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【第23話】底なし沼の戦い
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ドラゴンニュートを順調に誘導し続けた俺は底なし沼の手前まで辿り着いた。俺はドラゴンニュート程ではないけれど人並み以上に体格も良くて重たいことを考慮すると、底なし沼に入ると勢いよく沈んで足をとられてしまうかもしれない。
そう考えた俺は走ると同時に踏みしめる箇所を魔砂で固め、素早く沈まないように移動した。まるで水面をペチャペチャと音を立てて走るトカゲや鳥のような気分だ。
ドラゴンニュートも真後ろを追いかけてきているわけだが、俺の作った足場は小さすぎるうえに、既に俺があらかた踏み沈めてしまっていることもあり追いつかれることはなかった。
俺とドラゴンニュートが底なし沼に入って50歩程進んだところで、遂にサーシャが物陰から姿を現した。サーシャはドラゴンニュートの視線から180度後ろの離れた位置に立ち、魔力を込めた杖をドラゴンニュートの方へ向けながら、黒猫に指令を出した。
「黒猫さん、ドラゴンニュートにくっついて、潰しちゃって!」
杖から出力された魔力のオーラが黒猫へと流れ込み、黒猫の表情はより凛々しくなった。黒猫は助走をつけて跳躍し、硬い地面からダイレクトにドラゴンニュートの背中に抱きついた。
ドラゴンニュートは黒猫の存在に気がつかなかったようで、目を点にして一瞬硬直した、そしてサーシャはその一瞬の硬直を見逃さなかった。
「グラビティ!」
サーシャが叫ぶと同時にドラゴンニュートが勢いよく四つん這いになって倒れた。どうやら相当な重力のようでドラゴンニュートの表情がみるみる険しくなっている。
ドラゴンニュートも今起きている現象が背中にくっついているものの影響だということは理解しているらしく、手の届かない位置にいる黒猫に対して身体を振って何とか落としてやろうと頑張っている。だが、黒猫はガッチリと抱きついて離そうとはしない。
作戦成功かに思えたが、ドラゴンニュートは少しずつ身体を起こし始め、沼に沈まないよう前進を始めた。
サーシャの方にトラブルがあったのかと視線を向けてみると、歯が割れそうなほどに食いしばって重力をかけ続けているサーシャの姿があった。
「こんなに、力が強いなんて……」
恐らくサーシャの思っていた以上にドラゴンニュートの抵抗力・膂力が強く、高負荷を掛けざるを得ないのだろう。
サーシャにだけ負担をかける訳にはいかないと俺も魔砂を発現させ、砂を水車のように縦回転させながらドラゴンニュートにぶつけ続けて、沈ませにかかった。
「喰らえ、サンド・ホイール!」
ドラゴンニュートの巨体に、大量の砂がぶつかり続ける音と、重力で筋肉が軋む音が鳴り響いた。
「ギャァルルルゥゥゥ!」
それでもドラゴンニュートは大声で叫びながら抵抗し続けた。グラビティと魔砂の二重圧力を以てしても、ドラゴンニュートを沈めるには至らない……。どうすればいいんだと絶望しかけたその時、リリスが突然大声で指示を出した。
「ガラルドさん、サーシャさん聞いてください! この状況、絶対私が何とかします! だから二人は十秒だけでいいのでそこから一歩もドラゴンニュートを動かさないでください」
いきなりそう告げるとリリスはアイ・テレポートで姿を消した。
どこに移動したのかは分からないが、リリスはこれまで一緒に戦ってきた頼もしい仲間だ、絶対何とかしてくれる、そう信じて俺は最後の力を振り絞り、サンド・ホイールの回転を強めた。
回転音に比例するようにサーシャも最後の力を振り絞って重力を強めてくれた。口から少し血が出てしまう程に魔力を込めているサーシャへ敬意を払いつつ、俺達はリリスの行動を待った。
「ガルルゥゥゥッッッ!」
俺とサーシャの力の入れ具合に危機感を持ったのか、ドラゴンニュートも声を荒げながら踏ん張っている。
魔力の捻出で一秒毎に身体への負荷がきつくなっていくのを感じつつ、我慢比べを続けていると、リリスが瞬間移動してから五秒ほど経った頃だろうか、真上から木の枝がバキバキと折れる音と葉っぱがガサガサと擦れ合う音が聞こえてきた。
