見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

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【第53話】作戦開始

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 セシルは明日の出発のために、メアリに荷造りを手伝ってもらっていた。

「お洋服に、お薬に~」

 メアリは訓練所に行く時と同じように、鼻歌混じりで支度をしてくれている。

「メアリさん。最後まで、ありがとうございます」
「最後だなんて……。落ち着いたらお手紙をくれると嬉しいわ」
「はい。絶対に書きます! あ、でも、どうやって別の国からお手紙を送るんでしょうか?」
「あらあら。どうしましょう。アル様に相談しておくわね」
「はい!」

 メアリとの縁は、きっとこんなことでは切れないんだ。

 そう思うと嬉しくもあり、逆に気掛かりなことも出てきた。
 クリスとの縁もそう簡単には切れないのではないだろうかと。

 十五歳の誕生日は半年も先だ。
 その日を無事迎えるまで、気を抜いてはいけない。

「セシル。どうかしたの?」
「いえ。あ、そうだ。アルベリク様に夜のお茶をお入れして来ますね」
「ええ。いってらっしゃい」

 ◇◇

 書斎の前で深呼吸をして、セシルはノックをしてから扉を開けた。

「アルベリク様、お茶を……」

 セシルは顔を上げると言葉に詰まった。

 目の前に、ミリアの姿があったから。
 そしてソファーにはリリアーヌの姿があった。
 紅茶の香りがし、リリアーヌはこちらを振り向くことはせず、手にしていたクッキーを口に入れ紅茶に手を伸ばしていた。

「セシル。中に入るがいい」
「……はい」

 セシルがアルベリクに手招きされソファーの横に立つと、リリアーヌが立ち上がった。

 テーブルの上には可愛らしいクッキーが置かれている。
 前にミリアにもらったものと同じクッキーだ。

 リリアーヌはセシルに視線を合わせると、その手をセシルに伸ばした。セシルの体は勝手にビクッと反応したが、リリアーヌは構わずセシルの手を握りしめる。

「セシル。今まで辛く当たってしまったわね」
「……?」
「アルベリクと屋敷を出るのでしょう? 正直、あなたの顔なんか、もう見たくないから清々しているわ」
「姉上っ」
「あ、つい本音が出てしまいましたわ。でも、アルベリクには迷惑をかけたとは思っているの。可愛い弟に嫌われたままお別れは嫌だわ。だから、お詫びの気持ちを込めて、ミリアにクッキーを焼いてもらったわ。先に少しいただいてしまったけれど、よかったら貴女もアルベリクと一緒にいただいて?」
「あ、ありがとうございます」
「では、私は失礼するわ。おやすみなさい。アルベリク」
「はい。姉上」

 リリアーヌが出ていくと、セシルはアルベリクに手を引かれてソファーに座らされた。

「大丈夫か?」
「えっと……。よく分からない気持ちでいっぱいです」
「だろうな。俺には申し訳ないと思っているらしい。しかし、セシルには悪いと思っていないだろうな」
「やっぱりそう言うことですよね」
「茶が冷めてしまったな。新しい物を入れてくれるか?」
「はい。リリアーヌ様とは、どんなお話を?」

 セシルは複雑な心境のままお茶をいれた。でも、急に手の平を返されるよりは理解できるような気もした。
 リリアーヌのことを尋ねると、アルベリクは瞳をゆっくりと閉じ、思い唇を開いた。

「前に俺が言った言葉を気にしていたようだ。俺は、姉上の悪意がいずれ殺意に変わるのではないかと、恐れていた」
「殺意?」
「ああ。しかし姉上は、悪意を捨てファビウス家の為に尽くすと誓ってくれた。だから、安心して自分の道を歩けと」
「そうですか。リリアーヌ様は、アルベリク様のお姉様なんですね。って、そうですよね」
「そうだな。――セシル、明日の支度は進んでいるか?」
「はい」
「足りないものがあれば、街に買いに行こうと思うのだが」
「行きたいです!」

 明日はアルベリクとお買い物だ。
 セシルは嬉しくてたまらなかった。
 アルベリクもセシルの笑顔を見て微笑んでいる。

「今日は何のお茶だ?」
「えっと。ブレンドティーです。ミリアさんのクッキーに合うと思いますよ?」
「ほぅ。ミリアのクッキーを食べたことがあるような言い方だな」
「ふふふ。それがあるんです! 甘さ控えめで、アルベリク様だってパクパク食べられると思います」

 以前、教会でアクアマリンの指輪を見つけた後、ミリアからお礼にクッキーをもらっていた。

 お茶をテーブルに運び早速クッキーに手を伸ばすと、アルベリクに取り上げられてしまった。

「お前は食べたことがあるのだろう? だったら先に俺が食べる」
「ぅう。良いですよ。どうぞ好きなだけ食べてください」

 アルベリクは悪戯に微笑むとクッキーを一口で食べ、首をかしげてもう一枚口に運んだ。

「やはり甘いな……」

 そしてハーブティーに口をつけると、ゴホゴホとむせ返った。

「大丈夫ですか? 欲張って二枚も食べるからですよ。さて、私も──」
「食べるなっ!」

 セシルの伸ばした手をアルベリクが弾いた。
 クッキーがテーブルの上に散らばり、セシルは驚いてアルベリクの顔を見た。

 苦痛に歪んだ顔、そして震える手。

「アルベリク……様!?」
「ど、毒だ……」
「えっ、そ、そんな。さっきリリアーヌ様だって……」

 部屋に入った時、リリアーヌもクッキーを食べていた。それに、ファビウス家の為に悪意を捨てたのではないの?

 毒はセシルの魔法で治せない。
 解毒薬がないと、アルベリクは――。


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