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【第124話】イグノーラの総意

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「ふわぁ~、ここがイグノーラの正門ですか、間近で見るとヘカトンケイル像ぐらい大きいですね」

 リリスが高さ15メード程はありそうなイグノーラ入口の大扉を見上げながら呟いた。こんなに馬鹿デカい扉だと普通に一人、二人で押しただけでは開けるのも難しそうだ。現に入口前には十人以上の兵士が武装して立っている。

 俺は早速入口にいる兵士に話しかけてみた。

「すみません、俺達は他国から来たハンターと技術者の団体なのですが、イグノーラに入れてもらっても構いませんか?」

 俺が問いかけると、兵士の中で一番貫禄のある髭面の中年兵士が答えてくれた。

「ああ、入ってもらって問題ない。ただ、申し訳ないがしばらくの間、病院などの一部施設の利用は我が国の兵士達が優先して使わせてもらう。その理由は現在我が国が兵士達を中心にとても忙しい状況だからだ。多少歓迎が雑になるのはご承知いただきたい」

「そうですか、分かりました。一つ質問なのですが、何故イグノーラは忙しいのですか?」

「……話すと長くなるから、詳しくはギルドにでも行って聞いてくれ。休憩中のハンターとかなら詳しく教えてくれることだろう。それじゃあ、扉を開くぞ」

 そして、兵士達は一斉に大きな扉を押して、街中への道を開いてくれた。門を超えて先に進むとそこには今までの人生で見た事がない奇妙な景色が広がっていた。

 なんと、街が迷路のように壁が立ち並ぶ複雑な形状をしているのだ。町の至る所に地図を載せた掲示板と見張り台が等間隔で並んでいる。

 街の中に入って、改めて内側から街を全体を囲む城壁を見てみると、城壁の内側もまた迷路のようになっている。

丘からイグノーラを眺めた時にはただの分厚い城壁に見えたが、実際は内側の厚み50%程度は迷路と化していたようだ、それでも外側の部分だけでかなりの分厚さがあるから、防御壁としては優秀なのだが。

 こんなに変わった町は見た事がない、早く町の成り立ちが知りたくなった俺は、掲示板に貼ってある地図を確認して、すぐさまギルドへ向かった。

 ギルドまでの道のりは地図を確認しながらでも中々手間のかかる道のりで、到着する頃にはクネクネした移動と地図の見過ぎで頭が少し疲れた。ここの住人は毎日こんな移動をしているのだろうか。

 俺達が辿り着いたギルドの前には看板が立っていた、どうやらギルドの名前は『エッケザックス』というらしい。確か神話によるとエッケザックスは無傷の剣と名高い武器の名前らしい、ギルド『ストレング』よりもよっぽど良い名前だ。

 俺達はギルドの扉を開いて、一直線に受付へ向かった。ハンターのシステムがこれまで旅してきた国々と同じかは分からないが、どっちにしても情報収集と資金稼ぎの面でハンター登録しておくに越したことはないだろう。

 受付嬢に話しかけると早速イグノーラのギルドシステムを教えてくれた。とは言っても仕組みはほとんどシンバードと一緒だった。

どうやらイグノーラを中心とした周辺国は同じ受注形態を取っているらしく、身分によって制限がかかるスターランクのようなものはないらしい、ディアトイル出身の俺としてはありがたい限りだ。

 強いて違いを挙げるとすれば、他国と比べて魔獣の数が多い分、魔獣ごとに討伐報酬の差が大きく、報酬額も毎日変動しているらしい。それだけイグノーラにとって魔獣討伐は急務であり、重要なのだろう。

 受付嬢は早速、討伐依頼書が貼られている掲示板の前まで案内してくれた。その掲示板には大小さまざまな報酬額が設定された依頼書があり、ざっと数えても500枚近い枚数が貼られている。

 シンバードですら四つのギルド全て足しても70枚ぐらいしか貼られていないことを考えるととんでもない数である。

 それだけでも充分驚愕なのだが、リリスは掲示板の一番上に貼られている依頼書を見た瞬間、両手で口を抑えて驚きの声をあげた。

「えぇっ! そんな、有り得ない……」

 ただならぬ雰囲気を感じて俺も視線を上に向けると、そこにはこう書かれていた。



――――白銀級 捕縛依頼 グラッジ・ローラン 報酬額 一億ゴールド――――



 なんと、俺達にとって恩人であるグラッジがイグノーラ最大の賞金首になっているのだ。あんなに優しい奴がこれだけの賞金首になるなんて意味が分からない、俺はすぐさま受付嬢に尋ねた。

