70 / 84
4章:闇の始動編
第6話 喧嘩
しおりを挟む 終業を知らせるチャイムが鳴った。同時に機動部隊詰め所のドアが開けられた。
「はい!お仕事はおしまい!行くわよ!飲みに!」
そう高らかに言い放って入ってきたのは、紺色の長い髪と糸目が目印のアメリア・グラウゼ少佐その人だった。
明らかに場違いなショッキングピンクのTシャツに、デニムのタイトスカート。しかもTシャツには『浪花節』と毛筆体で書いてある。誠はこういう意味不明なTシャツが売っているのは知っていたが、こういう服を日常的に着ている人が目の前にいる事実に少し衝撃を受けた。
「少佐……」
唖然とする誠の前でアメリアは細い目をさらに細くしてほほ笑む。
「そんな階級で呼ぶなんでダメ!そうねえ、アメリアさんで行きましょう。私、誠ちゃんより年上だし。そうしましょう」
アメリアは立て板に水でそう言うと機動部隊室の他の三人の女パイロットに目をやる。誠も振り返って三人の奇妙な女性達を眺めた。
「有志の歓迎会の前にやるんだろ?アタシは車があるから、飲めねーし、アタシの悪口言うんだろ?言いたきゃ言えば?聞きたくないから行かない」
ランは誠がこの部屋に戻ってきてからずっと将棋盤を見つめ考え事をしていた。
「どうせオメー等が行くのは『月島屋』に決まってるよな。あそこならアタシのツケで飲める。なーに、勘定の方はアタシが払うってことにしときな。ただし、西園寺が飲んだのはテメーが払え。あれはアタシの管轄外だ」
机に置かれた将棋盤を前にしてクバルカ・ラン中佐は手に飛車を持ちながらそう言った。誠はこんな出来た上司が実在するという事に感動すると同時にこのプリティーな生き物が一日中結果的に将棋しかしていない事実に呆れていた。
「まあ、アタシの為だけにキープしている酒だから。アタシが払うのが筋ってのは分かるよ。でも……」
そう言いながら、かなめが端末の電源を落として立ち上がった。
「グダグダ言っても仕方ないだろう」
手を止めたカウラはそう言って立ち上がる。
「神前は本部の前でこの変な文字がプリントされたおばさんと一緒に待ってろ。アタシ等は着替えて裏道通ってカウラの車で二人を拾いに行く」
かなめはそう言うと誠の脇を抜けて、ドアの前に立つアメリアに近づいていく。
「ちょっと……かなめちゃん。聞き違いでなければ『おばさん』とか言わなかった。間違いよね……」
相変わらず、見えているのかどうかよくわからない細い目でアメリアはかなめをにらみつけた。
「アタシは28歳、オメエは30歳。アタシの年でも、そこら歩いてるガキには『おばさん』と呼ばれることがある。オメエは年上だから十分おばさんじゃん」
そして、当然『カモ』となっている誠にその火の粉は降ってくる。かなめは誠に目を向けて指さして話を続ける。
「こいつは現在23歳。つまり、オメエより7歳若いってこと!つまり、こいつはオメエを『おばさん』と言う権利があるわけだ。神前この変なのをおばさんと言え。言わなきゃ射殺する。アタシが実弾入りのマガジンポーチを持ち歩いているのはこういう時に使うんだ。おばさんと言うか、死ぬか。選べ」
そう言ってにんまりと笑うかなめ。この人ならやりかねない。そう思いながら、たれ目のかなめの視線を外すタイミングを誠は探していた。
「神前、安心しろ。西園寺は撃たない……と思う。これまでこういったケースは日常的にあるが、今まで撃ったことが無い。まあ、初めての被害者が神前の可能性は否定できないが」
身の回りの物でも入っているのだろう、ハンドバックを引き出しから取り出したカウラがそのまま二人の間を通って部屋を出ていった。
「さあて、神前。おばさんと言うか死ぬか。選びな」
相変わらずかなめはそう言いながら銃の入ったホルスターを叩いている。
「わかったわよ!私はおばさん!誠ちゃんの脳みそぶちまけるのを見たくないから!私が自分で言えば丸く収まるんでしょ!」
そう叫んだアメリアは誠のそばまで行った。
「いろいろ、誠ちゃんに聞きたいことがあるの。仕事関係じゃなくて『趣味』のこと」
誠の手を握ってにっこりとほほ笑むアメリア。
「趣味だ?野球以外の趣味あるんだ。まあ、好きにしな。お先!」
そう言うとかなめはドアを開けて出ていった。
「アメリアさん……」
誠が名を呼ぶと。嬉しそうにアメリアは微笑む。
「お姉さんも色々多趣味だから。合うと良いなあなんて思ってるわけ、趣味が」
年上の女性、しかも美人からこう言われてうれしいのは事実だが。ここの隊員は全員どこか規格外なので、どんな結末になるのやら。ただ、誠は深く考えず場当たり的に生きていくことの必要性を実感していた。
「はい!お仕事はおしまい!行くわよ!飲みに!」
そう高らかに言い放って入ってきたのは、紺色の長い髪と糸目が目印のアメリア・グラウゼ少佐その人だった。
明らかに場違いなショッキングピンクのTシャツに、デニムのタイトスカート。しかもTシャツには『浪花節』と毛筆体で書いてある。誠はこういう意味不明なTシャツが売っているのは知っていたが、こういう服を日常的に着ている人が目の前にいる事実に少し衝撃を受けた。
「少佐……」
唖然とする誠の前でアメリアは細い目をさらに細くしてほほ笑む。
「そんな階級で呼ぶなんでダメ!そうねえ、アメリアさんで行きましょう。私、誠ちゃんより年上だし。そうしましょう」
アメリアは立て板に水でそう言うと機動部隊室の他の三人の女パイロットに目をやる。誠も振り返って三人の奇妙な女性達を眺めた。
「有志の歓迎会の前にやるんだろ?アタシは車があるから、飲めねーし、アタシの悪口言うんだろ?言いたきゃ言えば?聞きたくないから行かない」
ランは誠がこの部屋に戻ってきてからずっと将棋盤を見つめ考え事をしていた。
「どうせオメー等が行くのは『月島屋』に決まってるよな。あそこならアタシのツケで飲める。なーに、勘定の方はアタシが払うってことにしときな。ただし、西園寺が飲んだのはテメーが払え。あれはアタシの管轄外だ」
机に置かれた将棋盤を前にしてクバルカ・ラン中佐は手に飛車を持ちながらそう言った。誠はこんな出来た上司が実在するという事に感動すると同時にこのプリティーな生き物が一日中結果的に将棋しかしていない事実に呆れていた。
「まあ、アタシの為だけにキープしている酒だから。アタシが払うのが筋ってのは分かるよ。でも……」
そう言いながら、かなめが端末の電源を落として立ち上がった。
「グダグダ言っても仕方ないだろう」
手を止めたカウラはそう言って立ち上がる。
「神前は本部の前でこの変な文字がプリントされたおばさんと一緒に待ってろ。アタシ等は着替えて裏道通ってカウラの車で二人を拾いに行く」
かなめはそう言うと誠の脇を抜けて、ドアの前に立つアメリアに近づいていく。
「ちょっと……かなめちゃん。聞き違いでなければ『おばさん』とか言わなかった。間違いよね……」
相変わらず、見えているのかどうかよくわからない細い目でアメリアはかなめをにらみつけた。
「アタシは28歳、オメエは30歳。アタシの年でも、そこら歩いてるガキには『おばさん』と呼ばれることがある。オメエは年上だから十分おばさんじゃん」
そして、当然『カモ』となっている誠にその火の粉は降ってくる。かなめは誠に目を向けて指さして話を続ける。
「こいつは現在23歳。つまり、オメエより7歳若いってこと!つまり、こいつはオメエを『おばさん』と言う権利があるわけだ。神前この変なのをおばさんと言え。言わなきゃ射殺する。アタシが実弾入りのマガジンポーチを持ち歩いているのはこういう時に使うんだ。おばさんと言うか、死ぬか。選べ」
そう言ってにんまりと笑うかなめ。この人ならやりかねない。そう思いながら、たれ目のかなめの視線を外すタイミングを誠は探していた。
「神前、安心しろ。西園寺は撃たない……と思う。これまでこういったケースは日常的にあるが、今まで撃ったことが無い。まあ、初めての被害者が神前の可能性は否定できないが」
身の回りの物でも入っているのだろう、ハンドバックを引き出しから取り出したカウラがそのまま二人の間を通って部屋を出ていった。
「さあて、神前。おばさんと言うか死ぬか。選びな」
相変わらずかなめはそう言いながら銃の入ったホルスターを叩いている。
「わかったわよ!私はおばさん!誠ちゃんの脳みそぶちまけるのを見たくないから!私が自分で言えば丸く収まるんでしょ!」
そう叫んだアメリアは誠のそばまで行った。
「いろいろ、誠ちゃんに聞きたいことがあるの。仕事関係じゃなくて『趣味』のこと」
誠の手を握ってにっこりとほほ笑むアメリア。
「趣味だ?野球以外の趣味あるんだ。まあ、好きにしな。お先!」
そう言うとかなめはドアを開けて出ていった。
「アメリアさん……」
誠が名を呼ぶと。嬉しそうにアメリアは微笑む。
「お姉さんも色々多趣味だから。合うと良いなあなんて思ってるわけ、趣味が」
年上の女性、しかも美人からこう言われてうれしいのは事実だが。ここの隊員は全員どこか規格外なので、どんな結末になるのやら。ただ、誠は深く考えず場当たり的に生きていくことの必要性を実感していた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる