見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第113話】鉄仮面

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 エナジーストーンに到着してから早50日が経とうとしていた。その間俺達はひたすら修行に明け暮れていた。一時はドライアドの代表になる予定だった俺が誰よりも施政から離れてしまっている気がするが考えないようにしよう。

 俺達が修行をしている間にもサーシャ率いる死の海渡航準備組も頑張っていたようで、五日に一通ぐらいのペースで俺達に手紙を送ってくれたこともあり、こまめに近況を知ることができた。

 パープルズは船の表面加工に使うスライグラスの運搬を順調に進められているらしい。ウィッチズガーデンとシンバードを四往復すれば全て運びきれるらしく、手紙を貰った時点で既に三往復を終えた所らしいので無事任務が達成できそうで何よりだ。

 少し残念だったのは未だにサーシャの実の両親に繋がる情報を得られていないという点だ。実家自体は見つけられたらしいのだが、サーシャが以前言っていた通り、家には家具以外ほとんど何も残っておらず、有力な情報は得辛い状況のようだ。

 サーシャの実の両親の名字『ネリーネ』をヒントに現地の人から情報を集めたらしいが、十年近く前という事もあってか、両親の存在自体を知っている人を見かけることはあっても、有力な情報は得られていないらしい。

 サーシャの事を思うと気の毒なのだが、手紙の中でサーシャは「スライグラスが無事に運べているだけでもラッキーだよ」と前向きに捉えていたから、俺も暗い気持ちに蓋をしてサーシャの事を見習おうと思う。

 そんな事を考えていると突然リリスが駆け寄ってきて、俺の顔を覗き込んだ。

「どうしたんですかガラルドさん? 妙に険しい顔をしていましたけど」

「ああ、サーシャから来た手紙の事を考えていてな。中々上手くはいかないなぁって」

「こればっかりは運もありますし仕方ないですよ、地道に頑張っていくしかないですね。むしろ私は定期的に手紙が来ているだけ良かったと思ってます。ここ最近ヒノミさんレナさん率いる帝国調査班から手紙が来なくなっちゃいましたから心配です……」

 俺もリリスと同じ事を思っていた。以前はレナ達から十日に一通ぐらいのペースでドライアドに手紙が来ていたらしく、その内容も『リリスの木彫り細工の製造元を見つけた』といったものや、モードレッドの探し人『フィア・リングウォルド』が子供の頃に住んでいた場所が分かった等々、有力な情報が多かった。

 このまま順調に帝国で調査を進められるかと思ったのだが……もしかするとレナ達が嗅ぎまわっているのが帝国にばれて捕まってしまったのかもしれない。帝国にはただの調査にすら難癖をつけて捕縛してきそうな危うさがあるからだ。

「もう俺達でレナ達を探しに行った方がいいのかもしれないな……」

「気持ちはわかりますが駄目ですよガラルドさん。私達は船が完成したら直ぐにイグノーラに行かなければいけません。船の完成も近いですから、今から帝国とコメットサークル領を往復する時間もありません。何かを選ぶという事は他の何かを選ばないことなんですから」

 リリスは拳を強く握りしめ、口を真一文字にして自分を抑えていた。俺達が死を覚悟で死の海へ挑戦するように、レナ達もまた覚悟を決めて帝国へ行ったのだから、俺も事実を受け入れなければならない。

 リリスに至っては自身の過去を調べてもらうために友人を見送った訳だから精神的苦痛は俺以上だろう。とにかく俺達には彼女たちの無事を祈るしかなさそうだ。

 俺は暗くなった雰囲気を変える為にリリスへ近況を尋ねた。

「そう言えば修行の調子はどうだ? エナジーストーン内は体力・魔量の回復が早いから修行効率は最高だとは思うが」

「はい、抜群ですね。魔術もスキルも肉体美も益々磨きがかかっていますよ。アイ・テレポートは連続使用回数が増えましたし、新技だって開発しちゃいました」

「肉体美はともかく新技は気になるな、後で披露してくれよな」

「はい、構いませんよ。それと、調子がいいのは修行だけではありません。外交だって絶好調です。私は単身コメットサークル領近くの港町セイレーンに行って町長と話をつけて、格安で船の停泊させてもらって燃料魔石の補充もしてもらう約束をしてきました。これでドライアドとシンバードの財布にも優しくなりますよね」

