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【第4話】再会とリベンジ
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小さい茂みから何やら音が聞こえる。身体の大きいハイオークが隠れていることはないとは思うが、小さいモンスターが隠れているかもしれない。俺は念のために茂みへ小石を軽く投げてみた。
「ヒィィッ!」
どう聞いても人の声、それも聞き覚えのある女性の声が茂みから発せられた。俺はもしやと思い茂みを掻き分けると、中から同じパーティーの魔術師――――ブルネが現れた。
どうやらブルネは足首を怪我しているようで、身体をブルブルと震わせ怯えている。俺は裏切って逃げられた恨みを一旦保留にして、ブルネに何があったのかを尋ねた。
「三人で無事逃げ切ったんじゃないのか? 何でブルネだけがここにいるんだ」
「……私たちはガラルド君を置いて逃げたのに怒らないの?」
「言いたいことは色々あるがそれは後でいい、それよりも三人に何があったのかを聞かせてくれ」
「……ガラルド君を置いて逃げた私達三人はレック君を先頭にして逃げていたんだけど、途中で私が足を踏み外して高い位置から転げ落ちそうになったの。それだけならまだいいんだけど、私を助けようとネイミーちゃんが私の腕を掴んで助けようとしてくれてね。だけど結局引き上げることができなくて二人一緒に崖を転がり落ちた挙句にちょうど川に落っこちちゃって……そのまま二人して流されていたら森の西の方へ来てしまってレック君とはぐれちゃったの」
正直、自業自得だと思ったけれど、皮肉を言うのもはばかられるぐらいに事態は切迫しているようだ。
魔術師のブルネと治癒術師のネイミーもコンパスを持っていないから単独で森を抜けるのは困難だ。ブルネもそれを分かっているからこそ、川近くの茂みに身を隠してレックが迎えに来るのを待っているのかもしれない。
しかし、川は幾つか枝分かれした箇所があるから、しらみつぶしに探していては時間もかかるだろう。それに今いるエリアだとハイオークと遭遇する可能性だってある。
そもそもレックが単身仲間を助けに来る保証もない。何故なら俺を見捨てたという前科があるからだ。
俺はこのままレックがブルネを迎えに来るのを待つか、それとも俺が持っているコンパスで先に森の外へブルネを連れていくか迷っていた。俺がブルネを連れていくとレックとすれ違いになってしまい、レックは居なくなったブルネを探し続けてしまう可能性だってある。
「キャァァァァ!」
どう行動するかを決めかねていると川の下流の方から突然叫び声が聞こえてきた、考えられるのは一人しかいない……同パーティーの治癒術師ネイミーだ。
俺とリリスは急いで声の聞こえた方へ駆けつけると、そこにはさっきまで戦っていたハイオーク、ネイミー、そして鎧を砕かれて口から血を流しているレックの姿があった。
「ガ、ガラルド、どう……して……俺たち……を助けにき……」
ボロボロになって横たわっていたレックは言葉を言い切る前に意識を失った。
「レックが私をかばって……」
ネイミーが顔をぐしゃぐしゃにしながらレックを心配して泣いている。
これは一体どういうことだ……パニックになりそうな頭を何とか落ち着かせて状況を分析した。
恐らくレックは見失ったブルネとネイミーを探して、今いるエリアまで戻ってきたのだろう。
そしてハイオークに襲われているネイミーを見つけたレックは身を挺してネイミーを守り、棍棒で吹き飛ばされたといったところだろうか。
この時俺は『何でネイミーやブルネは守ったのに俺のことは見捨てたんだ、無能だからか?』と悲しさと怒りでどうにかなりそうだった。
ネイミーだってそうだ。俺の事は簡単に見捨てた癖にレックの危険には涙を流して悲しんでいる。
しかし、今はそんなことを分析している暇はない、目の前には強敵ハイオークがいるのだから。俺はリリスとネイミーに指示を出した。
「リリス、ネイミー、俺が時間を稼ぐから今すぐレックを回復して、三人でこの場を離れろ! それから上流沿いにいるブルネと合流して四人で逃げるんだ、お前らだけでも助かってくれ!」
