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【第94話】三つの班
しおりを挟む突然『ビエードの最後の言葉』と『リリスの記憶』を調べたいと言いだした俺を見て、拠点の中にいる全員が驚いていた。特に記憶を失っているリリス当人は他の人以上に驚いていて、すぐに俺へ真意を尋ねた。
「ビエードのことはともかく、私の記憶の事は優先すべきなんでしょうか?」
「蓋を開けてみなければ分からないが、その二つには帝国という共通項がある。一度情報を整理しよう。まず、ビエードが言っていた『モードレッドについて調べろ』『少しでも多くの国と手を組み魔獣と帝国に備えろ』という遺言は命を懸けて伝えてくれた情報だから信憑性が高い」
「そうですね、特にモードレッドに関しては、直に凄さと恐さを味わってきたので、より一層信じられます」
「そのモードレッドはリングウォルド別邸跡地を単身で調べるぐらい熱心に何かを探していた。そして、リリスの持つ木彫り細工は僅か七年前に別邸跡地で見つかったし、地下を探索した時にはパラディアという花の香りがリリスの記憶を刺激した件もある。双方を繋ぐ何かがあるような気がしてならないんだ」
あの日、少しだけ記憶を取り戻したリリスはモードレッドが探していた『フィア・リングウォルド』という女性がパラディアの花の香りと熊の人形が好きだったという情報を思い出した。
つまり、生前のリリスとフィア・リングウォルドには少なからず接点があり、モードレッドやフィアの旦那シリウス・リングウォルドと関りがあった可能性もある。その点を踏まえて俺達の今後の行動について話した。
「だから『帝国やモードレッドを調べる=リリスの過去』に繋がるとは言わないまでも並行して調べる価値はあると思う」
「なるほど、ガラルドさんの考えは分かりました。それじゃあドライアドは一旦サーシャちゃんに任せて、私とガラルドさんで帝国に行く感じですかね?」
「いや、ここは三つのグループに分かれよう。『サーシャ達ドライアド復興組』と『帝国調査班』と『死の海渡航準備班』の三つだ。俺とリリスは『死の海渡航準備班』で無事死の海を越えられるように準備を整えよう。『帝国調査班』はレナとヒノミさんと数人のハンター達で行ってもらおうと思う」
「私達ですか!」
いつも落ち着いているヒノミさんからは考えられないぐらい上擦った声が発せられた。レナもヒノミさん程ではないが驚いて目を点にしている。俺は二人を指名した理由を話す事にした。
「ヒノミさんはギルドの受付嬢として沢山仕事をこなしてきて顔も広いし人当たりもいい、きっと他国でも色々な人間から情報を聞き出す事が出来ると思う。そして、レナはあまり強そうではない見た目とは裏腹に凄く腕が立つハンターだ。他人に警戒されずに尚且つ皆を守れる頼もしい立ち回りが出来る筈だ。だから二人を中心にして情報を集めてきてほしい。報酬は多めに払うからよろしく頼む」
俺は二人に深々と頭を下げた。二人は互いの顔を見合った後、しょうがないと言わんばかりの微笑を浮かべて了承してくれた。
特にレナにはジークフリートでの助太刀や他ギルドからの復興応援で度々世話になっているから本当に頭が上がらない。肩をすくめるレナに新たな借りを作ってしまった形になるが、いつか出世払いで恩返しをしたいと思う、多分。
これで後は『死の海渡航計画班』の行動を決めるだけだ、とはいえこれが一番の難題だ。はっきり言って死の海は情報が少な過ぎる、生きて帰ってきた者がほとんどいないのだから当たり前だが……。
何をすればいいのか、どんな人員配置にしたらいいかも見当がつかない。とりあえず俺は全員に意見を仰いだ。
「死の海渡航計画について何か意見がある奴はいるか? 些細な事でも構わないぞ?」
拠点の中に長めの沈黙が流れたあと、アイアンが挙手して案を出してくれた。
「とりあえず、死の海の近くまで行ってみてはどうかな? どっちみち死の海を越えるなら、ディアトイルの少し北にあるコメットサークル領から船を出す事になるだろうから下見にもなるじゃろう」
コメットサークル領という名は聞いたことがある。確か何百年も昔、空に輝く彗星が突然ディアトイルの北に落下し、超巨大なクレーターを作り出したらしい。
本来なら落下の衝撃で円状に大地が死に絶えるはずなのだが、その彗星には生物を活性化させる不思議なエネルギーが含まれていたらしく、落下地点から円状に大量の動物が集まって楽園のような場所になったらしい。
落ちてきた彗星もどういう原理か、半壊程度でとどまったらしく、今も突き刺さっている彗星の中に人々が街を作り出しているらしい。昔の人が何を考えていたのかは分からないが逞しい限りだ。
俺もハンターを目指して故郷を飛び出した時にはコメットサークル領を経由しようかと考えていたけれど、コメットサークル領よりも東側を通っていく方が馬車代が安く済むからそっちを選んだ記憶がある。もう四年近く前の事になるのかと懐かしい気持ちになった。
アイアンの提案に乗るのが現時点では一番良さそうだ。俺はアイアンに了承の返事をかえした。
「それじゃあ、アイアンの案に乗っかってコメットサークル領へ行くとしよう、メンバーは俺とリリスと技術者が何人か欲しいところだな。危険な魔獣は少ないが馬で十日近くかかる長い道のりになる、しっかり準備していこう!」
そして、俺達は話し合って三班の人員を細かく決めた。明日からは俺もヒノミさん達も長い旅となり、暫く帰ってこられなくなる可能性もある。
ドライアド復興兼お留守番を担当するサーシャの顔は捨てられた仔犬のように寂しそうでちょっと可愛かった、きっとこういうところも皆に愛される要素の一つなのだろう。俺達は出発前日の夜、酒を飲みながら盛大に楽しみ出発当日を迎えた。
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