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【第44話】ジークフリートへの旅路
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※今回からガラルド視点に戻ります
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コロシアム翌日の朝、俺は人生で一番酷い筋肉痛を味わっていた。寝返りをうつだけで体中に電撃が走るようだった。
神話に出てくる雷の神トールはいつもこんな風にビリビリしてるに違いないと自分で自分の妄想に笑ってしまい、今度は腹筋が痛くなるという馬鹿みたいな地獄を味わっていた。
それでも待ち合わせの為にはそろそろ起きなければならないと無理やり体を動かそうとすると、ベッドの横にある机に頬杖をついたリリスが座っていた。俺はいつものようにリリスへ問いかける。
「また勝手に俺の部屋に入ったのか、朝っぱらから何の用だ?」
「今日は寝顔を拝見する為に少し早起きをしました。まだ32回しか寝顔を拝めていませんからね」
もはやツッコミを入れる気力も湧かない。むしろ出会ってから50日以上経っているにも関わらず32回で済んでいるのだから、盲愛にも多少は隙があるのかもしれないと変にポジティブになりつつある。
そんなことを考えていると、ぎこちない動きをしている俺を見かねたリリスが「ゆっくりと休んでから話し合いの場に来てください」と半ば強引に俺をベッドに戻した。
リリスの手に押された体そのものは痛かったが、その心遣いは正直ハートに沁みた。俺はリリスの言葉に甘えて更に四時間ほど睡眠をとって充分に休み、リフレッシュしてからギルド『ストレング』へと向かった。
ギルドにはリリス、サーシャ以外にシンとストレングもいたから挨拶を交わしておいた。リリスとサーシャはまだあまり話が進んでいないようだったので、俺が今後の方針を話すことにした。
「前にも約束した通り、コロシアムの優勝賞金はまず、サーシャの両親の工場を取り戻す資金に使いたいと思っている。だから明日はサーシャが暮らしていた町に行き、両親にご挨拶したいと思うんだが、大丈夫かサーシャ?」
「うん、基本的に町から出ない両親だから連絡なしに会いに行っても大丈夫だと思うよ、それに手紙だと中々返事がかえってこない町だから直接話に行った方が早いかもしれないし」
「手紙が中々かえってこない町っていうのはどういうことだ?」
「町のある場所が高くて細長い崖のようなところだから荷車で荷物を運ぶのが大変な場所なの。他所からは『竜背の町ジークフリート』と呼ばれていて、文字通り竜の背中の様に細長い崖の上に町があってね、鉱石が沢山とれるから工業が盛んなの」
「だからサーシャの両親も工場をやっていた訳か」
「そうなの、お爺ちゃんが居た工場意外にも大小さまざまな工場があって、狭い町なのに30以上の工場があるんだよ、凄いでしょ? それとジークフリートは搬送にも優れた町で『高い場所から低い場所に物を運ぶことは楽である』という発想を元に、ジークフリートから各町への物資の運搬は金属ワイヤーに物資を吊るして流しているの。だから製造も運搬もスムーズに出来てるんだよ」
サーシャの言う通り、採掘、製造、運搬の面でかなり理にかなっている地だと思う。正直また山登りをするのは少し辛いところがあるが、これもトレーニングと思う事にしよう。
ヘカトンケイルの沼地と山岳地帯を抜けた時のようにアイ・テレポートで移動できればいいが、三人パーティーになった今では二人までしか飛べない性質上厳しそうだ。
「それじゃあ、今日は旅の支度を整えることにして、明日の朝ジークフリートへと向かおうか。三人になった今、アイ・テレポートでの移動は出来なくなったから徒歩での移動になる。全員しっかりと休んでおいてくれ……いや、ちょっと待てよ? リリスが最初にサーシャをアイ・テレポートで運んで、直ぐに俺のところに戻ってきて俺を運べば楽できるんじゃないか?」
「私を殺す気ですか! 一人で片道をアイ・テレポートするだけでも大変ですのに、一人を運びきって、戻って、また一人を運んでいたら何倍も疲れちゃうじゃないですか!」
「そこはまぁ、コロシアム前にやっていた坂道ダッシュトレーニングが活きてくるんじゃないか? こういう時の為にお馴染みのキトンを脱いで、半袖半ズボンの元気ちゃんと名付けられるぐらいトレーニングを頑張ったんじゃないのか?」
「ムキーッ! ガラルドさんなんて知りません! 私とサーシャちゃんだけで移動しちゃうんですから! ね? サーシャちゃん」
「ふふふ、それもいいかもね、リリスちゃん」
リリスがプリプリと怒っている。どうやら元気ちゃんは禁句だったようだ。それにしてもいつの間に二人は『ちゃん付け』で呼び合うようになったのだろうか? パーティーリーダーとして仲間同士で仲が良いのは喜ばしい限りだが、女子二人にハブられる日がこないか心配だ。
何とか話し合いを終えた俺達は明日に向けて、武具・アイテム・食事の用意を済ませて解散した。明日はいよいよサーシャの両親とご対面だ。