自分でも何を言っているのかよく分からなかった。俺を見捨てた人間の為に再び盾役をして時間を稼ぐ――――これの意味するところはムカつく奴を助けて、自分の命を散らすことと同義だ。
自分の中にあった義侠心に驚きつつも、俺の命と引き換えに『恩人のリリス』を助けられるなら悪くはない――――と無理やり自分を納得させた。しかし、そんな俺の考えを許さない奴が一人いた。
「死ぬなっ! 絶対に倒しなさい!」
破裂音のように大きな声で突然リリスが俺に喝を入れた。あまりのボリュームにハイオークも少しびっくりしているように見える。リリスは更に言葉を続けた。
「人の為に頑張るのは良い。だけど絶対に死を受け入れちゃダメ、最後の一秒まであがきなさい、本当のスキルを知った今のガラルドさんなら倒せる可能性だってきっとあるんだから!」
的確で手厳しい説教を貰った俺は剣を構えて頷いた。女神長サキエルの言う通り、リリスは相当熱い女神なのかもしれない、いつの間にか敬語も抜けているし。
リリスの言った『本当のスキル』というのは『回転砂』のことを言っているのだろうが、存在を知ったのはついさっきで実戦使用回数は0だ。
それを使えと言うのはかなり酷なことだと思うが、リリスの言葉に頷いた以上、約束は守らなければならない。自分の内なる魔力を練り込んでいると、そんなことはお構いなしにハイオークが棍棒を振り下ろした。
マズい、直撃する! 本能で危険を感じ取った俺は、考えるよりも先に両手を前に出し、使ったことのない技を叫んだ。
「守れ、サンドストーム!」
叫んだ直後、俺の身体の周りに魔法の砂粒『魔砂』が出現し、周囲を高速回転し始めた。ハイオークの振り下ろした棍棒が俺の頭にぶつかる寸前で魔砂が打撃を防ぎ、棍棒を遠くへ吹き飛ばした。
一瞬、目を点にしたハイオークは数秒の沈黙の後、自らの拳を俺に振り下ろしてきた。ハイオークの拳撃も先程と同様に回転するサンドストームで防ぐと、ハイオークの拳は激しい摩擦音と共に擦り傷だらけになっていた。
高速移動する魔砂の一粒一粒がヤスリのようにハイオークの拳を削ったのだろう。
初めてハイオークと戦った時に使った『サンドウォール』よりもずっと防御性能が高いようだ。『サンドストーム』を火事場の馬鹿力で出す事ができて自分自身とても驚いていた。
ハイオークは拳の怪我によって却って冷静になったようで、バックステップで距離を取り、そのまま離れた位置に飛んでいった棍棒を取りに行った。
直接触れるのは危険だと判断したようだ、やはりハイオークは頭が切れるようだ。
「凄いですガラルドさん、このまま魔砂を攻撃にも使ってください、そうすればきっと勝てます!」
リリスがレックを回復させながらアドバイスをくれたが、正直覚えたてのスキルでどうやって攻撃すればいいのかが分からない。
サンドストームで近づいて傷をつけてやろうにも練度が足りない今の俺には移動しながら発動し続けるのは出来そうにない。
攻撃と防御を兼ねて剣を持って近づきたいところだが、最初にハイオークと戦った際に自身の剣を投げて背中に刺したから、ハイオークがどこかに捨ててしまったようだ。
どうすればいいのか、まだ考えも纏まらないうちにハイオークは棍棒を構えて突進してきた。
とりあえず今やれることをやるしかない、そう決意した俺は再びサンドストームを発動する為に両手を構えた。
真上から振り下ろされた棍棒は助走も相まってとても強く、俺の身体は棍棒と魔砂がぶつかった衝撃波で後ろへ大きく吹き飛ばされた。
ダメージはないものの、後方の泥濘で尻もちをついてしまった俺は、起き上がるのが遅れて、ハイオークに追撃のチャンスを与えてしまった。
「避けて、ガラルドさん!」
リリスは必死に叫んでくれたが、この態勢では避けられそうにない。最後の一秒まで諦めるつもりはないが、打開策がさっぱり思いつかない。
背中に剣と魔術を受けてなお、突進してくるタフなハイオークを褒めてやるべきなのかもしれない。
「背中……そうだ!」
尻もちをついている俺へ今まさに棍棒が振り下ろされようとしている瞬間、逆転の手を思いついた。俺は左手だけでサンドストームを作り出し、防御姿勢をとった。
両手で作ったサンドストームとは違い、綺麗な円状ではなく前後に長い砂嵐を形成する。少し防御性能は劣るかもしれないが何とか耐えてくれ! そう願いながらハイオークの棍棒を迎え受けた。
魔砂と棍棒が激しくぶつかった衝撃音が耳に響いたものの、助走をつけて叩いてきた先程とは違い、棍棒の威力は俺の予想通り少し弱まっている。
「受け流せ、サンドストーム!」
叫んだ俺に呼応するように、サンドストームはハイオークの打撃を俺の斜め下後方へと受け流した。
片手で生成した前後に長い楕円状のサンドストームは受け流しという利点を見事に活かすことができた。棍棒はそのまま足元にある泥濘へとめり込んだ。
棍棒がめり込み焦っているハイオークは今まさに俺の方へ背中を向けている、チャンスはここしかない。
俺はサンドストームの発動に使用しなかった右手の周りへ小さく高速回転するサンドストームを作り出した。
右手に宿った魔砂は範囲こそ小さいものの、回転も速く魔力密度も濃くなっている。俺は渾身の力を込めて右拳をハイオークの背中へ叩き込んだ。
「とどめだぁぁ!」
俺の右拳は剣と魔術で傷ついたハイオークの背中へ直撃した。
「グオオォォォ!」
呻き声をあげ、背中から大量の血を流したハイオークはそのまま膝をついて、バタリと勢いよく倒れ込んだ。
さっきみたいに死んだふりをしていないか警戒しながら確かめたが、どうやら本当に死んでいるようだ。じわじわと湧いてきた勝利への喜びが抑えられず、俺は大声で叫んだ。
「よっしゃぁぁ! 俺らの勝ちだぁぁ」
少し涙目になったリリスが小走りで俺の元へ駆け寄ってきた。
「凄かったですガラルドさん! 直ぐにスキルを使いこなして最高にかっこよかったです、惚れちゃいそうです! そして何より大きな怪我もなくて……本当によかった……」
さっき知り合ったばかりの俺にここまで親身になってくれるなんて――改めてサキエルが言っていた『優しい子』という言葉が実感できた。
俺もちょっと涙目になりそうだったし、感動の場面なのかもしれないけれど『狩りは帰るまでが狩り』という言葉もある。俺は全員に帰還の指示を出した。
「とりあえずハイオークから魔石を取り出したら、日が暮れる前に急いで町に戻るぞ。レックはだいぶ回復してきているようだが、まだ歩いたり喋ったりするのはきつそうだから俺がおんぶしていく。足を怪我しているブルネと合流したら、リリスとネイミーが肩を貸して一緒に歩いてやってくれ」
そして俺達はブルネと合流を果たし、帰りは特に何もトラブルもなく町へと帰る事ができた。
レックを診療所へ連れていき、ブルネとネイミーを家に送り届けた後、俺はようやく自分が泊まっている宿屋へ戻り、ドサッとベッドへ倒れ込んだ。
「あ~、疲れた」
本当は風呂に入った方がいいのだが、あまりの疲れで面倒くささが打ち勝ってしまった。心と体の奥底から出た言葉に甘えて俺は目を瞑る。こんなにも働いたのだから今日だけは早く眠って、翌朝風呂に入ればいいだろう。
「あれ、ガラルドさん、お風呂に入らないのですか?」
突然耳に入った女性の声に飛び起きた俺はベッドの横を見た、そこには机に頬杖をついたリリスがいた。
「何であんたがここにいるんだ!」
「えっ? だってまだガラルドさんがレック班に残るかどうか見届けていませんし、もし抜けるなら私達は同パーティーになりますから、宿泊予行練習ってところですかね。それに私はガラルドさんの人間性に惚れちゃいましたから同部屋大歓迎ですよ……えへへ」
「えへへ……じゃねぇよ! 確かにレックが元気になって落ち着いてから、俺の進退を聞きに行くつもりだったが、だからって同室にいなくてもいいだろう!」
「まぁまぁ、細かい事はいいじゃないですか、それよりも身体はしっかり洗った方がいいですよ、お疲れでしたら背中も流しますし」
「結構だ! 何かもう色々とツッコミどころだらけだが言い出したらキリがない。とりあえず宿代は払っておくから、違う部屋へ行ってくれよ、ベッドは一つしかないんだからな」
そう言って俺は風呂を済ませた後、フロントでリリスの部屋の分の宿賃を払おうと宿主の親父さんに話しかけた。
「すまないが、知り合いが急に俺の部屋へなだれ込んできてしまって、そいつ用にもう一部屋分の料金を払うから泊まらせてくれないか?」
「う~ん、最近魔獣の活性化の影響からかハンターの客が多くて今日も満室でしてね。申し訳ないが、一人部屋を二人で使ってくれ」
「げ! そ、そうか。分かったよ、我儘を言ってすまなかったな」
そして俺は自分の部屋へ戻った、リリスに事情を伝えようとしたけれど、リリスは既に俺が使っていたベッドで爆睡している。
枕に頭を置き、身体を壁側に寄せ、掛け布団も半分だけ掛けている様子から、俺の寝るスペースを残しつつ、自身もじっくり寝る気まんまんだったのだろう。
一応男と女ではあるのだが、信用してくれているのか、それとも警戒心がないのかは分からないが、アホ面を浮かべて変な寝相で寝ている様子からして恐らく後者だろう。
と言ってもリリスは今日大活躍だったし、俺の危機も救ってくれた命の恩人だ。
長旅からの帰還後すぐにハイオークの事件に巻き込まれたわけだから疲れも溜まっていたのだろう。
俺はリリスが半分だけ掛けている掛け布団をしっかりかけ直してやった後、床のカーペットを敷き布団代わりにしてそのまま眠ることにした。
床とはいえ疲れていた影響で瞼が重くなり、直ぐにでも眠れそうだ。
今日は残留をかけたテスト、女神との出会い、真のスキル理解、仲間の裏切り、色々なことがあったが、無事に帰ってこられただけでもよかった。
明日レックが話せる状態になったら、俺の進退が分かることになる。
不安ではあるけれど、自分の真の力をみせることができたし、パーティーにも貢献する事が出来たのだからきっと追放されずにすむだろう。そう前向きに考えながら俺は瞼を閉じた。
=======あとがき=======
読んでいただきありがとうございました。
少しでも面白いと思って頂けたら【お気に入り】ボタンから登録して頂けると嬉しいです。
甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです
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「ヒィィッ!」
どう聞いても人の声、それも聞き覚えのある女性の声が茂みから発せられた。俺はもしやと思い茂みを掻き分けると、中から同じパーティーの魔術師――――ブルネが現れた。
どうやらブルネは足首を怪我しているようで、身体をブルブルと震わせ怯えている。俺は裏切って逃げられた恨みを一旦保留にして、ブルネに何があったのかを尋ねた。
「三人で無事逃げ切ったんじゃないのか? 何でブルネだけがここにいるんだ」
「……私たちはガラルド君を置いて逃げたのに怒らないの?」
「言いたいことは色々あるがそれは後でいい、それよりも三人に何があったのかを聞かせてくれ」
「……ガラルド君を置いて逃げた私達三人はレック君を先頭にして逃げていたんだけど、途中で私が足を踏み外して高い位置から転げ落ちそうになったの。それだけならまだいいんだけど、私を助けようとネイミーちゃんが私の腕を掴んで助けようとしてくれてね。だけど結局引き上げることができなくて二人一緒に崖を転がり落ちた挙句にちょうど川に落っこちちゃって……そのまま二人して流されていたら森の西の方へ来てしまってレック君とはぐれちゃったの」
正直、自業自得だと思ったけれど、皮肉を言うのもはばかられるぐらいに事態は切迫しているようだ。
魔術師のブルネと治癒術師のネイミーもコンパスを持っていないから単独で森を抜けるのは困難だ。ブルネもそれを分かっているからこそ、川近くの茂みに身を隠してレックが迎えに来るのを待っているのかもしれない。
しかし、川は幾つか枝分かれした箇所があるから、しらみつぶしに探していては時間もかかるだろう。それに今いるエリアだとハイオークと遭遇する可能性だってある。
そもそもレックが単身仲間を助けに来る保証もない。何故なら俺を見捨てたという前科があるからだ。
俺はこのままレックがブルネを迎えに来るのを待つか、それとも俺が持っているコンパスで先に森の外へブルネを連れていくか迷っていた。俺がブルネを連れていくとレックとすれ違いになってしまい、レックは居なくなったブルネを探し続けてしまう可能性だってある。
「キャァァァァ!」
どう行動するかを決めかねていると川の下流の方から突然叫び声が聞こえてきた、考えられるのは一人しかいない……同パーティーの治癒術師ネイミーだ。
