カタクリズム

ウナムムル

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4章:闇の始動編

第15話 それでも水はすくう事ができる

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【それでも水はすくう事ができる】





1200年ほど前にマグ・メルと呼ばれていた少女は
今はリールという名を名乗っていた

転生を繰り返した彼女は今、亜人である
オアンネスと呼ばれる半魚人の種族だ
鱗に覆われてはいるが、人型の美しい種族である

今、彼女の種族オアンネスは絶滅の危機に瀕していた

賢人とも呼ばれるこの亜人は、様々な知恵を人々に与え
その報酬として食料などを貰い、人間と共存するように生きてきた
だが、それも昔の話である

今の人間達にとってはオアンネスの知恵など必要なく
自然と関係は薄くなり、戦う力を持たぬオアンネスは食料不足に陥っていた
しかし、知恵のあるオアンネスは漁業や農業を始め
少しずつだが食料問題は解決に向かっていた

そんなある日

里で1番美しい鱗を持つ女性ナーナが行方不明になったのだ
彼女を慕う男は多く、血眼になって捜索は続けられた
だが、彼女を見つける事は出来ず、半ば諦めかけた頃
最悪の形で彼女を見つける事となる

ナーナは人間に誘拐され、その鱗を剥がれ、売られていたのだ
保護された彼女は、男達の記憶にある美しい彼女とはまるで別人のようであり
鱗の大半は剥がれ、顔は変形するほど殴られており
酷い事に犯された形跡まであった

男達は怒れ狂い、彼女をこんな目に合わせた人間達を許さなかった
持てる全ての知識を使い、人々を殺す武器を作り出す
皮肉なものだが、オアンネスは初めて戦う力を手に入れたのだ
それが、自らが滅ぶ道だと知らぬまま・・・・

怒りに我を忘れたオアンネスは、人間の村々を焼き払った
彼等の作り出した武器への対抗手段の無い人類には抗う力など無い
大虐殺、そう言っても過言ではない戦が始まっていた

オアンネス達が作り出した武器とは"魔道具"である
使い捨ての武器とは言え、詠唱を必要としないこの武器は
この時代において絶対的な力を有していた

強大な力を持つと、それを求める者も現れる

アーカーシャという国がある
数々の国を占領し、その国土を広げてきた大国だ
そのアーカーシャがオアンネスの魔道具を欲したのだ

圧倒的な武器があるオアンネスと言えど、数の暴力には抗えない
たった一晩で男達は皆殺しにされ、里は包囲されていた

「もうおしまいじゃ・・・」

「せめてリールがいれば・・・」

里の中央に集まっていたオアンネス達は彼女名を挙げる
リール、彼女は水の巫女であり、この里で唯一の戦う力を持つ者だった
しかし、今彼女はいない・・・自由気ままな彼女はすぐに旅に出てしまうのだ
もし彼女が里にいたら、こんなくだらない戦など起きていなかっただろう
いや、ナーナが攫われる事すら無かったかもしれない
悔やんでも遅い、だが彼等は声に出さずにはいられなかった

「ナーナが捕まりさえしなけりゃ・・・」

そんな心無い言葉が本人のいる前で吐き出される
ナーナはまともに歩くことも出来ない身体で涙を流していた

「お婆さま達、それは無いんじゃないの」

突如声がし、皆がその方向へと目を向けると
そこには淡い緑色の鱗が月明かりに照らされ
キラキラと輝く1人のオアンネスの少女がいた

「リールッ!」

おぉ!と歓声が上がり、一瞬で彼女の周りに人が集まる
藁にでもすがるように、涙を流し、拝むように跪く者もいた

「噂でだいたい状況は分かってるけど
 ナーナは悪くないじゃん、バッカじゃないの」

群がる爺婆をどかし、ナーナの元へと真っ直ぐ歩いて行く
肩を震わせて涙を流す彼女を抱き締め、耳元で囁く

「傷はアタシが治してあげるよ、心の方まではできないけどね」

そう言うと、リールの身体は発光を始め
ナーナの身体もまた光り始める
淡い桃色の光が辺りを照らし、とても幻想的な光景だった

リールはナーナの体内の水を操り、傷を塞いでゆく
この治療は効果的なのだが激痛を伴う欠点がある

「うぅっ」

「我慢して、すぐ終わる」

「う、うん」

涙をいっぱい溜めながら歯を食いしばり、リールに抱きついた
ナーナの爪がリールの皮膚に刺さるが、彼女は治療を止めない

「よし、終わったよ、頑張ったね」

痛みは消え、力が抜けたナーナはその場で倒れ込む
彼女の美しい鱗が戻り、以前の美しさを取り戻していた

「生の魔法でもないのに、どうやったんだい」

オアンネスの老婆が聞くと、リールは歯を見せ笑って答える

「知ってた?アタシ達の身体って8割以上水なんだよ」

「なんと・・・真か」

賢人と言われるほど膨大な知識を持つオアンネスにも知らない事はある
このリールという少女はそういった誰も知らぬ知識を有していた

「うん、また新しい知識が増えたね、良かったね・・・さぁ、謝れ」



リールの目つきが鋭くなり、ナーナを指差して言う

「彼女に謝れ」

納得出来ない様子の老婆達は渋々ナーナに頭を下げる

「アーカーシャの連中はアタシが何とかしたげる
 お婆さま達は何もせず安心して寝てればいいよ」

そう言い残し、リールは薄い水の上を駆け出した
彼女の後ろ姿を見送りながら、ある老婆は歯をギリっと噛み締めていた・・・

・・・・・

・・・



眩い光の中、ゆらゆらと漂う感覚に包まれている
手足を動かそうにもそれらは無く、ただ流されるまま漂っていた

あれ?ここは・・・龍脈?って事はアタシは死んだんだ
どうやって死んだんだっけなぁ・・・よく思い出せない
確かアーカーシャと戦って・・・勝った、うん、勝った
その後、里に戻って疲れて寝たところまでは覚えてるんだけどなぁ・・・

光の中を漂いながらくるくると回り、ふとリールは思い出す

あぁ・・・お婆さまか・・・

彼女はアーカーシャとの戦いで究極魔法を連発し
疲れ切って里で眠っていたところ
オアンネスのお婆さまと呼ばれる老婆によって殺されたのだ
だが理由が分からない、何がいけなかったのだろう?

アタシ何かしたっけ

思い当たる節が無い訳ではない
あの老婆のプライドを傷つけたのだろう
そして、アタシの力に恐れたのだろう
人に恐れられ、罠にハメられたり、裏切られたり
そんな事は既に何度も経験している

ま、どうでもいっか・・・またやり直せば
でも、彼の子孫大丈夫かな・・・
里のピンチだからって抜けて来ちゃったけど
あそこまで助けてやったんだから死んでないといいな

彼女はこの1200年、ずっと守ってきたのだ
神話戦争を戦い、生き残った者達の子孫を
そして、神の使徒になり得る資格を持った者達を

何度も何度も転生を繰り返し
時には動かぬ身体では守れないと判断し、自決した事もある
そうしてまで守り続けてきたのだ

だが、そんな日々に疲れてもいた
終わらない役目に嫌気がさしていた

徐々に感情は無くなってゆき
人を殺しても何も感じなくなり
人が死んでも何とも思わなくなっていった

それは彼女が親しい者を作らなくなったのもある
だが、それ以上に彼女は慣れてしまったのだ、人の死を・・・

次は人間がいいな、亜人は感覚に慣れるまで大変なのよね

彼女の意識は薄れてゆき、光に飲まれてゆく

・・・・・

・・・



意識が戻ったのはそれから4日後だった
彼女は人間の赤子となり、とある両親の元に生まれ落ちた
生後すぐに意識は覚醒し、記憶も全て引き継がれている
だが、喋る事は出来ず、身体も思うように動かせない