血の繋がりのないサーシャを最高の愛情を注いで育てた素晴らしい人間だ、きっと仲良くなれることだろう。新しい町とサーシャの両親に会えるワクワクに胸躍らせながら俺は眠りについた。
※
サーシャの両親が住む『竜背の町ジークフリート』へ旅立つ日がやってきた。ずっと閉じこもっていたシンバード領から久々の遠出である。
少し霧がかかっていて見え辛いが、ずっと北にある山岳地帯の崖にジークフリートは存在するらしい。
進む道は蛇行しているものの分かりやすい一本道で手強い魔獣も出ないエリアだったから問題なく進むことができた。結局リリスも程々に休みながらアイ・テレポートを使ってサーシャと俺を交互に運んでくれた。
最初にリリスがサーシャを瞬間移動で運び、飛んだ先で休憩し、俺が徒歩で二人に追いついたら今度はリリスが俺を瞬間移動で運び、休憩する……その流れを繰り返して険しい登り坂を常人の二倍以上の速度で進んでいった。
「ハァハァ……二人とも元気だね、特にガラルド君は息一つ乱れてないし」
「これでも一応パーティーポジションは盾役であり重戦士だったから体力は結構あるぞ。それに最近はリリスの勧めで重い鎧を軽鎧に変えて、身軽にしたしな」
「な、なるほど、ハァハァ、サーシャも頑張るよ」
途中サーシャが結構バテていたから、アイ・テレポートで運ぶ割合を2:1でサーシャの方を多くすることで、体力節約を図ることにした。俺もリリスも比較的体力のある方だから、サーシャの体力には出来るだけ気を配らなければと肝に銘じた。
最終的に俺達は朝から晩までで全体の6割近くの距離を進むことができた。一般的にはシンバードからジークフリートまで4,5日かけて移動するとのことだから、かなり上出来だろう。
ヘカトンケイルから旅立った時と同じようにリリスがバテバテになってしまったから、俺は下手な地属性魔術で再びキューブ状の簡易的な土の家を作って、布団代わりに藁を敷いた。
リリスは藁の上に寝転ぶとあっという間に眠りについた、やはり相当疲れていたようだ。バテバテの二人の為に今回も俺が栄養のある料理を作ることにした。
今晩の料理は岩兎の岩塩焼きと手持ちの芋で作るスープだ、きっと力が湧いてくるに違いない。
俺が調理を進めていると少し離れた位置にある川から、激しく水の跳ねる音が聞こえてきた。
魚でも跳ねているのだろうと思っていたが、足元を濡らしたサーシャが腕に魚と蟹を抱えて俺の元へ持ってきた。どうやら水の音はサーシャだったらしい。
「ガラルド君、よかったらこの食材も使って。少しでもリリスちゃんに元気になってもらいたいから」
「サーシャも疲れているだろうに偉いな」
「途中からサーシャの方が沢山アイ・テレポートで飛ばしてもらう事になったから体力が回復できたんだよ。負担を軽くしてくれてありがとね、ガラルド君」
「こちらこそ食材を取ってきてくれてありがとな。それじゃあこの魚と蟹で何を作ろうかな、迷うところだが」
「ちょっと待って、調理方法に提案があるんだけどいいかな?」
「料理じゃなくて調理方法にか? 聞かせてくれ」
=======あとがき=======
読んでいただきありがとうございました。
少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。
甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです
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※今回からガラルド視点に戻ります
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コロシアム翌日の朝、俺は人生で一番酷い筋肉痛を味わっていた。寝返りをうつだけで体中に電撃が走るようだった。
神話に出てくる雷の神トールはいつもこんな風にビリビリしてるに違いないと自分で自分の妄想に笑ってしまい、今度は腹筋が痛くなるという馬鹿みたいな地獄を味わっていた。
それでも待ち合わせの為にはそろそろ起きなければならないと無理やり体を動かそうとすると、ベッドの横にある机に頬杖をついたリリスが座っていた。俺はいつものようにリリスへ問いかける。
「また勝手に俺の部屋に入ったのか、朝っぱらから何の用だ?」
「今日は寝顔を拝見する為に少し早起きをしました。まだ32回しか寝顔を拝めていませんからね」
もはやツッコミを入れる気力も湧かない。むしろ出会ってから50日以上経っているにも関わらず32回で済んでいるのだから、盲愛にも多少は隙があるのかもしれないと変にポジティブになりつつある。
そんなことを考えていると、ぎこちない動きをしている俺を見かねたリリスが「ゆっくりと休んでから話し合いの場に来てください」と半ば強引に俺をベッドに戻した。
リリスの手に押された体そのものは痛かったが、その心遣いは正直ハートに沁みた。俺はリリスの言葉に甘えて更に四時間ほど睡眠をとって充分に休み、リフレッシュしてからギルド『ストレング』へと向かった。
