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【第8話】旅の計画と依頼外討伐

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 新パーティーのメンバー募集を出した翌日、ギルドを訪れた俺とリリスは受付のヒノミさんに加入希望者がいるかどうかを尋ねた。

「こんにちは、新パーティーの加入希望者がいるかどうかを確かめに来たんだが」

「お疲れ様ですガラルドさん。残念ながら加入希望者は今のところ0ですね、私も個人的に当ギルドを利用しているハンターさんの八割近い人数にガラルドパーティーの募集がありますよ、とお伝えしたのですが、良い返事は貰えませんでした」

「そんなに頑張ってくれたのか、ざっと五十人以上はいるだろうに。ヒノミさん、重ね重ね本当にありがとう」

「いえいえ、私がやりたくてやっただけなので気にしないでください。話は変わりますがガラルドさん達はこれからどうするおつもりですか?」

 新メンバーが増えなかった以上、直ぐに北方の『シンバード』へ出発したいところだが、シンバードでのハンター業が上手くいく保証などないうえに、長旅になるだろうから出来るだけ蓄えは増やしておきたいところだ。

 シンバードに着くまでの道中には沼地、山、海があることを考慮すると馬を借りる訳にもいかない。急いでも15日以上はかかるだろうと考えれば、低いランクでもいいから魔獣討伐の依頼を幾つかこなしておいた方が良さそうだ。

「とりあえず旅の資金調達にいくつか魔獣討伐をやっておきたいと思ってる。依頼書を見せてもらってもいいか?」

「はい、分かりました。ですが、ガラルドさんのパーティーは現在合計スターランクが補正無しでも30+1で31しかありませんので、少額の依頼しか紹介することができませんが……」

 ハンターが受けられる依頼は基本的にパーティーメンバーの合計スターランクで決まることが多く、報酬を山分けする事も考慮するとスターランクが高い人を勧誘できるメリットは『受注幅』や『戦力面』でとても大きい。

 まずはリリスのスターランクを引き上げる意味でも依頼をコツコツこなしていくのが妥当と考え、低ランクの依頼を受ける事にした。

「ああ、少額の依頼でオッケーだ、依頼書を見せてくれ」

「ヒノミさん、ガラルドさん、待ってください。どっちみち私たちはスターランクが関係ないシンバードで一から名をあげるつもりですから、早くシンバードに行った方がよくないですか?」

「いや、気持ちは分かるが長旅になることと、シンバードで上手くいかなかった場合を想定したら少しは稼いでおいた方がいいだろ」

「チッチッチッ、甘いですよガラルドさん、私を誰だと思っているんですか、私にはアイ・テレポートがあるんですよ。ガラルドさん一人ぐらいなら直ぐにシンバードまで連れて行ってあげられますよ」

「アイ・テレポートってリリス以外も飛ばす事が出来るのか?」

「手で触れているものなら一緒に飛ぶことは出来ますよ、正し私一人でも息切れするぐらい疲れるので、二人なら更に倍疲れますね。いや、大きいものほど消耗も激しくなるので、ガラルドさんがそこそこ体格がいいことを考慮すると一人で飛ぶ時より2・5倍ぐらい疲れるかもです。あと、あくまでアイ・テレポートは移動するポイントを見つめていればいいのだけなので距離が長くても短くても一回の疲労度は変わりません」

 アイ・テレポートの特性が段々わかってきたかもしれない。リリスの眼で見つめている場所へ飛ぶことができるなら、いきなり山の頂上へ移動して、頂上から麓を見つめて一気に下山するといった使い方もできるわけだ。

 二日前にリリスがアイ・テレポートの連続使用で俺を追いかけてきた時は五回ぐらいでバテバテになっていた気がするから、スタミナを考慮してアイ・テレポート一回につき数分の休憩をとりながら繰り返していけば、旅の時間をかなり時間を短縮できるかもしれない。

「なるほど、じゃあリリスの計算だと何日ぐらいでシンバードへ到着できると考えているんだ?」

「そうですね、地図でみると直線距離で60万メード、つまり600キードですから最短で二日程度で着くと思いますよ」

 メードやキードという距離の単位は故郷だと別の単位が使われていたから未だに少し慣れない。確か大昔に存在していた大男の英雄剣士の歩幅を1メードとしていて、それの千倍が1キード、逆に百分の一が1ミードという単位だったはずだ。

 近隣国では当たり前のようにこの単位が使われているから日常会話で出てくることもあり、その度に焦って思い出し、計算していた記憶がある。

これからもディアトイル出身を隠していくことがあるかもしれないから、早めに慣れなくてはいけない。

 頼もしいリリスのスキルを有難がっていると、ヒノミさんがおでこを押さえて唸りながら質問をしてきた。

「リリスさんのスキルはハンター登録の際に記入していただいた用紙から、ある程度は伺ってはいるのですが、アイ・テレポートは物体は飛ばせない性質なのですよね?」

「一応触れてさえいれば物体も飛ばせますよ、身に着けている服や剣、盾、アクセサリー、小袋ぐらいなら負荷も少なく纏めて一緒に飛ばすことができます、じゃないと裸になってしまいますからね。まだガラルドさんに裸を見られるのは恥ずかしいですし」

 何が『まだ』なのかは分からないが、手で人より遥かに大きなものに触れて運搬利用することはやはりできないようだ。ヒノミさんは更に質問を続けた。

「見つめている場所……正確には見つめたポイントから1メード程離れた位置に出現する能力でしたよね? それですと道中にある海エリアはどう突破するおつもりですか? 飛んだ瞬間海に落ちてしまいすが」

「あ、全然考えていませんでした……そもそもアイ・テレポートは床や壁などの固定のポイントに瞬間移動する能力なので動く海面には飛べないですね。あの~、船とかあるんですかね?」

「一応ありますが、ヘカトンケイル側の陸地からシンバード側の陸地へ渡る船は利用客の少なさから五日に一本しか運行していません、ですので逆算して出発することをお勧めします。次に船が出るのは四日後ですね」

「海エリアを抜けて上陸したところがシンバードですから明後日出発しましょうか、ヒノミさんアドバイスありがとうございました」

 汎用性が高く、かなり便利な能力だと思っていたが、消耗の激しさと見つめているポイントにしか飛べない点から意外と使いどころが難しいのかもしれない。

海もそうだが、広大な密林地帯や剣山地帯の移動なども視界の悪さからして使い辛そうだ。

 出発日が決まったのはよかったが、俺達に金が必要だという事実は変わっていない。とりあえず出発日までの残り僅かな時間を少しでも有意義に使えるようにと俺は依頼書を眺めた。

 俺が予想していた以上に合計スターランク31では大した依頼を受けられそうにはなかった。横で見ているリリスも不満そうな表情を浮かべている。

「むぅーん、やっぱり私のスターランクが足を引っ張っていますね。ヒノミさん、こっそり裏から高額依頼を流しては貰えませんかね、へへへ」

 女神なのにあくどい商人のような笑みを浮かべたリリスに対し、ヒノミさんは嫌な顔一つせずに言葉を返した。

「私もそうしてあげたいのは山々ですが、規則は規則ですので紹介することはできません。ですが、一応低ランクでも合法で高額報酬を受け取る方法があるにはあります、あまりお勧めはしませんが」

「え! 何ですかそれ、教えてくださいヒノミさーん!」

「依頼外討伐ですね」

 依頼外討伐――――モンスターを倒してくれという依頼を受けてモンスターを倒す依頼討伐とは対照的に、標的にされていないモンスターを独自に倒して報告するのが依頼外討伐だ。

 旅をしていて偶然、モンスターを倒した際に報酬が貰えないのは辛いだろうということでできたのが始まりだったはずだ。

これがないと一般人が魔獣に襲われている状況でも金にならないから助けないというハンターが出てしまう恐れがあったり、襲われた末に抵抗して討伐した時に報酬がないという事態を避けるメリットがあったりもする。

 もちろん普通に依頼を受けて討伐してくれた方がギルドとしても状況を把握しやすいし、ギルド側も積極的にギルドの窓口を利用してほしいという希望があるから、依頼外討伐の報酬相場は通常の三割減ほどになっている。

 ヒノミさんから依頼外討伐の仕組みを聞いたリリスは女神とは思えないぐらい肩をぐるぐると回しながらやる気をだしていた、まるで荒くれ者の仕草である。

「スピード出世するならこれしかないですよガラルドさん! 早速出かけましょう」

「あ、待ってください、このお話をしたのはあくまでハイオークをほぼ一人で討伐したガラルドさんがいるからお話ししただけなので、リリスさんは前線に出過ぎないよう慎重に動いてくださいね。それと最近魔獣が活発化しているようなのでくれぐれもご注意ください」

 魔獣の活性化に関しては神託の森でサキエルとリリスも言っていたから少し気になるところだ。

逆に言えば報酬が高い魔獣がいたり、魔獣そのものの数が多くなって稼ぎやすくなるかもしれないが。

 俺とリリスは早速、魔獣の数が増えていると噂されているヘカトンケイル南西にある草原へと向かった。
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