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【第95話】エナジーストーン
しおりを挟む『帝国調査班』そして『死の海渡航準備班』の出発の朝が訪れた。俺達はサーシャからお守り代わりに竜の模様が刻まれた銀細工を貰った。
この模様はジークフリートを解放後に宴をしている時に街の人が持っていたランタンに刻まれている絵と同じだった、どうやら街を代表するお土産みたいなものらしい。
心強いアイテムを貰った俺達は寂しそうな表情を浮かべるサーシャを尻目にそれぞれの目的地へ馬を走らせた。
レナ達の『帝国調査班』にはリリスの似顔絵と木彫り細工を複数用意して、その二つの手掛かりを持って帝国へ行ってもらった。これにより広い帝国領を分かれて調査する事ができるからだ。
一方俺とリリスがいる『死の海渡航準備班』には技術者代表としてボビがついてきてくれることになり、他にもハンターや技術者に三人ずつついてきてもらう形になった。
馬を走らせて野宿して、また馬を走らせて村で休み、また馬を走らせて野宿してと同じことを繰り返す日々を十日ほど続け、いよいよ皆の疲れがピークを迎えそうになったところで俺達は遂にコメットサークル領近くの丘まで辿り着いた。
俺達が持っている大雑把な地図によれば、この高い丘から南を見下ろせばコメットサークル領全体が見渡せそうだ。疲れた体に元気が戻り、ワクワクしながら馬を走らせて丘に辿り着いた。丘から周囲を見渡すと俺達の視界に広々とした赤褐色の大地が広がっていた。
赤褐色の大地は綺麗な円状になっていて、円の中心には町まるまるひとつ分の大きさをほこる岩が突き刺さっていて、岩の表面はハチの巣のように穴が空きまくっている。
中心以外にも赤褐色エリアの至る所に岩片が突き刺さっていて、動物や魔獣がねぐらにしている岩片もあるようだ。ボビは鞄から双眼鏡を取り出し、中心の超巨大な岩を見つめた。すると大人の男とは思えないような甲高い仰天声をあげた。
「ええぇぇぇっっ! あの岩の穴一つ一つが居住空間や施設になっているぞ、岩そのものが街になってるぞ!」
確かに地図上では赤褐色の土がひしめく円形の範囲がコメットサークル領になっていて、中心に街のマークが記されている。俺の認識では岩を城の防壁のように利用しているだけかと思っていたが、まさか岩壁そのものが居住空間になっているとは……。
俺は直ぐにボビから双眼鏡を借りて確認してみたが、ボビの言っている事は全て本当だった。それどころか、中心以外に刺さっている他の岩片も人が住んでいるところがある。動物・人間・魔獣、種族に関わらずコメットサークル領に生きる全ての者は岩を生活の拠点にしているようだ。
俺はワクワクが抑えきれなくなり、早く向こうへ行ってみようと皆を急かし、丘を降りて赤褐色の大地へ足を踏み入れた。
すると突然俺達の体に違和感が発生した。妙なオーラに包まれているようにも思えるが不思議と不快感はない。それどころか、少し元気になってきたような気がする。とはいえ不思議な事が起こっていることには変わりない、俺達は少し慎重になりながら馬を進めた。
赤褐色の大地に足を踏み入れてからしばらく経った頃、そろそろ中心の超巨大岩が近づいてきたところで、俺達の前に狼型の魔獣バトルウルフが現れた。
バトルウルフは少し動きが速いものの、爪も牙も他の魔獣と比べると大したことはない。しかし万が一にも馬を怪我させる訳にはいかない、俺達は馬を降りて戦闘態勢に入った。
俺はこの時、折角だからストレングに習った火属性魔術を使ってみようと思い立ち、両手に魔力を練り出した。そして、実戦で初めて火の魔術を発動した。
「喰らえ、ファイアーボール!」
俺の手から火球が飛び出したものの、サーシャの放つファイアーボールと比べると速度が三割程度しかなく、バトルウルフは難なく火球を避けた。それを見ていたリリスは肩をすくめて苦笑いをしている。
「ガラルドさんの火属性魔術は火力こそありますけど、スピードとコントロールが全然なっていませんね。リリスお姉さんの魔術を見ていてくださいね、アイスニードル!」
リリスの手から高速で氷柱が飛び出すと、避ける間もなくバトルウルフの横腹に勢いよく突き刺さった、悔しいが魔術面では全く敵いそうもない、回転砂しか能の無い自分が少し恥ずかしくなった。
鼻を高くして馬に戻ろうとしたリリスであったが、ここで異変が起きた。なんと氷柱を突き刺されたバトルウルフが自分の口で氷柱を引っこ抜き、再び戦闘態勢に入ったのだ。通常のバトルウルフでは考えられないぐらいタフで執念深い。
俺はすぐさまサンド・ホイールを作り出し、バトルウルフに射出した。回転する砂がバトルウルフの脳天にクリーンヒットしたが、それでもバトルウルフは立ち上がりこちらを威嚇している。
「おいおい、どうなってんだ、ここのバトルウルフは頑丈過ぎるだろ!」
「魔獣の中でも弱い方なんですけどね、いつもならアイスニードル一発でおつりがくるなんですが……はっ! ガラルドさん大変です、北西を見てください!」
驚きの声をあげるリリスに従って北西方向を見てみるとバトルウルフの群れがこちらへ向かってきていた、ざっと数えても十匹以上はいるだろうか、あの群れが全て頑丈だとしたら既に長旅で疲弊しきっている俺達では馬を守り切れないかもしれない。
だったら俺達が取れる行動は一つしかない、中心の大岩の町まで全力で逃げる事だ。俺は急いで皆に指示を出した。
「直ぐに巨大岩まで逃げるぞ馬に乗れ! リリスが先頭を俺が最後尾を走って皆を守る、全員が極力密集して移動するんだ!」
そして、俺達は馬と馬の間隔を出来るだけ狭めて移動を続けた。馬は素早く走ってくれているものの、移動の速いバトルウルフは少しずつこちらへ距離を詰めてきていた。このままでは三十秒もしないうちに追いつかれてしまう、俺は皆を守るために手に魔力を込めた。
「今から走りながらサンド・ストームを展開する。全員俺から離れるなよ、サンド・ストーム!」
馬の群れの周囲に轟音をたてながら魔砂が旋回する。視界は悪いが、地面も前方もこれといった障害物はないから大丈夫なはずだ、俺達は寸分狂わず密集した並走で馬を進め、遂に巨大岩の町の入口まで辿り着いた。
巨大岩の穴は一つ一つが大きく、町の入口にあたる場所すらも洞窟のように大きな穴だった。バトルウルフも流石に集落の中に入ってくる勇気はなかったようで、直前で脚を止めて引き返してくれた、中まで追ってこなくて本当によかった。
俺達は馬を降りて、大きな入り口扉の門番がいるところまで歩いていくと、二人の門番が槍を交差させ、張りのある声で俺達に言った。
「何者だお前達! 活力岩の町エナジーストーンに何の用だ? 返答次第ではここを通すわけにはいかないぞ!」
門番の険しい顔を見る限り、あまり歓迎されていないようだ。どうやらこの町も一筋縄ではいかなそうだ……。
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