8 / 459
【第8話】旅の計画と依頼外討伐
しおりを挟む新パーティーのメンバー募集を出した翌日、ギルドを訪れた俺とリリスは受付のヒノミさんに加入希望者がいるかどうかを尋ねた。
「こんにちは、新パーティーの加入希望者がいるかどうかを確かめに来たんだが」
「お疲れ様ですガラルドさん。残念ながら加入希望者は今のところ0ですね、私も個人的に当ギルドを利用しているハンターさんの八割近い人数にガラルドパーティーの募集がありますよ、とお伝えしたのですが、良い返事は貰えませんでした」
「そんなに頑張ってくれたのか、ざっと五十人以上はいるだろうに。ヒノミさん、重ね重ね本当にありがとう」
「いえいえ、私がやりたくてやっただけなので気にしないでください。話は変わりますがガラルドさん達はこれからどうするおつもりですか?」
新メンバーが増えなかった以上、直ぐに北方の『シンバード』へ出発したいところだが、シンバードでのハンター業が上手くいく保証などないうえに、長旅になるだろうから出来るだけ蓄えは増やしておきたいところだ。
シンバードに着くまでの道中には沼地、山、海があることを考慮すると馬を借りる訳にもいかない。急いでも15日以上はかかるだろうと考えれば、低いランクでもいいから魔獣討伐の依頼を幾つかこなしておいた方が良さそうだ。
「とりあえず旅の資金調達にいくつか魔獣討伐をやっておきたいと思ってる。依頼書を見せてもらってもいいか?」
「はい、分かりました。ですが、ガラルドさんのパーティーは現在合計スターランクが補正無しでも30+1で31しかありませんので、少額の依頼しか紹介することができませんが……」
ハンターが受けられる依頼は基本的にパーティーメンバーの合計スターランクで決まることが多く、報酬を山分けする事も考慮するとスターランクが高い人を勧誘できるメリットは『受注幅』や『戦力面』でとても大きい。
まずはリリスのスターランクを引き上げる意味でも依頼をコツコツこなしていくのが妥当と考え、低ランクの依頼を受ける事にした。
「ああ、少額の依頼でオッケーだ、依頼書を見せてくれ」
「ヒノミさん、ガラルドさん、待ってください。どっちみち私たちはスターランクが関係ないシンバードで一から名をあげるつもりですから、早くシンバードに行った方がよくないですか?」
「いや、気持ちは分かるが長旅になることと、シンバードで上手くいかなかった場合を想定したら少しは稼いでおいた方がいいだろ」
「チッチッチッ、甘いですよガラルドさん、私を誰だと思っているんですか、私にはアイ・テレポートがあるんですよ。ガラルドさん一人ぐらいなら直ぐにシンバードまで連れて行ってあげられますよ」
「アイ・テレポートってリリス以外も飛ばす事が出来るのか?」
「手で触れているものなら一緒に飛ぶことは出来ますよ、正し私一人でも息切れするぐらい疲れるので、二人なら更に倍疲れますね。いや、大きいものほど消耗も激しくなるので、ガラルドさんがそこそこ体格がいいことを考慮すると一人で飛ぶ時より2・5倍ぐらい疲れるかもです。あと、あくまでアイ・テレポートは移動するポイントを見つめていればいいのだけなので距離が長くても短くても一回の疲労度は変わりません」
アイ・テレポートの特性が段々わかってきたかもしれない。リリスの眼で見つめている場所へ飛ぶことができるなら、いきなり山の頂上へ移動して、頂上から麓を見つめて一気に下山するといった使い方もできるわけだ。
二日前にリリスがアイ・テレポートの連続使用で俺を追いかけてきた時は五回ぐらいでバテバテになっていた気がするから、スタミナを考慮してアイ・テレポート一回につき数分の休憩をとりながら繰り返していけば、旅の時間をかなり時間を短縮できるかもしれない。
「なるほど、じゃあリリスの計算だと何日ぐらいでシンバードへ到着できると考えているんだ?」
「そうですね、地図でみると直線距離で60万メード、つまり600キードですから最短で二日程度で着くと思いますよ」
メードやキードという距離の単位は故郷だと別の単位が使われていたから未だに少し慣れない。確か大昔に存在していた大男の英雄剣士の歩幅を1メードとしていて、それの千倍が1キード、逆に百分の一が1ミードという単位だったはずだ。
近隣国では当たり前のようにこの単位が使われているから日常会話で出てくることもあり、その度に焦って思い出し、計算していた記憶がある。
これからもディアトイル出身を隠していくことがあるかもしれないから、早めに慣れなくてはいけない。
