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【第32話】ローブマン
しおりを挟む驚いたことにローブマンと名乗る男はコロシアムの出場選手だった。ローブマンはアクアとレインの間を歩いて通り、俺の所まで来て小瓶を手渡してきた。
「お兄さん、今すぐ小瓶を飲み干した方がいいよ、凍った左腕と右足が悪化すると、低温火傷どころじゃすまなくなっちゃうからね」
正直、見た目が怪しくて正体不明な男から渡された小瓶なんて飲みたくはないのだが、不思議とローブマンの言う事は信用できる気がする。
それは襲われているところに危険を顧みず声をかけてくれたからというのもあるが、声自体に不思議と力強さと誠実さの様なものを感じたからかもしれない。
俺はローブマンの言葉に従って、小瓶の中身を飲み干した。すると凍った左腕と右足に熱と血が通っていく感覚がはしり、痣ができていた右腕も完全ではないものの治りかけている。
治療がほぼ完了した俺を見てアクアが再びローブマンに尋ねた。
「あんた、ガラルドに加勢する気? その怪しい見た目は何? どこから来て何の為にガラルドを助けたのよ?」
「質問だらけだなぁ~、とりあえず一個一個答えていこうか。まずどこから来たのかって言うと凄く南の方だよ、細かい場所は秘密だけどね。次に見た目に関してだけど、僕はシャイだから深くフードを被っているだけさ。君たちみたいに素顔も出さずに卑怯な襲撃をする為じゃないよ」
「あんた、私らを舐めてんの?」
「舐めているというより軽蔑しているね、不意打ちをしたのも、三人で一人を攻撃したのも、人のいない場所で襲ったのも、仮面を被って保険掛けているところもね」
言われ放題な三人は歯軋りしながら、武器を強く握りしめて怒っている。しかし、そんなことはお構いなしにローブマンはもう一つ残っている質問に答える。
「あとは『ガラルドに加勢する気?』と聞かれたんだっけ。答えはNOだよ。何故なら、これから僕一人だけで君たち三人を倒すからね」
そう宣言したローブマンは、地面を強く蹴り出し、一瞬でブレイズの懐に入った。ローブマンは双剣を握り込んでいるブレイズの両手首を掴んで、強く握った。
ミシミシと骨が軋む音が聞こえそうな程の強い握りにブレイズは堪らず悲鳴をあげる。
「痛ええぇぇぇッッ、は、離せぇぇっ!」
たまらずブレイズは双剣を落とす。落ちた双剣を拾い上げたローブマンは地面に思いきり叩きつけて、容易く双剣を折った。
「これで君はもう戦えないね、ついでに仮面も取り除かせてもらうよ」
折れて刃渡りが二割ほどまで短くなった剣を、ローブマンはブレイズの顔の前で目にもとまらぬ速度で振り抜いた。
顔をがっつりと斬りつけてしまったかに思えたが、斬ったのは仮面の部分だけだった。ブレイズの仮面が真っ二つに割れて地面に落ちた。
「さあ、次は君たち二人の番だ」
そこからもローブマンの独壇場だった。ローブマンはブレイズの時と同じようにアクアとレインの懐に入り、杖と弓を奪い取って地面に叩きつけて破壊した。
そして仮面も折れた剣で真っ二つに割り、素顔を曝けさした。ローブマンの圧勝である。
しかし、三人は力の差を感じ取れないぐらい馬鹿なのか、素手になってもなお、魔術だけで戦おうと魔力を込め始めた。
そんな三人を見たローブマンは冷たく低い声で言い放った。
「まだ抵抗するなら今度は君たちの体がバラバラになるかもしれない、それでもいいかい?」
俺に言ったわけでもないのに背筋が凍りそうな程の迫力があった。直接言われた三人の心には大ダメージだったのだろう、その場にへたり込んでしまった。
ローブマンは再び俺に近づいてきて、言葉をかけてきた。
「お兄さん、腕の凍結は治ったかい?」
「ああ、何事もなかったように治ったよ、ありがとなローブマン。それにしてもあんた相当強いな」
「ありがとう。と言っても素質的には君とそう変わらないはずだけどね」
ローブマンは不思議な言い方をした。素質と言うのはどういう意味なのか、そもそも俺のことをどこまで分かっているのか、俺は思ったままに聞き返した。
「え? 素質ってどういう意味だ?」
「あ、ごめん、今の言葉は忘れてくれ。それよりも今捕らえた三人は僕が大会関係者に突き出しておくよ。お兄さんはゆっくり休むといい」
「重ね重ねすまない。それとよかったら聞かせてくれ。あんたは一体何者なんだ? ハンターや兵士をやっていたりするのか? その強さはどうやって身に着けたんだ?」
俺は気になる事を一通り尋ねた。ローブマンの感情が唯一読み取れる口元は少しだけ笑っているように見えたから答えてくれるかと思ったが、返事はハッキリとしないものだった。
「僕が何者かはまだ言わないでおくよ。とりあえずハンターや兵士ではないということだけは明言しておくね。僕の強さに関しては……そうだなぁ、コロシアムで僕に勝てたらヒントを教えてあげるよ、お互い勝ち続ければ決勝で当たるはずだからね」
ますます気になる言い回しにモヤモヤしたが、少なくとも勝ち続ければ情報に近づけそうだ。と言ってもあの戦いっぷりを見る限り、勝つのは相当難しそうだが……。とりあえず決勝まで当たらないのはラッキーではある。
俺はローブマンに握手を求めるとローブマンは快く受けてくれた。俺はローブマンの手を握りながら、自分なりに強がって宣言した。
「俺は将来四聖に並び、ギルドを立ち上げる男ガラルドだ。あんたが手強くても夢の為に負けるわけにはいかない。決勝を楽しみにしていてくれ」
俺が宣言すると、ローブマンの口角がハッキリと分かるぐらい上がった。
「ああ、楽しみにしているよガラルド君。それじゃあまた後で!」
ローブマンが初めて俺の名前を呼んだ。どうやら名前を呼んでくれる程度には関心を持ってもらえたようだ。俺はコロシアム裏を後にして、仲間の元へ戻った。
=======あとがき=======
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