この期間が好きじゃないんだよなぁ

それから1年、彼女はすくすくと育ち
やっと自立歩行が出来るようになる

そろそろいいかな

ティールと名付けられた彼女は腕を動かし
魔法を使い、両親の目の前で手紙を書く
両親はひどく驚いていたが、巫女に選ばれた事は知っていたため
ティールの言葉を神の言葉と思い、素直にそれに従った

彼女は両親に別れを告げ、世界へと旅立つ
この時点でのティールの年齢は1歳4ヶ月である
自在に魔法を操れる彼女にとって年齢などあまり関係無く
動くことさえ出来れば赤子であろうと問題無いのだ

彼女は再び神の使徒候補達を見守り、陰ながら守り続けた
だが、今回の彼女は力に制限を付ける事にしていた
過剰な力は恐怖を生む、恐怖は裏切りを生む
それではまた殺されてしまう、それは面倒だ

「赤ちゃんは面倒くさいのよね」

独り言を呟き、彼女は空を駆ける
この時、既にティールは17歳になっていた

最近の彼女の監視対象はある青年である
青年の名はドンナー、金髪碧眼の好青年だ

「見た目は・・・悪くないんだけどなぁ・・・」

だが、性格があまり好きなタイプではなかった
彼は超がつく努力家で、熱血という言葉が似合う熱い男だった

「あの髭はマイナスかな」

彼は大人に見られたいのか、髭を生やしていた
童顔の彼には似合わず、早く剃ればいいのにと日々思っている

「・・・・・やっぱ似てる」

彼を見ていると、ある男を思い出す
彼女がこの1700年近い人生の中で唯一心を許してもいいと思えた相手
神話戦争時代の戦友、ソーだ

ドンナーはソーの子孫である
これまで彼の子孫は見てきたが彼ほど似ている子はいなかった

彼女は世界中の神の使徒候補を見守り続けている
そのため、一箇所に留まる事など殆ど無いと言っていい
だが、彼の住むこのラルアースには長く居てしまう
無意識に彼のことを見ている時間は増えていった


そんなある日の事である


ウェアフォックスという狐に似た亜人に1人、使徒候補の者がいる
彼の名はコウ、類稀なる魔法の才に恵まれた男だ
ラルアースに長居してしまったティールは急ぎ足でコウの元へ向かっていた

「・・・・っ!」

ウェアフォックスの里まで後数百メートルというところで
何かが焦げる臭いが漂ってくる
彼女はその臭いを知っている・・・人の焼ける臭いだ
加速する彼女は目にする、火の海となったウェアフォックスの里を

「彼は・・・!」

辺りを見渡すが彼の魔力は見つけられない
まだ息があり、助けを呼ぶウェアフォックスもいるが
彼女は俯き、その場を去った・・・

「また候補を亡くしちゃった・・・」

彼女の頭の中にはその事しか無かった
炎の中で助けを呼ぶ亜人の子供や老人の声など耳に入らず
いや、入っていたのだろう、だが彼女は無視したのだ
あえて無視をして去ったのだ


それほど彼女の心は壊れていた


彼女はその足でラルアースに戻り、再びドンナーを監視していた
心を無にし、何も感じず、何も考えず、彼を見ていた

彼も死ぬのかな

彼女の頭の中にそんな声がした気がした
だが、彼女の心は動かなくなっていた

彼等は死んだらどうなるんだろう
どこへ行くのかな、アタシと同じで龍脈に行くのかな
そこから彼等はどうなるんだろう、消えてなくなるのかな
それともアタシみたいに転生しているのかな