頼もしいリリスのスキルを有難がっていると、ヒノミさんがおでこを押さえて唸りながら質問をしてきた。
「リリスさんのスキルはハンター登録の際に記入していただいた用紙から、ある程度は伺ってはいるのですが、アイ・テレポートは物体は飛ばせない性質なのですよね?」
「一応触れてさえいれば物体も飛ばせますよ、身に着けている服や剣、盾、アクセサリー、小袋ぐらいなら負荷も少なく纏めて一緒に飛ばすことができます、じゃないと裸になってしまいますからね。まだガラルドさんに裸を見られるのは恥ずかしいですし」
何が『まだ』なのかは分からないが、手で人より遥かに大きなものに触れて運搬利用することはやはりできないようだ。ヒノミさんは更に質問を続けた。
「見つめている場所……正確には見つめたポイントから1メード程離れた位置に出現する能力でしたよね? それですと道中にある海エリアはどう突破するおつもりですか? 飛んだ瞬間海に落ちてしまいすが」
「あ、全然考えていませんでした……そもそもアイ・テレポートは床や壁などの固定のポイントに瞬間移動する能力なので動く海面には飛べないですね。あの~、船とかあるんですかね?」
「一応ありますが、ヘカトンケイル側の陸地からシンバード側の陸地へ渡る船は利用客の少なさから五日に一本しか運行していません、ですので逆算して出発することをお勧めします。次に船が出るのは四日後ですね」
「海エリアを抜けて上陸したところがシンバードですから明後日出発しましょうか、ヒノミさんアドバイスありがとうございました」
汎用性が高く、かなり便利な能力だと思っていたが、消耗の激しさと見つめているポイントにしか飛べない点から意外と使いどころが難しいのかもしれない。
海もそうだが、広大な密林地帯や剣山地帯の移動なども視界の悪さからして使い辛そうだ。
出発日が決まったのはよかったが、俺達に金が必要だという事実は変わっていない。とりあえず出発日までの残り僅かな時間を少しでも有意義に使えるようにと俺は依頼書を眺めた。
俺が予想していた以上に合計スターランク31では大した依頼を受けられそうにはなかった。横で見ているリリスも不満そうな表情を浮かべている。
「むぅーん、やっぱり私のスターランクが足を引っ張っていますね。ヒノミさん、こっそり裏から高額依頼を流しては貰えませんかね、へへへ」
女神なのにあくどい商人のような笑みを浮かべたリリスに対し、ヒノミさんは嫌な顔一つせずに言葉を返した。
「私もそうしてあげたいのは山々ですが、規則は規則ですので紹介することはできません。ですが、一応低ランクでも合法で高額報酬を受け取る方法があるにはあります、あまりお勧めはしませんが」
「え! 何ですかそれ、教えてくださいヒノミさーん!」
「依頼外討伐ですね」
依頼外討伐――――モンスターを倒してくれという依頼を受けてモンスターを倒す依頼討伐とは対照的に、標的にされていないモンスターを独自に倒して報告するのが依頼外討伐だ。
旅をしていて偶然、モンスターを倒した際に報酬が貰えないのは辛いだろうということでできたのが始まりだったはずだ。
これがないと一般人が魔獣に襲われている状況でも金にならないから助けないというハンターが出てしまう恐れがあったり、襲われた末に抵抗して討伐した時に報酬がないという事態を避けるメリットがあったりもする。
もちろん普通に依頼を受けて討伐してくれた方がギルドとしても状況を把握しやすいし、ギルド側も積極的にギルドの窓口を利用してほしいという希望があるから、依頼外討伐の報酬相場は通常の三割減ほどになっている。
ヒノミさんから依頼外討伐の仕組みを聞いたリリスは女神とは思えないぐらい肩をぐるぐると回しながらやる気をだしていた、まるで荒くれ者の仕草である。
「スピード出世するならこれしかないですよガラルドさん! 早速出かけましょう」
「あ、待ってください、このお話をしたのはあくまでハイオークをほぼ一人で討伐したガラルドさんがいるからお話ししただけなので、リリスさんは前線に出過ぎないよう慎重に動いてくださいね。それと最近魔獣が活発化しているようなのでくれぐれもご注意ください」
魔獣の活性化に関しては神託の森でサキエルとリリスも言っていたから少し気になるところだ。
逆に言えば報酬が高い魔獣がいたり、魔獣そのものの数が多くなって稼ぎやすくなるかもしれないが。
俺とリリスは早速、魔獣の数が増えていると噂されているヘカトンケイル南西にある草原へと向かった。
0
お気に入りに追加
388
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる