見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第111話】ウィッチズガーデン

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 シルバーを俺達の仲間に加えてから早くも二十日が過ぎようとしていた。俺達は綿密な話し合いの結果、死の海を越える為の船をシンバードで製造する事を決めて作業に当たっていた。

 最初はコメットサークル領のはずれにある港町セイレーンで船を作った方が死の海から近くていいと考えていたがシルバーが異を唱えたのだ。

 船自体は運河を経由して死の海の手前まで運ぶことは可能だから、製造のしやすさで場所を選んだ方がいいという考えらしい。シルバーの目論見通りシンバードはジークフリートや各国との交流がしやすい立ち位置な事もあり、資材の搬入がかなりスムーズに進んだ。

 おまけに技術者を各国から呼び出しやすく、設備も整っているから作業効率も最高だ。シルバーの柔軟な発想には感心させられるばかりだ。

 そんな順調なシンバードの様子を確認するべく俺とサーシャはドライアドを出てシンバードを訪れていた。

一応故郷ディアトイルではそれなりに物作りに携わっていた俺は船廠を覗くのを楽しみにしていたのだが、そんな気持ちをかき消されるような言い争いが船廠の奥から聞こえてきた。

「何を言っとるのじゃシルバー、そんな形状じゃたちまち船が荒波に揉まれて終わりじゃないか。大人しくワシの言う通りにしとけ!」

「逆だよ親父、荒波に揉まれない為に船の幅を広くして、マストに風属性の魔石を大量加工するんじゃないか、大事なのは全体のバランスなんだよ!」

「ちょっと世界を旅したからって偉くなった気になっておるんじゃないかぁ? こっちは職人歴40年越えのベテランじゃぞ?」

「あー、やだやだ、年寄りはすぐ職歴の長さを盾にしやがる。大事なのは広い知識と検証なんだよ!」

 どうやらアイアンとシルバーが造船方法で揉めているようだ。設計図を見る限り二人の考えは大体一致しているようだが、細部で意見が割れているようだ。専門家ではない俺からしたらどちらの意見も賢くて正しく見えるのだが。

 息継ぎを忘れるぐらいに言い合っている二人だったが、サーシャがすぐさま間に入って二人を止めた。

「お爺ちゃんもお兄ちゃんも仲よくしなきゃサーシャ怒るよ! それ以上続けるならお婆ちゃんにも言いつけちゃうんだから!」

「ご、ごめんよサーシャ、お爺ちゃんが悪かった……」

「わ、わりぃ、俺もつい熱くなっちまった……」

 なんとサーシャは一発で二人の言い争いを鎮めてしまった、これが親からも兄からも可愛がられる歳の離れた末っ子妹の力なのだろうか?

 その後もサーシャは他の技術者に声をかけて、潤滑油としての役目を果たしていた。俺も何か役に立てることはないかと現場をうろついていると設計図を眺めながら唸っているボビの姿があった。

「どうしたんだボビさん、何か問題でも起きたのか?」

「お、ガラルド君も来ていたのか。実は船体の表面加工に悩んでいてな。普通の海と違い、荒々しい波が襲ってくる死の海では、勢いの良い波に混じって砂利や小型の海棲魔獣が船体を傷つけてくると予想していてね、どうにか少しでも耐久性を上げたいのだが……」

 設計や組立ではシルバー達の役に立てないかもしれないが、表面加工ならばもしかしたら役に立てるかもしれない。俺は船の素材を触りながら久々に素材図鑑マテリアルの知識をフル稼働させた。

 頑丈な素材を使っていて、なおかつ曲線的な船の表面なら衝撃はある程度緩和できるかもしれないが、ボビの言う通り砂利や小型の海棲魔獣の爪などは切創を多く作りかねないだろう。

 となると擦り傷が出来辛いぬめりの様な加工が出来ればベストだが……自分の中にある知識を片っ端から引っ張り出し、自分なりの案を答えた。

「俺個人としては瞬間的な切創を防げればいいと思うから滑り加工をおすよ。俺は一度も実物を見た事がないんだが、スライグラスという一見ただの雑草にしか見えない草があってな。それを煮詰めてドロドロにしてから塗ると、ツルツルになるんだ。高温には弱いが海に浸かって進むんだから問題はないはずだ」

「ほぉ~、噂には聞いていたが触れた事のない素材でも性質が分かるという素材図鑑マテリアルの能力は本当に便利だな。それだけ優秀な能力なら、先天スキルと言ってもよさそうじゃないいか?」

「いやいや、褒め過ぎだよボビさん。結局『全知のモノクル』があれば見るだけで、ほぼ全ての物質の詳細が分かるしな。分からない事が結構ある素材図鑑マテリアルは完全に下位互換さ」

