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【第102話】シルバーの力

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 八十魔日はちじゅうまじつ当日、エナジーストーンの最上部で魔獣の大群が来るかどうかを見張っていると、魔獣が四方八方からエナジーストーンへ向かってきていた。


 周りに山などの障害物がなくて開けた位置にあるエナジーストーンは当然360度全方位から襲われる可能性があるのは分かり切っていたことなのだが、それでも実際に囲まれた景色を見てみると凄まじいものである。

そんな光景を見つめながら俺はローブマンの言っていた『南の町が襲われやすい』という言葉を思い出していた。奴の言葉は見事的中したことになる。

他の町を襲っていれば俺達は楽をできていた訳だが、戦力の整っていない町を襲われるより、手練れ揃いのエナジーストーンを襲ってくれた方がずっとありがたいし、俺達もやりがいがある。

まぁ、一番の理想は魔獣がどこも襲わず、戦いが一切起きない事なのだが。

 早速俺とリリスはエナジーストーンから外へ出て、魔獣の撃退に向かった。一匹ずつ確実に魔獣を仕留めていると、少し遅れて戦闘員達が戦場に飛び出してきて号令を出した。

「ガラルド殿に続けぇぇ! コメットサークル領自慢の戦術を魔獣ども見せつけるぞぉぉ!」

――――オオオォォォォ――――

 コメットサークル領ならではの戦術とは何なのだろうかと、彼らを注視した俺は心底驚かされることとなった。彼らはエナジーストーン内にもあった光る床、つまりマナストーンの一種に一斉に飛び乗り、高速の跳躍で散り散りに配置へ着いた。

 小高い丘に着地した者もいれば、魔獣の背後に立った者や側面に立った者もいる。彼らの俊敏な動きに困惑する魔獣は硬直している。動きが鈍くなった魔獣に戦闘員達は一斉に矢を放った。

 魔獣の群れが埋もれる程の矢の雨は、魔獣の命が尽きるまで、バシッバシッと音を鳴らし続けた。四方から一点に注がれる矢の雨は圧巻の一言で、合理的な散開は美しさすら感じる。

 戦闘員全員がどこに光る床があり、どんな風に飛べば効果的なのかを分かっているからこその『戦術』なのだろう。そこからはもう一方的な戦いだった。

機動力に長けた戦闘員達を魔獣が捉える事はなく、まるで人が素手で野良猫を捕まえようとして躱され続けているかのような状況が続いた。

 コメットサークル領の魔獣自体、マナストーンで強化されているはずなのだが、それ以上にマナストーンを上手く使いこなす戦闘員達が遥かに上回る形となった訳だ。

 ぶっちゃけドライアド組は必要ないんじゃないかと思えてくるぐらいだ。シンバードが魔獣の大群に襲われた時よりもずっと余裕をもって討伐を続けていると、遠くから巨大な人型の魔獣二匹が向かってきているのが見えた。

 あの魔獣を倒して少しでも貢献しようと考えた俺とリリスは人型魔獣に自ら近づいていった。そして、その魔獣二匹の姿を近くで見た瞬間に俺達は驚かされることとなった、何故なら俺達はあの魔獣に既視感があるからだ。

 確認するようにリリスが俺に問いかける。

「ガラルドさん。あれって、神託の森で戦ったハイオークと同じ種類ですかね?」

「二匹のうち一匹はそうだな。そして、もう一匹の方は恐らくハイオークよりも更に上のランクに属するオークロードだと思う。厄介な敵と出会っちまったな……」

 ハイオークは棍棒を構えて、荒々しい鼻呼吸をしながらこちらを睨んでいる。腕の太さや身長の高さからも神託の森で倒したハイオークより体格が良くて強そうだ。

 そして、もう一匹のオークロードも棍棒を持っているものの、俺達を見て少しも動揺していない。それどころか余裕で見下しているようにも見える、呼吸もいたって冷静だ、強者ゆえの余裕なのだろう。

 実際オークロードは横にいるハイオークよりも更に一回り二回り大きい。身長なんて俺の三倍ぐらいあるのではないだろうか。棍棒もハイオークより太く大きな物を片手に一本ずつ持っているあたり、膂力はハイオークを遥かに凌ぐだろう、こんな奴を絶対に町へ入れる訳にはいかない。

