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【第53話】作戦開始

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 ジークフリート奪還戦当日、作戦実行の三時間前、俺達と反抗組織、そしてシンバードから依頼を受けてやってきた20名のハンターが地下採掘場に集まっていた。ボビは作戦が書かれた大きな紙を机に広げて作戦の最終確認を始めた。

「遂にこの日が訪れたな。それじゃあ作戦決行前に改めて手順を確認しておく。まずジークフリートの各工場の仕事が始まってから一時間後に東の山頂付近にある工場を事故に見せかけて一部爆発する。そうする事で支配者であり工場管理者でもあるビエードが帝国兵を連れて慌てて確認しにくるはずだ」

 南北に細長いジークフリートの中で唯一東側に建設されている工場までの道のりは険しく細い道が続いていて途中に橋が架かっている。慌てて東工場へ駆け上がっていくだけでもビエード達はそれなりに消耗する事だろう。そしてボビは更に説明を続ける。

「次にガラルド君達ハンターは東の工場内に身を隠しておき爆発で混乱が起きて、爆音で声による伝達がしにくくなっている間に常駐している帝国兵を素早く倒してくれ。そうすることで東工場からビエードへ連絡がいってしまうこともなくなるはずだ。そしてビエードが東工場に辿り着いたことを確認したら、東工場付近の地下採掘場で身を隠してもらっている応援のハンター達に一斉に出てきてもらってビエード達を取り囲んでもらう。この時、ビエード達が渡ってきた橋を落として退路を断つことも忘れないようにな」

 独立した東工場、橋を落としての退路断ち、身を隠す地下採掘場、全てが俺達に味方するような見事な地理だ、これならきっとビエードを追い込むことができるだろう。

 作戦の確認が終わったところで、各々が最後の準備を始めるなか、俺はボビとアイアンさんに質問する。

「ボビさん、アイアンさん、もしこの戦いでビエード達を捕らえる事ができたら、その後どうするんだ?」

 俺の問いに代表してボビさんが答えてくれた。

「帝国が課す労働が厳し過ぎて体を壊したり、亡くなってしまった同胞も大勢いるから正直殺してやりたいぐらいだよ。でも、それじゃあ帝国に居るであろう帝国兵達の家族に恨まれ、悲しませてしまうことになる。それじゃあ我々も帝国と変わらない存在になってしまうから、あくまでビエード達は拘束までにとどめておく。その後、他のところにいる帝国の人間が反抗の件でジークフリートに詰め寄ってきたら、ビエードの身柄を交渉材料に血の流れない解決を図るつもりだよ」

 ボビの言葉を聞いたアイアンは「ワシも同じじゃ」と答えた。

 皆のリーダーであり発言力もある、お人好しの塊みたいなアイアンさんならともかく、ボビさんからこの言葉を聞けてよかった。今ならきっとアイアンさんが居なくても、平和を愛するジークフリートの魂が復讐の気持ちを打ち負かせてくれることだろう。

 俺は最終確認を終えた後、改めてリリスとサーシャに準備は出来たかを尋ねた。

「サーシャは準備オッケーか?」

「うん! ガラルド君、リリスちゃん、シンバードの仲間、ボビさん達、そして何より大好きなお爺ちゃんが一緒にいるんだもん、勝てる気しかしないよ」

「俺もだよ。リリスはどうだ?」

「正直帝国は技術や貿易などでも未知数なところが多いので不安もありますし、緊張しています。だからこの戦いを乗り越えられたら死線を超えた強固な絆が生まれると思うので、流れで結婚してくれませんか?」

「何が流れなのかさっぱり分からないが勿論お断りだ。まぁ冗談を言うぐらい余裕があるなら大丈夫だな」

「むーっ、結婚したいのは本心ですのに……」

「ねぇ、リリスちゃん。死線を乗り越えて愛が証明されるならサーシャも結婚することになっちゃうけどいいの?」

「重婚はちょっとヤキモチ焼いちゃうので、私が独占したいですぅ~!」

「ほら、馬鹿な事言ってないでさっさと東工場に行くぞ」

 そして、俺達は日の出前に東工場へと移動した。帝国兵が日中の間、重点的に警備する東工場のメインラインの掃除用具入れの中に隠れた。

 ボビの指示とはいえ、掃除用具入れに三人も入るのはちょっときつかった、掃除用具入れの隙間から時計を見ると、爆破実行まであと40分以上はある。空気が薄いし暑くて辛い……。

 帝国兵が始業時間より早く巡回作業を始める可能性もあるから早めに隠れた訳だが、それにしたって、この狭さはきつい。そんな中リリスが外に漏れない程度の小声で呟いた。

「いいですかガラルドさん、いくら美少女二人に挟まれて身体をくっ付けているからって変な気を起こさないでくださいね。あと全然関係ないですけど、汗をかいた私ってセクシーじゃないですか? うっふ~ん」

