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【第77話】共通の知人
しおりを挟むまるで王族の結婚式の様な豪華な長机と椅子を用意してもらえた俺達は、見惚れる程に美しい所作のウエイターに料理を運んでもらい、大陸会議終了の食事会を始める事となった。
一番奥の席でグラスを持ったモードレッドが乾杯の挨拶をする。
「皆さん、今日は帝国リングウォルドまで足を運んでいただき感謝いたす。国の数だけ価値観があり、意見がぶつかり合うことも少なくはないが、我々は幸せを望み、魔獣殲滅を願う同志だ。どうか、これからも手を取り合っていこうではないか。それでは乾杯!」
どの口が言うんだと言ってやりたかったが、今はいざこざを忘れ労い合う時間だ。目の前の食事に集中しようと思う。しかし、ここは要注意人物モードレッドが主催する食事の場だ、毒を盛られている可能性も0とは言い切れない。
どうにかして確かめられないだろうか? 最悪俺がシンバード御一行のテーブルに載っている料理を毒味すればシンやリリスを守れるのでは? などと考えていると微笑を浮かべたモードレッドが俺に話しかけてきた。
「随分警戒しているなガラルド。そんなに信じられないなら我々の皿と交換してもよいが?」
どうやら俺の考えは諸に表情へ出ていたようだ。とは言えモードレッド自ら潔白を証明しようとしているのだから本当に安全なのだろう。
「お気遣いどうも、帝国を信用して頂かせてもらうよ」
俺はちゃんと料理を口にすると言葉を返した。しかしここにきて、またしても問題が発生した。豪華な料理と見た事がない高級な食器を前にして食べ方が分からないのだ。
訳の分からない形状をした食器は使い方を知らないし、アート感のある立体的な盛り付けをした料理はどこから食べて何のソースに浸せばいいかも分からない。
横にいるリリスに助けを求めようかと思ったが、リリスは綺麗な作法のもと、高速で食事を口に放り込んでいる。今にも「オホホ」なんて言いだしそうな顔をしているが、ちゃんと噛んでいるのか心配になるぐらい瞬く間に肉が消えていく。
しょうがないからシンに教えてもらおうかと思ったが、何やら他国の代表と談笑しているようで、教えてもらう暇はなさそうだ。
ここにきてまさかの田舎者ハンデを背負う事になるとは思わなかった。久々に呪われた地で育った事を呪った、そういう呪いではないのだけれど……。こうなったら恥をしのんで声に出してリリスに聞くしかないと再度リリスの方へ向いてみると、リリスの食指は俺の皿にまで侵食していた。
「おい、何やってんだリリス。それは俺の料理だぞ」
「いやぁ……全然減っていないので食欲がないのかと思いましてね、残すのも勿体ないですし私が食べようと」
「だったら一度尋ねろよ! それに食事が始まってまだ3分ぐらいしか経ってないんだぞ? 判断が早すぎだ!」
「まぁ正直言うと美味し過ぎてガラルドさんのぶんも食べちゃってるだけなんですけどね、えへへ」
そんなことだろうと思った。リリスはいつも頑張ってくれているし、よく懐くペットみたいなところもあるからお願いすれば普通に分けてあげるのだけれども。俺は横取りをした罰と称してリリスにお願いをした。
「勝手に食べたのを許してやるかわりに、貴族様のテーブルマナーとやらを教えてくれ。じゃないと俺は飯にありつけん」
「なるほど、だから止まっていたんですね。分かりました、まずはこちらの皿ですけど――――」
俺はリリスにご教授されながらようやく食事する事ができた。今までの人生で経験したことがない味を堪能し、幸せ過ぎる時間を堪能した。それと同時に美味しい料理を盗み食いされた事実が今更モヤモヤしてきたけれど、ぶり返すのもなんだし黙っておいた。
俺達が食事と談笑を楽しんでいると、自分の席に座っていたモードレッドがこちら側へ来て、シンではなく俺に話しかけてきた。
「食事は楽しんでいただけたかな?」
「ああ、食べた事ないものばかりなのに全部美味しくて驚きだよ」
「それはよかった。この後は舞台で街一番の踊り子が踊り、手品師が芸を披露する予定だから、この場はますます盛り上がる事だろう。だけど、それよりも私は君と話がしたい、どこか静かなところで話をしないかね?」
モードレッドはにこやかな表情で問いかけてきたけれど、正直俺は少し警戒している。だから一つだけ条件をつけた。
「リリスとシンが横にいてもいいのならオッケーだ」
「分かった、それでいい。それじゃあこちらについてきておくれ」
それから俺達は地下の部屋へと案内された。食事の席の談笑も聞こえないぐらい静かなこの場所でモードレッドは早速質問してきた。
「君達シンバードの活躍はかねがね耳にしている。どうやら魔獣の襲撃時期や襲われる可能性の高い街の傾向を割り出し、周辺国に教えてあげたらしいじゃないか。それはどのようにして見つけ出したんだ?」
俺は正直に全部話していいのかシンの顔を伺ってみた。シンも察してくれたようで「全てありのまま話していいよ、俺が許可する」と言ってきたから包み隠さず話す事にした。
「俺達が九十魔日・八十魔日を見つけ出した訳ではないんだ。コロシアム決勝で戦ったローブマンという男が色々と教えてくれたんだ」
「ローブマン? もしかしていつも目深にフードを被っていて、植物を成長させるスキルを使う、胡散臭い男の事か?」
「そう、その男だ。あんたも面識があったんだな」
「奴は昔、帝国に凶悪な魔獣が現れた時に颯爽と現れて殲滅してくれた事がある、それも一度や二度ではない。魔獣について色々と知っているようだから直接尋ねたこともあったのだが『君達帝国には情報を流すつもりはないよ』と断られてしまってな。ガラルドには色々と教えたと聞いて私は複雑な気分だ」
確かにローブマンは『少なくともガラルド君の味方だよ』と言っていたからモードレッドに教えなかったのにも納得がいくところもある、モードレッドも負けず劣らず胡散臭いところがあるし。
だけど、何度も危険な魔獣を倒して人助けをしているあたり、やっぱりアイツらしいなとも思う。コロシアムの裏で初めて出会った時に俺を襲撃から守ってくれたことを思い出した。
その後もしばらくローブマンの話を続けていると、モードレッドは遠い目をしながら軽く貶し始めた。
「君達が言うローブマンは私達にも名は明かさなかったし、ローブマンという通称すら使わなかったから、やっぱり君達は気に入られているようだ。ただ、あの男が帝国を気に入らない様に私もあの男があまり好きではない。奴は強いが『甘っちょろい理想』に囚われた青二才だ。現実はもっとシビアでドライに立ち回らなければならない」
「随分な言いようだな、俺は何だかんだローブマンの事を買っているぞ? そう遠くない内にローブマンが言っていた街『イグノーラ』にだっていくつもりだ」
「ほほう、あの死の海を渡るつもりか。奇遇だな、帝国でも死の海に関する研究が進行している。いずれ向こうで会う事があるかもしれないな」
シン曰くかなり合理的思考を持つモードレッドがわざわざリスクとコストを割いて『イグノーラ』を目指そうとしているのなら、やっぱり死の海を越える事に大きなメリットがあるのだろうか。イグノーラに何があるのかは分からないが、先を越されない為に俺達も早めに計画を立てた方がいいかもしれない。
その後もモードレッドは俺の事を中心に沢山質問してきた。今までの戦いをどのように乗り越えてきたか、故郷ではどんな暮らしをしていたか、夢はあるのか、等々まるで記者の様だった。
これだけ質問に答えたのだから、シンバード側からの質問もきっと答えてくれるかもしれない、そう考えた俺は思い切ってビエード関連の質問をしてみることにした。
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