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【第79話】自己理解

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「緋色だ。俺の目がローブマンと同じ緋色になってやがる……」

 俺は信じられない事実に声を震わせながら呟いた。そこからしばらく鏡に映る自分の目を見つめていると徐々に普段の黒色へと戻っていった。色が戻るのに比例して胸の鼓動が収まっていくのを感じているとモードレッドは合点がいった様子で呟いた。

「やはり君も緋色の目を持っていたか。コロシアム決勝やジークフリートでの戦いの話を聞いてもしやとは思ったが……」

「正直信じられねぇよ、頭がどうにかなりそうだが、とにかく落ち着かなきゃな……。ふぅ……」

 俺は自分に言い聞かせるように呟いて深呼吸した。そして、モードレッドに詳細を尋ねた。

「今、あんたが殺気を飛ばしたみたいに危険を感じた時に緋色の目ってやつは発現するものなのか?」

「……古文書は半分も解読できていないから確かな事は言えないが、それに近い事は書いてあったな、危険な時や全力で集中している時に緋色の目が激しく輝くだろうと」

「だから、あの恐ろしい殺気を飛ばしてきたわけか。あんたのスキルも気になるところだが、それよりもっと知りたい事がある。リリス、教えてくれ。本当は俺が緋色の目になることを知っていたのに黙っていたのか?」

俺は出来るだけ怖がらせないように落ち着いた声で問いかけた。リリスは申し訳なさそうな表情を浮かべながら答えてくれた。

「実はコロシアム決勝やビエードとの戦い、それ以降の魔獣襲撃、あらゆる場面でガラルドさんの目は緋色になっていました。緋色になるタイミングもモードレッドさんが言う様に危険な時や集中している時だけだったと思います。ガラルドさん自身、能力が飛躍的に上昇している感覚はありませんでしたか?」

確かにリリスの言う通り強くなった感覚はあったけれど、それは端に集中していて魔力の練度と身体能力が上がっているだけだと思っていた。

魔力は魔術を撃つ為だけではなく、体内に激しく巡らせる事で身体能力の向上や耐久力を上げる作用もある。だから能力の向上は全て集中や危機感による魔力練度上昇の恩恵かと思っていた。

 俺だけが緋色の目になっていることを知らなかったのは残念だが、きっとリリス達も何かしら気を遣って伏せていたのだろう。さっき話を振った時に俯いて黙っていたのも今なら理解できる。俺はシンとリリスへ労いを込めてお礼を言った。

「なんか色々と気を遣ってくれていたみたいだな。ありがとな二人とも、シンバードに帰ったらサーシャ達にもお礼を言う事にするよ。だけど、一つだけ言っておく、俺は自分がどんな人間でどんな理由で捨て子になったとしても、へこたれるつもりはない、自分達の夢を果たすまではな。だからこれからは気を遣った隠し事は無しにしてくれ」

 俺は二人の目を真っすぐに見つめてお願いした。さっきまで暗い表情をしていた二人の顔に笑顔が戻り、頷きと共に元気な返事がかえってきた。

「はい! 分かりました。これからは何だって話しちゃいます。ガラルドさんは強いですものね。そういうところも好きですよ」

「隠していて申し訳なかったガラルド君。君は俺の大事な友達だ、約束は必ず守らせてもらうよ」

「ああ、よろしく頼む!」

 正直かなり驚いたけれど、俺は俺でしかないのだから、これからも頑張るだけだ。決意を新たに出来たところで、倉庫での会話を終える事にした。

「それじゃあ今度こそ、俺達は食事の席へ戻るよ。モードレッドさんと話せてよかった。色々あったから正直仲良くやっていけるかは分からないが、同じ大陸に生きる者として、これからもよろしくな」

「うむ、また会える時を楽しみにしている、その時は敵かもしれないがな」

 そして、俺とモードレッドは強く握手を交わした。最後に物騒な事を言っていたけれど、そうならないことを祈るばかりだ。食事の席に戻った俺達は、芸人たちの芸を楽しんだ後、宿へと戻り眠りについた。







 翌朝、早めに宿のチェックアウトを済ませ、馬へと乗り込んだ俺達は早速帝国領を出る事にした。本当は観光の一つでもしたかったけれど、レックが率いているドライアド周辺の第四部隊がドライアド跡地に行ってサーシャ達と遭遇してしまうとどうなるか分かったもんじゃない、少しでも早めに帰る事が重要だろう。

 俺達は馬を急ぎめに走らせていると、なんと帰り道の途中にかかっていた橋が不自然に壊されていた。この様子を見たシンが舌打ちをして、悔しがった。

「やられた……モードレッドめ、ここまでするか。この渓谷は幅がかなり広いから橋を壊されれば大きく迂回しなければならない。どうやら何が何でも俺やガラルド君の帰還を遅らせてドライアド復興計画を邪魔したいらしい」

「クソッ! モードレッドと握手したことを後悔するぜ。どうにか渡れないものか……地図を見る限り渓谷を迂回してちゃ二日以上帰るのが遅くなる……何か……何か手は……そうだ! リリスのアイ・テレポートで何度も往復すればいいんじゃないか?」

「それは厳しいですガラルドさん……。人を二人運ぶだけでも大変なのに、大きな馬を飛ばすのは厳し過ぎます。馬や護衛の兵士さんだけでなく荷物も多いですし。それに加えて渓谷全体に濃い霧がかかっていて着地先を見つめることすらままなりません」

「サーシャ達に頑張ってもらうしかないか。とにかく俺達は少しでも早く帰れるように頑張ろう!」

 結局俺達が渓谷の先に行けるようになったのは予想通り二日後となってしまった。手強い魔獣はいないから疲弊こそしなかったが、焦りで心労が積もるばかりだった。

 俺達より先に着くであろうレック達第四部隊はサーシャ達にどう絡んでくるのだろうか。俺を散々いじめた奴が今度はサーシャに牙を剥くかもしれないことを考えると気が気ではない。

 俺達は馬を走らせながらただただ祈り続けた。

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