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【第107話】兄妹対決
しおりを挟む修行の荒地で大失速したシルバーを抜き去ったサーシャは次の難所『沼地エリア』を訪れていた。ここも湖と同じように中心の小島にあるチェックポイントを通らなければいけない以上、泥に足を踏み入れる必要がある。
湖の時は岩礁を伝っていくことが出来たが、今回の沼地には飛び移っていけるような足場はない。泥に足をとられるのは覚悟のうえでシンプルに素早く駆けていくしか方法がなかったようで、黒猫サクは懸命に沼地を駆けていった。
サーシャから遅れること一分。ようやく荒地を抜け出したシルバーは沼地へ辿り着いた。
ここも湖の時と同じように謎の板の噴出力で進んでいくのかと思ったが、シルバーは板をリュックにしまい込み、沼地の前で止まった。俺は何故板を使わないのかが分からず横にいるリリスへ疑問を呟いた。
「何でシルバーは板を使わないんだろうな?」
「私の予想ですが恐らく沼地という性質上、板で進んでしまうと前方に泥の山が出来上がってしまって抵抗が強くなりすぎてしまうからじゃないでしょうか? 泥は水と違って粘度が高いですから」
なるほど、確かにリリスの言う通りかもしれない。砂場の砂を水平に真っすぐ押し込むと前方に山が出来るのと同じようなものなのだろう。直に沼地を見ることで予想以上に粘度が高い事が分かり、シルバーは止まったのかもしれない。
このままサーシャが逃げ切ってくれればと祈る俺だったが、次の瞬間リリスがシルバーの方を指差し、驚きの声をあげた。
「見てくださいガラルドさん! シルバーさんがスキル『フリーバード』を!」
シルバーの方を見てみると、奴はフリーバードの六枚の羽を広げていた。形状もコメットサークル領で見せた時よりも小さく、形も円盤状になっている。
何をするつもりなのか眺めていると、シルバーは円盤状のフリーバードをまるで足の様に回転させて、表面積の広さを利用した豪快な踏みしめによって沼地を駆けだした。
あの表面積の広い円盤状のフリーバードなら人間の足と違って、重さが一点にかからず分散されて沈みにくくなる、ましてや羽は六枚もあるから尚更だ。
世界にはごくまれに水上を走る動物や魔獣が存在するが、そのほとんどが平たい足を持っていたり、節足生物だったりするものだが、今のシルバーはまさにソレだ。
動きや形状が若干不気味ではあるものの、非常に理にかなったシルバーの走法はサーシャとの距離を詰めていき、最後にはシルバーが数秒速く沼地を抜け出した。
「よっしゃー! ようやく逆転だぜ、このまま最後まで逃げ切らせてもらうぜ!」
「サーシャだって負けないんだから!」
ヒートアップした二人は次の第三区間最初の難所『林エリア』までの直線で順位が何度も入れ替わる接戦を繰り広げていた。
林エリアはチェックポイントこそ無いものの高さの低い木が所狭しと生い茂り、丘の上まで厳しい傾斜が続く難所だ。
俺達は今までのエリアなら迂回する形でシルバーとサーシャを追いかける事が出来たが、流石に視界の悪い林エリアを追跡する事は不可能だ。だから俺とリリスは林の中で群を抜いて背の高い樹に狙いを定め、アイ・テレポートで樹の頂上へ瞬間移動した。
離れた位置に行ってしまう事でシルバーとサーシャの声を聞くことは出来ないのは残念だが、木々一本一本の高さが低い事もあり、林全体を見渡すことができるから、上から二人の動向を追う事が出来る。
二人が林エリアを抜けて丘へ辿り着いたら、見渡しの良い此処から再びアイ・テレポートで近くまで飛ぶことができるから素晴らしいロケーションだと言えるだろう。
俺はアイ・テレポートで息切れするリリスを尻目にシルバーとサーシャの位置を上から確認した。僅かにリードしているシルバーが噴射する板で林の中に侵入すると、再びフリーバードを左右に広げて、生い茂る木々をジグザグ移動で避けながら進んでいった。
フリーバードは膂力に優れたスキルではあるものの、一番の長所は並列処理能力にあるのかもしれない。蜘蛛の手足の様に細かく器用に動く六枚のフリーバードは、先程とは違い先端が杖に近い形状になっている。
隆盛の激しい地面へ的確に六本の脚を引っ掛けて進むさまは圧巻で、効率的かつ絶妙なボディバランスで移動し続けている。サーシャも黒猫サクの機敏さでテンポよく木々の間を縫っているものの、少しずつシルバーに距離を離されてしまっていた。
だが、林エリアで負けたとしてもまだ『丘からの下りルート・懸け橋・最後の直線』があるから、まだまだ挽回できる筈だと楽観的に考えていたが、次にシルバーが取った行動によってサーシャに厳しい展開になってきた。
それはフリーバードの内二枚をナイフのような薄い形状に変えたシルバーが進路上にある木々を切り始めたのである。流石に走りながらだから野太い木を切る事はなかったが、小さめの丸太が地面に落ちる事で、斜め下後方を走っているサーシャに向かって転がり始めたのだ。
サーシャは前方に立ち並ぶ木々と不規則に転がってくる丸太を避けながら進むのはかなり大変だったようで、みるみるうちにシルバーとの距離が開いてしまった。
苦しそうなサーシャを見て、リリスが拳を強く握りながら悔しがった。
「あんな戦法ありなんですか? 危険すぎますよ!」
「いや、一応直接攻撃ではないし妨害はルール上有りにしているから問題はない、まぁここまでの事をしてくるとは思わなかったがな。だが一応フォローしておくとシルバーは馬鹿だが悪い奴ではない。恐らくこれまでのサーシャの走りを見て、丸太で妨害しても大丈夫だと判断したんだろう。現に丸太によってサーシャは減速しているものの直撃はしていないからな」
「うぅ~、確かにガラルドさんの言う事には一理ありますね。感情的になってしまってすいません」
「いや、仲間を思うからこそ出た言葉なんだから気にするな。それよりほら、シルバーを見てみろ、もう林エリアを七割近く走破したぞ。俺達は次のチェックポイントである丘の上にアイ・テレポートで先回りするぞ」
「もうあんな所に! 急がなきゃですね、アイ・テレポート!」
そして俺達は林エリアを超えた丘の上に先回りした。数分後に訪れるであろうシルバーたちよりも先に次のルートを肉眼で確認してみたが、我ながら険しいルートを作ってしまったという申し訳ない気持ちが湧いてきた。
丘のチェックポイントを超えたその先は何百メードあるか分からない程の大滝と断崖絶壁が存在するからだ。ここを降りていくには小さな足場を計画的かつ的確に転々と飛び降りていかなければならない。
見通しを誤って間違ったルートを降りていくと下手すれば逆走して立て直さなければいけない可能性すらある。逆に言えばシルバーのミス次第でサーシャが追い付くチャンスがあるエリアでもあるから絶対に抜いてもらいたいところだ。
俺とリリスがチェックポイントで待機していると、やはりシルバーが先に林エリアを抜けて俺達の元へ辿り着いた。シルバーはどんなプランで断崖絶壁を降りていくのか見守っていると、奴は俺の想像を遥かに超えた方法で断崖絶壁を攻略し始めた。
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