見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第133話】イグノーラの方針

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 紺色の鎧を着る事が許されたイグノーラの精鋭『十三戦士』その内の一人バーサがフェイントを交えながら槍で俺に連続突きを放ってきた。エナジーストーンで戦った門番兄弟なみに鋭い攻撃は気を抜いたらガードした棍が吹き飛ばされそうな程の威力だ。

「キィヒヒッ! どうしたどうした? 死の海を越えた戦士の強さはそんなものかぁ? 防御だけじゃなく反撃してみろよ、オラァ!」

 流石は数多きイグノーラ兵で上位に立つだけのことはある、無駄のない洗練された槍術だ。双纏そうてんを使えば難なく片付けられるかもしれないが、魔量を温存したいし、大怪我もさせたくない。

 一旦俺は魔砂マジックサンドで空中に足場を作り、戦いから離れた。

「おい! なに逃げてんだ! さっさと降りてこい」

 真下でバーサが吠えているが、俺は無視してシルバーの方を眺めていた。どうやらシルバーと戦っている弟のサーカもバーサと同じ槍術使いのようだ。

 傍から見た感じだと、連続突きを繰り出しながら同時に風魔術で斬撃も加えているようだ。手数の多いシルバーのフリーバードですら、膠着状態にするのが精一杯に見える。元々素早い槍術に風の斬撃も加わっているのだから当然か。

 俺が相手している兄バーサの方はまだ舐めてくれているのか、槍での攻撃しか使ってきていない。もしかしたら油断させて途中から急に風魔術で手数を増やして虚を突く狙いがあるのかもしれないが。

 どっちにしても正面での一対一戦闘において奴の槍術は厄介だ。俺は奴が本気を出す前に勝負を決める一撃を叩きこむ作戦を考え、実行する事にした。

「だったら降りて戦ってやるよバーサ」

 バーサは上から飛び降りた直後に攻撃するかと思ったが、そんな小賢しいこともせず、嬉しそうに唇を舐めながら呟いた。

「やっと戦う気になってくれたか、さぁ一緒に戦いを楽しもうぜぇ!」

「悪いが楽しむ間もなく一瞬で終わらせてやる、サンド・ミラージュ!」

 狂戦士に付き合っている暇なんてない。俺は魔砂マジックサンドを二人の周囲で不規則に回転させて、霧のように視界の悪い空間を作り出して、バーサから離れた。

新技サンド・ミラージュで作り出した視界の悪い空間に取り残されたバーサは苛立ちながら俺の名を叫んだ。

「おいっ! また逃げるのかガラルド! さっさと俺の前に姿を現せぇぇ!」

 荒々しいバーサの声と回転砂の不規則な音が鳴り響く中、俺はこっそりとバーサの後ろ10メードの位置へ回り込んだ。ここならサンド・ステップを発動して一瞬だけ魔力を跳ね上げても、騒がしい空間ゆえに気が付けない筈だ。

 俺は砂粒一つ一つに神経を集中させて、サンド・ミラージュの中にいるバーサの位置を確認すると、足裏に魔力を集中させて地面を蹴った。

緋纏ひてん! サンド・ステップ!」

 自身の体が空気の壁と旋回する回転砂を突き破る。一瞬にしてバーサの背後に移動した俺は拳に魔力を込めてバーサの背中に叩き込む。

「サンド・インパクト!」

 拳の周りを魔砂マジックサンドが回転し、紺色の鎧に拳がぶつかる重低音と砂の乾いた音が鳴り響く。鎧は若干のヒビ割れを起こし、バーサは「ンギャァッ!」と潰れたカエルのようなうめき声をあげて、砂浜をゴロゴロと転がりながら飛んでいった。

 俺はバーサが起き上がってくるかもしれないと身構えたが、バーサは白目を剥いて体をビクビクとさせながら気を失っていた。俺の勝ちだ!

