見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第57話】命の軽さ

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危険を顧みず飛び込んでくれたリリスのおかげもありアイアンを救い出すことが出来た。このまま機動力で勝るボビの船に乗り込めば川を下って逃げることが出来る。俺は疲れているリリスへ最後の指示を出した。

「リリス、息苦しくて辛いだろうが、あともうひと踏ん張りだ。アイアンさんを連れて一足先にボビの操縦する船へ戻るんだ、そして二人が戻ったらボビに『一旦帝国の船から離れる』ように言っといてくれ」

「え? それじゃあガラルドさん達はどうするんですか?」

「残った俺達三人にもビエード達から離れる手段はある。サーシャ達には俺の体を掴んで貰って、サンド・テンペストで一気にボビの方まで飛んでいく。魔量の消費は激しいがそれぐらいの距離なら跳べるはずだ」

「分かりました、それでは……アイ・テレポート!」

 そしてリリスは周りを見渡し、ボビが操縦する船の方を凝視した後、アイアンと共に俺達の船へ戻ることが出来た。

 後は仲間のハンターと俺とサーシャの三人がサンド・テンペストで移動できれば奪還作戦は完了だ。

作戦開始前はビエードを捕らえるつもりだったが、まさか川の上で戦うほどに状況が二転三転するなんて思わなかった。昨日の段階では誰も想定できなかったことが起きてしまったのだから仕方がないのだが。

 俺は最近めっきり移動技と化してしまったサンド・テンペストを放つ為に両手に魔力を集中させた。当然ビエード達も俺達三人を妨害をしてくるかと思ったが、意外にも大人しくて今いる位置から一歩も動かないうえにずっと俯いたままだ。

 さっきまで怒り狂っていたにも関わらず真逆の状態になったビエードに不気味さを感じる。俺はビエードへ問いかけた。

「随分と静かになったじゃないか、もう諦めたのかビエード?」

「黙れ……いまさら労働力が減ろうが、町の管理が出来なかろうが、全てどうでもいい! ジークフリートの連中もハンター風情も全員纏めて殺してやる!」

 ビエードは口から涎を垂らして唸りはじめ、理性が完全に無くなっていた。どんな攻撃を仕掛けてくるのか身構えていると、ビエードは近くの帝国兵が腰にぶら下げていた剣を力任せにぶん捕った。

 するとビエードは正気の沙汰ではない行動を取った。なんと、いきなり帝国兵の体を剣で貫いたのである。

剣を貫かれた帝国兵は体から血を出すこともなく、ゆっくりと光の粒となって消えていき、それと同時にビエードに凄まじい魔力が漲りはじめた。

前に戦った帝国兵も魔力砲で仲間の魔力を吸収し、凄まじい魔力砲撃を放っていたが、あれですら仲間が気絶する程度で収まっていたし、吸収したエネルギーも砲撃にしか使われてはいなかった。

 なのに目の前のビエードは躊躇いもなく一つの命を犠牲にしたうえ、剣だけではなく自身の体にも満遍なく魔力を充填させている、まるで異次元レベルの強化魔術だ。

「フハハハ、かつてない力が漲ってくるぞ! 使い捨ての部下が一つ減るのは勿体ないが、我が力となれたのなら本望だろう。どれ、もう一つぐらい吸収しておくか」

 ビエードはそう呟くと近くにいる帝国兵に向かってゆっくりと歩を進めた。俺は恐怖で震える部下の帝国兵を救うべく慌てて飛び出した。

「やめろビエード! 人の命を何だと思ってい――――」

「黙れ」

 ビエードは無機質に言い放つと、虫でも振り払うかのように俺へ裏拳をかましてきた。体重も乗せていない裏拳の筈なのだが、その威力は落石のように重く、ガードした俺の腕がメキメキと音を立てて、体を大きく吹き飛ばされた。

「グハアァァ!」

 俺の背中が船の手すりへ激突する。とびそうになる意識をギリギリのところで保ち、何とか立ち上がった。手すりがなかったら間違いなく川へ落とされていただろう。

 俺は直ぐにビエードの剣を止めなければとビエードの方を向いたが既に遅かった。ビエードは二人目の帝国兵を剣で貫き光の粒へと還えた。救えなかった悔しさを噛みしめる暇もなく、ビエードが言葉を続ける。