「聞かせてくれ! どうしてこんな普通の少年がこれだけの懸賞金をかけられているんだ?」

「ガラルド様御一行は死の海を越えてイグノーラへ来られたと仰っていましたし、ご存知ないのも無理はありませんね。このグラッジという少年はイグノーラ……いえ、周辺国すべてに滅びをもたらしかねない危険な存在なのです、報酬額一億ゴールドでも安いぐらいですよ」

「一体、グラッジが何をしたって言うん――――」

――――おぉぉ~~いぃ! 国王の演説が始まるぞ、広場へ集まれぇ――――

 俺が言葉を言い切る前にギルドの外から男の声が聞こえた。そのすぐ後に町の中心からけたたましい鐘の音が鳴り響いた。ギルド内の人間も外にいる民衆も全員が一斉に町の中心――城の前にある広場の方へと駆け出した。

 俺達と話していた受付嬢も「また後で受付へお尋ねください」とお辞儀をして去っていった。国王の演説はそれだけ重要なものなのだろう、俺達も広場へ行く事にした。

 民衆の流れについていき広場へ辿り着くと、そこには視界一面に民衆が集まっていた。イグノーラは迷路のような場所が多かったが、王城周りの広場だけは遮蔽物が一切なく、人が多くても解放感があった。

 ざわめく民衆に耳を傾けると、聞こえてきた会話のほとんどがグラッジについてのものだった。

「王は本格的にグラッジの捕縛を進めるのだろうな」

「子供とは言え、私達が被害を受けているのは確かなんだから、王には思い切って決断してもらいたいものね」

「城壁をはじめとした防備を整えるのも重要だが、優先すべきはやはりグラッジの事だろうな」

 この国は一体何なんだろう……町の異様な雰囲気に吐き気すら感じていると、城のバルコニーから王と思わしき、貫禄のある男が現れた。男は煌びやかなローブをはためかせ、杖を天に掲げると、太く威厳のある声で民衆へと語り掛けた。

「我が民よ、防衛に忙しい中、よく集まってくれた。皆予想はついておるだろうが、今回集まってもらったのはグラッジについて話す為だ。皆も知っての通り、グラッジは生まれ持っての特殊な体によって、領内・領外問わず多くの魔獣を呼び寄せてしまう性質を持っている。ここ数年、ずっとイグノーラは魔獣の襲撃に苦しめられている以上、我々はこの状況を何とかしなければならない!」

 王の口から驚愕の事実が語られた、まさかグラッジの体にそんな恐ろしい呪いが宿っていたなんて。思えば、グラッジと出会ってからは魔獣に襲われる機会が格段に増えていた。

 俺達が度々魔獣に襲われていたのは単にイグノーラ周辺に魔獣が多く、活性化しているだけかと思っていたが、理由はそれだけじゃなかったようだ。だからグラッジは頑なに人との接触を避けていたのだと理解できた。

 この事実を知った今ならグラッジの悩みを聞いてやることが出来るのにと、歯がゆい気持ちが湧いてくる……。そして、王は更に話を続ける。

「今まで、我が城の兵士やハンター達の協力のもと、グラッジの捕縛に務めてきたが、武力行使に出た我々に対し、腕の立つグラッジはこちらに一つも傷を負わせないまま今日まで逃げ切っている、つまりは完全敗北だ」

 魔獣の手強いイグノーラならきっと兵士もハンターも優秀だろうに、そんな連中相手に傷を負わせず逃げ切るグラッジは、やはり優秀過ぎるほどに優秀だ。個人的には友人であるグラッジにそのまま逃げ切ってほしい気持ちはあるが、イグノーラの人にも傷ついてほしくない。

 王がどういう決断を下すか、見守っていると、王は手を震わせながら、下を向いて数秒間沈黙したあと、意を決した顔で宣言した。

「これまでグラッジは子供という事もあり、皆に生け捕りを命じてきた。しかし、もう手段は選んでおられぬ。今、この時をもってグラッジの討伐を命ずる! 何が何でもグラッジを殺すのだ!」


――――ワアアアアァァァァァ――――


 広場の民衆は満場一致で歓声をあげた。ここにきて最悪の事態となった、まさか一国まるごとグラッジの命を狙う状況が出来上がってしまうとは……。

ガーランド団は只々黙って広場で立ち尽くすしかなかった。



=======あとがき=======

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