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【第55話】サーシャ班の戦い

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※今回はサーシャ視点です

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 お爺ちゃん、ガラルド君、リリスちゃん、ボビおじさん、そしてハンターの皆が無事に戦いを終えられますように……両手を組んで神様に祈りを捧げた。

 ボビおじさんの運転のもと、一番はじめにガラルド君とリリスちゃんのいるA班の四人が帝国の船に乗り込んだ。

 A班の乗り込んだ船がビエードの乗った船だったら、戦力的な意味でとてもありがたいのだけれど……。

 そして、サーシャ達B班も帝国の二隻目の船へと乗り込んだ。ガラルド君もリリスちゃんもいないから心細いけど、他のハンターさん達が三人いるし、サーシャも支えられる側から支える側にならなきゃと、自分に気合をいれた。

 C班とボビさんに見送られ、船へと乗り込んだサーシャ達はすぐさま操舵室へと向かった。そこには四人の帝国兵がいたものの、ビエードの姿はなかった。

ビエードの性格から推測するに、逃亡している三隻の船のうち、自身が乗っていない二隻の船は最低限のフェイクとして機能すればいいと考えて、少人数しか乗せていない可能性が高いと思う、だから他二隻の船が四人ずつしか乗っていないんじゃないかと思う。

 東工場に居た時、帝国側の人数はビエード含めて十七人だったことを考えると、ビエードの乗っている船には九人程いる計算になる。この情報を伝える事ができれば、ABC班のうちビエードの船に当たった人は戦わずに撤退して、他の班が合流してから攻め込んだ方が得策だと思う。

 だけど、それを伝える為に今は目の前にいる三人の帝国兵を倒さなければ始まらない。サーシャ達四人は一斉に帝国兵四人を取り囲んだ。B班はサーシャ以外の三人が剣士だったこともあり、帝国兵に近接戦を仕掛けて、激しい打ち合いを繰り広げていた。

 サーシャも後方から支援するべく杖を構えて、帝国兵全員の動きを確認した。すると、四人いる帝国兵のうち三人が剣で打ち合いをしているのに対し、もう一人は戦闘に参加せず舵を握っていた。

 今、船が走っている流域は川幅も広く、流れも穏やかなエリアだから真っすぐ進んでいれば舵を離しても問題はない。それにもかかわらず、舵を握っている帝国兵に何か嫌な予感を覚えた。

 サーシャはすぐに操舵手を止めるべく、火属性魔術ファイアーボールを放ったけれど、他の帝国兵が剣を差し出し、ファイアーボールを防いだ。

 それを見た操舵手がニヤリと笑い、高笑いと共に言い放つ。

「ハハハッ、止められなくて残念だったな。俺達は所詮ビエード様の捨て駒なんだよぉぉ! このまま、この船をガラルドの乗り込んだ船にぶつけて沈めてやるぜぇ!」

 船をぶつけて二隻とも沈めるという事はビエードの乗っている船はC班が乗り込んだ船だと確定した。そして帝国兵は面舵を切り、並走する船へと近づいて行った。

このままじゃ二隻とも潰されちゃう、どうにかしなきゃ! サーシャはがむしゃらにスキルを発動し、愛猫であるサクを帝国兵へと飛ばした。

 サクを見た帝国兵は馬鹿にした顔で笑い、そのまま剣を振り下ろした。

「こんなチビ猫で何ができる、叩き潰してやる!」

サクが斬られちゃう! と目を逸らしそうになったその時、サクは突然サーシャの指示とは関係なく自身の判断で横跳びし、振り下ろされた剣をギリギリ回避した。

 サクの自律行動という初めての経験に困惑していたサーシャはこの後、更に驚かされた。なんとサクは自ら舵の左側部分にしがみ付いた後、自身の体をグラビティで重くして、無理やり舵を左に回したのだ。

 右方向に勢いよく進んでいた船は、そのままガラルド君が乗っている船に激しくぶつかるはずだったけど、舵を左に切って勢いをころしたことで軽くぶつかる程度で済んだ。

 初めて直視する黒猫のスキルに困惑している帝国兵の隙を逃すわけにはいかない。サーシャ達四人は一気に攻撃を畳みかけた。一人の帝国兵にはグラビティで鈍足化させ、一人の帝国兵は斥力のリパルシブで吹き飛ばし、確実に一人ずつ撃破していくことに成功し無事船の制圧に成功した。

「やった! サーシャ達の勝ちだ! って喜んでる場合じゃないよね。サーシャはガラルド君と合流してきます! 船をギリギリまで寄せてもらえますか?」

 サーシャは仲間のハンターに操縦をお願いした。

「分かった、素人の操縦だから上手さは期待しないでくれよ」

 そして仲間のハンターさんは恐る恐るガラルド君が乗っている船に近づけてくれた。巨大化させたサクの背中に乗っかって、大きく跳躍したサーシャはガラルド君の乗っている船に着地し、直ぐに操舵室へと向かった。

 そこには、ちょうど帝国兵を倒し切ったガラルド君達の姿があった。

「よかった……ガラルド君達も無事だったんだね」

「ああ、サーシャ達も無事で何よりだ。戦いの途中で船と船がぶつかる音がしたから何事かと思ったぞ。それで結局サーシャの班はビエードには会えなかったのか?」

「うん、サーシャが乗り込んだ船には帝国兵が四人しか乗っていなかったの……だから」

「ビエードの船に帝国兵が大勢乗っているってことか、保身第一のビエードらしい采配だぜ。逆に言えばC班の四人が危ないってことだ。直ぐに合流するぞ」

「待ってガラルド君! 直ぐに合流しに行くのは賛成だけど、人質に取られているお爺ちゃんを助け出す算段はあるの? ハープーン・ピストルで繋がれている以上、ビエードとお爺ちゃんを離させることは難しいよね?」

 お爺ちゃんを攫われてからは、刻一刻と変わる状況の中、急かされるようにここまでやってきたけど、未だに解決方法は浮かんでいないのが現状だ。

 ビエードの船に乗り込む前にサーシャ達は話し合った。

リリスちゃんがお爺ちゃんの横にアイ・テレポートして、直ぐに離脱する案も考えたけど、アイ・テレポートの使用直後は消耗しているうえに、再使用には数秒の隙が出来てしまう弱点があるから却下となってしまった。

 この他にもガラルド君や他のハンターから幾つか案は出たものの、結局ハープーン・ピストルで繋がれている状況がネックとなって、実行に移せそう作戦はなかった。

 下唇を噛みしめていたガラルド君は、いつもの落ち着いた様子とは打って変わって叫びながら悔しがった。

「クソッ! ここまでビエードを追い詰めて、やっとラナンキュラ親子に笑ってもらえると思ったのによぉ! 作戦がまるで思いつかねぇ……どうにかしねぇと、どうにか……」

 自分の命を懸けてでも人助けをするような優しいガラルド君からしたら、今の状況は堪らなく悔しくて取り乱しているのだと思う、いつもの冷静な姿とはかけ離れていた。それにお爺ちゃんと凄く仲良くなっていたし、尚のこと救いたいと思ってくれているのだろう。

 それともサーシャのことを大事に思ってくれているからこそ、家族であるサーシャが悲しんでしまうと思って取り乱しているのかな? 緊急事態だというのに娘であるサーシャがこんなことを考えてちゃ駄目だと、自身の頭を振って雑念を振り払った。

 場に重い空気が流れる中、ずっと黙っていたリリスちゃんが何かを決心したような凛々しい顔でおもむろに話し始めた。

「皆さん、私に作戦があります。この作戦はハンター全員とボビさんの協力が不可欠です。特にガラルドさん、サーシャちゃん、私の息がピッタリ合わなければ失敗に終わります。それでもこの作戦が一番アイアンさんを助け出せる確率が高いはずです」

「……聞かせてくれ、その作戦とやらを」

「分かりました、この作戦はまず――――」

 そして、リリスちゃんは作戦の全容を語ってくれた。確かにこの作戦ならアイ・テレポートを警戒しているビエードにも有効だと思う、だけど……サーシャよりも早くガラルド君が言及する。

「この作戦で一番危険なのはリリスだ、本当にいいのか?」

「……はい、大丈夫です。たまには私にも命を懸けるようなカッコいい事をさせてください」

「…………分かった、だが、約束してくれ。絶対に死ぬなよ」

 そして、二人はそれ以上言葉をかわさずにボビさんが操縦している船に乗り込む準備を始めた。

 いつもふざけ合っている二人なのにこういう時には言葉を多く交わさずに分かりあっている。そんな二人の関係がサーシャは凄く羨ましく思えた。

 それから、A班とB班の八人がボビさんが操縦する船に一時帰還し、ボビさんに作戦を伝えた。不安そうな顔をしていたボビさんだったけど、リリスちゃんの覚悟に押されたようで、作戦実行に納得してくれることとなった。

 そして、お爺ちゃんを救い出し、ビエードを捕まえる最後の作戦が始まった。

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