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第121話】グラッジの戦闘力
しおりを挟む「ガラルド君、起きて、ガラルド君ってば!」
誰かが俺の体を激しく揺すりながら叫んでいる。葉っぱの布団があまりにも寝心地が良いから離れたくはないのだが仕方がない。俺がゆっくりと瞼を開くと、そこには険しい顔をしたサーシャがいた。
「おはようサーシャ、朝っぱらから大声を出してどうしたんだ?」
「口で言うより見てもらった方が早いよ。ほら、こっちに来て」
サーシャは強引に俺の腕を掴むと、千年樹頂上部の端の方まで俺を引っ張っていった。周囲の視界を塞いでいた木の枝や葉っぱが徐々に少なくなっていき、端っこスレスレまで足を運ぶと、目の前に広大な森林地帯が広がっていた。
俺達がいる千年樹より低い木々が所狭しと立ち並び、そのほとんどが傘の様に大きな葉っぱを付けていて、色も緑、赤、黄色など様々でカラフルなのだ。
それでいて、ツタや苔が普通の森林地帯よりも蔓延っており、人の手がほぼ入っていないこともあり神聖さや荘厳さを感じさせる、日の出直後の朝日も相まってか一層ジーンとくるものがある。
一部の魔術師には風景をそのまま紙に転写する光属性魔術を使える者もいるらしいから、そんな奴がガーランド団にいれば風景を転写して持って帰って、シンやアイアン達に見せてやれるのになぁ……と少し悔しい気持ちが湧いてきた。
「綺麗な森林風景だな、千年樹のてっぺんという抜群のポイントで眺められているのも大きいとは思うけどな。で、サーシャはこれを見せる為に俺を起こしたのか?」
「そんな訳ないでしょ! 見てもらいたいのは千年樹の根元……下の方だよ!」
サーシャにしては珍しい語気が強めの否定をされて内心しょんぼりとしながら下を眺めると、そこには見た事のない生物がいた。
体格は全長20メードを超えており、頭部も体も爬虫類的ではあるものの、筋肉質で顔は奥行きのある長さがあって、牙も鋭い。どことなくトカゲ感……いや、ドラゴン感のある出で立ちだ。
前脚は極端に短いものの、後ろ脚は瞬発力がありそうな逞しい足をしている、一度追いかけられたら逃げ切れなさそうだ。
「あれは……古文書で見た事があるタナトスかもしれないよ。何万年も前の大昔にはね、恐竜種という種族がいて、最強の生物として恐れられていたんだって。その中でも割と数が多くて猛威を振るっていたのがタナトス類らしいよ」
「恐竜種……うへぇ、そんな厄介な奴がイグノーラ領にいるのか、こりゃ陸地の旅も骨が折れそうだな。だが、今のところ俺達を見つけている訳じゃないし、放置しとけばいいんじゃないか?」
「そういう訳にはいかないよ、ガラルド君が寝ている時もタナトスは千年樹に体当たりを繰り返していたんだよ。どうやら樹を揺らす事で落ちてくる木の実を食べているようだけど、このままじゃ千年樹を折られちゃうかも」
サーシャが説明してくれたと同時に、タナトスは軽く唸り声をあげて千年樹に頭突きをかましてきた。鈍い衝突音が鳴り響き、足元が揺れ、葉っぱがガサガサと擦れ合う音が俺達の耳に飛び込んできた。
流石の揺れにリリス達も目を覚まし、俺とサーシャがいるところまで駆け寄ってきた。逆に言えば最初数回の体当たりで起きなかったサーシャ以外のメンバーは鈍すぎやしないだろうか……相当疲れていたせい深い眠りについてしまって気が付けなかったと思いたい。
どう対処すればいいかと話し合っていると、グラッジが俺達の元へ駆け寄ってきた。
「みなさん、熟睡していたところ申し訳ないです。あの生き物はタナトスというんですけど、魔獣じゃないくせに魔獣よりずっと強くて厄介な生き物なんです。だけど、強さに比例するようにお肉の味は絶品だから僕があいつを倒してお肉を頂いてきます、皆さんはのんびりしててくださいね」
「ちょ、待ってく――――」
俺が止めるよりも早くグラッジは千年樹から飛び降りてしまった。塔の様に高い千年樹から飛び降りて怪我をしないか心配になり、身を乗り出して下を確認すると、グラッジは何もないところから突然、石の剣を取り出して千年樹の表面に擦り付けながら落下の勢いを緩和した。
思い切りの良さもさることながら、気になるのは長剣だ。鞘もカバンも持っていないのに、突然刃渡りの長い剣が出現したのはスキルか何かだろうか?
