見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

文字の大きさ
上 下
133 / 459

【第133話】イグノーラの方針

しおりを挟む

 紺色の鎧を着る事が許されたイグノーラの精鋭『十三戦士』その内の一人バーサがフェイントを交えながら槍で俺に連続突きを放ってきた。エナジーストーンで戦った門番兄弟なみに鋭い攻撃は気を抜いたらガードした棍が吹き飛ばされそうな程の威力だ。

「キィヒヒッ! どうしたどうした? 死の海を越えた戦士の強さはそんなものかぁ? 防御だけじゃなく反撃してみろよ、オラァ!」

 流石は数多きイグノーラ兵で上位に立つだけのことはある、無駄のない洗練された槍術だ。双纏そうてんを使えば難なく片付けられるかもしれないが、魔量を温存したいし、大怪我もさせたくない。

 一旦俺は魔砂マジックサンドで空中に足場を作り、戦いから離れた。

「おい! なに逃げてんだ! さっさと降りてこい」

 真下でバーサが吠えているが、俺は無視してシルバーの方を眺めていた。どうやらシルバーと戦っている弟のサーカもバーサと同じ槍術使いのようだ。

 傍から見た感じだと、連続突きを繰り出しながら同時に風魔術で斬撃も加えているようだ。手数の多いシルバーのフリーバードですら、膠着状態にするのが精一杯に見える。元々素早い槍術に風の斬撃も加わっているのだから当然か。

 俺が相手している兄バーサの方はまだ舐めてくれているのか、槍での攻撃しか使ってきていない。もしかしたら油断させて途中から急に風魔術で手数を増やして虚を突く狙いがあるのかもしれないが。

 どっちにしても正面での一対一戦闘において奴の槍術は厄介だ。俺は奴が本気を出す前に勝負を決める一撃を叩きこむ作戦を考え、実行する事にした。

「だったら降りて戦ってやるよバーサ」

 バーサは上から飛び降りた直後に攻撃するかと思ったが、そんな小賢しいこともせず、嬉しそうに唇を舐めながら呟いた。

「やっと戦う気になってくれたか、さぁ一緒に戦いを楽しもうぜぇ!」

「悪いが楽しむ間もなく一瞬で終わらせてやる、サンド・ミラージュ!」

 狂戦士に付き合っている暇なんてない。俺は魔砂マジックサンドを二人の周囲で不規則に回転させて、霧のように視界の悪い空間を作り出して、バーサから離れた。

新技サンド・ミラージュで作り出した視界の悪い空間に取り残されたバーサは苛立ちながら俺の名を叫んだ。

「おいっ! また逃げるのかガラルド! さっさと俺の前に姿を現せぇぇ!」

 荒々しいバーサの声と回転砂の不規則な音が鳴り響く中、俺はこっそりとバーサの後ろ10メードの位置へ回り込んだ。ここならサンド・ステップを発動して一瞬だけ魔力を跳ね上げても、騒がしい空間ゆえに気が付けない筈だ。

 俺は砂粒一つ一つに神経を集中させて、サンド・ミラージュの中にいるバーサの位置を確認すると、足裏に魔力を集中させて地面を蹴った。

緋纏ひてん! サンド・ステップ!」

 自身の体が空気の壁と旋回する回転砂を突き破る。一瞬にしてバーサの背後に移動した俺は拳に魔力を込めてバーサの背中に叩き込む。

「サンド・インパクト!」

 拳の周りを魔砂マジックサンドが回転し、紺色の鎧に拳がぶつかる重低音と砂の乾いた音が鳴り響く。鎧は若干のヒビ割れを起こし、バーサは「ンギャァッ!」と潰れたカエルのようなうめき声をあげて、砂浜をゴロゴロと転がりながら飛んでいった。

 俺はバーサが起き上がってくるかもしれないと身構えたが、バーサは白目を剥いて体をビクビクとさせながら気を失っていた。俺の勝ちだ!