サンド・ホイールに込めた魔力を維持しつつ真上を確認してみたが、そこには沼から生えているやたらと高い樹の枝が傘の様に広がっているだけである。
真上の見えない位置で野鳥が暴れているだけかと思ったが、それにしてもやたらと木の枝の折れる音が聞こえてきている。
その音は少しずつ勢いをまして俺とドラゴンニュートがいる位置へと近づいてきた、そして三秒ほど経ったその時、俺は我が眼を疑った。
なんと真上から凄まじい落下速度でワイルドボアの死体が降ってきたのである。俺とリリスがサーシャに出会う前にドラゴンニュートの周辺にワイルドボアの死体が多数転がっているのは確認していたけれど、まさかそれを利用するなんて思いもしなかった。
確かに冷静に考えてみれば、ここから真上に伸びる大きな樹を見つめてアイ・テレポートすることは視界が塞がれていて不可能だが、ワイルドボアの死体がある位置からだと、泉の付近ということもあり、空が開けているおかげで斜め下から沼を覆う樹を見上げる事ができる。
だからワイルドボアごとドラゴンニュートの真上へ移動することも可能だ。
俺とサーシャが驚きの声をあげる暇もなく、ワイルドボアの死体は隕石の如く落下し、ドラゴンニュートに激突した。
「ンギャアッッ…………」
ドラゴンニュートは断末魔と呼ぶにはあまりにも短い悲鳴をあげて、底なし沼にめり込み、ワイルドボアごと沈んでいった。
ドラゴンニュートが四つん這いになっていた箇所の泥は、ドラゴンニュートが沈んでから数秒後、蓋をするように平らな状態へと戻った。
ドラゴンニュートが浮上してくる可能性も考慮して、暫く沈んだ箇所を凝視し続けたが浮上してくる様子はない。
この底なし沼は膝より上が出ていても危険なぐらい粘度の強い場所なのだから、いくら膂力のあるドラゴンニュートといえども一度全身が沈んでしまうと浮上できないのも納得だ。
遅れてやってきた勝利の実感に手を震わせてガッツポーズをした俺は、サーシャの方に向き大声で叫んだ。
「やったぞ! 俺達の勝ちだ!」
ガッツポーズなんてハンターになってから初めてしたかもしれない、いや、もしかすると人生で初めてか? 俺らしくない行動をしてしまったと少し恥ずかしくなったが、サーシャとはさっき出会ったばかりだから変に思われることもないだろう。
サーシャもボロボロの状態ながら俺に呼応するように小さくガッツポーズを返してくれた。
「やったね! 三人力を合わせれば強敵ドラゴンニュートすら倒せちゃうんだね」
サーシャの『三人』というワードで俺はハッとさせられた、今回とんでもない奇策でトドメを刺したのはリリスである。
まぁ正確に言えばワイルドボアがぶつかった瞬間に三人分の力が加わったわけだから全員でトドメを刺したとも言えるのだが。
俺は上にいるであろうリリスに向かって降りてくるように呼び掛けた。
「よくやったぞリリス、もうドラゴンニュートは沈みきったから降りてきて大丈夫だぞ~」
俺が呼びかけると、再び真上の樹から葉の擦れる音が聞こえだして、奥からリリスが飛び出してきた。
「ガラルドさ~ん、疲れたし恐かったですぅ~、お姫様抱っこで労ってくださーい」
俺は魔砂で足場を作っているとはいえ、まだ底なし沼に立っている状態だというのに、リリスはお姫様抱っこを求めて、俺の胸元へと飛び込んできた。
俺の両腕がメリメリと音を立てて軋んだ。いくらリリスが細身とはいえ高い所から降りてきた体をダイレクトキャッチすればそうなるのも当然だが。
「ぐあっ! お、重たい……」
「女の子に向かって何てこと言うんですか! 私は重たくないです! それよりも最後に機転を利かせて大活躍した私を褒めてくださいよぉ」
「そ、それより先に早く降りてくれ、二人分の重さで沼に沈んじまう!」
リリスは頬を膨らませると、アイ・テレポートで自分だけ沼の外に移動した。自分単体をアイ・テレポートする体力が残っているのなら、最初から俺の所に来ないで普通に沼の外へ移動してほしかったのだが……。
少し馬鹿馬鹿しい締めになってしまったが、ともあれ怪我人を出すことなく強敵ドラゴンニュートを討伐できたのは本当に嬉しい限りだ。
俺は沼の外へ出てサーシャの元へ駆けつけて改めてお礼を言った。
「素晴らしい援護だった、ありがとなサーシャ。サーシャがいなかったら俺達はお仕舞だったぜ」