俺とリリスは急いで声の聞こえた方へ駆けつけると、そこにはさっきまで戦っていたハイオーク、ネイミー、そして鎧を砕かれて口から血を流しているレックの姿があった。
「ガ、ガラルド、どう……して……俺たち……を助けにき……」
ボロボロになって横たわっていたレックは言葉を言い切る前に意識を失った。
「レックが私をかばって……」
ネイミーが顔をぐしゃぐしゃにしながらレックを心配して泣いている。
これは一体どういうことだ……パニックになりそうな頭を何とか落ち着かせて状況を分析した。
恐らくレックは見失ったブルネとネイミーを探して、今いるエリアまで戻ってきたのだろう。
そしてハイオークに襲われているネイミーを見つけたレックは身を挺してネイミーを守り、棍棒で吹き飛ばされたといったところだろうか。
この時俺は『何でネイミーやブルネは守ったのに俺のことは見捨てたんだ、無能だからか?』と悲しさと怒りでどうにかなりそうだった。
ネイミーだってそうだ。俺の事は簡単に見捨てた癖にレックの危険には涙を流して悲しんでいる。
しかし、今はそんなことを分析している暇はない、目の前には強敵ハイオークがいるのだから。俺はリリスとネイミーに指示を出した。
「リリス、ネイミー、俺が時間を稼ぐから今すぐレックを回復して、三人でこの場を離れろ! それから上流沿いにいるブルネと合流して四人で逃げるんだ、お前らだけでも助かってくれ!」
自分でも何を言っているのかよく分からなかった。俺を見捨てた人間の為に再び盾役をして時間を稼ぐ――――これの意味するところはムカつく奴を助けて、自分の命を散らすことと同義だ。
自分の中にあった義侠心に驚きつつも、俺の命と引き換えに『恩人のリリス』を助けられるなら悪くはない――――と無理やり自分を納得させた。しかし、そんな俺の考えを許さない奴が一人いた。
「死ぬなっ! 絶対に倒しなさい!」
破裂音のように大きな声で突然リリスが俺に喝を入れた。あまりのボリュームにハイオークも少しびっくりしているように見える。リリスは更に言葉を続けた。
「人の為に頑張るのは良い。だけど絶対に死を受け入れちゃダメ、最後の一秒まであがきなさい、本当のスキルを知った今のガラルドさんなら倒せる可能性だってきっとあるんだから!」
的確で手厳しい説教を貰った俺は剣を構えて頷いた。女神長サキエルの言う通り、リリスは相当熱い女神なのかもしれない、いつの間にか敬語も抜けているし。
リリスの言った『本当のスキル』というのは『回転砂』のことを言っているのだろうが、存在を知ったのはついさっきで実戦使用回数は0だ。
それを使えと言うのはかなり酷なことだと思うが、リリスの言葉に頷いた以上、約束は守らなければならない。自分の内なる魔力を練り込んでいると、そんなことはお構いなしにハイオークが棍棒を振り下ろした。
マズい、直撃する! 本能で危険を感じ取った俺は、考えるよりも先に両手を前に出し、使ったことのない技を叫んだ。
「守れ、サンドストーム!」
叫んだ直後、俺の身体の周りに魔法の砂粒『魔砂』が出現し、周囲を高速回転し始めた。ハイオークの振り下ろした棍棒が俺の頭にぶつかる寸前で魔砂が打撃を防ぎ、棍棒を遠くへ吹き飛ばした。
一瞬、目を点にしたハイオークは数秒の沈黙の後、自らの拳を俺に振り下ろしてきた。ハイオークの拳撃も先程と同様に回転するサンドストームで防ぐと、ハイオークの拳は激しい摩擦音と共に擦り傷だらけになっていた。
高速移動する魔砂の一粒一粒がヤスリのようにハイオークの拳を削ったのだろう。
初めてハイオークと戦った時に使った『サンドウォール』よりもずっと防御性能が高いようだ。『サンドストーム』を火事場の馬鹿力で出す事ができて自分自身とても驚いていた。
ハイオークは拳の怪我によって却って冷静になったようで、バックステップで距離を取り、そのまま離れた位置に飛んでいった棍棒を取りに行った。
直接触れるのは危険だと判断したようだ、やはりハイオークは頭が切れるようだ。
「凄いですガラルドさん、このまま魔砂を攻撃にも使ってください、そうすればきっと勝てます!」
リリスがレックを回復させながらアドバイスをくれたが、正直覚えたてのスキルでどうやって攻撃すればいいのかが分からない。
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攻撃と防御を兼ねて剣を持って近づきたいところだが、最初にハイオークと戦った際に自身の剣を投げて背中に刺したから、ハイオークがどこかに捨ててしまったようだ。
どうすればいいのか、まだ考えも纏まらないうちにハイオークは棍棒を構えて突進してきた。
とりあえず今やれることをやるしかない、そう決意した俺は再びサンドストームを発動する為に両手を構えた。
真上から振り下ろされた棍棒は助走も相まってとても強く、俺の身体は棍棒と魔砂がぶつかった衝撃波で後ろへ大きく吹き飛ばされた。
ダメージはないものの、後方の泥濘で尻もちをついてしまった俺は、起き上がるのが遅れて、ハイオークに追撃のチャンスを与えてしまった。
「避けて、ガラルドさん!」
リリスは必死に叫んでくれたが、この態勢では避けられそうにない。最後の一秒まで諦めるつもりはないが、打開策がさっぱり思いつかない。
背中に剣と魔術を受けてなお、突進してくるタフなハイオークを褒めてやるべきなのかもしれない。
「背中……そうだ!」
尻もちをついている俺へ今まさに棍棒が振り下ろされようとしている瞬間、逆転の手を思いついた。俺は左手だけでサンドストームを作り出し、防御姿勢をとった。
両手で作ったサンドストームとは違い、綺麗な円状ではなく前後に長い砂嵐を形成する。少し防御性能は劣るかもしれないが何とか耐えてくれ! そう願いながらハイオークの棍棒を迎え受けた。
魔砂と棍棒が激しくぶつかった衝撃音が耳に響いたものの、助走をつけて叩いてきた先程とは違い、棍棒の威力は俺の予想通り少し弱まっている。
「受け流せ、サンドストーム!」
叫んだ俺に呼応するように、サンドストームはハイオークの打撃を俺の斜め下後方へと受け流した。
片手で生成した前後に長い楕円状のサンドストームは受け流しという利点を見事に活かすことができた。棍棒はそのまま足元にある泥濘へとめり込んだ。
棍棒がめり込み焦っているハイオークは今まさに俺の方へ背中を向けている、チャンスはここしかない。
俺はサンドストームの発動に使用しなかった右手の周りへ小さく高速回転するサンドストームを作り出した。
右手に宿った魔砂は範囲こそ小さいものの、回転も速く魔力密度も濃くなっている。俺は渾身の力を込めて右拳をハイオークの背中へ叩き込んだ。
「とどめだぁぁ!」
俺の右拳は剣と魔術で傷ついたハイオークの背中へ直撃した。
「グオオォォォ!」
呻き声をあげ、背中から大量の血を流したハイオークはそのまま膝をついて、バタリと勢いよく倒れ込んだ。
さっきみたいに死んだふりをしていないか警戒しながら確かめたが、どうやら本当に死んでいるようだ。じわじわと湧いてきた勝利への喜びが抑えられず、俺は大声で叫んだ。
「よっしゃぁぁ! 俺らの勝ちだぁぁ」
少し涙目になったリリスが小走りで俺の元へ駆け寄ってきた。
「凄かったですガラルドさん! 直ぐにスキルを使いこなして最高にかっこよかったです、惚れちゃいそうです! そして何より大きな怪我もなくて……本当によかった……」
さっき知り合ったばかりの俺にここまで親身になってくれるなんて――改めてサキエルが言っていた『優しい子』という言葉が実感できた。
俺もちょっと涙目になりそうだったし、感動の場面なのかもしれないけれど『狩りは帰るまでが狩り』という言葉もある。俺は全員に帰還の指示を出した。
「とりあえずハイオークから魔石を取り出したら、日が暮れる前に急いで町に戻るぞ。レックはだいぶ回復してきているようだが、まだ歩いたり喋ったりするのはきつそうだから俺がおんぶしていく。足を怪我しているブルネと合流したら、リリスとネイミーが肩を貸して一緒に歩いてやってくれ」
そして俺達はブルネと合流を果たし、帰りは特に何もトラブルもなく町へと帰る事ができた。
レックを診療所へ連れていき、ブルネとネイミーを家に送り届けた後、俺はようやく自分が泊まっている宿屋へ戻り、ドサッとベッドへ倒れ込んだ。
「あ~、疲れた」
本当は風呂に入った方がいいのだが、あまりの疲れで面倒くささが打ち勝ってしまった。心と体の奥底から出た言葉に甘えて俺は目を瞑る。こんなにも働いたのだから今日だけは早く眠って、翌朝風呂に入ればいいだろう。
「あれ、ガラルドさん、お風呂に入らないのですか?」
突然耳に入った女性の声に飛び起きた俺はベッドの横を見た、そこには机に頬杖をついたリリスがいた。
「何であんたがここにいるんだ!」
「えっ? だってまだガラルドさんがレック班に残るかどうか見届けていませんし、もし抜けるなら私達は同パーティーになりますから、宿泊予行練習ってところですかね。それに私はガラルドさんの人間性に惚れちゃいましたから同部屋大歓迎ですよ……えへへ」
「えへへ……じゃねぇよ! 確かにレックが元気になって落ち着いてから、俺の進退を聞きに行くつもりだったが、だからって同室にいなくてもいいだろう!」
「まぁまぁ、細かい事はいいじゃないですか、それよりも身体はしっかり洗った方がいいですよ、お疲れでしたら背中も流しますし」
「結構だ! 何かもう色々とツッコミどころだらけだが言い出したらキリがない。とりあえず宿代は払っておくから、違う部屋へ行ってくれよ、ベッドは一つしかないんだからな」
そう言って俺は風呂を済ませた後、フロントでリリスの部屋の分の宿賃を払おうと宿主の親父さんに話しかけた。
「すまないが、知り合いが急に俺の部屋へなだれ込んできてしまって、そいつ用にもう一部屋分の料金を払うから泊まらせてくれないか?」
「う~ん、最近魔獣の活性化の影響からかハンターの客が多くて今日も満室でしてね。申し訳ないが、一人部屋を二人で使ってくれ」
「げ! そ、そうか。分かったよ、我儘を言ってすまなかったな」
そして俺は自分の部屋へ戻った、リリスに事情を伝えようとしたけれど、リリスは既に俺が使っていたベッドで爆睡している。
枕に頭を置き、身体を壁側に寄せ、掛け布団も半分だけ掛けている様子から、俺の寝るスペースを残しつつ、自身もじっくり寝る気まんまんだったのだろう。
一応男と女ではあるのだが、信用してくれているのか、それとも警戒心がないのかは分からないが、アホ面を浮かべて変な寝相で寝ている様子からして恐らく後者だろう。
と言ってもリリスは今日大活躍だったし、俺の危機も救ってくれた命の恩人だ。
長旅からの帰還後すぐにハイオークの事件に巻き込まれたわけだから疲れも溜まっていたのだろう。
俺はリリスが半分だけ掛けている掛け布団をしっかりかけ直してやった後、床のカーペットを敷き布団代わりにしてそのまま眠ることにした。
床とはいえ疲れていた影響で瞼が重くなり、直ぐにでも眠れそうだ。
今日は残留をかけたテスト、女神との出会い、真のスキル理解、仲間の裏切り、色々なことがあったが、無事に帰ってこられただけでもよかった。
明日レックが話せる状態になったら、俺の進退が分かることになる。
不安ではあるけれど、自分の真の力をみせることができたし、パーティーにも貢献する事が出来たのだからきっと追放されずにすむだろう。そう前向きに考えながら俺は瞼を閉じた。
=======あとがき=======
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甘口・辛口問わずコメントも作品を続けていくモチベーションになりますので気軽に書いてもらえると嬉しいです
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友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
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世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
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S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
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