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【第12話】混乱のヘカトンケイル その2

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「させるか! トルネード・ブロウ」

 ガルム戦の時に放った『棍に回転砂を纏わせる』必殺技を、オーガの脳天目掛けて叩きつけた。


 肉と骨を同時に叩いたとき特有の硬く鈍い感触が持ち手に響く、クリーンヒットだ。オーガは殴られた拍子に舌を噛んだのか、口から血を出しふらついている。

 この機を逃すわけにはいかない、俺は魔砂マジックサンドを纏った棍を再び構えてふらついているオーガのみぞおち目掛けて突きを放った。

「ウグゥァァ!」

 うめき声をあげて後ろへ仰け反ったオーガだったが、致命傷には至らなかった。頭部への打撃で意識を失いかけて、グラついていたオーガの目が正気に戻ったかと思うと、ふらついた姿勢のまま俺へ蹴りを繰り出してきた。

 後ろへ倒れながらの蹴りだったが、それでもかなりの威力をほこっており、盾でガードした俺の左腕はかなり痺れていた。

オーガは一度倒れたものの直ぐに起き上がり、俺から距離を取って攻撃を警戒した、どうやら体術面でも頭がキレるようだ。

 俺とオーガが互いに間合いを探り合っていると、手負いで声の擦れたレックが話しかけてきた。

「ガラルド……お前一体どうやって瞬間移動したんだ、それにその砂のスキル、ハイオークの時よりもずっと――」

「知りたければ後でいくらでも話してやる、それより今はオーガを倒すのが先だ、さっさと立ち上がって手伝え、町の皆がお前を見ているぞ」

 レックは起き上がり周りを見渡した。大きな巨人像の肩部分で戦っている俺達は高い位置から見ている分、町の様子が手に取るように分かる。

 町の至る所で石床や壁が壊されて、燃えてしまっている家もあるものの、町民やハンターたちはみんな希望を失ってはいない。

レックが何とかしてくれると思っているのだろう、みんなこいつの本性を知らずに褒めていてとても複雑な気分だ。

 それでも戦力的に傍に居てくれるのはありがたい。同じパーティーだった時のように俺が先頭、レックが中衛の形となりオーガへ向かっていった。

 魔砂マジックサンドを防御重視で固め、オーガの攻撃を何発も何発も耐え続けた。その隙にレックが時間をかけて魔力を練り上げ、魔術を放った。

「ウインドカッター!」

 レックから放たれた三つの風刃はそれぞれオークの両腕と頭に直撃し、切傷させた。オーガは三か所の傷口からボタボタと血を流している。それを見た町民たちはレックに歓声を送った。

「いいぞ、その調子だぁ!」

「頑張れレック~~!」

 口々に声援を送る町民たちは一層盛り上がりをみせている。手も届かなければ援護もできないほど高い場所で戦っている現状では声援こそが唯一できる応援であり、だからこそこんなにも盛り上がっているのかもしれない。

 しかし、民衆とは対照的にオーガの顔は怒りに満ちていた。血管が千切れそうなほど歯軋りをして、鼻息も荒くなっている。

オーガは俺の方へとんでもないスピードで近づいてきて、荒々しく振り払うように裏拳をかましてきた。

「ぐああぁぁ」

 何とか魔砂マジックサンドでガードできたものの、圧倒的な腕力によって大きく高く吹き飛ばされた俺は巨人像の肩から離れてしまい、足場のない空中へ吹き飛ばされてしまった。

 魔砂マジックサンドが消し飛ばされた今、このままでは真っ逆さまに落下し、砂で衝撃を緩和する事もできずに地面へ激突してしまう……そう思った次の瞬間

「アイ・テレポート!」

 リリスが巨人像肩部分の端っこまでテレポートしてから跳躍し、空中で俺の足を掴んだ。二人して空中に投げ出されたような状態になってしまったが、リリスは更に続けて『アイ・テレポート』を発動して、巨人像の肩へ再度着地した。

 俺に近づくために使った『アイ・テレポート』と二人を同時に運んだ『アイ・テレポート』――つまり人間三人分の『アイ・テレポート』を数秒の間に使ってしまったことで、リリスは疲弊しきってしまい、その場で膝を着いて倒れてしまった。

「ハァハァハァ……ま、間に合ってよかった、は、早くレックさんを……」

 リリスはボロボロになっている自分よりもレックの心配をしていた。俺を吹き飛ばしたあと、次の攻撃対象になるのは近くにいるレックしかいないからだろう。

 嫌な予感がしてレックの方を見ると、俺の勘は的中してしまった。

 レックはオーガに馬乗りにされた状態で何度も何度も殴られていた……。何とか腕と肘で防ごうとはしていたが、顔、肩、腹、腕、あらゆるところから血が滲んでいる、もうレックは限界だ。

 一刻も早くこちらへ注意を向けなければレックが死んでしまう、俺は素早く短剣にヘイト魔術を込めて、オーガへ投げつけた。

「こっちを向けえぇ!」

 渾身の力と魔力を込めた短剣はオーガの背中に突き刺さり、オーガの怒りの矛先は狙い通り俺に向いたようだ。レックを殴る手を止めたオーガは血走らせた眼でこちらを睨んでいる。

