106 / 459
【第106話】険しいコースと創意工夫
しおりを挟むシルバーとサーシャの対戦当日、約束の正午に集まった二人に群がるギャラリー達は騒めいていた。勝敗次第ではドライアドの代表が変わってしまうのだから当然なのだが。
早速俺は二人に走るルートと最後のルール確認を行った。
「それじゃあルートを発表するぞ。今回のレースはチェックポイント毎に人が立っていて、そこを通過していかないと失格になるルールだ。区間は大きく分けて三つある」
そして、俺は地図を取り出して指差しながら一つ一つルートを説明した。
「一つ目の区間は『直線の平原と湖』だ。二つ目の区間は俺が『修行に使った荒地とその先にある沼地』だ。そして最後の区間は『林のある丘の一番上、そして丘を下った先にある吊り橋』だ。吊り橋を超えたらあとはシンプルな直線を経てゴールとなる。湖と沼は中心の小島にチェックポイントがあるから迂回することは出来ないぞ、どうにか頑張って中心へ渡ってくれ」
個人的には少し厳しい条件を設定し過ぎたかと思ったが、二人は何も驚くことはなく頷いていた。それなりに厳しいレースになることを想定していたのだろう、いい心構えだ。面白い戦いになりそうだ。
レースが始まったら俺とリリスは一応追いかけようと思う。アイ・テレポートを使えばすぐに追いつけるし、俺の魔砂で高い足場を作れば遠くだって見渡せるから、追いかけるにはもってこいのスキルと言えるだろう。
それに、二人を見てきた俺とリリスが誰よりも一番近くで勝負を見届けなければいけないと思うからだ。
あとは二人が準備を整え次第レーススタートだ。俺は二人へ準備を促した。
「二人とも準備と作戦が整い次第教えてくれ。ルートがルートなだけにあまりお勧めしないが馬を使いたかったら使ってもいいぞ。それに本番直前にルートを説明された訳だから地図の確認や道具の準備に充分時間をかけてくれても構わないぞ」
「それじゃあ、俺は少しだけ馬を使うかな。地図と道具の確認はもう大丈夫だ」
「サーシャも問題ないよ、いつでも始められるよ」
「分かった、それじゃあ全員スタート地点であるドライアドの入口へ行こう」
そして、ギャラリーを含む俺達は一斉にドライアド東の入口へ向かった。余談だが、ぞろぞろと動く俺達シンバード組を見た帝国側の人間が『何か面白そうなことをやってるぞ!』とギャラリーの中に混じって賭けをし始めた。
それを見たシンバード組も彼らに話しかけて賭けに混ざり始めた。こんなに仲が良いなら境界線なんていらないんじゃないだろうか? いつか一つの町になれたら理想なのだが……。それを叶えるのが世界を冒険する俺達の仕事とも言えるのだろう、少しずつ歩みを進めていきたい。
ドライアド東の入口へ着き、レースをする二人は腕を回したり、リュックの中身を整理したりと最後の調整・確認を終えた、いよいよレーススタートだ。
俺は右手を高くあげて、発砲代わりにファイアーボールを放出して開始を宣言した。
「位置について…………よーい、スタート!」
低く響くファイアーボールの放出音と共に二人が一斉に平原を飛び出した。最初にリードしたのは馬に乗っているシルバーだった。馬代わりに黒猫サクに乗っているサーシャは少しずつ距離を離されていく。
その二人の後を俺達も馬に乗って追いかけていると、早速シルバーが煽り始めた。
「どうしたどうしたぁ~、その程度かサーシャ? これじゃあ俺が先に湖の中心にあるチェックポイントに着いちまうぜぇ~」
「くっ……まだまだだよ!」
距離を離されないように必死に食らいつくサーシャだったが、三秒ごとに一馬身程度の距離を空けられてしまっている。黒猫サクは並みの馬よりも素早いのだが、それを超えるシルバーの馬は相当鍛えあげられているようだ。
順調に平原の直線を駆け抜けていったシルバーは一足先に湖の前に辿り着き、自分の馬を降りて呟いた。
「ここで待っててくれよグレートシルバー。レースが終わればたらふく飯を食わせてやるからな」
あの馬の名前はグレートシルバーというらしい、個人的には頭の悪そうなカッコ悪い名前だと思うが、名前とは裏腹に湖の前で大人しくしている賢い馬だった。
そして、大きなリュックから銀色の盾の様な板を取り出したシルバーは板を掴んだまま、湖の中に入って叫んだ。
「湖を駆け抜けろ、グレートアクア・ジェット!」
またグレートと名付けてる……と半笑いになっていた俺だったが、直ぐにシルバーの技術力の高さを実感する事となった。なんとシルバーの掴んだ板から爆発したかのように空気が噴出され、湖を凄まじい速度で駆け抜けていったのだ。
水面を移動している分、地上を移動している時の半分以下の速度ではあるものの、それでも充分過ぎるスピードだ。湖を迂回して横から追いかけている俺とリリスもついていくのに必死である。
あの板は恐らくアイアンが作った船のように、魔石を積んで推進力を得るタイプの自作機械なのだろう、後で色々と聞いてみたいものだ。
いち早く湖中央に辿り着いたシルバーは颯爽とチェックポイントの孤島を駆けていき、再び湖に着水し、第二区間『修行の荒地・沼地』を目指して、グレートアクア・ジェットを発進させた。
正直サーシャには厳しい展開か……とシルバーの後方へ視線を向けてみると、彼女は彼女で独特な湖の超え方をしていた。
なんと黒猫サクは湖に微かに露出している岩礁に転々と飛び移っていき、軽い身のこなしで湖を超えているのである。時々黒猫サクのジャンプが届かず、湖に落ちる事はあるものの、水の中を進んでいないぶん瞬間的な最高速度はシルバーを遥かに超えている。
もっとも湖に落ちた時は次の足場まで泳がなければいけないから平均速度では少し負けてはしまうのだが、それでも充分善戦している。勝負とは関係ない話だが、湖に落ちた時に犬掻きで泳いでいるサクはとても可愛かった、猫だから猫掻きと言うのが正解かもしれないが。
シルバーが湖エリアを超えた40秒ほど後にサーシャも湖を超え、次の難所『修行の荒地エリア』を訪れた。
シルバーは再び謎の板を取り出すと今度は板の四隅に丸い何かを取り付けて地面に置いた。そして板の上に乗ったシルバーは湖を超えた時と同じように叫び始めた。
「荒地用にカスタムしたグレートグラウンド・ジェットの力を見せてやるぜ、発進!」
シルバーが叫ぶと同時に再び謎の板から空気が噴射された。すると四隅に取り付けた丸い何かが回転し始めて、板ごとシルバーを猛スピードで前進させた。
遠目でしかも逆光だったこともありよく見えなかったが、おそらく四隅に付けた丸い何かは車輪のようだ。あの板の応用力は相当なものだ、このままサーシャとの距離を離していく一方かと思ったが、ここで事件が起きた。
なんと、修行の荒地の地面が文字通り荒れまくっていたせいで、板ごとシルバーの体が飛び上がってしまって転倒したのだ。その後も脱輪しかけたり左右にブレたりとシルバーは散々な目に合ってしまっていた。どうやら平坦な場所でないと使い辛い板のようだ。
その隙にサーシャはぐんぐん距離を詰めて、あっという間にシルバーを抜き去り、修行の荒地を抜けていった。
「うふふ、お先に失礼しま~す、シルバーさーん」
珍しくサーシャが人を煽って楽しそうにしている、逆転できたのがよっぽど嬉しかったようだ。
どうやらボディバランスに優れた黒猫にとって荒地なんて何の障害にもならないようだ。サーシャに抜かれたシルバーは遠吠えかと思うぐらい大きな声で悔しがった。
「ちくしょぉぉぉぉ! 誰だこんなところに山ほどクレーターを作りやがったのは! デコボコで通りにくいったらありゃしねぇぜ!」
……。クレーターを作った犯人である俺は少しシルバーに申し訳ない気持ちになった。とは言っても修行を提案したのはストレングだから責める時はストレングを責めてもらう事にしよう。
何はともあれ、これでサーシャが一歩リードだ。このまま順調に逃げ切っておくれ……信心深く無い俺が珍しく本気で神に祈った。
0
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる