カタクリズム

ウナムムル

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4章:闇の始動編

第17話 三人目

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【三人目】






1つのオアシスを巡る戦争は終わった
数万を超える犠牲者を出した悲しい戦争だったが
人々は無限とも思える水の恩恵に感謝した

両国の確執が残っていないと言えば嘘になる
しかし、疲弊した両国に争う体力はなく、互いに助け合っていた

マクリール大運河の始まりの地である湖にはマナを祀る神殿が建造されている
ヒッタイトの大工とメンフィスの魔法使いが力を合わせ作業していた

マナ・マクリールという少女は2つの国を繋いでくれた
些細な小競り合いは起こるだろうが、両国が戦争をする事はもう無いだろう
この地に安寧が訪れたのだ

あの戦争から2週間が経ち、傷の癒えたエインは立ち上がる

「先代の巫女が言っていた北の国、リスティに向かおうと思う」

ここは重症だったミラを運び込んだ宿の一室である
内装は豪華とは程遠いが、清潔は保たれており、快適と言ってもいいだろう

ヒッタイトの治療師と呼ばれる傷や病を癒やす知識を有した者達と
生の魔法使いであるプララーが協力し、彼女の治療は行われた
本来であれば死んでいてもおかしくない傷を負っていたが
マナの治療により感染症などにもかからず
シャルルとプララーの応急処置の甲斐もあり、順調に回復に向かっていた

「わたくしも行きますわ」

ミラは人前で寝間着を見せるなど以前では考えられなかったが
今はそういった彼女の常識は薄れていっている

「ミラ様はまだ寝ていてください、傷に障ります」

「そうですよ、後5日は絶対安静にと治療師さんも仰っていましたよ」

彼女のベッドの傍らにある椅子に座るリリムが言う
ミラは渋い顔をしたが、上体を起こそうとすると激痛が走り眉間にシワが寄る

「ほら、まだ無理ですよ
 ね?ミラさん、大人しくしてましょう?」

「・・・分かりましたわ
 リリムさん、少し起こしてくださるかしら」

「はい」

リリムに支えられ、苦痛に顔を歪めながらミラは起き上がり、ベッドに腰掛ける



「エイン、貴方に頼みがあるのです」

「なんでしょうか」

「わたくしの権限で臨時ではありますが貴方を騎士団長に任命致します
 ・・・プララーとアシュを、頼みますわ」

ミラは腹部から来る痛みを堪えながらエインに頭を下げる
彼女なりにバテンの死には責任を感じているのだ
自分が怪我さえしなければ彼は助かっていたのではないだろうか
そう思わずにはいられなかったのである

「・・・それは命令ですか」

エインの表情は変わっていないが声に迷いが感じられる

「えぇ、わたくしの言葉はドラスリア国王からの命だと思いなさい」

今回の旅でミラにはその権限が与えられている
未知の国との接触、それはドラスリアにとっても大きな事である
尊者と呼ばれた彼女だからこそ、国王イーリアスはその権限を与えたのだ

「はっ!」

エインは胸に手を当て踵を合わせてかしこまる

「ドラスリアのため、頼みますわよ」

「・・・・・はっ」

エインは少し間を置いてから頭を下げる
彼が何を思っているのかミラには少しだけ分かっていた
国という垣根に囚われていては死の巫女リリムを守れない
おそらくそんなところだろう
ミラもそれは理解している、今後の彼にとって国というものは枷でしかなくなる
彼はもはやドラスリアという一国の騎士で終わる存在ではない
世界のために戦う勇者になるのだから・・・

その後、エインはプララーとアシュに団長の任を受けた事を伝えたが
二人は何も言わず、目すら合わせる事はなかった

・・・・・

・・・



数時間後、エイン達はリスティに向けて出立する
エイン、リリム、マルロ、イエル、プララー、アシュの6名だ

今回はプルツェと呼ばれる馬の代わりを借りる事が出来た
プルツェとは砂漠に適応した哺乳類である
背中に大きなコブがあり、そのコブは脂肪で出来ている
砂漠の強い日差しから身体を守るために発達したのだ