ズルズルと樹を下っていったグラッジはタナトスの目の前まで来ると、樹から跳躍してタナトスの鼻の上に立った。新たに赤い短剣のようなものを突然手元に取り出したグラッジは、それをタナトスの鼻頭に投げ刺した。
するとタナトスの鼻から突然湯気が出始めて、苦しそうにのたうち回った。あれは火の魔石を宿した短剣だろうか。昨日もグラッジは何もないところから光魔石を取り出していたように見えたから、きっとあれは何かのスキルに違いない。
千年樹の上から眺めていることもあり、細かい所までは見えにくいが、何とか見極めたい、俺はグラッジの手元を注視することにした。
一方、タナトスは鼻を赤くして、目に涙を溜めながら憤っていた。まるで激辛料理でも喰わされたかのような表情だ。
そんなタナトスを尻目にグラッジは既に動き出していた。樹を降りる際、緩衝の為に使っていた石の長剣でタナトスの後ろ脚を斬りつけたのだ。
「ギャォォォン!」
両方の後ろ脚を斬りつけられたタナトスは呻き声をあげながら膝を折り、尻をついた。これで勝負は決まったかと思ったが、タナトスはまだ諦めてはいなかった。
なんとタナトスは座ったままの姿勢から180度旋回し、尻尾でグラッジを吹き飛ばしたのだ。グラッジの体は勢いよく千年樹の幹に叩きつけられた。
このままではマズい、すぐにリリスのアイ・テレポートで加勢しなければと俺はリリスの手を握った。
「アイ・テレポート!」
リリスも俺の考えが分かってくれていたようで直ぐにグラッジの横の地面まで瞬間移動してくれたのだが、叩きつけられたはずのグラッジの顔は笑っていた、まるで俺達の心配は無意味だと言わんばかりに。
「活きのいいタナトスだね、これなら尻尾を切り落としても森の中で生きていけるかもしれないね。尻尾を生え直したらまたおいで」
そう呟いたグラッジは地面に着地すると、足の裏を緑に発光させ始めた。魔術は使えないと言っていたはずだが、足裏からは圧縮された風の魔力を感じる。そのまま姿勢を低くしたグラッジは、足元に爆風を発生させて、高速でタナトスの尻尾にしがみついた。
そして、今度は手元に青色の魔力を溜めながら叫んだ。
「大きい武器を作ると疲れるけど、太い尻尾を切り落とすには仕方ないよね。出てこい、アイス・スライス!」
すると、グラッジの右手に自身の五倍はあるであろう馬鹿デカい氷の斧が出現した。その刃は離れた位置にいる俺達にも冷気が届く程冷たく、刃は向こうの景色が透けて見える程に薄い。
グラッジは小さい体を豪快に縦旋回して、巨大な冷刃を振り回し、一刀のもとタナトスの尻尾を切り落とした。
「ギェェェァァッッ!」
タナトスは鼻に短剣を刺された時とは比べ物にならない悲鳴をあげると、振り返ることもなく全力でこの場から逃げていった。ドスンと落ちた尻尾を前にグラッジがタナトスの身を案じながら、これからのことを教えてくれた。
「タナトス種は生命力も回復力強いからあれぐらいで死ぬことはないと思いますし、二百日ぐらいすれば尻尾はまた生え直ると思います……ただ、他の生き物から狙われなければいいんですけど。まぁ何はともあれこれで、しばらくは千年樹に体当たりする事はないと思いますから、僕達の寝床は守られましたし、千年樹で暮らす動物たちも平穏に過ごせるはずです」
グラッジは千年樹の中で暮らす生き物とタナトスの両方のことを考えて、戦っていたようだ。尻尾で猛打を喰らうぐらいに危険な相手だというのに優しい奴だ。
俺はますますグラッジに興味が湧いてきた。出生を聞かれるのは避けているような気がするからせめて能力だけは聞いておきたいところだ、俺はグラッジに尋ねた。
「グラッジ、よかったら君の能力がどういったものか教えてくれないか? 見た事がないタイプだから興味深いんだ」
「あれだけ派手に戦っていたら気になりますよね、分かりました。ガーランド団の全員に教えるので、一旦、昨日料理を食べた最下部の洞窟に皆さんを集めてもらっていいですか?」
「分かった、よろしく頼む」
そして、ガーランド団の面々は千年樹の上から洞窟へと降りてきて、グラッジの周りに集まった。
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