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【第98話】温かい歓迎

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「お~す、町長はいるか~? 邪魔するぜ~」

 アイコリーが雑な挨拶とともに家と外部の境界となっている仕切り布をめくり、中へと入っていった。返事も確認できない内に入るなよと言いたかったのだが、中にいた老夫婦は特に気にせず俺達に歓迎の笑顔を向けてくれた、二人とも優しそう人だ。

一軒一軒が独立している他の町と違い、町の全てが岩を介して繋がっているからこそプライバシーが開けっ広げなのかもしれない、端にアイコリーが雑なだけかもしれないが……。

 俺は町長夫婦へ笑顔を返し、自己紹介を始めた。

「はじめまして町長さんとご婦人、俺はシンバード領のドライアドから来たガラルドと言います。右にいるのがリリスで左にいるのがボビで、他にも六人程ハンターと技術者についてきてもらっています。さすがに大所帯なので家の外で待機してもらっていますが」

「おお、そうでしたか。それなら全員家に入ってくだされ、エナジーストーン内の家屋は洞穴状になっていて傍目からは大きさが分かりにくいですが、うちは大勢が入っても大丈夫ですぞ。シンバードと比べれば味に自信はありませんが、沢山の料理と酒で歓迎させてもらいますぞ」

 いきなりの来訪でそこまでしてもらうのは申し訳なく一度は断ったのだが、町長は半ば強引に俺達を奥へ案内してくれた。この歓迎感はサーシャの両親を思い出して少し温かい気持ちになった。

 そして俺達は楽しく飲食を共にしつつ、旅の理由とコメットサークル領であった出来事を一通り町長へ伝えた。すると町長が険しい顔で過去にエナジーストーンであった事を話してくれた。

「実は我々エナジーストーンもジークフリートのように一度帝国に支配されかけた事がありましてな。いきなりずけずけと入り込んできた帝国兵どもは奇妙な兵器と数の力で強引に町へ侵入してきましてな。『不思議なエネルギーを使う貴様らを我が帝国が厳重に管理してやる』と言って難癖をつけてきましてなぁ……」

 多少手法は違うが帝国は相変わらず強引に統治権を奪おうとしたみたいだ。しかし『支配されかけた』という言葉からも帝国はエナジーストーンから手を引いたようだ。帝国なら何が何でも奪っていきそうな気がした俺は町長に一連の流れを尋ねた。

「よく帝国が諦めてくれましたね。もしかして自慢の武力で追い払ったのですか?」

「一応そうなりますかな。小さな武力衝突はあったが、こちらに利があるうえ、追い払うことのみに注力しておりましたから双方死人が出る事はありませんでした。とは言っても帝国が魔力砲とかいう兵器を沢山持ち込んで本気を出せば、我々なんて直ぐにやられてしまうと思いますがな。帝国が諦めたのは支配にメリットが感じられなかったからでしょうな」

「メリットがない? 町の中心にある発光体はともかく、細かく砕けた破片にだってエネルギーを増幅させる力があるんだから持って帰れば帝国にメリットがあるように思えますが……」

「持って帰ること自体は出来ると思いますが、破片が効果を発揮する事はないんです。破片は何故か赤褐色の大地……つまりコメットサークル領から少しでも出てしまうと途端に効果を失う性質を持っていましてな。結果持ち帰る資源はなく、闘士も手強いエナジーストーンを攻めるメリットは無いと判断して去っていったと思われます」

 なるほど、確かにエリアが限定される力にはメリットを感じないかもしれない。それに農業者としては優秀で戦闘力が無い旧ドライアド民を帝国領に引っ張り込むのは容易いかもしれないが、色々と手強いエナジーストーンの人間を相手にするのは大変だろう。帝国には正直ざまぁみろという気持ちが湧いてきた。

 そして、一通り帝国の話とおすすめの料理屋や名所を教えてくれた町長は最後にありがたいプレゼントをくれた。

「ガラルド君は我々と同様に帝国をよく思っていない同士であり、あの厳しい門番兄弟が認めた男じゃ。ゆっくりとしていくといいし、何なら友好の証に協力できることは何でも協力しますぞ。ワシの家の隣の洞穴は空いておるし一通り家具も揃っておるから、自分の家のように好きに使っておくれ」

「何から何までかたじけない……本当にありがとうございます!」

 俺達ドライアド組は深々と頭を下げて礼を言った。そんなやりとりをしている間もずっと勢いよくタダ飯を胃に掻き込んでいたアイコリーは、うずうずした様子で俺に話しかけてきた。

「なぁなぁガラルド、もっと旅の話をしようぜ、お互い色んなところを巡ってきた者同士楽しくなると思うぞ」

「う~ん、まぁ今日はようやく長旅を終わらせることができたしゆっくり話してもいいかな。それじゃあ早速町長に貸してもらった俺達の仮住居に行って話をするか」

 そして、俺達は少し埃被った洞穴住居へ足を踏み入れた。奥に進んでいくと必要最低限の家具があり、備え付けてある発光体の破片でほんのりと明るい。更に奥へ進んでいくと扉があって開いてみると、彗星の外皮にあたる部分へ出る事になった。

 あまりにも景色が良すぎるベランダと言ったところだろうか、遠くにはさっき俺達が双眼鏡を構えていた丘が見える。

数時間前はエナジーストーンを双眼鏡で発見し、蜂の巣のような巨大岩に人が住んでいると驚いていた俺達だが、今は見つめていた場所でくつろぎ、非現実的な空間に順応し始めている。こんな風に色々な事があるからこそ冒険はやめられない。

「ここは本当に不思議な町だな。家から外周に行けば太陽の光が拝めて、内側へ行けば発光体の光が拝める。二つの太陽からエネルギーを貰えているからこそ、ここの人間は異様に活力があるんじゃないとか思えてくるよ」

 俺の言葉を聞いたアイコリーは激しく首を縦に振りながら感慨深そうに呟いた。

「分かるぞぉ~。二つの太陽なんていう洒落た表現をしたくなるガラルドの気持ちがよく分かるぞぉ。健全な精神は健全な肉体と食事によって作られるしな。彗星が降ってきた当時はきっと人々はパニックになったと思うが、俺は素敵な贈り物だと思うよ。だから俺はマナストーンにもマナストーン・コアにも毎日手を合わせて拝んでいるぞ。あ、マナストーンは発光体の破片のことで、マナストーン・コアは町の中心にあるデカい発光体のことだ、覚えておくといい」

 『マナ』というワードは国によっては魔力や妖精の力という意味で使われることもある、力が貰える石という意味でもマナストーンという名付けは中々いいと思う。

 それから俺達はより詳しくお互いのことを話し始めた。正直ディアトイル出身と打ち明けることは未だに勇気のいる行動なのだが、明朗快活で裏表のなさそうなアイコリーならきっと嫌な顔はしないだろうと信じて打ち明けた。

 予想通りアイコリーは俺の生まれについては特に怪訝な態度を見せる事はなかった。そして次はボビが自己紹介をする番だったのだが、そこで事件は起きた。

「俺の名前はボビ、ジークフリートで工場長をやっている。もっとも今はドライアドと手を組み、互いに技術協力し合っているから専任ではないがな」

「ジークフリートォッ? それに他国と手を組んでるだとぉっ?」

 アイコリーはボビの言葉に突然声を裏返して驚いていた。一体何が彼をそこまで驚かせているのだろうか?

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