ギルドにはリリス、サーシャ以外にシンとストレングもいたから挨拶を交わしておいた。リリスとサーシャはまだあまり話が進んでいないようだったので、俺が今後の方針を話すことにした。
「前にも約束した通り、コロシアムの優勝賞金はまず、サーシャの両親の工場を取り戻す資金に使いたいと思っている。だから明日はサーシャが暮らしていた町に行き、両親にご挨拶したいと思うんだが、大丈夫かサーシャ?」
「うん、基本的に町から出ない両親だから連絡なしに会いに行っても大丈夫だと思うよ、それに手紙だと中々返事がかえってこない町だから直接話に行った方が早いかもしれないし」
「手紙が中々かえってこない町っていうのはどういうことだ?」
「町のある場所が高くて細長い崖のようなところだから荷車で荷物を運ぶのが大変な場所なの。他所からは『竜背の町ジークフリート』と呼ばれていて、文字通り竜の背中の様に細長い崖の上に町があってね、鉱石が沢山とれるから工業が盛んなの」
「だからサーシャの両親も工場をやっていた訳か」
「そうなの、お爺ちゃんが居た工場意外にも大小さまざまな工場があって、狭い町なのに30以上の工場があるんだよ、凄いでしょ? それとジークフリートは搬送にも優れた町で『高い場所から低い場所に物を運ぶことは楽である』という発想を元に、ジークフリートから各町への物資の運搬は金属ワイヤーに物資を吊るして流しているの。だから製造も運搬もスムーズに出来てるんだよ」
サーシャの言う通り、採掘、製造、運搬の面でかなり理にかなっている地だと思う。正直また山登りをするのは少し辛いところがあるが、これもトレーニングと思う事にしよう。
ヘカトンケイルの沼地と山岳地帯を抜けた時のようにアイ・テレポートで移動できればいいが、三人パーティーになった今では二人までしか飛べない性質上厳しそうだ。
「それじゃあ、今日は旅の支度を整えることにして、明日の朝ジークフリートへと向かおうか。三人になった今、アイ・テレポートでの移動は出来なくなったから徒歩での移動になる。全員しっかりと休んでおいてくれ……いや、ちょっと待てよ? リリスが最初にサーシャをアイ・テレポートで運んで、直ぐに俺のところに戻ってきて俺を運べば楽できるんじゃないか?」
「私を殺す気ですか! 一人で片道をアイ・テレポートするだけでも大変ですのに、一人を運びきって、戻って、また一人を運んでいたら何倍も疲れちゃうじゃないですか!」
「そこはまぁ、コロシアム前にやっていた坂道ダッシュトレーニングが活きてくるんじゃないか? こういう時の為にお馴染みのキトンを脱いで、半袖半ズボンの元気ちゃんと名付けられるぐらいトレーニングを頑張ったんじゃないのか?」
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「ふふふ、それもいいかもね、リリスちゃん」
リリスがプリプリと怒っている。どうやら元気ちゃんは禁句だったようだ。それにしてもいつの間に二人は『ちゃん付け』で呼び合うようになったのだろうか? パーティーリーダーとして仲間同士で仲が良いのは喜ばしい限りだが、女子二人にハブられる日がこないか心配だ。
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サーシャの両親が住む『竜背の町ジークフリート』へ旅立つ日がやってきた。ずっと閉じこもっていたシンバード領から久々の遠出である。
少し霧がかかっていて見え辛いが、ずっと北にある山岳地帯の崖にジークフリートは存在するらしい。
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最初にリリスがサーシャを瞬間移動で運び、飛んだ先で休憩し、俺が徒歩で二人に追いついたら今度はリリスが俺を瞬間移動で運び、休憩する……その流れを繰り返して険しい登り坂を常人の二倍以上の速度で進んでいった。
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リリスは藁の上に寝転ぶとあっという間に眠りについた、やはり相当疲れていたようだ。バテバテの二人の為に今回も俺が栄養のある料理を作ることにした。
今晩の料理は岩兎の岩塩焼きと手持ちの芋で作るスープだ、きっと力が湧いてくるに違いない。
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「ガラルド君、よかったらこの食材も使って。少しでもリリスちゃんに元気になってもらいたいから」
「サーシャも疲れているだろうに偉いな」
「途中からサーシャの方が沢山アイ・テレポートで飛ばしてもらう事になったから体力が回復できたんだよ。負担を軽くしてくれてありがとね、ガラルド君」
「こちらこそ食材を取ってきてくれてありがとな。それじゃあこの魚と蟹で何を作ろうかな、迷うところだが」
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