 ぐったりしているレックを尻目に俺はオーガの方を向き、棍を構えて攻撃に備えた。リリスは既に『アイ・テレポート』の連発でまともに戦える状態ではないし、レックは完全に戦闘不能だ。

 今、巨人像の肩で俺がオーガを止めなければ、リリスとレックに止めを刺した後、下に降りて町民を無差別に殺しまくるだろうし、他の魔獣達も士気をあげてより強力になるだろう。

俺が負けることは絶対に許されない、一回深呼吸をして気持ちを整えていると、オーガが俺に向かって全力で突進してきた。

怪我をしているというのに今までで一番速い突進を見せるオーガの底力は恐ろしい限りだが、俺が次に放つ技は相手の突進が速ければ速いほど見切り辛く、受ける衝撃が強くなるだろう。

 俺は左手だけに軽く魔力を込めて解き放った。

「ブライン・サンド!」

 俺はいつも使っている魔砂マジックサンドよりも小さくて弱い粒を錬成し、握った左手の中に忍ばせると、砂撒きの如く放り投げた。

怒り心頭状態で猛突進し、注意力も無くなっているオーガからは小さな砂粒は見えにくかったようで、加速するオーガの目に砂粒が勢いよく入り込んだ。

「グアアァァウウゥゥ!」

 目を潰され、大声で唸るオーガの様子からも俺のとっさの閃きは大成功だったようだ。俺は再び魔砂マジックサンドを棍に込めてオーガの腹に連撃を叩き込んだ。

 オーガは腹と口から少量の血を流し、足元もよろけている――――オーガの討伐は目と鼻の先だ。俺は止めの一撃だ! と言わんばかりに二歩後ろへ下がり、大きく踏み込んで突きを放った。

 しかし、トドメを狙った溜めがよくなかった。オーガは見えない状態のまま、ヤケクソでコブシを振り回すと、そのコブシが偶然俺の棍と衝突した。

棍はオーガの真上へと高く飛んでいってしまった。目が見えない状態とは言え、手が棍と接触したことから俺が大体どの位置にいるかを把握したオーガは両腕を伸ばして俺の両脇を掴み、持ち前の腕力で締め潰しにきた。

「ぐああぁぁぁ」

 俺は今まで生きてきて味わったことのない締め付ける痛みに、断末魔の如き悲鳴をあげた。もう少しで勝てたのに肝心なところで判断ミスをしてしまったと、薄れていく意識の中で後悔していた。

「ち、ちくしょうぉぉお」

 そんな時、諦めかけていた俺の視界に一筋の光が見えた。それは吹き飛ばされて今まさに落下している棍の存在である。

 棍は今、オーガの後方かつ上方を回転しながら落下している。俺は最後の力を振り絞り、魔砂マジックサンドで空中にある棍を掴んだ。

 オーガは締め上げに夢中で空中に浮かせている魔砂マジックサンドと棍に気づいていない。

 もし、回転する砂で背後から攻撃を仕掛けたなら当たる前に回転音で気づかれてしまうだろうが、ただ砂を素早く直線移動させるだけならきっと気づかれない筈だ。

俺は魔砂マジックサンドに魔力を込めて遠隔操作を行い、オーガの背中の短剣が刺さっている部分へ全力で棍をぶつけた。

「ギィアアァァ」

 元々短剣で刺さっていた部分に勢いの乗った棍で衝撃を加えたことにより、まるでハンマーで釘を打つかの如く短剣が体の中へと食い込み、オーガへ大ダメージを与えることに成功した。

 オーガは俺を掴んでいた両手を離し、最期の悲鳴をあげてその場へ倒れ込んだ。どうやら短剣の刺さっていた部分は偶然にも心臓の後ろ側だったらしく、棍の後押しによって短剣が心臓まで到達し、とどめを刺せたようだ。

俺はオーガの息の根が止まっているのを確認し、両こぶしを握り、叫んだ。

「よっしゃぁぁぁ! 俺たちの勝ちだぁぁぁ!」

 俺の雄叫びに比例するように町民たちも歓喜の声をあげた。

「わあああぁぁぁ!」

 町民全体が大声を出すと、肌にも空気振動を感じるほどの大きさとなり、そのあまりにも大きな振動に驚かされた。無事生き残れた安堵感と町の皆の喜ぶ様子から俺の目頭も少し熱くなった。

 俺は倒れているリリスとレックを抱えて、巨人像から降りて噴水前に移動した。鳴りやまない拍手と歓声の雨から人一倍大きな拍手が一つ聞こえてきた、その方向へ振り向くとそこには町長がいた。

「三人とも本当にありがとう、君は確かハンターのガラルド君と新人ハンターのリリス君だったね、それにレック君も、君たちには頭が上がらないよ」

 礼を言う町長に俺たち三人も会釈を返した。もっとも、ボロボロのレックは会釈すら辛そうであったが。町長は満面の笑みを浮かべるとヘカトンケイル像を指さしながら俺達にある提案を持ち掛けてきた。
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