 久しぶりの対人戦だったから自身がどれ程成長していたのか分からなかったが、どうやらエナジーストーンで積んだ修練は思った以上に成果があったらしい。拳に残る感触とサンド・ステップの速度によって実感が湧いてくる。

 余談だが、コロシアムやジークフリート領でのブレイズも一撃でやられていた気がするが、兄弟の片割れは瞬殺される宿命にでもあるのだろうか、白目を剥いて倒れたままのバーサを見てそんな事を考えてしまった。

 その後、俺は周りを見渡し他の仲間たちの様子を確認してみたが、サーシャは順調に兵士の数を減らしているようだ。

三隻の船も順調に矢と魔術を防ぎながら陸との距離を離しているし、シルバーも少し疲れているようだが、何とかサーカを倒す事に成功したようだ。

 あとは、リリスとグラッジが無事でいてくれたら……俺は二人の姿を探していたが、海岸に二人の姿もソルの姿も見当たらなかった。一体どこで戦っているのかと困惑していると、海岸横の森から爆音と共に二つの竜巻が現れて、ぶつかり始めた。

 きっとソルとグラッジが戦っているはずだ、俺はすぐさま砂浜を離れて森へと走っていった。

するとそこには先に来ていたシルバーとサーシャ、そして肩で息をしながら疲弊しきったグラッジと余裕の表情を浮かべるソルの姿があった。

 どうやらグラッジの力をもってしてもソルの強さには敵わないようだ。背筋に冷たいものが走るのを感じながら、俺はグラッジに戦況を尋ねた。

「おい、グラッジ大丈夫か? もしかして、ソルはお前でもダメージを与えられないほどの強敵だったのか?」

「……はい、残念ながら。想像以上の強さです、まるで話に聞く五英雄のように」

 険しい顔をして語るグラッジに対して、ソルが笑いながら否定を始めた。

「はっはっは、お褒めに預かり光栄だが五英雄の強さは私の比ではないのだよ。彼らの葬ってきた魔獣の数はまさに鬼神の如き恐ろしさだからな。逆に言えば多くの魔獣を倒してくれた存在でもある五英雄グラドのことを歴史書に悪く書くつもりはない。もちろんグラッジのこともだ、だから安心して死ぬがいい」

 少し口が悪いが、きっとソルを含めたイグノーラ民はグラドを含めて五英雄に敬意を払っているのだろう。

それは現王グラハムの親族であることもそうだが、グラドが自身の魔獣寄せスキルのことを理解していなかった頃からずっと人々の為を思って魔獣と戦ってきたという経歴があるからだろう。

 グラハム王だってソルだって本当はグラッジを殺したくなんかない筈だ。本当に優しいグラドやグラッジに忌まわしい呪いを与えた神様が今は憎くてたまらない。

 だが、ぼやいていても何も解決しない。俺は今一度ソル達を説得してグラッジ生存の道を模索できないかと考え、ソルに問いかけた。

「ソル、本当にグラッジを殺すつもりなのか? イグノーラ総出で頑張れば、もしかしたらグラッジの魔獣寄せを何とかする手だって見つかるかもしれないぞ?」

「……我々だって最初はそのつもりだったさ。だから、最近まで討伐の動きがなかったんだ。だが、どれだけ頑張っても魔獣寄せが収まる事はなく、むしろ悪化していって国も疲弊するばかりだ。グラッジの魔獣寄せが発覚して以降、イグノーラの方針は『グラッジを放置して、魔獣は兵団で何とかする』という方向から『グラッジを捕らえて島へ流す』へと変わり、先日、『抹殺すべし』となったんだ、もうここまで来たらどうにもならないんだよ」

 ソルは唇を噛みしめて、苦しげな顔で答える。彼らの人生はグラド・グラッジの魔獣寄せに悩まされ続けるものであり、これまで本当に頑張ってきたのだろう。

俺はグラッジ最後の望みであるカリギュラ訪問について伝えるのもありかと考えたが、彼らはきっと最悪の事態を避ける為にカリギュラ行きを邪魔してグラッジ抹殺を選択するだろう。そう予想した俺は言葉を飲み込んだ。

 もう、ソルを退けるしか道はなさそうだ。俺は棍をソルの方へ向けて宣言する。

「どうやら、刃を収める気はないようだな、だったらこっちも全力で戦わせてもらう!」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。 そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。 絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。 そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...