「ふむ、サクリファイス・ソードを自分自身で使うのは初めてだが、中々気分が良いものだ。得も言われぬ高揚感と言うのか、それとも万能感というべきか、自分が新たな生物……いや、神にでもなったような気分だ」

 サクリファイス――――ってことは犠牲や生贄という意味だろうか。帝国は勝利の為ならこんなにもえげつない兵器を使うのか……。吐き気と嫌な汗が止まらなかった。

 きっと魔力砲はサクリファイス・ソードの下位互換か射出特化の武器なのだろう。こんなにも危ない武器を部下に携帯させて、いざという時には躊躇なく使うように命じられている帝国兵は不憫にもほどがある。人としての尊厳をとっくに放棄させられているように思う。

 とにかく今はビエードの暴走を止めなければいけない、俺は棍を構えてビエードへと近づいた。

 しかし、ビエードは俺なんて意に介していないとでも言わんばかりに、ボビが操縦している船を見つめている。まずい、次のターゲットはアイアン達だ。

「まずは素早く目障りな向こうの船を潰しておくか。さっきよりもずっと高威力に進化した魔術を見せてやろう、メテオ・キャノン!」

 ビエードは先程とは比べ物にならない魔力を帯びたメテオ・キャノンを解き放った。人より大きな岩石が超スピードで三十個以上射出された。

 俺は喉が千切れる勢いで叫んだ。

「逃げろおおぉぉぉリリス!」

 俺の叫びも虚しく、岩石群は船と川へ直撃した。塔かと思うぐらいの大きな水柱が上がり、船はバラバラに砕け散ってしまった。

リリスとボビとアイアンは無事なのかと、船の方を確認すると、三人とも空中に身を投げ出さされた形になったものの、生きてはいるようだ。

リリスは目を開いてこちらを見ているから意識はあるものの、ボビとアイアンは目を瞑ったまま、今まさに川へと落下している。

 俺は横にいる同班のハンターへ指示を出した。

「今すぐ、アイアンさん達を助けに行ってくれ! このままじゃ溺れちまう。その間、ビエードは俺が食い止める!」

「分かった、無理はするなよガラルド!」

 そう言って仲間のハンターは川へと飛び込んでくれた。流れが急な川だが、船は並走していたから近づけない状況ではない。何とかボビとアイアンを拾い上げてほしい、俺はハンターとリリスに救助を託した。

 気がつけば俺達がいる船の上にはビエードと帝国兵六人、そして俺とサーシャしか残っていない状況になった。ビエード単体でも絶望的だが、そこから更に追い打ちをかける言葉をビエードは言い放った。

「フン、ハンターを一人でアイアン達の救出に向かわせたか。まぁいいだろう、ガラルド達を殺した後にゆっくりとアイアン達を殺ればいい。それより今はガラルド達に逃げられないように確実にトドメを刺さねばな。我が手下よ、操舵手を除く四人分の魔力を一人で吸収して、加勢しろ!」

「……畏まりました」

 ビエードの部下は生気の無い眼で返事をするとビエードが持っているのと同じサクリファイス・ソードを掲げた。するとビエードの時ほどではないものの、他の四人の帝国兵からどんどんと魔力が流れて剣に集まっていく。

 どうやら周りの帝国兵が持っている魔力砲を介して、サクリファイス・ソードを持つ帝国兵の元へ魔力が流れているようだ。恐らく魔力砲もサクリファイス・ソードも『魔力の吸収・提供・強奪』などの機能が備わっているのだろう、本当におぞましい武器だ。

 サクリファイス・ソードを持つ帝国兵は魔力の増大に比例して、みるみる筋肉が肥大化し、そのまま鎧を破裂させた。

眼球からは白い部分が無くなり完全に真っ赤に染まっているが、黒目の部分だけは不思議と綺麗な紺色になっている。剣で魔力吸収を使った副作用なのかもしれないが、ビエードは変わっていないことを考慮すると吸収量の差で様子が違うのかもしれない。

 魔力を吸いまくった帝国兵は野生の動物以上に狂った唸り声を上げ、口からは涎を垂らしている。もう、いつ襲い掛かってきてもおかしくはない。
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