頭には鎌のように生えた角があり
その角を使ってサボテンを切り倒して食す事がある
だが、プルツェはサボテンの根までは食べない
食べ尽くしてしまえば自分が滅ぶ事となるのを知っているのだ

プルツェは砂塵を避けるため鼻の穴を閉じる事が出来、長いまつ毛で目を守っている
更に目を保護するために"瞬膜"と呼ばれる半透明の膜がある
これは瞼とは別に存在しており、水平方向に閉じて眼球を守る事が出来る

水を数日飲まなくても歩き続ける事が出来るため
砂漠の民にとっては切っても切れない関係にある生物だ


エイン達はマナの作り出した湖に寄り
水を補給してからリスティへと向かうつもりだった
だが、その湖で意外な人物達と出会う・・・ハーフブリードだ

「何故ここに」

先頭のエインが呟くように言うと、水色の髪の少女が手を振って応える
新たな水の巫女シャルル・フォレスト
ウェアキャットと人間のハーフ、ハーフキャットだ

「巫女様、何故こちらに」

プルツェを走らせ、彼女達の元へと駆け寄ったエインは聞く
そんな彼を見上げながらシャルルは笑顔で答えた

「君たちもリスティ行くんでしょ?」

「えぇ・・・では、そちらも先代の巫女から聞かされたのですか?」

「そそ、多分君たちも来るだろうって待ってたの!」

「なるほど・・・」

そこで黒い鎧の男、シルトと目が合う
先の戦いの時とは違い、彼の顔色は良く、殺意のようなものは感じられない
一言で言うなら"冴えない男"という印象だ
だが、このシルトという男の剣を受けたエインには
そんな印象は大きな間違いだと分かっている

「何?男に見つめられる趣味はないんだけど」

シルトがそんな事を言い、エインは視線を逸らす

「失礼、先の戦いを思い出していた」

「お互い運が良かったな」

シルトは大きなアクビをしてから身体をほぐす

「ってか、君ら馬有りかよ、僕らも乗せてよ」

どうやらハーフブリードは歩きで砂漠を渡ってきたようだった
プルツェは大きな哺乳類である、二人程度なら余裕で乗る事が出来るのだ

「一緒に行くのであればそうしましょう」

「おー、やったー!歩かないで済むー!」

ラピが喜び、駆け足でプルツェに近寄り頬ずりする・・・が

「くっさっ」

プルツェの唾液は強烈な悪臭がするのだ
鼻を摘んで苦虫でも噛み潰したかのような顔をするエルフの少女を見て
皆が笑っていた、それが彼等の間にある緊張の糸をほぐしてくれる

しかし、この中でプララーとアシュは笑ってなどいなかった

・・・・・

・・・



プルツェは6頭いる
先頭のプルツェにエインとリリムが乗り
シルトとマルロ、サラとラピ、ジーンとイエル
アシュとシャルル、最後の1頭にプララーとなった
巫女を守る盾となれる者とペアにしたのだ
砂漠には危険な魔獣はほとんどいないが念のためである

「・・・チッ」

後ろに乗ってくるシャルルにアシュが舌打ちをする
半月ほど前に殺し合いをしていた相手を後ろに乗せるなど
アシュにとっては心穏やかなものではない

「あんま嫌わないでよ、今は仲間でしょ」

「チッ・・・わーってるよ」

アシュが盾役になれるかと言われると疑問が残る
それは彼自身も理解している、だが巫女を守る役目を任されたのだ
半亜人っていうのが気に入らないが、それでも後ろの女は巫女だ
言いたい事は山ほどあるが、今は任務に集中しようとしていた

