上 下
24 / 459

【第24話】パープルズ

しおりを挟む
 恐らくサーシャパーティーのリーダーを務めているであろう剣士の男がボロボロの状態で握手を求めてきた。

「君たちが来てくれて九死に一生を得た、本当にありがとう。僕はパープルズのリーダーのフレイムだ、こっちにいるもう一人の剣士が双子の弟のブレイズ、そしてあっちにいる双子の魔術師姉妹が姉のアクアと妹のレインだ。名前的にも火の双子剣士と水の双子魔術師……覚えやすいだろ?」

 名は体を表すと言わんばかりに男の双子剣士は赤い短髪に眼力のある目をした凛々しい顔つきで、見分けがつかないぐらい似ている。そして女の双子魔術師も二人とも水色のポニーテールに涼やかな目元をしたそっくりの女性たちであった。

 四人とも一つずつピアスをしていて兄弟姉妹で左右別々に付けているから、それでなんとか見分ける事ができそうだ。俺は見た目の情報を脳内で繰り返し繰り返し唱えて暗記しながら、自分たちのことも紹介した。

「俺の名前はガラルドであっちの女性がリリスだ。あんたの言う通り二組とも見た目がそっくりだな。パープルズ……紫という名前も赤と青が混ざったと考えれば覚えやすいしな」

「だろ? それは僕が考えたんだ、僕達二組の双子は幼いころからずっと一緒で仲が良かったからパーティーを組んだんだ。そこに優秀なサーシャを加えて最高の五人組パーティーが出来上がったと喜んでいたんだが……そんな自信を打ち砕かれるぐらいドラゴンニュートは強かった……」

「それは仕方ないさ、俺とリリスもサーシャがいなかったらあんた達みたいになっていただろうしな、本当にサーシャには感謝している」

「それは僕達も同じだ、ありがとなサーシャ」

 リーダーから褒められて、きっと喜んでいるだろうとサーシャの表情を確認してみたが、何故かサーシャは気まずそうな顔をしていた。

 奇妙に思った俺は他のパーティーメンバーの様子も確認してみた。すると剣士のフレイム、ブレイズは笑顔を浮かべているのに対し、魔術師の双子女子アクアとレインは舌打ちでもしそうなぐらい不機嫌な顔を浮かべている。そんな二人はサーシャに向かってぼそりと呟いた。

「たまたま上手くいっただけじゃない」

「世渡りが上手ね」

 立っている位置的にフレイム、ブレイズ兄弟には聞こえないがサーシャの耳には微かに聞こえそうな声量で嫌味を呟いていた。どうやら仲が悪いようだ……正直ここに居るだけで胃が痛くなりそうだ。

 俺はこの話をお終いにした方がいいなと判断し、リーダーのフレイムに帰還に関する話し合いを持ち掛けた。

「とりあえず、無事に森からシンバードへ帰る算段をたてよう。あんた達はシンバードまで歩けそうか?」

「正直僕もブレイズも体力・魔量ともに底をついてしまっているのが現状だ。三十分程度休んでから移動を開始したいね」

「分かった、じゃああんた達はここでゆっくりしていてくれ。俺とリリスは周りに魔獣がいないか警戒してくる。といってもドラゴンニュートに恐れをなして、ほとんどの魔獣が蜘蛛の子を散らすように逃げちまったと思うけどな」

「重ね重ねすまない、よろしく頼むよガラルド君」

 そして俺とリリスは周囲の警戒を始めた。その間にサーシャ、アクア、レインの三人は水を汲んだり、果物を取りに行ったりしているらしい。

 警戒を始めてから暫くすると、突然リリスが俺の服の裾を引っ張り、小声で耳打ちをしてきた。

「ガラルドさん、お話があるんですけど、このパーティーはどこか空気がおかしくありませんか? 魔術師の二人は生還できたにも関わらず不機嫌ですし、サーシャさんは居心地悪そうですし」

「それは俺も気になっていたんだ、双子姉妹がサーシャへ嫌味を呟いていたしな。しかし、今は事情を尋ねる事ができないし諦めるしかないさ」

「知る方法は一つだけありますよ、会話を盗み聞くんです。ちょうど今、サーシャさん達女子三人が別行動をとっています。なので三人の頭上の樹にアイ・テレポートして死角から盗み聞きしちゃいましょう」

「そんなの駄目だろう、第一警戒はどうするんだ?」

「魔獣の一斉逃走はガルム討伐の時と同様のケースですから、きっと一帯から魔獣は消えていますよ。それに私は恩人であるサーシャさんをほっておけないです。もし盗み聞きをして何も無かったら、盗み聞きしたことを正直に打ち明けて全員に謝ると約束しますから、やらせてください!」

 端に野次馬根性で盗み聞きしたいわけではなく本心からサーシャが心配なのだろう。リリスはどこかふざけたところはあるものの優しい奴であることにかわりない。

 俺はリリスの提案を承諾し、リリスと一緒に三人がいる場所の真上の樹へ瞬間移動した。

 息を潜めて樹の上で待機していると、リリスの予想通り姉のアクアの方がサーシャに突っかかり始めた。

「ねぇサーシャ、どうやったら貴女みたいに男性陣からチヤホヤされるのかしら、教えてくれない?」

「チヤホヤなんてそんな……自分は今回たまたま戦闘スキルが噛み合って褒められたにすぎないから……」

 男性陣ということは俺も数に入れられているようだ。サーシャの活躍っぷりを褒めただけでチヤホヤしたつもりはないのだが。

 そして今度は妹のレインがサーシャに迫った。

「あのガラルドという男が褒めていたのは確かに戦闘スキルのことだけかもしれないわね、でも貴女はフレイムとブレイズに媚びを売っているんじゃないの?」

「サーシャは何もしてないよ……」

「とぼけるんじゃないわよ! 貴女が色目を使ってなきゃ、今でもフレイムとブレイズは私達姉妹とずっと……」

「フレイムさんとアクアさん、そしてブレイズさんとレインさんがそれぞれ許嫁関係――恋人に近い関係だったことは知ってるし、むしろ応援してるぐらいだよ。だから先日フレイムさんとブレイズさんがサーシャに恋仲を迫ってきた時はびっくりしたし、困惑したよ。でも信じてほしい……サーシャにそういう気持ちは無いし、色目だって使ってないの……」

 大体パープルズの内情が掴めてきた。つまりは恋愛的な意味で将来を約束されている仲の良かった兄弟姉妹パーティーにサーシャが加入し、サーシャが男子二人に惚れられてしまった結果、双子姉妹に恨まれている訳だ。

 サーシャからしてみれば迷惑な話で同情せざるを得ない。その後も暫く姉妹の嫌味は続き、最後には川で汲んだ水をアクアがサーシャにぶっかけるという酷い八つ当たりにまで発展した。

 今すぐ出て行って怒鳴りつけてやろうかと思ったが、普段熱くなりやすいリリスが意外と冷静に俺の服の裾を掴んで止めてくれた。

 リリスのおかげで俺も少し冷静になり、踏みとどまることができた。アクアはずぶ濡れになったサーシャを見て、鼻で笑いながら捨て台詞を吐いた。

「全部貴女が悪いのよ、あと今回のことをフレイム達にチクったらただじゃおかないから」

 ゴミの様な台詞を吐き、アクアとレインはこの場から去っていった。アクアとレインの後ろ姿が見えなくなるのを確認してから、俺とリリスはサーシャの前に姿を現した。



=======あとがき=======

読んでいただきありがとうございました。

少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。

甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです

==================
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...