが頭をよぎると同時にリリスがこちらを見て笑いながら俺を揶揄った。

「あれれ? ということはパラディア・ブルーが苦手なガラルドさんはもしかして魔獣なんじゃないですか? キャー、リリス食べられちゃいますぅ~」

「何言ってんだよ、俺は目も鼻も強すぎるからきつく感じただけっての、そうだよなゼロ?」

「まぁガラルドさんが魔獣だったら面白いけどそれはないだろうね、多分緋色の目を持つ特殊な血が普通とは違う反応を起こさせているんじゃないかな? それか犬と同じで匂いに敏感すぎるかだね」

 何故わざわざ犬で例え直したのかを問い詰めたいところだが、ツッコむとキリがなさそうだから止めておいた。そして、ゼロは話を続ける。

「パラディアもパラディア・ブルーも植物なのに何故か光や水に弱い性質があってね、ある程度与えてしまうと粉状になって死んでしまうのだけれど、この時にもっとも魔獣が嫌がる性質が強くなるんだ。だからきっとグラドさんは大量のパラディア・ブルーを持って死の山へ調査に行ったのだと思うよ」

 もし、ゼロの言う通りグラドがパラディア・ブルーを死の山へ持っていったのなら無事かもしれない、一年経っても戻ってきていない点が気になるところではあるが、少し希望が持てた。

 もしかしたらパラディア・ブルーさえ用意出来れば俺達でも死の山を調査できるかもしれない。そうすれば、俺達でグラドの行方を調査して、死の山を調べる事もできる。俺はゼロにパラディア・ブルーを手に入れる方法を尋ねた。

「ゼロ、俺達にパラディア・ブルーの入手方法を教えてくれ!」

「君達は死の山に行くつもりかい? だとしたら好都合だ。僕は君達にグラドさんの調査を依頼しようとしていたからね」

「ゼロがグラドを調べることに何のメリットがあるんだ?」

「グラドさんが調べた死の山のデータが欲しいというのもあるけど、グラドさんの体を調べたいというのも本音だ」

「体を調べるっていっても有名人だし公でも散々スキル鑑定とかやってるんじゃないのか? それにもし、魔獣寄せについて調べたいならグラッジで調べればいいと思うぞ、とはいえ倫理から外れた人体調査なら全力で止めさせてもらうけどな」

「ワンと一緒にしないでくれ、僕は真っ当な学者だよ。実は一度グラドさんをスキル鑑定したことがあってね、その時にスキル鑑定の石版に興味深い記述を見つけたんだ。それは魔獣寄せには先の段階があるという記述をね」

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