「いえいえ、そもそも救難信号を出して呼びつけたのはサーシャ達のパーティだから……礼を言うのはこっちだよ。だから改めてサーシャ達五人でお礼を言わせて」
そして俺達三人はボロボロになっていたサーシャの仲間たち四人の元へと向かった。
そう考えた俺は走ると同時に踏みしめる箇所を魔砂で固め、素早く沈まないように移動した。まるで水面をペチャペチャと音を立てて走るトカゲや鳥のような気分だ。
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俺とドラゴンニュートが底なし沼に入って50歩程進んだところで、遂にサーシャが物陰から姿を現した。サーシャはドラゴンニュートの視線から180度後ろの離れた位置に立ち、魔力を込めた杖をドラゴンニュートの方へ向けながら、黒猫に指令を出した。
「黒猫さん、ドラゴンニュートにくっついて、潰しちゃって!」
杖から出力された魔力のオーラが黒猫へと流れ込み、黒猫の表情はより凛々しくなった。黒猫は助走をつけて跳躍し、硬い地面からダイレクトにドラゴンニュートの背中に抱きついた。
ドラゴンニュートは黒猫の存在に気がつかなかったようで、目を点にして一瞬硬直した、そしてサーシャはその一瞬の硬直を見逃さなかった。
「グラビティ!」
サーシャが叫ぶと同時にドラゴンニュートが勢いよく四つん這いになって倒れた。どうやら相当な重力のようでドラゴンニュートの表情がみるみる険しくなっている。
ドラゴンニュートも今起きている現象が背中にくっついているものの影響だということは理解しているらしく、手の届かない位置にいる黒猫に対して身体を振って何とか落としてやろうと頑張っている。だが、黒猫はガッチリと抱きついて離そうとはしない。
作戦成功かに思えたが、ドラゴンニュートは少しずつ身体を起こし始め、沼に沈まないよう前進を始めた。
サーシャの方にトラブルがあったのかと視線を向けてみると、歯が割れそうなほどに食いしばって重力をかけ続けているサーシャの姿があった。
「こんなに、力が強いなんて……」
恐らくサーシャの思っていた以上にドラゴンニュートの抵抗力・膂力が強く、高負荷を掛けざるを得ないのだろう。
サーシャにだけ負担をかける訳にはいかないと俺も魔砂を発現させ、砂を水車のように縦回転させながらドラゴンニュートにぶつけ続けて、沈ませにかかった。
「喰らえ、サンド・ホイール!」
ドラゴンニュートの巨体に、大量の砂がぶつかり続ける音と、重力で筋肉が軋む音が鳴り響いた。
「ギャァルルルゥゥゥ!」
それでもドラゴンニュートは大声で叫びながら抵抗し続けた。グラビティと魔砂の二重圧力を以てしても、ドラゴンニュートを沈めるには至らない……。どうすればいいんだと絶望しかけたその時、リリスが突然大声で指示を出した。
「ガラルドさん、サーシャさん聞いてください! この状況、絶対私が何とかします! だから二人は十秒だけでいいのでそこから一歩もドラゴンニュートを動かさないでください」
いきなりそう告げるとリリスはアイ・テレポートで姿を消した。
どこに移動したのかは分からないが、リリスはこれまで一緒に戦ってきた頼もしい仲間だ、絶対何とかしてくれる、そう信じて俺は最後の力を振り絞り、サンド・ホイールの回転を強めた。
回転音に比例するようにサーシャも最後の力を振り絞って重力を強めてくれた。口から少し血が出てしまう程に魔力を込めているサーシャへ敬意を払いつつ、俺達はリリスの行動を待った。
「ガルルゥゥゥッッッ!」
俺とサーシャの力の入れ具合に危機感を持ったのか、ドラゴンニュートも声を荒げながら踏ん張っている。
魔力の捻出で一秒毎に身体への負荷がきつくなっていくのを感じつつ、我慢比べを続けていると、リリスが瞬間移動してから五秒ほど経った頃だろうか、真上から木の枝がバキバキと折れる音と葉っぱがガサガサと擦れ合う音が聞こえてきた。
サンド・ホイールに込めた魔力を維持しつつ真上を確認してみたが、そこには沼から生えているやたらと高い樹の枝が傘の様に広がっているだけである。
真上の見えない位置で野鳥が暴れているだけかと思ったが、それにしてもやたらと木の枝の折れる音が聞こえてきている。
