上 下
80 / 459

【第80話】ドライアドの現状とこれから

しおりを挟む
==========================

※今回はサーシャ視点です

==========================


 ガラルド君達がシンバードから出発するのを見送って数時間後、サーシャ達ドライアド復興担当組もシンバードを出発した。帝国までの道とは違って路面も踏み固められている場所が大半だったから移動もスムーズにすみ、西へ300キード近く離れたドライアド跡地に半日もかからずに辿り着く事が出来た。

 ストレングさんは馬を降り、ドライアドの入口にある看板に付いた土埃を手で払いながら呟いた。

「一度魔獣の襲撃を受けて半壊した後に、帝国に民を全員連れていかれたらしいが、思ったほど建物は壊れていないし、生活感も残っているもんだな。まるで神隠しにでもあったみたいじゃな」

 ストレングさんの言う通り建物の一、二割は穴が空いたり、柵が壊されているものの、問題なく復興できそうなレベルだ。帝国が迅速に魔獣から街を守ってくれたのはありがたいけれど、その後に街の人を丸ごと連れて行ったことを思うと複雑な気分になる。

 それからサーシャ達は街をぐるりと一周して、大まかな復興の見通しを立ててみた。復興計画についてきてくれたレナさんが紙と算盤を見つめながら復興に掛かるであろう日数と費用を計算してくれた。

「う~ん、私の計算だと雑草や道の整理に一日はかかるかな。石壁、石畳、水路、家屋なども思った以上に壊れてなかったから五日ぐらいで最低限の復旧はできると思うよ。土の状態もいいから街の売りにしていた果樹園も遠くない内に再開できると思うよ。復興にかかる予算も予想の半分もかからなさそうだしね」

 どうやらサーシャ達はかなり運が良かったみたい。ストレングさんもご機嫌な様で、道中では「年寄りが何時間も馬に乗るのは辛いわい」とボヤいていたのに今は笑顔を浮かべて号令をかけていた。

「よーし! ワシらには追い風が吹いてるぞ、この勢いで早速今から復旧作業を開始するかのう。ほれ、サーシャがみんなに始まりの挨拶をするといい」

「ええ? なんでサーシャが? ストレングさんがいいと思うけど……」

「シンから直々に復興組の中心人物として頑張るように言われたのだろう? だったらサーシャがリーダーとして皆を鼓舞するべきだろう。それに周りを見てみろ、皆がサーシャに期待の眼差しを向けているぞ」

 ストレングさんに言われた通り周りを見渡すと、確かに皆がサーシャに笑顔を向けているし、レナさんもこちらへ親指を立ててくれている。皆の期待に応えない訳にはいかない。緊張するけど自分なりの言葉を伝える事にした。

「えー、皆さん、シンさんもガラルドさんもリリスちゃんもいなくて心細さはあるけど、あんなに凄い人達がサーシャ達に重要な仕事を任せてくれたことは誇りになるよね? だからシンさん達が帰ってきた時に心身共に元気で尚且つ想像以上の成果をあげている状態でおかえりなさいを言えるように全員一丸となってやり遂げましょう!」



――――オオォォォ――――



 小鳥も逃げ出すぐらいの大きな歓声があがった。その後も各々がサーシャに応援の言葉を掛けてくれた。

「ジークフリートを解放してくれた聖女様の願いとあっちゃ頑張らない訳にはいかねぇよな!」

「サーシャちゃんの言葉、ストレートで胸に響いたよ」

「シンさんとシンバードが嫉妬してしまうぐらいの街にしてやろうぜ」

 どうやら出足は好調みたい。皆の温かさには本当に頭が上がらない。

 それから皆は各々の作業をするべく散っていった。元気な作業員を見つめていたストレングさんがこちらへ向き直り、穏やかな目で話しかけてきた。

「上々の挨拶だったぞサーシャ。やっぱりサーシャの人気は凄いな、皆の目が活き活きしてやがる。最近じゃファンクラブみたいな組織も出来ているらしいしな」

 え? サーシャはそんなの初耳なのだけど……。確かにジークフリート解放の件やコロシアム優勝者のサポートメンバーだったことが新聞で色んな人に知られてからシンバード内外で声を掛けられることが増えたけど、そんな事になっていたなんて。

 その後も二人はファンクラブがどんな物を作っているのを教えてくれた。サーシャ愛用の武具のレプリカ、サーシャ印の古代文字学習本、黒猫サクを模したお饅頭等々、様々だ。

まずサーシャ印というのがよく分からないし、サクに至っては食べられている始末だ。とは言え、生前心ない人達に忌み嫌われていたサクがこんな形で愛されていて家族としては嬉しい限りだ。

 ファンクラブと商品だけでも充分恥ずかしいのにレナさんが更にサーシャを褒め続ける。

「ファンクラブの存在は私も知っているよ。ぶっちゃけ最初はサーシャの見た目が可愛いくて、しかも優しいから男どもが鼻の下伸ばして騒いでいるだけかと思ったけど、実は女性ファンの方が多いんだよね。どうやら辛い過去があっても人に優しくし続けたところや見た目に反して強さと行動力があって実績もあるところが好かれているんだろうね。かっこいい女性像とギャップを内包しているのは大きな強みだよ」

「ガハハハッ、違いない。ワシもそう思うしな」

 褒めるならサーシャのいないところで褒めてほしい……。自分でも分かるぐらい顔が熱くなっているから。その様子に気づいたレナさんが頬っぺたを突いて揶揄ってくるから、サーシャは距離を取って逃げた。

 余談だけどストレングさんやガラルド君にもファンが多いらしいけど、そのほとんどが男性らしい。ストレングさん曰く漢臭おとこくさすぎて、女性が寄ってこないのではとのことだ。

サーシャの個人的見解ではガラルドさんの事を好き過ぎるリリスちゃんが番犬の如く威嚇をするから、ガラルド君に色目を使ってくる女性が退散しているだけだと思うのだけれど。

 とにもかくにもサーシャ達復興組は順調に作業を進めていった。合計二百人以上が進める復興作業は圧巻の一言でたちまち町が綺麗に整えられていく。二日目には近隣の農業国技術者とサーシャのお爺ちゃんとボビさんが共同で農具を開発し、更に作業速度がアップした。

 シンバードから出稼ぎにきた労働者たちも喜んでいるし、色んな国の色んな人達が手を取り合って笑いながら働いているこの時間が堪らなく愛おしく思える。そんな時間を続けていると復興開始四日目の朝、サーシャが寝ている家にノックの音が響いた。



=======あとがき=======

読んでいただきありがとうございました。

少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。

甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです

==================
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...