 俺はすぐに戦闘の流れを想像し、それをリリスへ伝えた。

「まずは最速で俺がハイオークを倒す。とにかくさっさと数を減らして二対一の状況に持ち込むのが最優先だ。そして、リリスは万が一に備えてアイ・テレポートは温存しておいてくれ。オークロードが想定以上に強かったら二人で一緒に逃げたいからな」

「分かりました、それじゃあ私の攻撃は氷属性魔術での後方支援程度にとどめておきます。どうか気を付けてくださいね、ガラルドさん」

「ああ、それじゃあ突っ込んでくるぜ」

 俺はハイオークに向かって一直線に走り出した。そしてある程度の距離まで近づいたところで、足裏に回転砂を集中させて解き放った。

緋纏ひてん サンド・ステップ!」

 俺の体が緋色の魔力に覆われると同時に風を切った。目で俺を追い切れていないハイオークは完全に反応が遅れ、一瞬のうちに懐へ侵入する事ができた。俺は拳に回転砂を集中させて、ハイオークの腹部へ打ち込んだ。

「喰らえ、サンド・インパクト!」

「グギャアアァァ!」

 うめき声をあげたハイオークはゴロゴロと地面と転がり、体を痙攣させながらやがて動かなくなった。俺の拳には強い手ごたえがあったのは確かだが、まさか一発でハイオークをやっつけられるとは思わなかった。

 神託の森では死闘レベルの戦いを繰り広げた相手だというのに……俺は自分の成長が嬉しいと同時に少し恐くなってきた。自分の拳を見つめながら力を実感していると、背後から荒々しい鼻息が聞こえてきた。

「フシュルルル! ブシュルルゥ!」

 興奮したオークロードがこちらを睨んでいる。仲間のハイオークが瞬殺されたことで俺への警戒度が跳ね上がったようだ、このまま舐めていてくれたら楽だったのだが。

 俺は棍を構えてオークロードと睨み合い、出方を伺っていると、遠くから野太い叫び声が聞こえた。この声はシルバーだ!

「おぉ~~い! ガラルドォォ! 俺にも取り分を残しておいてくれよぉ~、その魔獣は俺の獲物だぁ、とうっ!」

 シルバーは前宙しながら高く飛び上がって、仰々しく着地する登場を披露した、数日前に見たやつだ。俺とオークロードの間に立ったシルバーはオークロードに背を向けたまま俺に話しかけてきた。

「俺はガラルド達よりもずっと長くエナジーストーンにお世話になってるからな。ボス級の魔獣を一匹や二匹は倒さないと顔向けできないぜ、だから獲物は俺が頂くぜ」

シルバーが戦うところは見た事がないのだが、大丈夫なのだろうか? ましてや相手はオークロードだ。俺は一緒に戦うべきだと言おうとした次の瞬間、オークロードは背を向けたままのシルバーに勢いよく棍棒を振り下ろした。

 これはまずい、回転砂で守ってやろうにも間に合わない……と目を逸らしかけたその時、シルバーの背中が突如発光を始め、光の中から大きなコウモリの羽のようなものが飛び出し、オークロードの打撃を一枚の羽で防いだ。

 シルバーの背から出てきた羽は全部で六枚あり、その一枚一枚が自身の体よりも大きく、名は体を表すと言わんばかりに銀色に輝いている。これはシルバーのスキルなのだろうか? 六枚ある羽のたった一枚で打撃を防がれたオークロードは慌てて後ろへ跳んで距離をとった。

 全力の一振りを軽々と止められたら恐ろしくなるのは無理もないだろう。その間にシルバーは両手を上にあげて決めポーズをしながら俺に羽の説明を始めた。

「これは俺の後天スキル『フリーバード』だ。一枚一枚の羽を同時に細かく動かすことが出来て、形状も決まった質量内だったら、四角だろうが、針状だろうが好きに変えることが出来る。細かい工事を同時進行する時とかに凄く便利な能力なんだぜ」

 相変わらず決めポーズはカッコ悪いし隙だらけなのだが、そんな事が出来てしまうぐらいの強さと自信があるのだろう。シルバーは一通り羽を見せびらかしたあと、オークロードの方へ向き直り宣言した。

「この羽の美しさは説明できたから、次は強さを証明しなきゃな。おい、オークロード! 今からお前にフリーバードの真の恐ろしさを味合わせてやろう、準備はいいか?」

 シルバーは言葉の通じないオークロードに語りかけると、六枚の羽のうち二枚を地面に付け、姿勢を低くした。次はどんな動きを見せてくれるのだろうか? 俺はワクワクしながら見守っていた。


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