 久しぶりの対人戦だったから自身がどれ程成長していたのか分からなかったが、どうやらエナジーストーンで積んだ修練は思った以上に成果があったらしい。拳に残る感触とサンド・ステップの速度によって実感が湧いてくる。

 余談だが、コロシアムやジークフリート領でのブレイズも一撃でやられていた気がするが、兄弟の片割れは瞬殺される宿命にでもあるのだろうか、白目を剥いて倒れたままのバーサを見てそんな事を考えてしまった。

 その後、俺は周りを見渡し他の仲間たちの様子を確認してみたが、サーシャは順調に兵士の数を減らしているようだ。

三隻の船も順調に矢と魔術を防ぎながら陸との距離を離しているし、シルバーも少し疲れているようだが、何とかサーカを倒す事に成功したようだ。

 あとは、リリスとグラッジが無事でいてくれたら……俺は二人の姿を探していたが、海岸に二人の姿もソルの姿も見当たらなかった。一体どこで戦っているのかと困惑していると、海岸横の森から爆音と共に二つの竜巻が現れて、ぶつかり始めた。

 きっとソルとグラッジが戦っているはずだ、俺はすぐさま砂浜を離れて森へと走っていった。

するとそこには先に来ていたシルバーとサーシャ、そして肩で息をしながら疲弊しきったグラッジと余裕の表情を浮かべるソルの姿があった。

 どうやらグラッジの力をもってしてもソルの強さには敵わないようだ。背筋に冷たいものが走るのを感じながら、俺はグラッジに戦況を尋ねた。

「おい、グラッジ大丈夫か? もしかして、ソルはお前でもダメージを与えられないほどの強敵だったのか?」

「……はい、残念ながら。想像以上の強さです、まるで話に聞く五英雄のように」

 険しい顔をして語るグラッジに対して、ソルが笑いながら否定を始めた。

「はっはっは、お褒めに預かり光栄だが五英雄の強さは私の比ではないのだよ。彼らの葬ってきた魔獣の数はまさに鬼神の如き恐ろしさだからな。逆に言えば多くの魔獣を倒してくれた存在でもある五英雄グラドのことを歴史書に悪く書くつもりはない。もちろんグラッジのこともだ、だから安心して死ぬがいい」

 少し口が悪いが、きっとソルを含めたイグノーラ民はグラドを含めて五英雄に敬意を払っているのだろう。

それは現王グラハムの親族であることもそうだが、グラドが自身の魔獣寄せスキルのことを理解していなかった頃からずっと人々の為を思って魔獣と戦ってきたという経歴があるからだろう。

 グラハム王だってソルだって本当はグラッジを殺したくなんかない筈だ。本当に優しいグラドやグラッジに忌まわしい呪いを与えた神様が今は憎くてたまらない。

 だが、ぼやいていても何も解決しない。俺は今一度ソル達を説得してグラッジ生存の道を模索できないかと考え、ソルに問いかけた。

「ソル、本当にグラッジを殺すつもりなのか? イグノーラ総出で頑張れば、もしかしたらグラッジの魔獣寄せを何とかする手だって見つかるかもしれないぞ?」

「……我々だって最初はそのつもりだったさ。だから、最近まで討伐の動きがなかったんだ。だが、どれだけ頑張っても魔獣寄せが収まる事はなく、むしろ悪化していって国も疲弊するばかりだ。グラッジの魔獣寄せが発覚して以降、イグノーラの方針は『グラッジを放置して、魔獣は兵団で何とかする』という方向から『グラッジを捕らえて島へ流す』へと変わり、先日、『抹殺すべし』となったんだ、もうここまで来たらどうにもならないんだよ」

 ソルは唇を噛みしめて、苦しげな顔で答える。彼らの人生はグラド・グラッジの魔獣寄せに悩まされ続けるものであり、これまで本当に頑張ってきたのだろう。

俺はグラッジ最後の望みであるカリギュラ訪問について伝えるのもありかと考えたが、彼らはきっと最悪の事態を避ける為にカリギュラ行きを邪魔してグラッジ抹殺を選択するだろう。そう予想した俺は言葉を飲み込んだ。

 もう、ソルを退けるしか道はなさそうだ。俺は棍をソルの方へ向けて宣言する。

「どうやら、刃を収める気はないようだな、だったらこっちも全力で戦わせてもらう!」

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