見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第61話】ビエードの強さ

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 岩壁を生み出す魔術によってサーシャ達と分断された俺とレナとブレイズはビエードの攻撃を警戒して距離を取っていた。

 常に一定の距離を保とうとしている俺達をビエードは小馬鹿にしてきた。

「おやおや、シンバードのバトルスタイルというのは逃げに重点を置いているのかな? 特にガラルドは東工場から自分に一撃も喰らわせていないうえに、船上で我が部下に囲まれた時も逃げていただけじゃないかね?」

 言い返してやりたいし、近づいて攻撃してやりたいところだが今は我慢だ。メテオ・キャノンだけでも即死級に危険な技なのに、魔力を込めた剣そのもので斬られでもしたら跡形もなく消しとんでしまうかもしれないからだ。

 レナとブレイズに俺の後方へ来るように指示を出し、視界を遮らない程度のサンド・ストームを展開して防御態勢を敷いた。

 挑発に乗ってこない俺にイラついたビエードは舌打ちをした後、剣先をこちらに構えて語る。

「どうやら闘士としてのプライドを貶されても、やり返さない程に腑抜けなようだね君は。そんな奴らが近くにいるだけでも不愉快なのだよ、さっさと殺させてもらおう」

 俺はビエードの言葉に違和感を覚えた。これまでのビエードの言動から推察するに、相手が戦う意思を失っているようなら、むしろ圧倒的優位に立ったと考え、喜んで嬲るような気がするからだ。

 それなのに、今のビエードは闘士のプライドだとか不愉快だとか奴らしくない言葉を使って苛立っている。もしかして今の状況はビエードにとって都合が悪いのかもしれない。

 岩壁を作り出すディビジョンで戦いのエリアを狭くしたことと、俺達の距離を取る戦い方に言及してきたことから、ビエードは短期決戦を望んでいる可能性が浮かび上がった。

 周りの帝国兵から無理やり魔力を奪い取り、自身の限界以上の力を帯びているのが今のビエードの状態だ、きっと体への負荷が大きいのだろう。だったら勝利への一手は時間を稼ぐことだ。

 俺はより話を長引かせる為にビエードにだらだらと言葉を返した。

「正直、お前の言う通り俺達は参っているんだ。どうやっても勝ち目がないからな、もし俺達が命乞いをしたら許してくれるか? と言っても一度サーシャが嘘泣きでお前を騙したから許さねぇよな? だったら武器を捨てたりすれば俺達が戦う意思をも――――」

「黙れ」

 ビエードは冷たく言い放つと剣先から細い光線を放った。その光線が光属性の魔術なのか、凝縮された魔力に過ぎないのかは分からないが、反応できない程に早く、俺の頬すれすれを通って後ろへ飛んでいった。

「ウワアァァァッッ!」

 俺が光線を認識した瞬間、後方からブレイズの叫び声が聞こえた。ビエードは俺への威嚇と同時に後方のブレイズを攻撃していたのだ。

 恐る恐る後ろのブレイズを確認すると、体が部分的に焦げて、爆発跡に横たわるブレイズの姿があった。辛うじて生きてはいるが瀕死状態だ。

「ビエードォォ! てめぇぇっっ!」

 完全に頭に血が昇り冷静さを無くした俺は、棍を強く握りしめ、ビエードに向かって走り出してしまった。

「アクアボール!」

 すると大きな水の球が、走り出してしまった俺を止めた、レナの魔術である。ずぶ濡れになった俺をレナが優しく叱ってくれた。

「ガラルド君、気持ちは分かる、だけど今は何が何でもクールになろう、ね?」

 レナの魔術で完璧に俺の頭は冷えた。持つべきものは友という言葉があるが、今ほどこの言葉を強く実感する瞬間はないかもしれない。

「ありがとうレナ、今俺達がやるべき事はビエードの覚醒状態が持たなくなるまで耐えることだ」

「そうだね、だから私達が今、使うべき技は――――」

「サンド・ストーム!」

「ヴォルテックス・シールド!」

 俺が回転砂の防御壁を、レナが強烈な渦の防御壁を展開した、二重の守りである。

 俺の回転砂のせいでビエードの姿を目で捉えることはできないが、集中している今の俺なら周りを飛び交う砂からビエードの大体の位置と動作は感知することが出来る。

 ビエードは回転砂と渦の轟音が鳴り響く中でも聞こえるほどの怒声をあげる。

「虫より不快でしつこい奴らめ、纏めて消し飛ばしてくれるわ!」

 そう言うとビエードは地面に魔力を放出し、そこからとんでもなく大きな岩の斧を引っ張り出した。

現在ビエードは三十歩以上離れた位置にいるが、あの斧はそこからでも届くぐらいのリーチがある。それに脅威はリーチだけではない、回転砂で見えない状況でもはっきりと分かるぐらいに強力な魔力と質量をほこっている。

「もっと魔力を高めるぞレナ!」

 俺とレナは互いの防御壁に一層魔力を込めると、準備を整え終えたビエードが豪快に巨大な岩斧を振り下ろした。

「ディストラクション・アックス!」

破裂音と鈍い音が混在する空気振動が俺達の体を襲った、まるで海に隕石が落ちたような感覚だ。

「きゃーっ!」

 あまりの衝撃にレナが悲鳴をあげる。

外側に張ってあった俺のサンド・ストームは壊されて、内側に張ってあったレナの渦も半壊状態となっている。回転砂の壁が破壊されてクリアになった視界の向こうで、ビエードが肩で息をしながら笑っている。

 しかし、たった一振りで二人分の障壁をぶち破るビエードの力は恐ろしいものの、魔力砲ほどの破壊力は無い。最初に放ったメテオ・キャノンよりも威力は低くなっていることからも確実にビエードは弱ってきている。

 そもそもビエードはサクリファイス・ソードで自身を強化した反動で立っているだけでも体にガタがくる状態なのだから、ここが俺達の踏ん張り時なんだ。

俺とレナは互いに目を合わせ、もう一度障壁を展開する。メテオ・キャノンがこようが岩斧がこようが耐えきってやる。

 俺達はどんな攻撃が来てもいいように心身とも身構えていた。しかし、何故かビエードは一向に攻撃を仕掛けてこようとはしなかった。

 長期戦になればなるほどビエードが不利になるにも関わらずだ。障壁の向こうから微かに魔力を練っている感じはするものの、力強さは感じない。

魔力を練っている以上戦いを放棄した訳ではなさそうだが、些か不気味だ。時間を稼げているものの一向に安心できない沈黙が二十秒ほど続く。するとビエードがゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「もう戦いを終わらせようではないかガラルド、自分は覚醒状態が続き過ぎて疲れているのだよ」

「だったらそのまま倒れてくれよ、起きた時には拘束されていると思うがな」

「いいや、倒れるのは君達の方だ。確かに君達の障壁は想像以上に強固だ、このまま矛と盾をぶつけ合えば自分の力が底を尽きて負けてしまうかもしれない。だが自分はそんな間抜けな真似はしない。君達の守りには欠陥がある。そこを突破してあげようではないか」

 欠陥? ビエードは何を言ってるんだ? 360度どこから攻撃が飛んできてもいいように障壁を張ってあるし、頭上だって塞いでいるから、何がきたって防げるはずだ。

 ビエードの事だから動揺させる為に言っている可能性もあるけれど、嘘だと断定できる要素もない。俺は唾を飲み込み、時間が経つのを待っているとビエードがぽそりと呟いた。

「ワームーブ」

 一瞬、魔術を発動した気配を感じた、何処から攻撃が飛んでくるか分からない俺達は背中を合わせて、互いに180度ずつ視界を受け持ち警戒する。

「かかってきやがれ、ビエード!」

 俺が覚悟した次の瞬間、目の前の地面からまるで鉄砲水のようにビエードが出現した。まさか地面を移動してくる魔術があるなんて、俺は聞いたことがない。

俺の斜め上へと跳び上がったビエードはサクリファイス・ソードを力任せに薙ぎ払った。ぎりぎりで棍を構えて防御できたものの、ビエードの圧倒的な膂力は棍ごと俺の体を吹き飛ばし、背中を合わせていたレナの体をも吹き飛ばした。

「グアアァァ!」

「きゃああぁぁーっ!」

 吹き飛ばされた俺とレナは地面に勢いよく滑り込んだ。

 棍でガードしたにも関わらず俺の右手は痺れて動かなくなり、肩から手首まで痛々しい痣ができている。

吹き飛ばされた俺の体に巻き込まれたレナは倒れた際に頭を打ちつけたようで、側頭部から血を流して、半分目が閉じ、虚ろとしている。近接戦闘が苦手な魔術師タイプのレナには厳しい衝撃だったのだろう、戦いを続ける事は不可能だ。

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