上 下
28 / 459

【第28話】コロシアムに向けての話し合い

しおりを挟む

 パープルズとの話し合い、改め口喧嘩から一夜明け、俺とリリスはギルド長ストレングからコロシアムに向けての武術指導を受ける為、ギルド長室に向かった。

 部屋にはまだストレングは到着しておらず、サーシャがいるだけだった。俺は朝の挨拶とともにサーシャの現況を尋ねた。

「おはようサーシャ、昨日は色々あったがアクア達に何もされてないか? 睡眠もしっかりとれたか?」

「おはようガラルド君、リリスさん、昨日の話し合いの後、絡まれるかなぁって思ってたけど、全然絡まれなかったよ。睡眠も悩みが解消されたからか、ここ最近で一番ぐっすり眠れたかも、二人がサーシャを助けてくれたおかげだね」

「そうか、安心したぜ。ところで聞くのが遅くなって申し訳ないんだが、サーシャはどこで寝泊まりしているんだ? 同じパーティーになったのにそういったことを全然話し合わずに昨日は解散してしまったからな」

「サーシャはギルドというかシンバード国営のハンター寮で寝泊まりしてるよ、狭いけど安いし節約しなきゃいけないからね」

「そんなものがあるのか。詳しく聞かせてもらってもいいか?」

 俺がハンター寮について尋ねるとサーシャは基本的なことから丁寧に教えてくれた。

どうやらシンバード国営のハンター寮はハンター登録をしてから最長五年間利用する事が出来るらしく、期間を超えるか、ハンターが増えすぎるか、バードランクが高くなり過ぎない限りは利用できるらしい。

 金額も今泊まっている宿屋より一日当たりの金額が三分の一になる計算だ。これは利用しない手はないぞ! とリリスへ直ぐに申請しようと提案した。

 しかし、リリスは渋い顔をしながら反対してきた。

「確かにお金は浮きますけど、寮って全部一人部屋ですよね? 私は多少お金がかかっても今まで通りガラルドさんと同室でイチャイチャしていたいですけどね」

「え? ガラルド君とリリスさんっていつも同室なの? そういう関係なの? いつもイチャイチャしてるの?」

 サーシャはよっぽど驚いたようで出会ってから一番大きい声で聞いてきた。もちろんイチャイチャなんてしていないから強く否定しておいた。

「リリスが馬鹿な事を言ってるだけだから聞き流してくれ。同じ部屋に泊まってはいるが、部屋代を浮かせたいだけだ。それにパーティーの仲間にそんな気持ちを持つつもりはないさ」

「でも、同じ部屋なのは事実なわけで、リリスさんも凄く好意的でしかも美人だし……ガラルド君って悟りをひらいた仙人か何かなの?」

「何で男女が同室ってだけでそんな話になるんだよ、本当に俺達はそんな関係じゃないぞ。端にリリスは社交的で人懐っこくて、ちょっとふざけるのが好きな奴なんだ。話半分に聞いといてくれ」

 俺はちゃんと誤解がないように説明したけれど、サーシャは俺とリリスの顔を交互に見た後、大きな溜息を吐いた。そしてリリスの肩に手を置き、励ますように話しかけた。

「リリスさんの頑張りと苦労が分かったよ。こういう男性だと上手くいかないよね、サーシャ応援するから頑張ってね」

「サーシャさん……やっと良き理解者が現れました! ありがとうございます、頑張りますね、私」

 何を言っているのかサッパリ分からないが、固く握手を交わす二人を見て、仲良くしていってくれそうで安心だ。

 その後も女子二人が色恋話で盛り上がっている傍で、帳簿を開いた俺が収入・支出の計算に熱を入れていると、ギルド長室にストレングが現れた。ストレングは朝の時間帯にはうるさく感じる程に大きな声で挨拶をしてきた。

「ガラルド、リリス、サーシャ、おはよーさんッッ! 早速コロシアムに向けて話し合いを始めるぞ!」

 すると、ストレングは机の上にコロシアムの募集要項が書かれた紙を広げた。

 ストレングはコロシアムの概要をかいつまんで説明してくれた。

「まず、募集条件だが、十五歳以上なら誰でも参加可能だ。魔術の使用も可能で武器は刃物と銃器以外OKだ。試合開始前後一分以内に武舞台に立っていなければ失格とする。試合後の治療・回復は各自で行い、サポートに連れていける人数は闘技者一人に対して四人までとする」

 武器に関しては俺の扱う棍は刃物ではないし、討伐任務で使っている短剣も魔獣からのヘイトを稼ぐ為に使うのが主な使い道だから試合で使用できなくても問題ないだろう。

 それよりも気になるのがサポートというシステムだ。俺の予想だが、組織力のある闘技者ならサポートに優秀な治癒術師を用意して万全を期して戦いを挑んでくることだろう。

それどころか下手したら回復期間と称して身体強化系の補助魔術をかけて挑んでくる可能性すらある。

 俺はその点をストレングに尋ねると、予想通りの答えが返ってきた。

「うむ、ガラルドの考えは正しいぞ。回復魔術も強化魔術も後ろ盾がある奴ほどガッツリ力を入れてくるだろうな。それにコロシアムは闘技者が賞金を稼いだり、客を多く呼んで収益をあげることだけが旨味ではなく、優秀なサポートをした人間にもスポットライトが当たるんだ。そうすることで『ギルド』『パーティー』『杖などの武具を提供している店、鍛冶屋』などの宣伝にもなるからな、皆かなり気合が入っているぞ」

「となると、三人しかいない俺達はサポートも二人にしかならないから結構不利かもしれないな」

「ん? お前達のパーティーで闘技者として出場するのはガラルドだけなのか?」

「ああ、リリスは瞬間移動こそ強いものの、腕力も特別強くないし攻撃魔術も得意な方ではない。サーシャのスキルも一対一には適していないし、魔術師タイプで小柄で華奢だから厳しいと思うしな」

「ふむ、じゃあ二人がガラルドをサポートする形でトレーニングを進めていくぞ。っと、その前に試合のルールも説明しておかなければいけないな。試合は制限時間十分 決着がつかなければ四聖であるワシら四人とシンを合わせた計五人でどっちが優勢だったかを判定する。円形の闘技場から落ちても負けになり、倒れてから十秒経っても起き上がれなかった場合でも負けになる。それと相手を死なせてしまっても負けだ」

 なるほど、極端な消耗戦をできないようにして、ダウンや場外を狙う作戦も使えたり、死人が出ないように刃物・銃器を禁止したりと色々考えられているようだ。

 そして、ストレングは紙を取り出して長々と何かを書き始めた。五分ほど経ったところでそれは完成し、俺達三人にそれぞれ紙を配って、それが何かを教えてくれた。

「それが、コロシアム当日までのお前達のトレーニングメニューだ。本番まではもう五十日を切っているから、魔獣討伐の任務をこなしつつ、ビシビシ鍛えていくから覚悟しておけよ。ワシはお前らに期待しているし、絶対に上位へ食い込んでほしいからな」

 俺のメニューには殆どが基礎的なスキルトレーニングが記されていて、後半に少しだけ近・中・遠距離の技を開発する予定と書かれている。

 リリスとサーシャの紙も見させてもらうと、リリスは回復魔術・強化補助魔術・解毒系魔術の練習に加え、ダッシュを延々と繰り返すトレーニングが書かれている。

 恐らく、サーシャでは癒せない傷や出血の治療と毒攻撃魔術を受けた際の解毒などを担当させる為だろう。

体力トレーニングに関してはコロシアムとは関係なく、単純にハンター業でアイ・テレポートの回数を増やすことを目的として鍛え上げたいのかもしれない。

コロシアムにかまけて日常のハンター業務を疎かにするわけにはいかないからだ。

 サーシャは逆に時間経過を早める黒猫のスキル『アクセラ』の練度をあげて、リリスができないスタミナの回復を担当しつつ、少しだけ身体強化系の魔術も練習するスケージュールになっているようだ。

若手ハンターの俺が偉そうに言えるものではないが、中々よく出来ているメニューだと思う。

 サーシャはともかく俺とリリスのことはまだあまり知らないだろうにストレングはよく考えているなと感心させられた。

ストレングは『お前らに期待している』と言っていたけれど、その理由が気になったから尋ねてみた。

「ストレングさん、どうして貴方は新人の俺達にここまで手厚くしてくれるんだ?」

「シンがお前達を気に入っているというのもあるが、一番はパープルズを迅速に救出した手腕だな。戦闘経過も報告を受けているが、新人であそこまで上手く戦える人間はそういないし、スキルだって汎用性があって強力だ。シンバードでも上位二割に入るぐらいに優秀だったパープルズでも歯が立たなかったドラゴンニュートをたった三人で沈めてしまったんだからな、そりゃ期待もするさ」

「褒めてもらえて恐縮だけど、俺とリリスが駆け付けた時にはパープルズがドラゴンニュートの片足に傷を入れておいてくれたから戦いやすくなった点もあるんだ。だからパープルズの奴らも後で褒めてやってくれないか?」

「昨日あんなに色々言い合って、八つ当たりまでしてきた連中を褒めるのか? ワシはお前みたいなお人好しにはあったことがないな」

「お人好しなんかじゃないさ、あくまでソレはソレ、ってだけの話で、戦闘において助かった点があるなら、好きだろうが嫌いだろうが、良かった点は良かったと言っておかないとフェアじゃないと思っただけさ」

「…………面白い。お前のことがますます気に入ったぞ、それじゃあ早速特訓を始めるぞ!」

 そして、俺達はコロシアム当日まで、地獄のトレーニングを続けた。

 魔力も魔量もスキル練度もメキメキと仕上がっていくのを感じながら、あっという間にコロシアム本番の日を迎えた。




=======あとがき=======

読んでいただきありがとうございました。

少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。

甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです

==================
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...