見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

腰尾マモル

文字の大きさ
上 下
10 / 459

【第10話】ガルムとの戦い

しおりを挟む
「ガルルゥゥ!」

 ガルムが俺を睨みながら唸っている。剣が届く距離まで近づいた俺は、ガルムの頭へ剣を振り下ろした。ガルムはそれを難なく横跳びで躱すと、着地の反動を利用し、脚に力を溜めて俺の方へ跳びかかり、引っ掻いてきた。

 勢いが乗ったガルムの引っ掻きを何とか盾で防ぐことができた俺だったが、それでもガルムの力は相当なもので、俺は3メード程後ろへ吹き飛ばされて尻もちをついた。

 慌てて起き上がろうとした俺だったが反応が遅くれてしまった。倒れている俺へ追撃する為、既にガルムは飛び込んできていた。マズい……爪が振り下ろされる! と思った次の瞬間、リリスの魔術を唱える声が響いた。

「アクア・シールド!」

 ガルムの爪が目と鼻の先まで迫ったところで、水の壁が俺とガルムの間に出現し、ガルムの爪撃を防いだ。

「間に合ってよかったです……。ガラルドさん、ハイオークとの戦いを思い出してください。魔砂マジックサンドは攻守に長けたスキルです。貴方ならきっと使いこなしてガルムを倒せますよ」

 使い慣れていないうえに、焦ったせいで忘れていたが、俺には魔砂マジックサンドがある。今度は遅れを取らないぞと決心し、魔砂マジックサンドを自身の周りで回転させた。

「さぁ来いガルム、今度はスキルを使って相手してやる!」

 俺は気合を入れてガルムに語り掛けたが、ガルムは俺ではなくリリスの方を向いて怒り、唸っていた。そしてガルムはそのまま俺を無視してリリスの方へ突進した。

「しまった! 魔術で攻撃を防がれたことでヘイトがリリスに向いたのか、逃げろリリス!」

 リリスは急いで逃げたが足の速いガルムはあっという間に距離を詰めていく。このままではマズいと思った俺はヘイト魔術を短剣に込めて、走るガルムに向かって放り投げた。

「当たれぇぇ!」

 短剣はガルムに向かって真っすぐ飛んでいったが、ガルムは風切り音を聞き逃さなかったようで、飛んでくる短剣の存在に気づき、真上へ跳んで避けた。

 後ろから投げたのに気づかれてしまった……と焦った俺だったが、まだ手は残っている。俺は短剣の柄の部分に纏わせておいた魔砂マジックサンドを遠隔で操り、投げた短剣の軌道を変えて急上昇させた。

 既に真上へ跳んでいたガルムは空中で避ける事ができず、そのまま短剣が腹に突き刺さった。

「ガアウゥゥゥ!」

 ガルムは短剣の刺さった腹が地面に激突しないようになんとか身体を反転させ、背中からドサッと落ちてうめき声をあげた。

ガルムは腹から血を流しているものの、眼からは全く闘志が消えておらず、俺の事を強く睨みつけている。どうやら無事ヘイトを俺に向けられたようだ。

「ガラルドさん、今の感覚を忘れずにスキルで魔獣に止めを!」

「任せとけ!」

 どうやらリリスが俺に短剣を買わせたのはこういった狙いがあったようだ。俺は再び盾と棍を構え、魔砂マジックサンドを周囲に纏った。

ガルムは血走った眼でこちらを見つめながらこちらへ走っている。

 ガルムとの距離が約7メードまで近づいたところでガルムがジグザグに跳び跳ね、フェイントを交えながら俺の右手を噛みつきにきた。

翻弄されかけた俺だったが、寸でのところで魔砂マジックサンドを纏わせた盾を突き出し、どうにかガルムの噛みつきを防ぐことに成功した。

「グルルゥゥゥ」

 ガルムは魔砂マジックサンドを纏った盾に強く牙を立て、絶対に離そうとはしなかった。

盾ごと左腕を拘束されている状況では距離をとることができない。このままでは近距離を保たれてしまい、前脚で引っ掻かれるのも時間の問題だ。

「距離を取ってガラルドさん!」

 リリスはそう叫んだが、俺はむしろこの状況はチャンスではないかと考えた。ガルムの牙が魔砂マジックサンドを纏った盾に食い込んでいる状況だからこそできることがある。

俺は盾を持つ左手に魔力を込めて叫んだ。

「回れ、サンドシールド!」

 次の瞬間、ガルムの牙が食い込んだ魔砂マジックサンドが俺の狙い通り高速で回転した。食い込んだ牙の影響で身体ごと回転したガルムは、まるで鞭のように背中から叩きつけられることとなった。