「少なくともリリスには変な気を起こさないから安心してくれ」

「なっ! サーシャちゃんにはドキドキしてるってことですか?」

「サーシャは可愛いからな。それに男ってのはガツガツ来られるより、ちょっと奥ゆかしいぐらいが好きなんだよ。この『ちょっと』っていうのがポイントでな、絶妙なバランスを女性に求める生き物なんだよ」

「だってさリリスちゃん、なんかごめんね」

「謝らないでくださいよぉぉ、私が惨めになるじゃないですかぁ!」

 少なくとも見た目に関してだけはリリスを初めて見た時に不覚にもドキッとさせられてしまったのだが、調子に乗られても困るから黙っておくことにした。

 そして作戦決行時刻の五分前に帝国兵が現れて俺達が隠れている掃除用具入れの前を巡回し始めた。俺達の体に暑さとはまた違う汗が流れ始める。

 そして、時計の長針が真上を指すと同時に工場内の至る所から耳鳴りが起きそうな程の爆音が鳴り響いた。数メード先にいる帝国兵二人組はびっくりして声をあげた後、周囲をきょろきょろと見渡した。

 俺達は帝国兵が完全に背を向けた瞬間、ゆっくりと掃除用具入れの扉を開けて、背後から一斉に攻撃を仕掛けた。

「すまん、ちょっと眠っててくれ!」

 俺の棍とリリスの錫杖で後頭部を殴られた帝国兵二人組はあっさりと気を失ってくれた。他のエリアにいた帝国兵も各エリアを巡回し始めたが。各エリアで各個撃破できたおかげで十人以上在中していた帝国兵全員を容易く戦闘不能にする事ができた。

「やったねガラルド君、リリスちゃん! 作戦大成功だよ」

「第一段階は順調すぎるぐらい順調でしたね。魔力砲を持っている帝国兵もいませんでしたし。以前、私達を襲撃した帝国兵達は組織の中でも腕が立つ兵士だから魔力砲を持たせてもらえたのかもしれないですね」

「どうだろうな、逆に最悪死んでも構わない人間だから危険な魔力砲を使わされたと考えることもできるがな」

「だとしたら、ますます帝国が嫌になりますし、一般兵の方々に同情しちゃいますね」

「諸々の詳細はビエードを捕らえることができれば聞き出すことが出来るかもしれない。とにかく、今は東工場に駆け込んでくるであろうビエード達を屋上から確認しよう。工場内にビエードが入り次第、周囲のハンター仲間へハンドシグナルでサインを送るぞ」

 そして俺達は屋上からビエード一行が来るのを待った。工場の爆発を見てから直ぐに駆け付けたとしても30分くらいはかかる道程なのだが、ビエード達は20分もかからず工場前に到着した。

 顔には大量の汗を掻いており、よっぽど慌ててきたことが伺える。ビエードは入り口の扉の前に立ち、怒気を含んだ声で人を呼んだ。

「誰かいないのか! 迅速に私へ被害状況を説明しろ!」

 入り口近くに待機していたボビが慌てたフリをしながらビエードへと近づいた。

「ハァハァ、大佐にご報告します。現在工場の第三エリアで火薬に引火し、至る所で炎上と爆発が起きています。幸いなことに作業員、巡回の帝国兵ともに怪我人はおらず、全員で消火作業に当たっております」

「チッ、作業員や兵士の生死などどうでもいい! それより製造物は無事か聞いておるのだ!」

 作業員だけではなく部下である帝国兵までどうでもいいと言い放つなんて、ビエードは思っていた以上に屑だったようだ。

 もし俺がボビの立場だったら目の前で怒りの表情を見せてしまって、芝居どころでは無くなりそうだが、ボビは冷静に芝居を続けて、工場の奥へ来るように誘導した。

「正直、火の勢いが強く、製造物への影響は大きいのが現状です。これ以上の影響を出さないように大佐から消火・運搬の指示を仰ぎたく案内させていただきました。ささ、早く奥の第三エリアへ!」

 そしてビエードはボビに連れられて工場の奥へ入っていった。町の中央からビエードと共についてきた帝国兵は数えてみた限り合計十六人だ。それなりに数はいるものの、俺達ハンターと『ラナン』のメンバーを足した数の方がずっと多いから充分に勝算はある。

 そして俺達三人もビエードにバレない様にこっそりとついて行った。

 ビエードが第三エリアに辿り着くと、そのエリアは全く炎上していなかった。あくまで誘導して閉じ込めてから話し合いをするのが目的だから、誘導さえできれば火事を演出する必要がないからである。

 第三エリアを見渡したビエードは、ボビの案内が間違えたと思ったようで怒鳴りつけていた。

「おいっ! ここは何ともなっていないじゃないか! 早く一番被害が大きい場所へ案内しないか!」

 ボビは怒声を浴びながら少しだけ口角を上げた。順調に誘導できたことが嬉しかったのだろう。そしてボビは指を口に当てるとそのまま、指笛を吹いて周りの仲間へ合図を送った。

 指笛と共に一斉に俺達ハンターとラナンのメンバーが飛び出し、第三エリアにいるビエード達を囲んだ。

「き、貴様ら、図ったな! それにガラルド……お前、生きていたのか!」

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