その音は少しずつ勢いをまして俺とドラゴンニュートがいる位置へと近づいてきた、そして三秒ほど経ったその時、俺は我が眼を疑った。
なんと真上から凄まじい落下速度でワイルドボアの死体が降ってきたのである。俺とリリスがサーシャに出会う前にドラゴンニュートの周辺にワイルドボアの死体が多数転がっているのは確認していたけれど、まさかそれを利用するなんて思いもしなかった。
確かに冷静に考えてみれば、ここから真上に伸びる大きな樹を見つめてアイ・テレポートすることは視界が塞がれていて不可能だが、ワイルドボアの死体がある位置からだと、泉の付近ということもあり、空が開けているおかげで斜め下から沼を覆う樹を見上げる事ができる。
だからワイルドボアごとドラゴンニュートの真上へ移動することも可能だ。
俺とサーシャが驚きの声をあげる暇もなく、ワイルドボアの死体は隕石の如く落下し、ドラゴンニュートに激突した。
「ンギャアッッ…………」
ドラゴンニュートは断末魔と呼ぶにはあまりにも短い悲鳴をあげて、底なし沼にめり込み、ワイルドボアごと沈んでいった。
ドラゴンニュートが四つん這いになっていた箇所の泥は、ドラゴンニュートが沈んでから数秒後、蓋をするように平らな状態へと戻った。
ドラゴンニュートが浮上してくる可能性も考慮して、暫く沈んだ箇所を凝視し続けたが浮上してくる様子はない。
この底なし沼は膝より上が出ていても危険なぐらい粘度の強い場所なのだから、いくら膂力のあるドラゴンニュートといえども一度全身が沈んでしまうと浮上できないのも納得だ。
遅れてやってきた勝利の実感に手を震わせてガッツポーズをした俺は、サーシャの方に向き大声で叫んだ。
「やったぞ! 俺達の勝ちだ!」
ガッツポーズなんてハンターになってから初めてしたかもしれない、いや、もしかすると人生で初めてか? 俺らしくない行動をしてしまったと少し恥ずかしくなったが、サーシャとはさっき出会ったばかりだから変に思われることもないだろう。
サーシャもボロボロの状態ながら俺に呼応するように小さくガッツポーズを返してくれた。
「やったね! 三人力を合わせれば強敵ドラゴンニュートすら倒せちゃうんだね」
サーシャの『三人』というワードで俺はハッとさせられた、今回とんでもない奇策でトドメを刺したのはリリスである。
まぁ正確に言えばワイルドボアがぶつかった瞬間に三人分の力が加わったわけだから全員でトドメを刺したとも言えるのだが。
俺は上にいるであろうリリスに向かって降りてくるように呼び掛けた。
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俺が呼びかけると、再び真上の樹から葉の擦れる音が聞こえだして、奥からリリスが飛び出してきた。
「ガラルドさ~ん、疲れたし恐かったですぅ~、お姫様抱っこで労ってくださーい」
俺は魔砂で足場を作っているとはいえ、まだ底なし沼に立っている状態だというのに、リリスはお姫様抱っこを求めて、俺の胸元へと飛び込んできた。
俺の両腕がメリメリと音を立てて軋んだ。いくらリリスが細身とはいえ高い所から降りてきた体をダイレクトキャッチすればそうなるのも当然だが。
「ぐあっ! お、重たい……」
「女の子に向かって何てこと言うんですか! 私は重たくないです! それよりも最後に機転を利かせて大活躍した私を褒めてくださいよぉ」
「そ、それより先に早く降りてくれ、二人分の重さで沼に沈んじまう!」
リリスは頬を膨らませると、アイ・テレポートで自分だけ沼の外に移動した。自分単体をアイ・テレポートする体力が残っているのなら、最初から俺の所に来ないで普通に沼の外へ移動してほしかったのだが……。
少し馬鹿馬鹿しい締めになってしまったが、ともあれ怪我人を出すことなく強敵ドラゴンニュートを討伐できたのは本当に嬉しい限りだ。
俺は沼の外へ出てサーシャの元へ駆けつけて改めてお礼を言った。
「素晴らしい援護だった、ありがとなサーシャ。サーシャがいなかったら俺達はお仕舞だったぜ」
「いえいえ、そもそも救難信号を出して呼びつけたのはサーシャ達のパーティだから……礼を言うのはこっちだよ。だから改めてサーシャ達五人でお礼を言わせて」
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