「ギャウン!」

 鳴き声をあげたガルムは背中だけではなく後頭部も打ちつけたようで一瞬動きが硬直する。その隙に俺は棍に魔力を込めた。そして魔砂マジックサンドを棍の周りで竜巻のように回転させて、ガルムに叩きつけた。

「いけぇぇ! トルネード・ブロウ!」

 回転する魔砂マジックサンドを纏った棍はガルムの腹を掘削するかの如く、力強くめり込んだ。

「ギャァッゥン!」

肺から空気が抜けきったような声を出したガルムは、そのまま白目を剥いて息絶えた。

「よし、やったぞ!」

 何とか倒し切ることができてホッとした俺はそのまま地面に座り込んだ。駆け寄ってきたリリスが満面の笑みで俺を褒め称えた。

「ガラルドさん凄いです! 見事な勝利です! もうスキルを使いこなせていますし、恐いものなしですね」

「いや、結構ギリギリだったぞ。回転させるっていう能力自体珍しくてどう使えばいいのかイマイチ分かりきってないから研究しなきゃいけないな。まぁ、とりあえずリリスに怪我がなくてよかったよ」

「ガラルドさんが私を守ろうと短剣を投げて、土壇場で軌道をコントロールしてくれたのは凄く嬉しかったですしカッコよかったですよ、うふふふふふ」

「ん? 何が可笑しいんだ?」

「いえ、だって私はいざとなればアイ・テレポートでいくらでも逃げ切れるから大丈夫なのに、必死になって短剣を投げていたのが面白か……いえ、嬉しくて笑っちゃいました」

 クソッ、確かに言われてみれば見渡しの良い平原ならいくらでもアイ・テレポートで長距離移動ができるから逃走は容易だ。それなのに必死になって叫びながら短剣を投げてしまった。

 消したい過去が一つ生まれてしまった……。

「ガラルドさんにとって私は凄くすご~く大切な存在だと知れて嬉しかったです。これからも末永くよろしくおねがいします」

「それ以上からかうなら、もう俺の宿部屋に入れてやらんぞ」

「ええぇぇ、それは困ります、許してくださいぃぃ」

 恋人みたいな馬鹿なやりとりをしつつ俺達は町へと戻った。

 ギルドへ戻ってガルム討伐の報告をすませてみると、報酬はハイオークと同じ20万ゴールドだった。

依頼外討伐だから三割減で14万ゴールドにはなるけれど、それでも二人で分けて7万ゴールドだから充分美味しい、これだからハンターは辞められない。

 金を握りしめて気持ち悪い笑みを浮かべるリリスを尻目に受付嬢のヒノミさんは顎に手を当て、真剣な表情で魔獣分布の分析をしていた。

「ガラルドさんとリリスさんが討伐したガルムは長い歴史の中でヘカトンケイル平原に出現したことはありません。やはり世界的に魔獣の生息分布が変動するような何かが起きていそうな気がします。これからもお二人は気を付けてくださいね」

「ああ、ありがとう。シンバードへ行っても気に留めておこう」

「はい、そう言ってもらえて何よりです。それとスターランクのことですが、今回の戦績でガラルドさんは31、リリスさんは一気に4まで上がりました。おめでとうございます」

 満面の笑みで拍手を送ってくれているヒノミさんだったが、リリスは何か不満なようで小声でヒノミさんにお願いした。

「たった二人でガルムを倒したんですから、私のスターランクを一気に15ぐらいまで上げて貰えませんかね? 私とヒノミンの仲じゃないですかぁ」

「すいません、ギルドにはスターランク昇級に関する厳密な取り決めと計算式があるので、リリスさんだけを特別扱いすることはできません」

 ヒノミンというのはリリスが勝手に作ったあだ名だろうか? 人との距離感を直ぐに詰められるのは正直羨ましい限りだ。とはいえコネで昇級しようとするあたり図々しい奴でもあるが。

 そして俺達はヒノミさんとの会話を切り上げて宿屋へと戻った。

ただの雑魚魔獣狩りがまさかあんな大物狩りになるとは思わなかったが、怪我もすることなく報酬を沢山もらえたからよしとしよう。それよりも気になるのが魔獣の活性化だ。

 もし、予想以上に大きな異変が起きているのだとしたら小規模パーティーの俺達にとってきっと負荷が大きくなってくることだろう。

そうならないこと祈っていた俺だったが、二日後――――とんでもない事態がヘカトンケイルで起きることとなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。 そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。 絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。 そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...