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【第59話】償いと恩

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ストレングと共に救援に来てくれたハンターがレナ、フレイム、ブレイズだと分かり、吃驚して何も言えなくなっている俺を見かねて、レナが最初に声をかけてきた。

「やあ、コロシアムの準決勝以来だねガラルド君、と言っても十日も経っていないけどね。まだガラルド君にリベンジを果たしていないのに、危険な戦いに身を投じているようだから仕方なく守りにきてあげたよ。友達のよしみで助けてあげるかわりに今日からはレナ様と呼んでね」

「勿論、様なんて絶対に付けないけど、来てくれて本当に嬉しいぞ、ありがとなレナ」

 俺が礼を言うと、レナは珍しく照れくさそうに目線を逸らした、案外直球な感謝に弱いタイプなのかもしれない。

 次に俺はフレイムとブレイズに理由を尋ねた。

「あんた達はどうしてここに来てくれたんだ?」

 フレイムとブレイズは互いに目を合わせて頷き合った後、フレイムが懐から見た事の無いプレートの様な物を俺に見せながら、説明してくれた。

「このプレートはシンバードで重罪を犯した人間が僧院に入れられる際に配られる物でね。パープルズの四人は全員持っている。罪を償う度にプレートに模様が刻まれて、規定の量まで刻まれれば晴れて罪人の肩書は無くなり普通の人間に戻ることができる。今回来たのはストレングさん監視の元、慈善活動をしに来たに過ぎない」

「そういう仕組みがあるのは分かったが、僧院が行う『償い』というのはこんなに厳しい任務もさせられるものなのかいストレングさん?」

「いいや、そんなことはないぞ。フレイムとブレイズが参加したいと言ってきただけだ、素直じゃないんだよこいつらは。自分を殺そうとした相手にすら情けをかけるガラルドに心底感銘を受けたのだろうよ」

「そうだったのか、ありがとなフレイム、ブレイズ」

 一度は殺されかけた間柄だけど、今は罪を償おうと頑張っているようだ。それがたとえ心象を良くする為の偽善行為だったとしても、自分から意思表示をして危険なところまで助けに来てくれたことが凄く嬉しい。

 お礼を言われた二人は気まずそうに目線を逸らした。その後もフレイムは更に言葉を続けた。

「一応、ガラルド君には重い処罰を避けるようにシンさんへ言及してくれた恩があるからね。だから一応借りを返したいと思っただけだ。実はアクアとレインも一緒に行かないかと誘ったんだが、来てくれなくてね……」

 そう言われると少し残念だが、そもそもフレイムとブレイズの二人が危険なところまで助けに来てくれただけでもありがたい話だ。

だが、アクア・レイン姉妹から特に強く当たられていたサーシャは沈んだ表情をしている。元気を出して欲しいと思った俺は自分なりに励ますことにした。

「大丈夫だサーシャ。アクアとレインだってきっと罪の意識を持っているだろうし、償いたい気持ちだってあるはずだ。今回助けに来てくれなかったのも、きっと恐かったからだとか、自信がないからとか、そういう理由さ。命懸けで助けに来てくれたフレイムとブレイズが凄いだけなんだ」

「ふふふ、凄く頑張って励ましてくれてるね、ありがとうガラルド君」

 そんなに必死さが出ていたのだろうか? 意外と俺は感情が分かりやすいタイプなんだろうか? ビエードに嘘がバレバレだったし……。少し恥ずかしくなってきた俺は話を戦いに戻すことにした。

「それにしてもビエード達が見当たらないな、もしかして川の下に沈んでしまったのか? サーシャはどう思う?」

「う~ん、鎧を着ていた帝国兵なら重さで沈む可能性があるかもしれないけど、ビエードは普通の服だったから出てくるはずだよね……カナヅチなのかな? それともストレングさんの爆発剣に巻き込まれてやられちゃったとか?」

 もし、そうならラッキーだが、あのビエードがそんな簡単に敗北するとは考えづらい。しかし、川の先の方まで見てみても陸に上がった形跡はない。

もし今も沈んでいたら一分以上沈んでいることになるから本当に窒息死した可能性も出てきてしまうのだが、その可能性は次の瞬間崩れる事となった。

 俺達が会話をしていた場所の地面が突然発光を始めたのだ。俺はこの光に見覚えがある、ジークフリートで帝国兵が放った魔力砲と同じ光だ。俺は全力で皆に叫んだ。

「今すぐここを離れろ! 攻撃が来る!」

 俺が叫び、皆が逃げ始めてから僅か2秒後、俺達の足元から極太の魔術エネルギーが噴き出してきた。

そのエネルギーは地面から低い軌道で円柱状に噴き出し、そのまま西方向にある森の方へと飛んでいき、木々をまるでゼリーを刳り貫くように破壊していった。

 魔力砲の威力を初めて見たハンター達は口を開けて驚いている。ストレングは直ぐに詳細を俺に尋ねてきた。

「今の攻撃は何なんだガラルド! 帝国の兵器か?」

「まぁ大体そんな感じだ、仲間の魔力を吸って放つ武器で俺達は勝手に魔力砲と呼んでいる。これを撃ってきたって事はビエード達がまだ生きているということだ」

「奴らが今、どこにいるか推測はできるか?」

「エネルギーが地面から出てきて、西の方へ飛んでいったことを考えるに、東から撃ってきたことになる。東には川しかないから、恐らくビエード達は溺死したフリをして、川の中から地中を貫くように、角度をつけて魔力砲を放ったに違いない」

「なるほど、虚を突いた戦術だけでも手強いのに、でたらめな威力の砲撃まであるなんて嫌になってくるな」

「とりあえず今は急いで川から離れよう、直ぐに二発目を撃ってこない保証もないからな」

 そして、俺達は急いで西側へと走った。西の森手前まで来た俺達は一度川の方を振り返ると、ビエードと狂人化した帝国兵がゆっくりと、川から這い上がってきた。やはり川の中から撃ってきたという俺の予想は的中していたようだ。

 あれだけのエネルギーを射出した以上、帝国兵もだいぶ弱っているかと期待したが、多少身に纏う魔力は弱くなっているものの、まだ戦う事はできそうだ。それに横にいるビエードも船の上にいた時と変わらない圧倒的な魔力をその身に宿し続けている。

 しかし、逆を言えば普通の人体に無理やり複数人分の魔力を詰め込んでいることから、肉体への負荷も強くなって長時間は維持できないはずだ。

このまま離れた位置をキープし続けて、ビエード達のスタミナが底をつくまで逃げていればいいのではと考えたが、それは直ぐに否定される事となった。

 なんとビエード達は足に魔力を集中させて、猛スピードでこちらへ向かっているのである。あの暴れ馬のような魔力を上手く流動させて、局所的に力を高めるなんて芸当は俺じゃあ絶対にできない。

「まだ、あんな力を隠し持っていたのかよ……」

 俺は情けない声で呟いてしまった。きっと沢山の戦闘訓練を積んできたであろうビエードならそういった技術があるのも理解できるが、狂人化した帝国兵にもそれが出来るなんて思いもしなかった。

 魔力を注入し過ぎて狂人化すると、理性を失う代わりに戦闘センスが向上したりするのだろうか? 次々と恐ろしい事をしてくる帝国側に頭が追い付かなくなっていた俺にストレングが喝を入れてくれた。

「しっかりしろガラルド! 今はお前が戦いのリーダーであり、一番帝国側を理解しているんだろう! 全員に指示を出せ、目の前の事だけに集中しろ!」

 ストレングの言う通りだ、俺が悩んでいる時間なんて一秒だってない。今は少しでも勝率の高い戦術を練る時だ。相手は強力とはいえ二人だけ、それに持久戦だって厳しいはずだ、それらの情報を踏まえて俺は皆へ指示を出した。

「皆聞いてくれ! 今は敵の戦力を減らすのが重要だ。まずは狂人化した帝国兵を全員の力で一気に倒す、ビエードの攻撃は警戒しつつも、こちらからはビエードに攻撃をしなくていい。そして帝国兵を倒せたら、帝国兵の体をビエードから遠ざけてくれ、魔力を奪われたら厄介だからな」

 全員が俺の指示に頷いた、そして俺達は一斉に帝国兵を取り囲むように突進した。帝国兵は理性を失ってはいるものの、流石に六人に囲まれるという状況には困惑したようで、走りを急停止した。

 困惑している今がチャンスだ! 円を縮めるように一斉に六人で攻撃を加えにいったその時、後方のビエードから魔術を発する声と強い魔力の放出を感じた。

「ディビジョン!」

またメテオ・キャノンを放ってくるのかと警戒していたが別の魔術を放ってきた、ビエードの魔力は帝国兵の横の地べたに放出される。

 三秒ほどの沈黙が流れ、一体何が起きるのかと身構えていると、突如地面が揺れ始め、轟然たる大音響が耳に刺さると、まるで城壁の様に大きな岩の壁が勢いよくせり出てきた。

 その壁は俺達六人のパーティーを分断し、ビエード側には俺とレナとブレイズ、帝国兵側にはストレング、サーシャ、フレイムがいる状態へと強引に持っていかれた。

 ビエードが地属性魔術を使える事はメテオ・キャノンを使っている時から分かってはいたが、まさかこんな大技も持っているとは、流石は帝国の大佐と言ったところか。

 分断に成功したビエードは得意げな顔で語る。

「鬱陶しいハエは追い込んでから一匹一匹確実に仕留めなければなぁ」

 相変わらず腹の立つ言い回しだが、ビエードが作り出した壁はかなり有効だ。

六人いれば盾担当、火力担当、補助回復担当とロールを分担して戦う事も出来るだろうが、人数を減らされれば一気にやり辛くなるしバランスも悪くなる。

 そもそも、俺はまともに連携を取ったことのある人間がサーシャとストレングしかいない。だから即興三人パーティーであるレナとブレイズ相手に上手く連携を取れる自信もない。

 そして、サーシャ側のパーティーもまた同じ様に連携が取り辛いはずだ、サーシャだけは唯一ストレングとフレイム両方と連携を取ったことがあるからそれだけが救いか。

 俺はそそり立つ岩壁を見つめながらサーシャ達の無事を祈った。

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