「いや、全知のモノクルは結局のところ見たものしか詳細が分からないぶん『調べる』という一点にしか特化していないから応用が効きにくい。一方、頭の中に多くの知識が入っているガラルド君は欲しい情報から逆算して選ぶことが出来るから、技術者としてはありがたい限りだよ。早速ラナンキュラさんとシルバーに報告してくるよ」

 そして、ボビは駆け足で俺の案を伝えに行った。ボビが伝えに行って五分ほど経った頃、満面の笑みを浮かべたシルバーが俺の肩を叩きながら称えてくれた。

「流石ガラルドだぜ、回転砂と変な魔力だけじゃなくて知識も豊富だとはな。後でゆっくり素材図鑑マテリアルとやらの詳細を教えてくれよ。とにかくこれで計画は大きく進んだ、あとは船体の建造と大量のスライグラスを集めるだけだな、と言ってもスライグラスを大量に集めるのは地味に骨の折れる作業だがな」

「スライグラスはそんなに手に入りにくいのか?」

「俺もほとんど何も知らないが、現地に着きさえすれば手に入れるのはそんなに大変じゃないぞ、たまに食用に使われるぐらいレア度の低い植物だしな。ただ道中魔獣が多いエリアもあるうえ、でっかい船の表面に塗りたくる関係上、大量に往復運搬をしなければならないな。それに生えている場所もかなり北だから単純に移動に時間はかかるな、馬車も出てないし。つまり腕っぷしと体力が重要だな」

 そう言うとシルバーは地図を開いてスライグラスのある場所を指差してくれた。どうやら大陸の北部に位置するジークフリートよりも更に北にある町『ウィッチズガーデン』というところでスライグラスが取れるらしい。

「えっ? ウィッチズガーデン!」

 シルバーが場所を教えると同時にサーシャが声を裏返すほどに驚いていた。サーシャにしては珍しい大きなリアクションが気になった俺は驚いた理由を尋ねると、彼女はアイアンの方をチラ見しながら答えてくれた。

「サーシャが生まれた町……つまりサーシャの血の繋がった両親の家がある町だよ。『魔女の庭』という名前の通り、あそこには魔術やスキルに関する書物を管理する古代図書館と呼ばれる場所があって、魔術・スキル・古代遺物の研究が盛んな場所なの」

「なるほど、そこで生まれたサーシャが古代文字に興味を持つのは必然だったのかもしれないな。あれ? 少し気になったんだが、サーシャは両親が蒸発してから町を出て、厳しい生活をしながら南下していきジークフリートに住むようになったんだよな? それからは一回も戻っていないのか?」

「うん……あそこに行けばサーシャの知識欲も満たせるし、実の両親に繋がる情報も得られるかもしれないけど、あそこに行くと色々と嫌な事を思いだしちゃったり、子供の時には気が付かなかった辛い事実を知ってしまいそうで怖くて帰れなかったの……。両親を探したいなんて言ってる癖に黙っててごめんなさい……。でも、もうそんな事言ってられないよね、サーシャ自身の足で生まれ故郷に足を踏み入れなきゃいけないよね」

 サーシャは小さい体を一層縮こまらせて、か細い声で呟いた。本当はもっと早く言うべきだったと罪悪感を持ってしまったのだろう。しかし、誰にだって心の傷や蓋をしたい思い出の一つや二つはあるものだ、サーシャは全く悪くない。

 ただ、現実問題としてウィッチズガーデンに俺達の欲しがっている素材と情報があるのは確かだから行かざるを得ない。だけどサーシャに無理はさせたくない。『生まれ故郷に足を踏み入れなきゃだよね』なんて言い方をしている時点で大きな覚悟を要しているのは明らかだ。

 それにサーシャにはドライアド近辺からあまり離れてほしくない。町を統治する上でドライアドの顔であるサーシャが長期間離れてしまうのは大きな痛手だ。離れるのはせめてイグノーラに向かう時だけにしておきたい。

 そして忙しいのは俺もリリスも同様だからウィッチズガーデン行きの候補からは外れることになる。俺は一旦情報を纏めながら皆に問いかけた。

「スライグラスの大量確保とサーシャの実家を調べるという二つの目的を達成するには長旅が出来て尚且つサーシャの事をよく知っているのが条件だな。それとある程度人当たりも良く、商人から上手く買い付けが出来る世慣れした奴で、運搬者の護衛も出来る腕の立つ人間に行ってもらいたいところだな」

 俺は仲間たちの顔を一人一人思い浮かべたが中々条件に合いそうな人がいない。自分で言っておいて答えが出せず申し訳なくなっているとサーシャが意外な人物の名をあげた。

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