 俺が兵士・ハンター達に修行をつけている間にそんな事をしていたとは……リリスもサーシャとはまた違ったベクトルで施政力があるようだ。ますます俺の立場がなくなっていきそうだが仲間の活躍は嬉しい限りだ。

 それからも俺達は忙しい日々を過ごしながら船の完成を待ち続けた。

そして、数日後――――遂にサーシャから船を港町セイレーンへ運ぶという手紙が届いた。俺達はエナジーストーンの町長にお世話になったお礼をした後、港町セイレーンへ向かった。







 俺達は数時間馬を走らせ昼前に港町セイレーンへ辿り着いた。どうやらこのセイレーンは漁業以上に歌と踊りを愛する町のようで、至る所で人々が歌や踊りに励んでいる。透き通った綺麗な海の近くには傘の様に大きな葉を宿す木々が等間隔で並んでいて、町の至る所に踊り子を模した石像の数々が設置されていて、独特の風景を生み出している。

 俺目線でだが健康的な美人も多く、眼福とはこの事だとニヤついていると、リリスに強く頬をつままれた。

嫉妬で頬を摘まんだのか、気を引き締めろという意味で頬を摘まんだのかは分からないがどっちにしてもしっかりしなければいけないと自分に喝を入れた、でも、やっぱりいつかまたプライベートでセイレーンに来たいものだ。

サーシャ達の船が来るのは夕方ごろで出発も明日の朝だから、今のうちにしっかり体を休めておくべきだと俺達は海岸で寝転がっていた。

 久しぶりにサーシャ達に会えるのを楽しみにしながら海を眺めていると、こげ茶色をした縦にも横にも大きい三隻の船が海岸の横を素早く通っていくのが見えた。リリスは動く船を指差しながら言った。

「ガラルドさん! あの船はサーシャちゃん達ですよね? でも予定よりずっと早い到着ですけど何かあったんですかね?」

「船が必要以上に素早く動いていたのも気になるな、あのスピードだと恐らく燃料炉に魔石をガンガン突っ込んで急いでいたんだろうな。時間を前倒ししてセイレーンに来たってことはよくない事があったかもな、急いで追いかけよう」

 そして、俺達は港に入っていく三隻の船を追いかけた。船が港に停止すると同時にすぐに船室からサーシャが飛び出し、俺のところまで駆け寄ってきた。

「ハァハァ、ガラルド君、大変なの……直ぐに物資と燃料を補給して死の海にいかないと……」

「落ち着けサーシャ、どっちみち燃料の補給スピードは一定だし、待たなきゃいけない。皆が準備をしている間に俺とリリスに何があったかを教えてくれ」

「パープルズの四人がスライグラスの運搬を三往復させ終わった後、最後の一往復分のスライグラスをウィッチズガーデンからシンバードに運んでいる道中に事件が起きたの。パープルズの前に突然『鉄仮面と紺色のローブを羽織った謎の戦士』が現れて、荷馬車を襲い始めたの」

「何だと? それで皆はどうなったんだ?」

「パープルズの四人と一部のハンターさんが囮になって鉄仮面達を引き付けたから、荷馬車は無事だったの、だからスライグラスも何とかシンバードに届いて船の表面は加工できたの。だけどフレイムさん達は馬で逃げ回っているうちに何度も魔術を体に受けて怪我をしちゃって……荷馬車の到着から一日遅れで何とかシンバードには辿り着けたんだけど……」

「最初は荷馬車を襲ってきたのに途中からパープルズへの攻撃を優先させたのか、何が目的なんだそいつら……。それでパープルズは今シンバードで休んでいるのか?」

「ボロボロの四人を一点に留まらせておくと狙われてしまうかもしれないから船の中で休んでもらってるよ。船に乗ってからは眠って休むことに専念してもらおうと思ってサーシャは最低限の話しか聞いてないの。それに鉄仮面達は今も小型の船でパープルズとサーシャ達を追いかけてきているから、ずっとバタバタしていたの。距離を離した今も安心は出来ないから早く逃げないと!」

「分かった、とりあえず物資・燃料補給をしている間に船室で休んでいるフレイム達に話を聞きに行こう」

 ゆっくり出発できると思っていたのに、想定外に忙しく危険な状況になってきた。前方には死の海、後方からは追跡者という厳しい状態だが、ここを何とか乗り切らねば。

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