「・・・・・」

「・・・・・」

1時間ほど無言のまま砂漠を進んでいた頃
後ろから声が聞こえてくる

「バテン・・・さん?残念だったね」

「・・・・・」

「アタシは家族が沢山死ぬのを見てきた、だから気持ちは分かるよ」

シャルルは瞳を閉じ、娼館の頃を思い出しながら続ける

「痛いよね、胸が裂けたように痛いよね
 つらくて、涙が出たり、泣けなかったり、色々おかしくなるよね」

「・・・・・」

「アタシもあの戦争で大切な人を亡くした
 ・・・・マナは、いい子だった、素敵な子だった」

シャルルの目には涙が溜まる、それをローブで拭き、彼女は笑顔を作った

「だから頑張らなきゃいけないんだ、アタシは」

「・・・・どういう事だよ、意味わかんねーよ」

「マナのためにも、死んで行った人達のためにも
 アタシ達が出来る事で頑張らなきゃいけないんだって思う」

「・・・・チッ」

アシュがプルツェを止め、振り向く

「てめぇに言われなくても分かってんだよ」

その目は悲しみに満ちていた
その感情がシャルルにも伝わり、彼女の目から涙が零れ落ちる

「だいたいてめぇらが」

『アシュちゃんっ!』

アシュの言葉を遮ったのはプララーの怒鳴り声だった
いつの間にか彼は横につけており、鋭い視線を向けている

「チッ・・・・・」

再びプルツェを走らせ、遅れた分を縮めてゆく
シャルルの涙がポロポロと落ち、彼女のローブにシミを作る
すると、前にいるアシュがボロ雑巾のような布を放おってくる

「・・・・悪かった」

「・・・ううん、ありがと」

「礼の言うのはこっちだ、だんちょーのために泣いてくれてありがとよ」

「・・・うん」

シャルルはボロ雑巾で涙を拭き、少し無理をして笑顔を作る

「ねぇ、これ臭いよ、洗った方がいいよ」

ボロ雑巾を握りながらアシュに文句を言う

「悪かったな、昔だんちょーから貰ったもんなんだよ」

「そっか・・・・バテンさんを大好きだったんだね」

「バカじゃねーの」

「え?」

シャルルがきょとんとした顔をしていると
アシュは顔を後ろに向け、ニッと歯を見せる

「"だった"じゃねーよ」

「そっか、そうだね、うん!」

それから数時間プルツェを走らせ、一行は野営をし
翌日も、また翌日もプルツェを走らせる
一行が湖を出てから3日目の昼過ぎ、ついにリスティが視界に入る

「やっと見えてきたな」

先頭を行くエインが目を細めながら言う
彼の後ろには必要以上にくっつくリリムがいる
そんなにガッチリと腰に腕を回さなくても落ちないのだが
もしかして怖いのだろうか?エインはそんな事を考えていた

「リリム、リスティが見えてきたぞ」

「え?あ、そうですね!」

背中越しに彼女の顔を見ると、すごく嬉しそうにしていた
やっとこの砂漠という悪環境から解放されるのが嬉しいのだろう
などとエインは考えているが、それは大ハズレである

彼女はこの数日間
無条件でエインに抱きつけるという権利を最大限堪能していたのだ
そのため、今のリリムはすこぶる上機嫌である
しかし、目的地が見えてきた事により、その上がっていた気分も落ち始める

もうすぐ着いちゃうのかぁ・・・少し寂しいな
でもまだ帰りもあるから・・・!

リリムは両手で顔をパンっと軽く叩く
彼に好かれる自分になる、その目標に向かって前進あるのみだ!
気合を入れ直し、残り僅かの幸せな時間を堪能していた

・・・・・

・・・



リスティの入り口、堅牢な門の前に着き、入国の検査を受けている
エインは門番にヒッタイトの正式な使いである書状を見せ
シルトもメンフィスの書状を手渡していた
しばらくして門は開かれ、彼等は街へと入る

リスティの交易都市トレド
10メートルを超える巨大な壁に囲まれた都市である
砂漠の北側に位置し、ここから更に北上すれば緑豊かな地が広がっている

リスティは複数の国に囲まれるようにある小国のため
交易が主な収入源となっている
物資はリスティを経由する事でいち早く他国へと送る事が出来る
そのため、この国を経由する商人は多い
その商人達から荷に応じて税を徴収しているのだ

トレドに行けば世界のありとあらゆる物が手に入る
そう言われるほど様々な国の商人が訪れる街である
遠方から訪れる者が多いため宿も多く
肌の色が違う者、亜人、など多種多様な人々が行き交っていた

「大きな街ですね」

リリムがエインの横に並び、彼に声をかける

「そうだな、これほど活気のある街も珍しい」

通りには所狭しと露店が並んでいる
食べ物、宝石、武具、衣類、馬車、見たこともない玩具などまである
ありとあらゆる物が手に入るというのも満更嘘でもないのかもしれない

しかし、露店を見ている暇は無い
このトレドを訪れた理由は別にあるのだから・・・

「こう大きな街だと例の商人が何処にいるのか分からないな・・・」

エインは顎に手を当て考え込んでいると
視界の隅に黒い男が商人風の男と話しているのが目に入る
黒い男、シルトは商人風の男の手に何かを渡し、ガッチリと握手をする
そして、戻ってきた彼は言った

「例の商人、名前はサルメール
 北西の方にある高い塀に囲まれた豪邸にいるそうだ」

「どうしてそれを?」

不思議そうな顔をするエインにシルトが鼻で笑う

「こういうのは慣れてるんでね」

シルトは行くぞーとハーフブリード達に声をかけ、彼等は歩いてく
その後ろに着いて行くエイン達だった

道中で女性陣が露店に目を輝かせていたが
終わってからにしようと促し、歩を進める
しばらく歩くと高い塀に囲まれた大きな屋敷が目に入ってくる

「あれか」

「おっきいなー」

ラピが塀を見上げながら言う
そんな彼女の頭の上でウェールズも見上げていた

塀の高さはおよそ7メートル、石が積み上げられた頑丈な作りのようだ
それが屋敷全体をぐるりと囲むようにあり
この家の主人が何かを警戒している事は明らかだった

「正面から行くのか?」

シルトが聞くとエインは黙って頷く

「俺達にやましい事はありません、正面から堂々と行きましょう」

「へいへい」

相変わらずの堅物ぶりにシルトは少し呆れる
その時、サラとシャルルの耳がピクピクっと動く

『シルさん危ないっ!』

『壁から離れてっ!』

二人の叫び声で即座に盾を構えながらシルトは下がろうとする
すると、積み上げられた石の壁は炸裂し、吹き飛んだ石が盾にぶつかる

「あっぶね・・・誰だよ」

シルトが盾越しに覗き込むと、土埃の中から見覚えのある人物が姿を表した

「よぉ、また会ったな」



手には金色の長い棒を持ち、顔のシワと不釣り合いな屈強な身体の持ち主
ヒッタイト最高の傭兵と呼ばれた老人、タイセイ
壁にできた大穴からヌッと姿を表し、ニタニタと笑い出す

「チッ、なんでこんなとこに」

シルトは即座に抜刀し、瞬時に距離を取る
それに続き皆も臨戦態勢へと移っていった
何事かと野次馬が集まりだし、彼等を囲むように人集りができる

「シルトさん、ここじゃ・・・」

サラが辺りを気にしながら盾を構える

「だな・・・どうすっかな」

シルトが辺りを気にしたその瞬間、タイセイの一撃が放たれる

「くっそっ」

盾が間に合うかギリギリだ
そう思った瞬間、タイセイの黄金の棒は見えない壁に阻まれる

ギ・・・・ギギ・・・

「残念でした」

ジーンの障壁がシルトの手前に展開されていた
彼女は舌を軽く出しながらタイセイをおちょくる
だが、タイセイは眉をピクリとも動かさず、ゆっくりと棒を引く

「女と戦う趣味はない、去れ」

ジーンがやれやれといったポーズで再びタイセイをおちょくると
タイセイの体内の魔力が一瞬で膨れ上がる
まずい、そう思った時には遅かった
ほぼノーモーションからの強烈な突きが放たれる
だが、ジーンの障壁にヒビが入るが破る事は出来なかった
そしてタイセイは叫ぶ

『去れっ!!』

その瞬間、ジーンの障壁で止まっていた棒が急速に伸びてゆく
それに押されるようにジーンの身体が後方へと移動して行き
次第に加速してゆく・・・・

「なっ」

誰もが目を疑った
ジーンの身体が一瞬で遥か遠くまで離れてゆくのだから

「ふんっ!」

タイセイが目を血走らせ、黄金の棒を持つ手に力を込める
棒の伸びる速度が更に加速し、既にジーンの姿は確認出来ないほど離れてゆく

「・・・・・マジか」

あの棒が伸縮自在なのは解っていたが、まさかこれほどとは・・・
いったい何キロ先まで伸びたんだ?

「サラ、見える?」

「ううん・・・街の外までは見えたけど・・・それ以上は」

サラ達ハーフキャットの視力は普通の人間より少し良い
そんな彼女ですら見えない距離まで棒は伸び
ジーンの姿が確認する事が出来なくなっていた

「ジーンなら大丈夫!やるよ!」

シャルルが杖を構えると、タイセイはニヤっと笑い出す

「着いてこい、ここでは人を巻き込むぞ?」

一瞬で棒は短くなり、2メートルほどに収まる
それを肩に担ぎながら、タイセイは先程できた大穴へと入って行った

皆が目を合わせ無言で頷く
シルトを先頭にエインが続き、大穴を抜けた時
タイセイが高速で棒を振るう
シルトが即座に盾を構えるが、棒は彼等を狙っていなかった

「は?」

ドゴッ!バコッ!

タイセイは壁を壊し始め、大穴を塞ぐ
更に大地に棒を突き刺し、こめかみに血管が浮き出るほどの力を込める

「ふんっ!!」

敷地内の地面が大きくめくれ上がり、壁へと倒れてゆく
高さ6メートル近い瓦礫の山と土砂の山が作り出されていた

「ふぅ・・・これで少しは時間を稼げるか」

一仕事終えたようなタイセイは額の汗を拭う仕草をしながら棒を構え直す

「・・・・デタラメだな、このじいさん」

「ですね」

エインとシルトは距離を取りながら構える
一瞬だけ目を合わし、再びタイセイを睨みつける

「なぁ、じいさん」

「なんだ、シルトよ」

「アンタ、本当に人間か?」

「さぁ、どうだろうな」

タイセイはニタニタと笑いながらジリジリと距離を詰める
それに合わせエインとシルトも距離を取る
間合い、剣使いである二人とタイセイでは間合いが違うのだ

『ゆくぞっ!』

タイセイが叫ぶと同時に大地を蹴る
その一蹴りで大地は炸裂し、土砂が舞い上がる
そして鋭い突きを放つ、それはエイン目掛けてのもので
彼は左に横ステップする事でその一撃をかわしていた

だが、タイセイの攻撃はそれで終わりではない
彼は突きが避けられるとほぼ同時に棒を回転させエインを狙っている
横払いの一撃をエインは銀の腕で防ぐが
足が地面に着いていなかったため、彼の身体は後方へと吹き飛ばされる

「くっ」

エインが4回転ほどしてから体勢を立て直すと
既にタイセイは追撃に入っており、目の前に迫っていた
だが、その横から薄紫色の剣が姿を現す
その剣はタイセイの心臓を的確に狙っており
後数センチといったところまで伸びていた
が、タイセイは棒を地面へと突き刺し、急速に向きを変える

「チッ」

シルトの舌打ちが響く
彼はそのままタイセイへと盾を構えながら突撃する
エインも走り出し、切っ先をタイセイへと向けていた

二人の連携は良いとは言い難いものだった
しかし、戦いの勘のようなもので互いの邪魔にはならないようしていた

「いいぞ!いいぞ!もっとだ!!」

タイセイが歯茎すら見えるほどニヤけており
この殺し合いを心から楽しんでいるようだった

その時、エインの視界に意外な人物が入ってくる

「なっ!何故貴方が」

サルメールの屋敷から出て来て、こちらへと向かってきている人物
女性と見間違うほどの美しい容姿をした男性
金髪の長髪はふわりと風になびき、白銀の鎧は陽を反射し煌く
その背には血のように紅いマント

アムリタの聖騎士オエングス・オディナ

『戦いに集中しろっ!』

オエングスが叫ぶと同時にタイセイの一撃はエインに迫る
ギリギリのところでタイセイの棒を風斬りの長剣で受ける
タイセイの後方からシルトの突きが放たれるが
迫るオエングスに目を向けたまま振り向きもせずタイセイは棒でいなす

「邪魔だ、消えろ」

タイセイは棒を回転させ、エインとシルトは距離を取った
その瞬間、黄金の棒はオエングスに向けて伸びる
だが、オエングスは歩みを止めない
盾を斜めに構え、棒をいなしながら突き進んでゆく

「なにっ!」

そのまま懐まで入り込み、鋭い突きを放つ
タイセイは上体を逸しそれをかわし、棒を横に振るう
オエングスは盾で防ぐが予想以上の威力で体勢を崩した
1回転して止まったオエングスはシルトの横に並ぶ

「何、加勢してくれんの?」

「えぇ、楽しそうな事をしているので」

「楽しい・・・か?」

「てっきり楽しんでいるものかと思いましたが」

二人はタイセイから目を離さぬまま会話する

「まぁいい、助かる」

「貴方が助けを必要な相手、そういう事ですか」

「まぁな」

シルトの額には汗が滲んでいる、余裕が無いのだ
オエングスも先程のやり取りで相手の力量はおおよそだが掴めた
自分より上の存在、初めての経験とも言える相手だ
彼は剣盾を持つ手に力を込める

「ははは・・・嬉しいぞ・・・まさか3人目もいるとはな」

タイセイの肩が震える

「200年ぶりに出会えた猛者が3人も・・・何という幸運!」

顔を上げたタイセイの顔は狂気じみた笑顔だった
その笑顔はもはや人間と言っていいのか判らぬほど異様だった

「これほど血が沸き立つ想いがあっただろうか・・・いや、無い!!』

タイセイは黄金の棒を大地へと突き立て
袈裟のような服を破き、上半身を露わにする

「嬉しいぞ・・・これほどの高揚感、充実感、わしの求めていたものだ」

辺りの空気が変わる
肌にチクチクと刺さるような殺気が広がり
3人は無意識に身構える

『お前達の全力を見せてみろっ!わしの全力で応えよう!!』

タイセイが大声で笑う

「おいおい、あれで全力じゃなかったのかよ・・・」

シルトの頬に冷や汗が流れる
エインは手にかいた汗を拭き、剣を構える
オエングスは盾で身体を隠し、上部のすり減った隙間から覗き込んだ
そして彼はゾッとする、目の前の老人の肉体が変化してゆく様を見て

『ぬおおおおおおおおっ!』

筋肉の膨張、そんなレベルで済ましていいのか分からないが
タイセイの身体は一回りも二回りも大きくなってゆく
特に背筋の膨らみ方が尋常ではない
更に顔の骨格まで変形してゆき、まるで猿のよう顔になってゆく
もはや人間の骨格なのかも怪しいくらいだ

『ぐおおおおおおおっ!!』

タイセイの身体から赤い湯気のようなものが立ち昇る
それは霧のように広がり、辺りは赤く赤く染まっていった

「なんだこりゃ」

「毒・・・ではなさそうですが」

「危険な匂いがする、仕掛けよう」

オエングスが走り出し、それに二人も続く




戦いはここからが本番だった
彼等は味わう事となる、"人ならざる者の力"を・・・・・



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