そんな事を考えながら彼を見ていると
一人の女性が彼に抱きつくのが目に入る

恋人・・・いたんだ

だが彼女の心は動かなかった
何もかもどうでもいい、そんな気分だった

「あれ・・・」

どうでもいい、どうでもいいはずなのに
どうして涙が出るんだろう
頬を伝う涙を止める事が出来ず、ティールはうずくまる

「なんで・・・アタシ・・・」

顔を上げ、彼を見た彼女は目を丸くする

「え?」

そこには両手が血まみれの女性と、倒れている彼がいた
女性の手には短剣があり、彼の胸から血が溢れていた

『お前ぇぇぇぇっ!!!』

ティールは後方に水を出現させ、勢いよく発射する
その勢いで一瞬で間合いを詰めた

突如現れた女に驚いた女性はガタガタと震えている
そんな彼女の顔を掴み、魔力を込める

「ひっ!」  パァンッ!

ビシャっと嫌な音を立てて血溜まりが出来上がる
すぐさま彼の元へと駆け寄り、胸に耳を当てる
だが、鼓動は聞こえなかった

「・・・・」

彼の身体を地面に置き、ティールは歩き出す
その表情は氷よりも冷たく、無風より静かだった

街から離れ、大きな木に寄り掛かって空を見上げる

「なにしてんだろな・・・アタシ」

自身の両手を見つめる
彼女は魔法で汚れが寄らぬようにしている
そのため、彼の血すらついていない綺麗な手だった

「なに・・・してんのかな・・・アタシは・・・」

温もりがまだ残っている
肌の柔らかさもまだ残っている
彼の匂いもまだ残っている

「もう・・・やだよ・・・」

その時、彼女の両手に水滴がポツポツと落ちる

「アタシ、泣いてる・・・まだ泣けたんだ・・・・
 うぅ・・・あぐ・・・ああぁ・・・・ぐっ・・・・ああああああああっ」

夕闇が迫る頃、彼女は一人、大空の下で泣いていた



それから数刻し、辺りは真っ暗になっていた
彼女はまだ大きな木の根本でうずくまっている

しばらくしてから魂が抜けたようにフラリと立ち上がり
魔法を発動し、水の刃を作り出す
その刃で大木の枝を削り取り、1本のロープを作り出した

それを木に結び、首を通して身体を預ける
首が絞まり、息が出来なくなり苦しくなってゆく
だが、彼女は無表情のままだった

・・・・・

・・・



彼女が自殺してから20年が経過する
再び転生し、彼女は無気力にただ生きていた
使徒候補を守る事もせず、見守る事もせず
ただ日々を生きていた

「ねぇ、聞いてる?」

「あ、ごめん、聞いてなかった、何?」

「もう、マリーはいっつもそう、心ここにあらずって感じ」

「ごめんごめん」

マリーと呼ばれた女性、彼女だ
彼女は普通の女の子として生きていた
巫女である事を隠し、魔法も使わず、ひっそりと生きていた

「マリーは彼とか作らないの?」

「アタシはいいよ、そういうの興味無いし」

「えー、折角可愛いのに」

この子は何故いつもアタシに恋人を作らせようとするのだろう
不思議な子だな、そう思っていた

「アンタこそ作ればいいじゃない、可愛いんだしさ」

「私は無理だよ、このそばかすだし、さ」

「そう?チャームポイントってやつだよ、いけるいける」

男なんてそんな些細な事は気にしないだろう
マリーはこれまで見てきた人間を思い出してそう思っていた

「本当?なら・・・彼を誘ってみようかな・・・」

「好きな人いるんだ?」

「うん、好きっていうか・・・一昨日見ただけなんだけど・・・」

「へぇ、運命の出会いってやつ?いいじゃん」

「あはは、そうなるのかな?」

「どんな人なの?見てみたい」

「えー、恥ずかしいよー」

「いいじゃん、減るもんじゃないしさ」

「今から?」

「うん!」

こうして二人は彼女の一目惚れした相手を見に行った
そこで意中の相手を目にしたマリーは顔から血の気が失せる事となる

「うそ・・・いやいや、無いって・・・」

「え?」

「だって・・・彼は死んだはず・・・」

「マリー?何言ってるの?」

そこにはドンナーによく似た男性がいた
彼を見たマリーは現実を否定するように何度も首を振る
身体中から汗が吹き出し、服が張り付く

「待って、待って、おかしいって」

「何が?さっきからどうしたの??」

「だって死んだじゃん、死んでたじゃん!」

「大丈夫?」

「生きてたってこと?・・・今更何なのよ、訳わかんないよ」

「マリー?マリー、大丈夫?マリー」

「さっきからうっさいな、黙っててくれる?」

「え・・・・」

友人の変貌ぶりに恐怖すら覚えた彼女はその場を去る
置いてかれたマリーはその場でぶつぶつと独り言を言っていた

「あ!そだ、魔力見なきゃ」

魔力を封じていた結界を久々に外し、魔力を見る眼を発動する
すると、彼の中に微弱だがソーやドンナーと同じ魔力を感じる事が出来た

「本物か・・・生きてたんだ・・・ははっ」

久々だった、笑ったのは
何百年ぶりだっただろうか
もう覚えていないほど遥か昔の事だった

「はは・・・生きてた・・・生きてたよ」

マリーはごろんと横になり、空を見上げて微笑んだ

「生きてた!良かったぁ」

彼女は笑顔で泣いていた


それから彼女の生活は激変する事となる
再び使徒候補達を見守り、陰ながら守り続けた
二度と失わぬよう、手放さぬよう、懸命に守り続けていた

・・・・・

・・・



何度転生を繰り返しただろうか
もはや自分が何者なのかも分からない
人々は変わり、文明は変わり、時代は変わっていった

神話戦争から約6000年の月日が経過していた

候補者を守るために数々の戦争を終わらせ
時には暗殺もした、魔獣退治もした事がある
親代わりに育てた事すらあるほどだ

本当に長い間、彼等を守ってきた

3000年近くは失敗もなく、候補者は誰一人失っていない
順調に聖戦で戦える神の使徒候補は増えていっている

そんなある日

いつものように候補者の元へと向かっていた
戦争が起きていて少し遅れてしまったが
あの夫婦の家は巻き込まれるような場所ではないだろう
そう思ってあまり急いではいなかった

死の使徒としての繋がりを色濃く受け継いでいた家系がある
神話戦争時代、最強の一角だった者の子孫だ
その家系は優先的に守ってきていた
その力がいずれ必ず必要になると思ったからだ

兄妹で夫婦となった彼等の元へと向かっていると
彼女が思っていたよりも遥かに戦域は広く
戦火を恐れたあの夫婦は自宅から避難していた

しまった、誤算だ、探すのも一苦労だ

慌てて彼女は広域に魔力感知の陣を張る
運良く夫婦は遠くへは行っておらず、急いで向かう事にした
現場についた彼女の視界に入ってきたのは兄の首が跳ねられた場面だった

「っ!」

マズい!せめて妹さんの方だけでもっ!
彼女は魔法を発動し、辺りの敵を一掃する
急いで妹の元へと向かうが
彼女は膨らんだお腹のまま倒れており、息はしていなかった

「・・・くそっ・・・」

その時、死体となった妹の股の間から赤子が姿を現す

「ダメか・・・この子は・・・」

その赤子からは魔力が一切感じる事が出来ず、彼女は諦めた
だが、まだギリギリで生きている
候補者としての繋がりは断たれたが、放おっておく事も出来ず
近くを通った盗賊が赤子に気づくように仕向ける

「長くはないだろうけど、少しでも生きてね」

彼女は空を駆け、3000年ぶりの失敗に唇を噛んでいた

・・・・・

・・・



それから数年後、ある低級貴族の女性を監視していた
彼女は既に1人の男の子を産んでおり
使徒としての血筋は安泰なのだが
その男の子は候補者としては才が無かった
その女性の才は稀に見るもので、彼女の子ならばと期待していたのだ

「早く次の子を作ってくれないかなぁ」

監視とは退屈な日がほとんどで、ぽかぽかと暖かい日は眠くなる
そんな陽気に居眠りをしていると、何やら騒がしくて目を覚ます

「なんだろ?」

眠い目を擦りながら屋敷の様子を伺っていると
どうやらその女性が拐われたらしい

「物騒な世の中だなぁ」

すぐさま魔力感知の陣を張り、女性の位置を掴んだ
彼女は廃墟となった教会におり、その周りには複数の男達が囲んでいた
屋根の上から中の様子を伺い
彼女は中で行われていた行為に嫌悪感を抱く
廃墟の教会の中では男達に輪姦される女性の姿があったのだ

どうやら男達は悪魔崇拝者のようで
何かの儀式だと言っていたが、そんなものには興味が無い
今は彼女を助ける事が最優先だ

屋根をぶち破り、一瞬で男達の首を跳ねる
中央で気絶していた女性は既に何度も犯されたようで
とても心が痛む姿だった

そっと自身のマントを彼女の身体にかけ
彼女の家の者に邪教徒達の遺品で教会まで導いた

その後分かった事だが、彼女は妊娠したようだ
それが旦那の子なのか、奴らの子なのかは定かではないが
彼女が子を産む選択をしたのは吉報だった

しばらくして彼女は子を産んだ

その子は金髪碧眼の綺麗な男の子だった
彼から感じる繋がりは特殊なもので、母親の力を綺麗に受け継いでいた
彼が8歳になる頃、アタシは事故で半身を失い、この世を去った

・・・・・

・・・



再び転生したアタシはマナ・マクリールという女の子になった
寂れた農村で生を受け、2歳になる前に家を出た
それから候補者達を見守っていると、予想していなかった事が起きる
マナが8歳の時である

「っ!何これ!?」

ラルアースにあるカナランという国で
彼女の魔力感知にとんでもない反応があった
まるで神の祝福を受けたかのような強力な反応
そして、その少女は母の胎内にいる内に地の巫女となった

「・・・・神の子・・なの?」

自分と同じ存在などこの6500年間で1度足りとも見たことがない

「・・・・もしかして・・・アタシは役目を終えられるの?」

必死に頑張ってきた、くじけた事もあった
でも再び立ち上がり、長い長い時を頑張ってきた
疲れたと思わない日はない、嫌になる事もしょっちゅうだ
それでもアタシにしか出来ない事だからと頑張ってきた
代わりなんていないから、仕方ないと諦めてた

「ホントに・・・ぐすっ・・・・終えられるのかな・・・」

涙が溢れてくる、終われる可能性が見えてしまったから
期待せずにはいられなかった

・・・・・

・・・



それから9年後、世界に変化が起きる

「来た・・・」

魔力感知の陣などせずとも分かった
この感覚は間違うはずがない"あれ"が戻ってきた
ついにこの時が来たんだ

災厄神が復活した

まだその力が漏れ出した程度だが
そのせいで死の神が力を使い果たしてしまった
世界から死の概念が消え、世界はパニックに落とされた

候補者達の活躍により死の神は復活し
世界は安定したが、時代は動こうとしていた

アタシは候補者達と接触しようと決めた
これからは協力し合い、近くで彼等を見守った方がいい
そう考えたからだ

上手く接する事が出来るかな・・人と関わるなんて何年振りだろう
あぁ、考えたらテンパってきた!マズいマズい
ここはキャラ作りをして・・・ゆるい感じで行こう!

そして、彼女は彼等と出会う
だが、マナはここでまた衝撃的な出会いをしてしまう

シャルル・フォレスト、彼女から何か特別なものを感じた
心から信頼していい気持ちになれた
まるで自分と出会ったような、そんな錯覚さえ覚えた

何故彼女にそんな感情を抱くのか不思議だったが
最近になって気づいた事がある


彼女は未来のアタシなんだ



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